最初っから正々堂々でお願いしたい
『卒業生、入場』
あっという間に卒業式になってしまった。
あれから本当に先輩とは会えなかった。
『石井司』
「はい」
胸にお花をつけた先輩。
卒業証書授与を終え、壇上から降りてくる。
ふと目が合ったような気がした。
久々に先輩の姿を見ただけで、私の胸はドキドキとしていた。
「あ・・・」
先輩はニコッと微笑むと、自分の席に戻っていった。
たったそれだけなのに、もう簡単には会えなくなるんだなという実感が急に湧いてきた。
無条件で私に優しくしてくれた先輩。
後夜祭なんて先輩がいなかったら本当に悲しい思い出になる所だった。
学校で会うたびに声をかけてくれた先輩。
本当に可愛がってくれた。
悩みも聞いてくれて、頼りがいのある先輩だった。
笑顔が可愛くて、手はあったかくて、大きくて。
頭を撫でられるのが心地よくて。
私、石井先輩のことが好き。
静かにそう思うだけでいい。
先輩と会えなくなれば、自然とこの気持ちもなくなっていくと思うから。
それでいい。それで・・・。
***
「ねぇ」
卒業生も退場し、順番に在校生徒も教室に戻る所だった。
「結衣ちゃん」
後ろから結衣ちゃんに話しかけられた。
「石井先輩に告白する勇気ないとか甘えたこと言ってたけど、本当にいいの?」
結衣ちゃんは真っ直ぐに私を見つめている。
なんで今更・・・。
「いいの。別に先輩と付き合いたいとかそんなおこがましい事思ってないから」
「はぁ!?どこがおこがましいわけ?好きな人と一緒にいたい、付き合いたいって思うのなんて普通じゃん」
「結衣ちゃんは何が言いたいの?」
「あんたも告白して来なさいよ。じゃないと結衣の気が済まない」
どうして私が結衣ちゃんの気が済まないって理由で先輩に告白しないといけないの?
私は結衣ちゃんの言っていることが理解できなくて、黙ってしまった。
「結衣は告白したんだから、あんただってしなさいよ。じゃないと決着つかないでしょう」
「決着って、私勝負なんてしてない」
「弱虫。本当に先輩に会えなくなっていいの?」
「大学生になったら、そう簡単に会えないのだって普通でしょ?」
もう先輩に会えないなんてそんなの分かっていることだった。
分かっているけど、やっぱり事実として感じると悲しくなって来てしまった。
私は結衣ちゃんに背を向けて歩き出そうとした。
「待って、違うわよ。そうじゃない」
結衣ちゃんは小走りで私の前に回り込んだ。
「見てらんないの。周りにもっとあんたのこと大切に思ってる人たくさんいるくせに、先輩しか見てないあんたを。なのに告白もせずに静かに思ってるだけって、それってあんたのことが好きな人はあんたが先輩のことを諦めるのをずっとずっと待つことになるんだよ?それってその人だって次の恋愛にいつまで経っても進めないし、あんただって進めなくなるんだから」
「先輩、明日にはシンガポールに行くんだよ。もう本当に遠い人になっちゃうの」
「え・・・」
シンガポール?留学・・・?
「結衣は自分の気持ちを伝えずに諦められるなんてありえない」
「なんで私にそんなこと・・・」
「黙っておくつもりだった。先輩がいなくなって、本当に会えなくなってから知ればいいって思ってた。でも、今まで散々卑怯なことをして来たから、結衣だって最後くらい正々堂々としておきたくなったの。別に、あんたのこと好きなわけじゃないけど」
「卑怯だったって認めるんだ」
「まあね」
「認めるだけ?」
私がそういうと結衣ちゃんはしばらく黙ってしまった。
「その、あの、色々と悪かったわね。結衣、許してくれなんて思ってないけど、謝る。ごめんなさい」
いつも私に攻撃的だった結衣ちゃんがモジモジしながら謝っている。
結衣ちゃんに対してはそう簡単に説明できないくらい色々な感情があるけど、今目の前にいる結衣ちゃんのことはそこまで嫌いになれなかった。
「結衣ちゃんのやって来たこと、簡単には許せない。けど、先輩のこと教えてくれてありがとう」
私は結衣ちゃんにそう伝えて、体育館を後にする。
教室に戻ると、机の上にメモが置いてあった。
『中川ちゃん、帰らずに待ってて』
石井先輩からだった。




