尻尾をずっと振って
「五右衛門くん、ハルカです!よろしくね」
「ワンワン!」
「かわいすぎるっ!」
「あはは、五右衛門すごく尻尾振ってるよ」
私は川上くんと五右衛門のお散歩をしている。
五右衛門は柴犬の男の子、人懐っこくてとにかくとってもかわいい。
「大丈夫?五右衛門体力すごいから、疲れたら言ってね」
「ありがとう」
川上くんは相変わらず優しくて、五右衛門におやつをあげるのを私にやらせてくれた。
五右衛門は私の手まで舐めてくれた。(そして川上くんはウェットティッシュまで準備していた。さすが。)
「宿題はどう?終わった?」
「うん。いつも英語の課題とか苦戦していたんだけど、テストの時に川上くんに教えてもらったことが活かせて英語の課題が一番早く終わったよ」
「それはよかった。宿題以外は何をしていたの?」
「特にこれといって何もしてないんだけど、ゆうのママに料理を教えてもらったりしてるかな」
「中西くんのママ?ママとも仲良いんだね」
「夏休みの間だけ、ゆうの家に居候してるの。私の両親仕事で海外にいるから」
「居候!?だ、大丈夫なの?」
珍しく川上くんが慌てていた。
「何が?」
「いや、なんでもない。なんでもないんだけど、お風呂の時とか、着替えの時とかちゃんと鍵するんだよ。あと夜は部屋から出ちゃだめだよ」
「う、うん」
「ご両親が海外だから寮に住んでたんだね。一人暮らしなんてえらいね」
「えらくなんて、適当に過ごしてるだけだよ。だからゆうのママにいろいろ教えてもらうのおもしろいんだ」
「僕、いつか中川さんの料理食べてみたいな」
「お口に合うかわかりませんが・・・。その日のために練習しておくね」
川上くんはカレーが好きらしい。カレーならできそうだ。
「中川さんは五右衛門との散歩がご褒美だなんてそれでよかったの?」
「それがいいんだよ。むしろ私の方が川上くんにお礼しないといけないのに、五右衛門くんと会わせてくれてありがとう」
五右衛門くんは自分の話をされていると分かっているのか、私の足にすりすりと体を擦り付けている。かわいい。癒される。大好き。
「あのさ、中川さん」
「うん?」
「厚かましいようなんだけど、ひとつお願いしてもいいかな」
そういった川上くんは真剣な表情をしている。お願いって一体なんだろうか。
「お願いって?」
「中川さんのこと、下の名前で呼んでもいい?」
「え、それでいいの?」
「うん、それがいい」
「好きに呼んでいいよ」
「へへ、ハルカちゃん」
「なんか照れる」
川上くんはにっこりと微笑み、何度も私の名前を口にしていた。
「ハルカちゃん」
「なんでしょうか」
「僕のことは馨って呼んで欲しい」
「馨くん?」
「へへ、ってさっきから大丈夫?ケータイかなり鳴ってるね」
「あ、ちょっと見てみるね」
確かにさっきからバックの中でケータイが何度も震えていた。
「げ、ゆうからこんなに・・・」
今どこ?
何時に帰る?
川上もまだ一緒?
今どこ?
何してるの?
エトセトラ。
電話も何回かあったようだ。
「はぁ、本当幼馴染ってやっかい。」
「え?」
「ううん、ハルカちゃんもうそろそろ帰る?」
「五右衛門くん・・・」
「ワンワン!」
五右衛門くんは目をキラキラさせながら私を見つめている。
「五右衛門くん・・・!」
「ハルカちゃんまた一緒に散歩しよう。ね、五右衛門もいいよね」
「ワン!」
「馨くん、いいの?」
「うん、また会いにきて。五右衛門と僕にね」
「えへへ、ありがとう」
こうして私は馨くんからのご褒美を満喫し、帰路についたのだ。
馨くんは家まで送ると言ってくれたけど、五右衛門くんもいるし丁寧にお断りした。
家に着いたら必ず連絡してね、と念を押された。
***
休日のハルカちゃんは制服とは違った可愛さがあった。
今日は五右衛門との散歩だったからかジーンズにスニーカーと動きやすい格好でしっかりくるところが、気の使える子だなと思った。
白いブラウスが眩しくて、五右衛門に話しかける笑顔が眩しくて、僕はちゃんと目を開けていられただろうか。
「まさか夏休みの間居候してるなんてな」
夏休みが早く終わって欲しいな、なんて珍しいことを思ってしまった。
ハルカと彼女の名前を呼ぶことはまだ少し恥ずかしいけど、距離が縮まったような気もして気分がよかった。
「五右衛門、またハルカちゃんに会いたいよね」
「ワン!」




