ハノイの朝、霧、コーヒー
「ハルカちゃーん」
「うわっ!!」
翌朝、目を開けたらクオンさんがいた。
クオンさんはベッドの横の椅子に腰掛けて、入院中のお見舞いみたいな感じで私の顔を見ていた。
時計を見ると、朝5時・・・クオンさんは時間に正確なタイプのベトナム人らしい。
「お、おはようございます・・・」
「さ、顔洗っていくよ!始まっちゃうから!」
なぜあなたが私の部屋に・・・?という質問も許されないまま私は急いで顔を洗って、クオンさんに急かされるまま家を出た。
「楽しんでー」
リビングを通るとお母さんは既に起きていた。ねぇ、なんでなの。なんであなたが起こしてくれないの。
「ハルカちゃん!早く!!」
ヘルメットを手渡され、急いで被る。
クオンさんはバイクに乗っていた。え、後ろに乗るってこと?
「私、バイクの2人乗りなんてしたことない!」
「大丈夫大丈夫。ほらいくよ」
クオンさんに手を引かれ、バイクに跨る。どこを持ったら一番安定するのかと、バイクのいろんなところを持ってみる。
「ダメダメ。飛ばすからここ持って」
「わっ!!」
クオンさんは私の手を取って自分のお腹に巻きつけた。
言い方を変えるね。私は今、クオンさんに抱きついている状態ってこと。
「え、え、え!!!」
「はい出発ーー!」
ドキドキする間もなく、クオンさんはバイクを発進させる。
ベトナムに滞在している間、ずっと思っていたことがある。
ベトナムの人ってバイクの運転荒くないかい?絶対みんながバイクを避けてくれるって思っていないかい??
急発進したバイクのせいで、私はクオンさんにしっかりと抱きつくしかなかったのだった。
***
空はまだ暗い。
あっという間に着いたらしい。降りていいよとクオンさんに言われる。
「間に合った!ハルカちゃん、こっちだよ!」
着いたのはどうやら公園みたいだった。こんな時間なのに結構人がいるのが不思議。
「わっ!」
急にクオンさんに手を握られ引っ張られる。
「急がなきゃ!ほら、はるかちゃん早く!」
朝からずっと急いでいる気がする。私、朝は苦手なのに今日はすごい頑張ってると思う。強制的にとは言わないで。
公園は池があるみたい。
「ここはホアンキエム湖っていうんだ。有名な場所だよ」
「湖なんだ」
ベンチに座る。近くでおばあちゃん達が太極拳をしている。
虫の声、湿気はあるけど朝特有の爽やかさまで感じる。
薄く明るくなってきた。
「とっても面白いからね」
なぜクオンさんがこんな朝早くから私を連れ出してのかやっと理解できた。
朝日が昇るにつれ、空はどんどん明るくなっていく。
湖のせいなのか、ホアンキエム湖は少し霧がかかっているように見えてなんとも幻想的なのだ。
空は赤く染まっていて、湖面に反射している。
「どう?」
「すごく・・・綺麗」
「でしょう。ハロン湾の朝焼けもすごく綺麗なんだけど、僕はホアンキエム湖の朝も大好きなんだ。霧が綺麗で面白くて、違う世界にいるみたいな気持ちになる」
どこか神聖な気持ちさえ感じるから不思議だなぁ。すぐ近くでおばあちゃん達が太極拳をしているのに。
「僕のお気に入りスポットだったからハルカちゃんに見せたかったんだ」
にこりと笑ってクオンさんが言った。
「ありがとう」
太陽が出てきてしばらくすると霧はあっという間に消えていった。周りを見渡すと人がどんどん増えてきているのがわかった。
ジョギングしたり、道端でおしゃべりしたりしている。
「ホアンキエム湖は僕だけじゃなくってベトナム人みんな好きなんだ」
そろそろ行こうか、とクオンさんは腰をあげた。
もう7時になるところだった。
「ハルカちゃん、眠いでしょ?家まで送るから一回眠りな」
「ありが・・・」
ありがとう、という前にぐう、と私のお腹が鳴ってしまった。どうか聞こえていませんようにと願ったけどクオンさんはケラケラと笑っていて、無事クオンさんの耳に私のお腹の音が届いてしまっているという現実を突きつけられた。
「朝ごはん食べて帰ろうか」
「・・・はい」
ホアンキエム湖の朝に感動して眠気はどこかに行っていた。別に、お腹が鳴って恥ずかしくて眠気が覚めたんじゃないからね!!
***
私たちはカフェに寄ってバインミーとベトナムコーヒーを楽しんだ。
「朝からバインミー・・・幸せ」
「こっちにいたらずっと食べれるよ」
「そう・・・だよね」
両親から言われた言葉を思い出す。
「僕は勇気出して日本に行ってみて良かったって思う。日本の文化も大好きだし、自分の国のことも大好きになった。長い人生の中、少しくらい寄り道していいんじゃない?僕は日本で過ごした時間はずっと宝物だよ」
コーヒーを飲んで、クオンさんは微笑んだ。
お腹が満たされて、バイクに乗って一度家に帰る。
「どうだった?」
「すごい綺麗だったよ!」
リビングでお母さんは朝ごはんを食べていた。
お父さんはシャワー中らしい。
「朝ごはん食べる?」
「もうバインミー食べたよ」
「あら、朝食デートまでしたの?良かったわねハルカ」
お母さんの言葉に驚いて二度見してしまった。
「デートじゃないってば!」
「僕はデートのつもりだったけど」
「クオンくん朝からありがとうね」
普通にクオンさんも入ってきて爆弾発言をかます。
「ええー!もうみんなからかわないでよ!」
私は恥ずかしくなってリビングを通過。ベッドで横になり目を閉じた。
「ハルカちゃん、もう行くよ」
「うわっ!!」
デジャブか。眠ってしまっていた私はクオンさんに起こされ、また急いで家を出る準備をするのだった。
「もうお母さんが起こしてよ!!」
「お母さんも準備あるもーん」
1ヶ月ぶりの更新になってしまいました!ブックマーク・評価などなどありがとうございます!たこ焼き食べます!!Cani.




