今すぐ後夜祭なんて終わってしまえ
「じゃあ準備で先に行っているから・・・」
「あ、うん」
なんだかゆうの顔が見れなくなってしまって、せっかく声をかけてくれたのに俯いてしまった。
どうしよう、あっという間に後夜祭の時間になってしまった。
「中川さん」
「あ、田中さん」
ニコニコしながら田中さんが私の方へやってきた。
「ちょっと聞いちゃったんだけど、中西と後夜祭過ごすんでしょ?」
ガタっと椅子から転げ落ちそうになってしまった。
「ななな、なんでそれを・・・!」
「いやぁごめんね。聞く気はなかったんだけど、たまたま居合わせてしまって・・・。で、用件なんですが、そのままの中川さんで行きますか?」
「え?」
ジャーンと効果音がつきそうな勢いで田中さんはポーチを取り出した。
「中川さんをより可愛くしていいですか?返事は結構です。やります」
本当に私の返事を聞かずに、あれよあれよとメイクアップされたのだった。
「メイクアップアーティスト・・・!」
「いやぁそんな褒めないでよ」
鏡を見て驚いた。田中さん天才すぎる。自分で言うのもなんだけどまつ毛もくるんとあがってる。リップも可愛い色だ。
「可愛いよ。中西さん」
「ありがとう」
「じゃあ後夜祭楽しんでね!また、今度話聞かせてね」
パチリとウインクして田中さんは去っていった。かっこいい。
みんなで校庭に移動し始める。田中さんに可愛くしてもらったけど、なんだか気恥ずかしくって教室を出ることができなかった。田中さんはもういない。大丈夫かな、変になってないかな。この短時間で大丈夫だろうと分かっているけれど何度も手鏡を見てしまう。
「ハルカちゃん、そろそろ・・・って」
「か、馨くん・・・!」
あんまり遅いから様子を見にきてくれたのだろう。馨くんが教室に戻ってきたけど、私の顔を見た瞬間動きが止まってしまった。
***
キャンプファイヤーの準備も終わり、後夜祭がもう始まりそうだったけどハルカちゃんの姿が見えない。
「ハルカのやつ遅いな・・・」
「様子を見てくるよ」
流石に今年は何もないんじゃないかと思っていたけど、去年のことを思い出してヒヤリとする。
「いや、俺がいく」
「この後ずっとハルカちゃんと一緒なんでしょう?迎えに行くくらい譲ってよね」
ゆうにそう言うと、珍しく言い返してこない。僕はゆうの肩を軽く叩いて教室へ向かった。
「か、馨くん・・・!」
教室にはハルカちゃんだけ。無事な様子を見て胸を撫で下ろしたけど、すぐに撫で下ろした胸が跳ね上がった。
ハルカちゃんは珍しくメイクをしていて。誰かにやってもらったのだろう、いつもの雰囲気と随分違う様子だった。いつも可愛いけど、瞬きするたびキラキラと煌めくラメやプルプルの唇にドキッとする。
この後、ハルカちゃんはゆうと2人で過ごすんだよね。嫌だな。
「へ、変かな?田中さんがやってくれたんだけど・・・」
ハルカちゃんは照れながら僕の方へとやってくる。田中さんめ。余計なことを・・・!これが全部ゆうのためだなんて考えると嫉妬でどうにかなってしまいそうだ。
そんな僕の考えていることなんて知らないまま、ハルカちゃんは何も言わない僕を不安げに見つめる。
僕は我慢ができなくなって、ハルカちゃんを抱きしめた。
「か、馨くん!」
「可愛すぎる。このままここで一緒にいたい」
ハルカちゃんは急に僕に抱きしめられたことに驚いているのだろう。体を木のように硬くしている。どんな表情をしているのか見てみたいけど、勢いでこんなことをしてしまったことを今更後悔して顔を見るのがちょっと怖い。
「って、ハルカちゃんはゆうといるんだよね!早く行こう。可愛いからゆうもびっくりするよ」
僕は何もなかったかのように明るくハルカちゃんに声をかけ、手を引いて教室を出た。ふと窓ガラスに映ったハルカちゃんの顔が耳まで真っ赤であったことに気がついてしまい、僕まで顔が赤くなってしまった。
あー今すぐ雨降って後夜祭中止になんないかな?こんなに可愛いハルカちゃんの姿を一番に見たのは僕なんだ。今日はそれでいい。悔しいけど。




