ハートのクッキーは誰のために
「ハールカ!」
「ミヤコ・・・」
教室にミヤコがやってきた。
「先輩に渡せたの!?」
「ううん・・・」
「さっき先輩見かけたよ!さてはこれから渡すのね!」
楽しそうにミヤコが言う。
実は渡せなくなっちゃったんだ、と言おうとした時だった。
「あ、噂をすれば先輩じゃん!ハルカ、ラッキーだね!」
廊下の向こうを見てミヤコが言う。
私はクッキーの入ったカバンを抱きしめた。
「ハルカ・・・?」
「せんぱ〜い!結衣、一生懸命作りましたっ!受け取ってください!」
「はぁ・・・」
「お〜石井!やったじゃん〜!」
「えー俺は俺はー?」
「石井先輩にだけ特別なんです〜」
「えーずるーい!ほら石井!何してんだよ、受け取ってやれよこのモテ男〜!」
石井先輩は一緒にいた友達の楽しそうな声が聞こえる。
「ハルカ、何かあったの?」
「あはは、実はクッキー割れちゃって。渡すの恥ずかしいからいいんだ!それにみんなに渡したかったからそれはできたし」
「割れちゃっててもハルカのクッキー最高に美味しかったよ!せっかく準備したのに、いいの?」
結衣ちゃんが教室に戻ってきた。
「わーい、先輩が結衣のチョコ受け取ってくれた〜」
「いいなぁあの先輩」
みんなに堂々をいう結衣ちゃんを見ていられそうになかった。
「え、なんかこっち来ますけど?」
結衣ちゃんが私の方へ向かってくる。
「中川さんも可愛いクッキー持ってきてたよね?最後の一袋は誰にあげようと思ってたの?」
「はぁ?なんであんたに言わなきゃなんないのよ」
ミヤコがすぐに反応する。
「あ、まぁあんなゴミまみれのやつ、誰にも渡せないか。じゃあね〜」
「はぁ!?」
結衣ちゃんはそう私に言い捨てると帰っていった。
「ハルカ、今のどう言うこと?」
ミヤコが怖い顔をして私をみる。私はもう誤魔化せないと思ってクッキーを見せた。
「ボロッボロじゃん!あいつにやられたの?」
「多分だけど、でも証拠もないから。まぁ会えなかったら渡さない予定のものだしいいんだ」
「ハルカ・・・。せっかく先輩に会えたのに・・・」
「いいのいいの。さ、帰ろ!」
私はクッキーをまたカバンにしまおうとしたけど、その手を止められた。
「ハルカちゃん」
「馨くん・・・」
「これ、僕がもらいたい」
馨くんがボロボロのクッキーを指さす。
「ハルカちゃんはこれ、先輩に渡しておいで」
馨くんは朝渡したクッキーを私に持たせた。
「でも、これ、馨くんのなんだよ?」
「先輩に渡したかったんでしょう。新太もゆうも美味しい美味しいって食べてたし、きっと受け取ってもらえるよ」
「うん!本当に美味しかったよ!ゆうもバクバク食べてたし」
「俺基準なの?」
馨くんは袋を開けてボロボロになったクッキーをつまんだ。
「だ、だめだよ!ゴミ箱に入ってたんだよ!?」
「ちゃんと可愛いラッピングされてたんだから、中身は大丈夫だよ」
そういうとクッキーをひと口食べた。
「うん、とっても美味しい。頑張って作ったんだね」
「馨くん・・・」
「中川ちゃん!会えたね」
石井先輩がドアから顔を出し私に声をかけた。
「ほら、行っておいで」
「馨くん、ありがとう」
馨くんは優しく微笑んでいた。
ミヤコはなぜか涙目になっていた。
私はクッキーを持って先輩のところへ向かった。
「ね、ねぇ・・・私今超感動してるんだけど・・・。川上、あんたすごいよ。男だね」
「何千堂さん泣いてるの」
「川上、見直したよ・・・!」
「俺は何も言えません・・・。クッキー全部食べちゃったから・・・」
「大事に食べるとか言ってたくせに」
「だって美味しくて、つい」
「いいんだよ、だってこのクッキーよく見て、元々ハート型だったんじゃない?」
「あっ!本当だ!やだ、ハルカってば可愛いことしてたのね」
「僕このハート食べれるのラッキー」
「馨、かっこいいじゃん」
「ゆうに褒められるなんて、明日は雪かもね」
***
「丁度通りかかったからさ!帰る前に会えてよかった〜。元気にやってるの?」
「はい、私も会えてよかったです。そ、その・・・」
「おい石井〜!後輩に手出すんじゃねーぞ!」
「そんなんじゃないよ!ほら、お前らは先行っててこれでも食べとけ」
先輩は結衣ちゃんからのチョコレートを友達に渡してしまった。
ひょっとして、私のクッキーもそうなるんじゃないかと思ったら渡すのが怖くなってしまった。
「それで?手に持ってるのは俺にくれるもの?」
「あっ」
先輩は私の手元のクッキーを見てそういった。
「そ、そうです。あの、いつも優しくしてもらっているので、そのお礼って感じです」
「ください」
先輩は掌を上にして私に向けた。その掌にそっとクッキーの袋を置く。
「食べていい?」
「えっ」
私の返事を聞く前に先輩は袋を開けクッキーを食べた。
「うん、うまい。ありがとね、中川ちゃん」
先輩はそう言うとまたクッキーを食べた。
「じゃあ俺行くね。次は卒業式かな?泣く準備しておいてね」
先輩は私の頭をひと撫でし、友達の元へ帰っていった。
クッキーを食べた先輩が美味しいと言ってくれた。私の作ったクッキーを。
その事実に胸がいっぱいになってしまった。
純粋に嬉しかった。
だけど心のどこかで結衣ちゃんの食べられなかったチョコレートの存在がひっかかった。
自分だったら、悲しすぎる。
結衣ちゃんはそれを知らないけど。




