馨くんの災難
「お、終わった〜!!」
小早川祭が終わってからあっという間に期末テストだった。
絶対ゆうには負けるから、もう勝負なんて馬鹿なことはしない。
「川上くーん、どうだった?」
「川上くん一緒に答え合わせしよう」
体育祭で馨くんの素顔を見た女子たちはもれなく夢中になっていた。
馨くんは面倒くさそうにそんな女子たちをあしらっていた。
「あのさぁ、僕のことは放っておいてくれない?答え合わせなんてしてもテストの結果は変わらないんだら」
「川上くんそんなこと言わないでよぉ」
付き合っていられない、ともいいたげな馨くんはため息をついて教室を出て行った。
私とゆうと新太くんは馨くんを目で追いつつ、ゆっくりと食堂へ移動した。
「体育祭から馨って異様にモテてるな」
「あはは、みんな馨くんの綺麗さに気がついちゃったんだろうね。モテモテで羨ましい?」
「俺は、別に・・・」
「何言ってんだ。モテたいくせに」
新太くんはゆうのツッコミの後少し黙ったまま、私のことをチラチラ見てきた。
な、何・・・?
「俺は別に、好きな子にモテるのがいいから。ゆうとは違って」
新太くんはなぜか私に向き合ってそう言った。
新太くんもモテモテになりたいっててっきり思っていたからそんな返事が来るなんて少し驚いた。
「なんかその考え方いいね!」
「何カッコつけてんだよ。っていうかハルカと近い。離れろ」
ゆうは向き合っている私と新太くんの間に割り込むように入ってきた。
「あ、馨くん」
食堂に入ると馨くんをすぐに見つけた。
なぜかと言うと馨くんは今度は先輩たちに囲まれていたからだ。
「川上くん、前髪切ってコンタクトにしなよ。もったいないよ〜」
「何にも喋らないじゃん。照れてるの?かわいい〜」
「先輩方、僕もうごはん食べたいんで」
馨くんは俯いていた。
「馨!」
ゆうが馨くんを呼んだ。
「購買行くけど」
「う、うん!」
馨くんは先輩たちをかき分けて私たちの方へ走ってきた。
「た、助かった・・・」
「何囲まれてんの」
「だって、勝手に寄ってくるんだもん。その内飽きてくるでしょ」
馨くんはなんだかちょっとやつれていた。
「それにしたってよく今までみんなに気づかれなかったよなぁ」
「それは高垣くんとか中西くんとかもっと目立つ人と一緒にいたからだよ」
「今じゃみんな馨に夢中じゃん」
教室で購買で買ったパンを食べる。
「馨くんの目って本当綺麗だよね。なんか不思議なきらきらがあるんだよね」
私がそう言うと新太くんが馨くんの目を覗き込んだ。
「ちょっと、何。見ないでよ、ばか」
「おー確かに」
瞳は黒いが光が反射して不思議ときらきらしているのだ。
馨くんは微妙な表情をした後、キリッと私たちの方を向き口を開いた。
「あのさ、もう言っちゃうけど僕クォーターなの。祖父がラテン系の人なんだ」
「えーー!!そうなの?」
「面倒くさくなるからあんまり言いたくなかったんだけどね。祖父は僕が小さい時に亡くなってるからよく分からないし」
まさか馨くんがクォーターなんて、驚くとともに、彼の綺麗な瞳を見ると妙に納得感があった。
「で、なんでわざわざメガネとか前髪伸ばして隠すんだよ」
「堂々としてればいいじゃんよ、馨」
「中学校の時は普通にしてたよ。でも家までついてくる子とかいたり、一緒に帰りたいとか、遊びたいとか、席替えで僕の隣と交換しろって女子が揉めたり、もううんざりだったんだよ」
「なんと・・・」
思い返すのだって嫌だ、と言いながら馨くんはパンをひとかじりした。
「新太には経験のないことだな」
「俺はモテるけど、うまくあしらえるのー!」
「だから高校では自分の好きなように過ごせるようにこういう格好してたのに・・・」
はぁっと馨くんのため息が響き渡る。
「で、でも!私、どっちの馨くんも好きだよ!メガネの馨くんもすてきだし、素顔の馨くんもかっこいいし!」
慌てて私がそういうと、ゆうに手で口を塞がれた。
「ハルカ、ストップ」
なんで?とゆうの顔を見る。
「馨、死にそうになってる」
馨くんの顔を見ると耳まで真っ赤になっていた。
「ゆうさん、これは馨選手、照れていますね」
「ハルカがばかみてーなこと言うからだよ」
「ええー」
「中西と高垣は黙ってよ。・・・ハルカちゃん、ありがとう」
次の日、馨くんはメガネを外して学校に来た。
「おはよ」
「お、おはよう。メガネもういいの?」
「うん。もうあってもなくても一緒だし」
そして馨くんがメガネを外したということが瞬く間に生徒の中で広まり、休み時間にわざわざ教室にくる女子もいた。
馨くんが変わったのは、メガネだけではなかった。
「どいて。僕、興味ない人と話すほど暇じゃないんだ」
「あっち行ってくれない?邪魔」
「教室くる暇あれば勉強したら?」
馨くんは時々ブラックな面があるなと思っていたが、基本的にはいつも優しかった。
今の馨くんはブラック全開だ。
馨くんの言葉で涙ぐんている女子もいた。
「ね、ねぇなんか川上くんって怖くない?」
「わかる。ちょっと塩対応すぎるよね」
「顔はかわいいのに態度最悪」
群がっていた女子たちもそんな馨くんの様子を見て、徐々に群がる人数が減っていった。
「か、馨くん?大丈夫?」
馨くんに声をかけるとニコッと微笑んだ。
「勝手に期待されていただけから。それに本当に興味がないから早めに伝えてあげないとお互い時間の無駄でしょ?」
「な、なるほど」
「僕は、ハルカちゃんにだけ見てもらえればいいから」
「え?」
馨くんにまっすぐ見つめられると、その不思議な視線を逸らすことができない。
胸がドキドキして、うまく話せない。
「馨、お前上手く解決したなぁ。元々外面いいから今回効果的面じゃん」
新太くんがうんうんと感心しながら馨くんに声をかけてきた。
「あ、ちょっと邪魔しないでよ、良いところだったのに・・・まぁ僕はハルカちゃんと新太とゆうがいればそれでいいから」
馨くんはゆうと新太くんのことを下の名前で呼ぶと、ばっと顔を背けてしまった。
「ゆ、ゆう!!きてきて!馨がデレてる!!」
新太くんが動揺しながらゆうを呼ぶ。
「何?」
「俺らのこと下の名前で呼んでた」
「へぇ。かわいいところあるじゃん。馨ちゃんよぉ」
「うるさい!」
馨くんの顔は真っ赤だった。




