女子が求めているのって同意なんですけど
私は走っていた。
息が苦しいのは走っているからか、それとも石井先輩と結衣ちゃんがキスをしているのを見てしまったからか。
行くあてもないが、とにかくあの場に居たくなくて。
階段の踊り場で、やっと立ち止まることができた。
授業開始のチャイムが鳴り、授業をサボってしまった。
『今どこ?』
ゆうからメールが届いていた。
とてもじゃないけど、今結衣ちゃんに会えそうにもない。
保健室で休もうか。仮病だけど、今日だけは許して欲しい。
『お腹痛いから保健室で休むね。先生に伝えておいて欲しい』
ゆうに返事を打った後、もう何も考えたくなくてケータイの電源を落とした。
「あら、ひどい顔!」
「先生、ちょっと休みたいです・・・」
病は気からと言いますか、ちゃんと具合が悪くなってきてしまって、保健室のベッドに横になった私はすぐに眠ってしまうのだった。
***
俺は授業が終わるとすぐに保健室に向かった。
保健室の先生にハルカを迎えに来たことを伝えた。
「中川さんと同じクラスなの?寮も一緒?よかった。これから会議なのよ、中川さん起きたら送っていってくれる?」
「はい」
俺はカーテンを開けて、ベッドで横になっているハルカに近づいた。
確かに顔色が悪い。なんだか目は腫れていて、体調が悪いというのは本当のようだ。
「ハルカ」
小さな声で名前を呼んでみる。ハルカは小さく身じろぎするが起きる気配はない。
「ハルカ」
今度は名前を呼びながら、目にかかっている前髪を払ってやったが、それでもハルカは起きなかった。
今、保健室には俺とハルカの2人きり。誰も邪魔できない。
ハルカは俺とじゃなく、石井先輩とこんなシュチュエーションとなるのを望んでいるのだろう。俺ではなく。
途端に悔しくなって、俺はハルカの肩を揺すった。流石にハルカの瞼が持ち上がった。
「おい、おーきーろー」
「ゆう、来てくれたの?」
ベッドに入ったまま、眠たそうに目を擦っているハルカは新太がいうように小動物みたいだ。ついつい甘やかしたくなる。
「大丈夫か?顔色悪い」
「ありがと、体は大丈夫」
もう夜じゃん、と真っ暗になった外を見てハルカは驚いていた。
「おぶって帰ってやろうか?」
「重いよ」
「やめとく。まぁ荷物くらいは持ってやるよ」
俺はハルカの荷物を持ったまま先に歩き始める。
「もー早いよー。優しいんだかそうじゃないんだか・・・」
「聞こえてんぞ」
「ごめんなさい」
こんなやりとりをしているうちにハルカの顔色がよくなってきたことに安堵していた。
***
ひと眠りしたら、いくらか気分は良くなっていた。
だけど頭の中は石井先輩のことがぐるぐると頭の中を巡っていた。結衣ちゃんは元々スキンシップ多めだしひょっとして帰国子女的な挨拶なのかも、別に私は先輩とどうなりたいとか思ってないんだからたとえ結衣ちゃんとキスをしていても問題ないんじゃないの、キスなんて挨拶挨拶。と自分に言い聞かせていた。
言い聞かせていたけど、それですんなり納得できるわけでもなく、胸のひりひりとした苦しさをより自覚することになってしまった。
誰でもいい、キスって挨拶って言って欲しい。特に何の意味もないんだよって。
「あのさ、キスって挨拶だよね?」
「はぁ?何言ってんの?」
あ、間違えた。ゆうに聞くんじゃなかった。
ゆうは本当に何言ってんのこの人、の目で私を見てきた。
これはきっとキスは挨拶・なんの意味もない説に同意は得られないだろうと静かに私は悟った。
「いや、別に」
「まさか!誰かにキスされたのか?あの先輩か!?」
ゆうは違う方向に話を広げてきた。
何も言えない私を見て、ゆうはさらに勘違いしたらしい。
「あの野郎・・・!!」
「ちょ、待って待って!私してない!してないから!私じゃないから!」
「じゃあ誰だよ」
「それは、えっと・・・」
「言えよ」
「いやあ・・・実は石井先輩と結衣ちゃんがキスしてるの見ちゃってさぁ〜あはは・・・」
すごい剣幕のゆうに押されてつい言ってしまった。
なるべく軽く、なんともないように言いたかったけど、そうはいかなかったようだった。
「ハルカ、泣いてんの?」
「泣いて、る!!」
体の底から涙がどんどん作られているような感覚だった。結衣ちゃんと私が好きな石井先輩のキスシーンを見てしまった、口に出すと胸のヒリヒリが身体中に広がって、自分がひどく傷ついていることを認めないわけにはいかなくなってしまった。
「里中もあの先輩のことが好きって言ってた・・・もう、諦めたら?」
男ってどうしてこんなにデリカシーが無いんだろう。
結衣ちゃんが石井先輩のこと好きっていう情報は絶対いらないよね?キスしてたってそういうことじゃん。それにお互いに好きじゃないとキスなんてしないでしょ?だから、つまり、先輩と結衣ちゃんはそういう関係になったって事じゃん。
そんなこと、小学生でも分かるわ!こんな時に何も言うな!ってゆうに言ってやりたかったけど、涙の止まらない私は何も言えないのだった。




