八つ当たりランデブー
見た?あの女の顔。
ハート型のクッキー、割っちゃったからきっと渡せないよね。
先輩と全然釣り合ってないくせに無理しちゃって。いい気味。
結衣のチョコレート、石井先輩受け取ってくれた。
周りの人にも囃し立てられてて、結構良い流れなんじゃない?
このまま告白したら、盛り上げてくれてオッケーもらえそうな気がする。
もうすぐ先輩は卒業しちゃう。それまでに絶対結衣のものにするんだから。
大学生と付き合うなんて、ちょっといいかも。
玄関で先輩達が来るのを待っていた。
「あれ?君、さっきの子だよね?」
きたきた〜!脇役の先輩方、しっかり盛り上げてよね。
「い、石井先輩!好きですっ!」
振り返りながら告白したけど石井先輩は一緒にいなかった。
「あれ・・・?」
「やっぱり司かぁ。あいつモテるなぁ。ごめんね、もう少しで来ると思うんだけどねー」
ニコニコしながらそう言う先輩に坊主の先輩が後ろからガバッと肩を組んだ。
「なー!このチョコもう一個食べる人ー!」
坊主の先輩は手にチョコレートを持っていた。結衣の。
「あ、おい!ばか」
「あ、お前は・・・」
「な、なんで結衣のチョコレート」
「あ、えっとー」
気まずそうに目を合わせる先輩達。
結衣のチョコレート、なんでこの人たちが持ってるの?確かに石井先輩が受け取ってくれたのに。
「まだいんの?」
「石井先輩・・・!」
さっきの人たちを追いかけて先輩が玄関まで来ていたようだ。
「司!あ、えーっと、じゃあ君がんばってね!」
石井先輩が来るや否や、逃げるように去っていった。
「あ、おい!なんで先に行くんだよ!」
結衣の隣を通り過ぎようとした先輩に声をかけた。
「先輩、結衣のチョコレート他の人にあげたの?」
「なんで知ってんの」
「知ってんの、ってひどい!そんなことするなら最初から受け取らないでよ!」
「だって受け取らないと拗ねるじゃん」
先輩は面倒くさそうな表情をしながら帰ろうとする。
焦って先輩の袖を掴んで引き留めた。
「結衣が先輩のこと好きって分かってるんでしょ!?なんでそんなことするの?」
「そんなことするのって、そういうことってなんで分かんないの?俺ね、性格がいい子がいいんだよね。君ダメじゃない?」
「あの子が好きなんでしょ?中川ハルカ」
「なーんで中川ちゃんを目の敵にすんのかなぁ。別にあの子君に何にもしてなくない?」
何も言えない結衣を見て、石井先輩は微笑んだ。
「ただ気に入らないだけなんでしょ。それであんな風に人に接する君は本当に性格が悪いと自分で思わない?」
「別に、自分に正直に生きてるだけだし」
「気が強いのは悪いことじゃないけど、考え方変えないと友達できないよ」
「結衣、友達なんていらないし」
「ふーん。まぁどうでもいいけど。で、袖離してくんない?」
「いや!」
「君の性格上、何でもかんでも中川ちゃんに因縁つけるから本当に嫌なんだけど、この際だからはっきり言うよ」
「俺は、君のこと全然好きじゃない。付き合うなんて無理」
先輩は結衣の手を無理やり引き剥がしてそういった。
「じゃあそう言うことで」
先輩は本当に行ってしまった。抱きついて引き留めたかったけど、体が動かなかった。
俯くと、ぽたっと涙が溢れた。
確かに最初は中川さんの邪魔をしてやろうと思って先輩に近づいた。
でも今は先輩のこと本当に好きなのに。
結衣、振られたの?
こんな形で終わったの?
チャリン、と何かが落ちる音がした。
音がした方を向くと、あの女が私を見ていた。
***
無事先輩にクッキーを渡せた私はほっとしていた。
ふと床を見ると、自転車の鍵が落ちていた。
ひょっとしたらさっきの先輩達の1人のものかも。
私は急いで拾って先輩達を追いかけた。
玄関まで来ると結衣ちゃんと石井先輩が話している姿を見た。
何を話しているんだろう。
先輩は袖を掴んでいた結衣ちゃんの手を引き剥がし、帰っていった。
私は出るに出れなくて、とりあえず教室に戻ろうと思ったが、結衣ちゃんが泣いていることに気がついてしまった。
静かに泣いている結衣ちゃんに動揺して持っていた鍵を落としてしまった。
当然、物音に気がついた結衣ちゃんに私の存在がばれてしまった。
「何見てんのよ!」
「わっ!」
急に結衣ちゃんに肩を掴まれたと思ったら、頬に強い衝撃を感じた。




