生贄の男、高垣
みんなで射的をやったり、金魚すくいで楽しんだ後は、花火を見る場所を探していた。
「ここら辺でいいんじゃない?」
「そうだな」
「中川さんと千堂は待ってて!俺らで食べ物買ってくるよ」
「高垣くん気が利くね」
「お前もくるんだよ川上!!」
私とミヤコが場所取り、ゆうと馨くんと高垣くんが買い出しに行ってくれた。
「花火楽しみだね」
「丁度いい場所が取れてラッキーだったね」
「あ、高垣がたこ焼きと焼きそばどっちも買っていい?だって」
「あはは、私もどっちも好き」
花火までもう少しというところで戻ってきた。ゆうと馨くんだけ。
「あれ?高垣くんは?」
「実は見つかっちゃって」
「見つかったって?」
「里中さんに」
「はぁ?」
心なしかゆうも馨くんもげっそりしている。
「あいつ本当サイコパスなんじゃねぇの?あ〜!新太だ〜!一緒に花火見ようよ〜ってあんなことがあったのにどういう神経してんだか」
「微妙に似てるから真似しないで、腹たつ」
「中西くんまで見つかると面倒くさいことになるから、高垣くんにメールだけして逃げてきた」
「高垣くん大丈夫かな?」
「高垣は誰にでも優しすぎるからね。ま、うまく里中結衣を巻いたら戻ってくるでしょ」
***
「新太ぁ〜!一緒に花火みようよ〜!」
「結衣、俺友達と来てるから」
「じゃあ結衣も合流する」
「いやいや」
俺はりんご飴の屋台に並んでいるところを結衣に見つかり、振り向くと中西と川上がいなくなっていた。
ケータイを見ると『がんばれ』の4文字。あいつら俺を生贄に逃げたな。
「結衣も友達と来てるじゃん」
「新太が一緒がいいの〜」
「だ・か・ら!俺もう行かなきゃ」
「待ってよぉなんで置いていくの?」
俺は焦っていた。もうすぐ花火が始まっちゃうからだ。俺は中川さん(それも浴衣姿の)と花火を見る、The夏の大イベントを本当に楽しみにしていたんだ。
結衣に邪魔されるわけにはいかないのに。
結衣は中学生の頃他の女子とあまり上手くいっておらずよくハブられていた。
みんなには言えないから、と悩み事などを俺に相談されていた。だから一応仲が良かったと言っていいのかな。
かわいそうだなとも思ったし、その時は別になんの問題もなかった。
だけど今、俺は中川さんが好きだ。
この間の横田との一件に結衣が絡んでいるようだったのは流石に見過ごせない。
このまま本当についてこられて中川さんに嫌なことを思い出させたくない。
「結衣、俺一緒に花火みたい人がいるんだよ。もう勘弁してくれ」
「そんなのいや!結衣と一緒に見てよ。あ、わかったぁどうせ中川さんなんでしょ。新太は高校生になったら中川さんばっかり!中学生の頃は結衣が一番仲よかったじゃん」
「なんで中川さんが出てくるんだよ」
「だって新太いつも中川さんのこと見てるじゃん。ゆうだって結衣のこと見向きもしないし、中川さんってほんと邪魔」
「邪魔って・・・やっぱり横田を使って間接的に中川さんに嫌がらせしてたの、本当なんだ」
「横田が勝手にやっただけでしょ〜。新太ぁもういいじゃん過ぎたことだし、早く座って花火見ようよ〜」
「結衣、なんで中学生の頃同じことをされて苦しんでいたのに他の人にそんなことができるんだよ」
「何?聞こえな〜い」
ああ、間に合わなかった。
花火が始まってしまった。
俺が静かになった様子を見た結衣はニヤッと笑って俺と腕をくみ、耳元に顔を寄せてきた。
「結衣に優しくしておかないと、また横田くんみたいな人が出てくるかもよ?」
「はぁ?」
結衣の言葉を聞いて、俺は結衣の腕を振り払い、走った。
「新太っ!どこ行くの?もー本当にどうなっても知らないよ!!」
結衣が叫んでいるが、花火の音にかき消されている。
結衣は仲良くしていた俺が自分より中川さんと仲良くしたのが気に食わないのか。
結局、俺のせいで結衣に目をつけられたから中川さんは何も悪くないのにあんな嫌な思いをしたのか。
花火の音が響き渡る。
このまま戻って、結衣と過ごしていた方が中川さんには手を出されなくて済むのか?
俺は足を止めて立ち止まり、ぼうっと打ち上げられている花火を見た。
俺は結衣と一緒にいて中川さんを遠くから見守る、それでいいのか?
俺の気持ちは?
知るか、知るもんか。
俺は何大人しく結衣の話を聞いていたんだ。
好きな子がいるなら、他の人間なんてどうでもいいじゃん。
好きな子は、中川さんは、俺が守ればいい。ただそれだけじゃないか。
***
ヒュードンドンと花火が始まってしまった。
私たちはたこ焼きやかき氷を食べながら、花火を楽しんだが心の中ではいつまでも戻ってこない高垣くんが気になっていた。
「ハルカ!高垣のこと気にしてるんでしょ」
ミヤコが耳元で話す。
「高垣くん、今日楽しみだって何回も言ってくれてたから」
「じゃあさーー」
花火も激しさを増し、もうクライマックスかなと思ったその時。
「やっと戻ってこれた!!」
「おっそ」
高垣くんが帰ってきた。
「お疲れ高垣」
「早く!中川さんと花火を俺は見る!っておい!今ので終わりかーーー!」
「高垣くんが遅いからだよ」
「だって、だって・・・」
見るからに高垣くんはしょげていた。
「ほら、ハルカ」
ミヤコにツンツンとつつかれて私は高垣くんの方に歩み寄った。
「今度はみんなで一緒に花火しようね、新太くん」
「えっ」
『じゃあさ、高垣のこと下の名前で呼んであげなよ。喜ぶよ』
新太くんは顔を下に向けてしまった。耳は真っ赤だ。
「て、照れてるの?新太くん」
「照れてるね、新太くん」
「だな、新太くん」
「よかったじゃん新太くん」
「ちょ、今噛み締めてるところだから他の奴らで上塗りしないで・・・!」




