傷心中なんだからとりあえず優しくしといて
「あんたら何やってんの?ってハルカ何その顔!!」
「み、ミヤコ〜!」
私はノロノロ歩きながらなんとか下駄箱にたどり着き、ずびずびと鼻を啜りながら靴を履いていた。
後ろからミヤコに声をかけられ、振り向くと私の顔を見てミヤコはギョッとしていた。
ミヤコは一緒に下駄箱まで来ていた友人に挨拶をすると、私の方に駆け寄ってきた。
「ちょっと中西!あんたが泣かせたの?」
「俺じゃない、と思う。え、俺なの?」
ちがうような気もするのだが、そもそもゆうが聞いてこなかったら見たことを暴露することも無かったわけで。
あれ?そうなると半分くらいはゆうのせいなのか?
「ずび・・・失恋した・・・」
「はぁっ!?!?」
ミヤコは私の突然の失恋した発言に驚きのあまり私の背中を叩いた。結構痛いんですけど。
「ごめん、勢い余った!で!何、どういうこと?告白したの?」
「ううん、告白する前に撃沈だよ」
「ええ!」
「里中と石井先輩がキスしてたの見たんだと」
「ちょ、もう少しオブラートに言ってよ」
「はあーーーー!?まーたあの女か。絶対ハルカへの当て付けだよ。大丈夫大丈夫、先輩も犬に舐められた程度としか思ってないって、たぶん」
「ミヤコ・・・」
ミヤコは私の背中をぽんぽんと摩り慰めてくれた。
「里中は石井先輩のことが好きって俺に言ってた。だから本気なんじゃねぇの?」
「ねぇ、中西は何がしたいの?ハルカのこと追い詰めてどうすんの」
「追い詰めるとかじゃなくて!ただあいつらが両思いならもうとっとと諦めたほうがハルカのためじゃん。傷は浅いほうがいいだろ!」
「浅くねーわ!あんたに塩ぐりぐり塗られてるわ!」
ミヤコは私の代わりにゆうの背中を強く叩いてくれた。
「ハルカ、今日はなんか美味しいもの食べに行こうよ!中西のおごりで!」
「千堂はおごらねぇぞ」
「ハルカはいいんだ・・・」
「ハルカはいい」
「2人ともありがとう」
2人のおかげで気が紛れてありがたかった。
その後、ミヤコが新太くんと馨くんも呼んでくれて、みんなでわいわい夜ご飯を食べたのだった。
私の話を聞いて泣いた新太くんがなんだか面白くて私も釣られて笑ってしまった。馨くんとミヤコは鼻水まで垂らしている新太くんを見てちょっと引いていたけど。
ゆうは本当に奢ってくれたのでデリカシーの無い言葉を言われたことは水に流すことにした。
「なんであいつらまで呼んだんだよ」
「中西だけ抜け駆けさせるわけないでしょ。私はハルカ以外には平等なんだから。っていうか傷ついてるハルカにつけいらないでよね」
***
「あ、先輩〜!」
結衣ちゃんは石井先輩を見つけると嬉しそうに走り寄っていった。
見なくていいのに、自然と目で追ってしまう。
「ハルカ、次の授業なに?」
「あ、ええと、歴史だよ」
「さんきゅ」
「あー俺教科書忘れたー!馨、見せて・・・?」
「やだ。借りにいってきなよ、まだ間に合うよ」
「けち!」
結衣ちゃんと先輩の姿を見ると胸がざわつくけど、教室ではゆうや新太くん、馨くんがよく話しかけてくれてそこまで落ち込まずに済んでいる。
私は指にペンのインクが付いていることに気がつき、今の内にと手を洗いにいった。
「あ、中川ちゃん」
「こ、こんにちは」
水道の近くで結衣ちゃんと石井先輩が話していた。手を振る先輩に私も小さく手を振りかえした。
並んでいる2人を見るとなんだかお似合いな気がしてしまって、一生懸命インクのついている指を擦って洗った。
「中川さん、盗み見?」
「そんなんじゃないよ。手を洗っていただけ」
先輩と話し終わったのだろう、結衣ちゃんが手を洗っている私に話しかけてきた。
「授業始まるから、戻るね」
私は手を拭いて、結衣ちゃんに背中を向けた。
「石井先輩のことごめんね?中川さんも好きだったんでしょ?」
結衣ちゃんの言葉に固まってしまった。なんでわざわざそんなことを。
「結衣と石井先輩がキスしてるところも盗み見して、ショックな顔してたもん。分かるよ〜」
私は怒りで体が震えていた。
「別になんとも思ってないけど・・・」
「うそ。泣いちゃいそうな顔してるよ〜。もう結衣同級生には興味ないんだぁ。新太もゆうも中川さんが好きにすればいいよ。あ、最近かっこよくなった川上くんも好きなんだっけ?中川さんって男好きで選ぶの大変だね〜」
こんなの挑発だって分かってる。もう無視していこう。
私はなんとか気持ちを落ち着けて、歩き出した。
「なんとか言いなさいよ!石井先輩のこと好きなんでしょ!?認めなさいよ、結衣に負けたって!」
「私は勝負なんてしてない。勝手なこと言わないで」
私は振り向かずにそう言って先に教室に向かうのだった。




