勢いとタイミングって本当だよね
『2年生部門1位は・・・2年B組お化け屋敷だー!!』
「すごい!新太くんのクラスだね」
私も勇気を出して行ってみればよかったーなんて俺の隣でハルカは言ったけれど、俺は気もそぞろだった。完全にハルカに可愛いというタイミングを逃してしまい、どうしようかと思っていたのだった。
馨に連れてこられたハルカは可愛かった。後夜祭の前まではメイクなんてしてなかったから、後夜祭に向けてやったんだろう。俺と過ごす後夜祭のために・・・。俺のためにと思ったらもうだめだ。照れてしまって何も言葉が出なくなってしまった。
文化祭の順位なんてどうでも良くて、前を向いているハルカの顔を気がつかれない程度に見つめる。うん、可愛い。
「な、なに?」
「い、いや」
急にハルカと目が合ってしまい、あからさまに目を逸らしてしまった。せっかく邪魔者が入らない時間なんだ、この時間に少しでもハルカとの距離を詰めたいと思うのはわがままなのか。焦ってしまう自分の気持ちは分かっている。馨とハルカが一緒にきた時に2人とも妙に顔が赤くて少しぎこちない感じだったのが引っかかるからだ。
馨だったら、簡単にハルカに可愛いって言えるんだろうな。新太もすぐ言いそうだ。いつもだったら俺だって言える。なんならちょっと言ってみていた時期もあったけど、ただ褒められてるだけ、それ以上の感情をあの鈍いハルカが気がつくなんて期待できなかった。
今日は無理だ、意識しすぎていつもは言える言葉が言えない。
新太のクラスは総合でも2位という結果を残し、大いに盛り上がっていた。
「な、なんかダンスパーティーが異様な盛り上がりだね。みてる専門でもいいかも・・・」
「だな」
ダンスパーティーはまさにカオス状態。盛り上がりすぎてみんな周りが見えておらずぶつかっている生徒もいた。それでも笑っていたけれど。
去年参加していない俺とハルカは若干引き気味だった。
体育館前の階段が丁度座れることに気がついた。何か飲み物でも買って、あそこで座って過ごそうか。我ながら良い事を思いついた。
たくさんの人の隙間から楽しそうに踊っている新太が見えた。人見知りせずに楽しいことを全力で楽しもうとする新太のそういう所は真似できない。
「新太くん、楽しそうだね」
「ここからだと良く見える。ハルカ、何か飲む?あそこの階段で待ってて」
「リンゴジュースがいいな。ありがとうね」
ジュースを買いにハルカと離れた。
***
なんか・・・。なんか・・・。
ゆう、全然私の顔を見てくれないな。やっぱり時間と共にメイクが変になっちゃったかな。馨くんは可愛いって言ってくれたけど。
馨くんに抱きしめられたことを思い出してまた顔に血が集まるのを感じた。馨くんはクォーターだからきっと愛情表現もちょっとクォーター寄りっていうか。多分あの抱擁も深い意味はなくて、私を慰めるというか元気付けるためにきっと・・・!
馨くんの顔が赤くなっていることに気がついてしまって、なんだか胸が苦しいのだ。私と同じように馨くんも照れていたのでしょうか。
そんな馨くんの反応を知ってしまったからこそ、ゆうのそっけいない感じがなんだか寂しくて。寂しいってことは可愛いとか似合ってるとか言われたかったってこと?いやいや、せっかく田中さんがメイクしてくれたんだからそりゃ田中さんのためにもそう思われたいでしょう。ってさっきから自問自答しすぎて情緒が不安定だ。
「中川さん」
「あ、田中さん」
ゆうを経由して田中さんのことを考えていたら本当に目の前に田中さんが現れた。魔法でしょうか。
「こんな所で1人?どうしたの?」
「ゆうが飲み物買いに行ってくれてて」
「なるほどね。ねぇ、どうだった?」
目をキラキラと輝かせて田中さんが詰め寄る。
「馨くんは可愛いって言ってくれたよ!ありがとうね」
「・・・え?中西は?」
田中さんは驚いたような表情を浮かべた後、何かを察したようで私の横に座って肩をポンポンと撫でてくれた。
「せっかく可愛くしてくれたのに・・・」
「きっと照れてるだけだよ。元気出して」
「あれ?ハルカセンパーイ!」
なんだかしんみりとしてしまった私たちとは真逆の底抜けに明るい声がした。
「染谷くん・・・」
「後輩?丁度いいじゃん。ねぇ今日の中川さんどーよ」
くいくいっと田中さんが手招きをして染谷くんを呼ぶ。走ってきた染谷くんは私の顔を見てニコッと笑った。
「可愛いっす!めっちゃメイク似合ってます!!」
「だよねー!可愛いって言いたくなるよね普通は!」
見る目あるじゃん、と言い残して田中さんは行ってしまった。
「先輩、俺とダンス行きませんか?」
「へ?」
急なお誘いに変な声が出てしまった。
「だめ?」
「先約があるから、だめ」
「ちぇ。でもその人可愛いって言ってくれなかったんでしょ?」
ちくり、確かにそうなんだけど他の人から言われると余計に胸に刺さっているその棘の存在を感じてしまう。
「俺だったら可愛いって思ったら絶対伝えますけどね。だってハルカ先輩に好きになってもらいたいし」
「誰にでもそういうこと言ってるんでしょ」
「あ!ひどい!先輩にだけなのにー!」
染谷くんのコロコロと変わる表情を見ていたらなんだか悩んでいたことが馬鹿馬鹿しく思えて笑ってしまった。
元々ゆうって感情とかも表に出さないタイプなんだから、最初っから期待して勝手にガッカリしている私が悪いんだ。みんなが可愛いって言ってくれるから勘違いをしてしまった。
「なんか、ありがとう。染谷くん。元気出たよ」
「ならよかったです」
ニコッと笑う染谷くんに私も笑い返す。
「私ならもう大丈夫だから、お友達のところ行ってきな」
「もーそうやってすぐ俺のこと追い返すんだから」
染谷くんはポンポンと私の頭を撫でてクラスメイトの所へ戻っていった。
「俺だって」
びっくりして振り向くとジュースを持ったゆうが顔を真っ赤にして立っていた。え、いつから聞いてたの・・・?
「俺のために可愛くしてるって思っていい?」
さっきまで全然私の顔なんて見なかったくせに、今のゆうは真っ直ぐに私を見ていて、言葉が出てこなかった。




