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栄冠は誰に輝く  作者: 伊那野氷菓
第一試合 入学編
6/6

三回裏 告白

僕の父親はプロ野球選手だった。しかも、タイトルを何度も獲得するほどの大エースだった。


そんな父親に憧れて、野球を始めた。ポジションは外野手。投手(ピッチャー)をやってみたかった気持ちは当然あったが、そこはチーム事情というものがあった。


流石、天才は違うな。


遥輝は天才だから。


当初から才能をいかんなく発揮した僕は、いつからか周囲にそう言われるようになった。試合で活躍するのは天才だからと片付けられる。試合でミスをすれば、天才なのに何やってんだよと罵られる。


そんな風に言われる日々にも慣れきった中学三年の秋、父親は現役を引退した。

僕と父親は"家庭の事情"で別居していた。それでも彼は妹にあたる叔母を通じて、僕に試合のチケットを何度もくれた。


引退試合も観に行った。大歓声を背にマウンドを去る父親の姿に、僕も「こんな風に皆に愛されるプロ野球選手になりたい」と思ったものだった。この時までは。


それから(しばら)く経ったある日、突如として父親が家にやってきた。玄関で彼が深刻そうな顔をしているのを見た時、僕は嫌な予感がした。


「遥輝、俺はお前に大事な話をしなきゃならない」


テーブルを挟んで、僕は父親と向き合った。こんな風に彼と話をするのは生まれて初めてだった。そもそも会話をすることだって、年に数回程度しかなかった。


父親の話を聞いた後、自分がどんな反応をしたのかは覚えていない。確かなことは、彼の話の内容は僕の出生に関する秘密についてであること。そしてそれを聞いた僕に残っていたのは、どす黒く渦巻いた自分の肉親への嫌悪感だけだった。


これ以降、僕は父親を想起させるものを日常から徹底的に排除した。そしてそれは彼への憧憬に始まった自分の野球人生も、決して例外ではなかった。



「どうした、葉山」


「いえ、ちょっとブランクに戸惑ってるだけです」


千田さんがキャッチャーミットを突き出しながら声をかけてきた。昔(といってもつい数ヶ月前だが)のことを思い出してしまったせいか、どうもぼうっとしてしまう。


ある程度新入生が集まったところで、九里さんはキャッチボールから始めるよう指示を出した。会話のキャッチボールと言う表現があるように、先輩ー後輩でペアを組んでボールを投げ合うことで、親睦を深めようということらしい。


新入生は十数人ほど集まったが、野球経験があろう者は僕と藤堂の二人だけだった。他は大半が体操服姿をしており、キャッチボールの球を後逸してしまう者もいた。


「葉山、やっぱり球筋が綺麗だな。こうして捕ってみるとよく分かる」


「そうでしょうか。もうかれこれ三ヶ月はボールに触ってすらいないんですけど」


謙遜ではない。何なら今日ここに来るまで、僕は野球に関する道具を一切視界に捉えてすらいなかった。だが千田さんは「またまた〜」と言いながら、心底楽しそうにボールを投げ返してくる。


「しかし、本当に何でこんな無名の公立なんかに来たんだ? 私立の推薦とか貰っていなかったのか」


ああ、それ。今そのこと思い出してテンション下がってんだから、出来れば()かないで欲しかった。


「……何となくです」



その後行われた打撃練習でも、僕は何も知らない先輩の賞賛の嵐を浴びることとなった。


「すっげぇ、バットの先っちょ当てただけであんな飛ぶのかよ……」


「ウチなら一瞬で四番打者確定じゃねぇか」


上級生は横からヒソヒソと僕のバッティングについて噂している。新入生に至っては何が何だか分からないといった様子だ。まともにリアクションしているのは藤堂くらいだ。


打撃練習といっても、ここにはピッチングマシンやその他諸々の設備がない。そのため打撃投手を上級生が務め、そを新入生が校舎と真反対のネット方向へ打ち返すという、いわば簡易バッティングセンターが催されていた。


これでも、嫌々やってるつもりなんだがな。


左打席に立ちながら、僕はため息をついた。そもそも僕は奏に無理矢理やらされる形で今こうしているだけだ。


「葉山くん」


打撃投手を務めてくれた九里さんが駆け寄ってきた。彼は自分から「葉山くんの打撃投手をやりたい」と申し出ていた。


「是非野球部に入って欲しい。葉山くんがいれば、ウチは初戦敗退の常連から抜け出せるかもしれない」


顔つきから、この人は本気だということが伝わってきた。本来ならこの人の熱意に応えたいと思うのが普通なのだろうが、それでも僕はどうしても野球部に入る気にはなれなかった。


もう辞めると宣言した野球を、すいませんやっぱりもう一度やりますという気持ちにはなれない。例え奏に弱みを握られていようと、自分で決めたことを自分で曲げるのはかなり気が引ける。


「すみません、一回考えさせて下さい」


それだけ言い残して、僕はグラウンドを後にした。

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