挨拶は心の窓といいますもんね
まさかゆうちゃんが男の子だったなんて・・・。
無言で歩いているゆうちゃんを見る。
「なんだよ」
「いえ、なにも」
背が高く顔を眺めるには少々首が痛い。
「じゃあな」
寮は1階が男子、2階以上は女子の階になっている。
家に帰ってきた私は食欲もなくベッドに横たわる。
「ゆうちゃんが、男の子・・・。なんでだよー!!!!」
ベッドの上でジタバタしていると床がドンッ!!と鳴った。どうやら下の人が私のせいで迷惑を被った様子。ごめんね、でも許して。
ずっと会いたいと楽しみにしていた幼馴染が男の子だったもんで。
***
「緊張する」
私はクラスのドアの前にいる。昨日大幅な遅れをとってしまったのだ、なにのって友達作りの。
昨日ゆうちゃんが男の子だったという衝撃的な事実に放心状態だったため友達を作る余裕がなかったのだ。
どうしよう、元気な感じで大声でおはよー!!って入ってみる?でもずっとそのテンションで過ごすにはきついかもしれません、私には。
「お、中川さんじゃん」
後ろから呼ばれ振り向くと、高垣くんがいた。
「お、おはよ!」
「おはよ。昨日オリエンテーションの後話そうと思ったのに放心状態で帰っちゃうからさ、体調悪かった?」
体は大丈夫なんです。高垣くん。
「いや、その節はどうも。体調は元気。話って??」
「連絡先教えてよ。友達だし」
「え!友達なの?」
「友達でしょ!挨拶したらもう友達だよ」
高垣くんはあれだ、陽キャってやつだ。全世界が友達タイプ。ありがたい。
やっぱり挨拶って大事なんだな。
勇気を出して扉を開ける。
「お、おはよ~」
「お~」
「おはよ」
全然知らないクラスメイトから挨拶の返事が返ってきたことに胸が熱くなった。
「中川さんいこ!」
「う、うん!!」
いける!この男(高垣くん)についていけばいける!友達100人できそう!!
「新太ぁ!おはよ~!」
「おはよ!結衣!」
かわいい子がきた!ギャルってやつか!かわいい!いい匂いする!!挨拶挨拶!
「お、おはよ!」
「え」
「え」
え、とは・・・??
「結衣!この子は中川ハルカちゃん、クラスメート同士仲良くしような!」
「ふーん。よろ~」
「よ、よろ~」
「あんま結衣と趣味合わなそうだけどね」
「そんなことまだわからないっしょ」
高垣くん、ありがとう、君のことは忘れない。一生懸命架け橋という役割を遂行しようとしてくれている。
でもね、結衣ちゃんからの冷たい視線に気づかないか?高垣くんよぉ、こりゃうまくいかなそうだよ。
私は感じるのです、結衣ちゃんからのどっかいけというオーラが。
転校を経験している私は分かるのです。
「じゃあ、またね」
なんとか2人から離れ自分の席に着く。
「やっと新太と2人になったぁ。結衣ね、新太に会いたかったの〜」
結衣ちゃんの声が嫌でも聞こえてくる。
はぁ、気まずかったぁ。
「ゆう!おはよ!!」
「はよ」
ゆうちゃんがきた。まだ席は名前の順だからゆうちゃんは私の後ろの席だ。
通り過ぎる時にゆうちゃんと目が合う。
「ゆうちゃん、おはよ」
「・・・」
ゆうちゃんは返事をしなかった。ゆうちゃん昨日友達って言ったのに。うそつきが!
2日目にてすでに心が折れそうな私。鞄から筆箱を出したり、水筒のお茶を飲んだりごまかしながらホームルームが始まるまで時間を潰した。