二回裏 発覚
中学の頃から、僕と翼は未成年で喫煙をしていた。いつかバレると思ってはいたが、とうとう誰にも見つからずに中学を卒業した。
弁当屋を営む翼の父親はヘビースモーカーで、家にはカートンが何箱も常備されているらしかった。翼がそれをくすねてきて、僕に提供してくれた。
チームの試合が終わってから、僕たちは適当な場所を見つけて一服していた。最初の頃は罪悪感があったが、暫くすると消え失せた。ストレスの解消法がたまたま莨になっただけだとさえ、考えるようになった。
「あいよ」
僕が住むマンションの裏で翼は僕に"入学祝い"を手渡した。ちょうど人気もなく、周囲から死角になりそうな場所だったので、彼は早速吸おうとした。
「やめとけ、ここで制服姿はさすがにまずい」
一人暮らしの僕はまだいいとして、翼の場合匂いがついたら一瞬でアウトだ。僕の静止を受け彼は納得し、咥えていたヘブンスターを箱に戻した。
*
自室の鍵を閉めた瞬間、僕はようやく自由の身になれた気がした。元カノと鉢合わせするわ、腐れ縁とコソコソと裏取引をするわ、内容の濃すぎる高校生活初日だった。
さーて、俺も一本吸うか。
好きな銘柄はキャラメルのタール12。ほんと、翼のお父さんが色々な銘柄を吸う人で助かる。
このマンションには各部屋全てに物干しができる程度のベランダが設置されている。僕はベランダの窓を開けると、かつてのホタル族の如くライターに火をつけようとした。インターホンがなったのは、その時だった。
回覧板かな。
僕は咥えていた莨をしまってから目につかない場所に隠した。それから念の為にインターホンの通話ボタンを押し、誰がなんの用で来たのか尋ねた。
「そこにいるのは遥輝?」
ドア一枚隔てて向こう側にいる人物の声を聞いた途端、心臓が音を立てて跳ね上がるのを感じた。
*
僕は基本的に物事に動じないタイプの人間だと思っていた。
大事な試合の前だろうと、一打サヨナラの場面で打席に立とうと、緊張とか動揺とは無縁の状態を保てている自信があった。
だが今は、そうはいかない。少しの衝撃で八面六臂が飛び出してしまいそうな緊張が身体を包んでいる。
「よかった。ここで合ってた」
まるで大いなるものに向き合うかのような面持ちで、奏は僕の部屋に勝手に上がり込んできた。記念すべき来客第一号が元カノとは、何て皮肉だ。
「……何の用だ」
あくまで平静を装って、僕は対応することにした。全く別の用件かもしれないじゃないか。
だがそんな希望的観測は、一瞬で打ち砕かれた。覚悟を決めたような奏の目線に、僕は石像のように立ったまま動けなくなった。
「遥輝、さっき平塚くんと何してたの」
「何って、お菓子を貰ってただけだ」
あまりにも下手過ぎる嘘であることは自覚している。
「お菓子貰うだけなのに、どうして物陰に隠れる必要があるの」
こう言われてしまえばもうスリーアウトだ。諦めるも何も、既に試合は終了した。
「どんなお菓子? 私にも見せて」
「何でお前に見せる必要があるんだよ」
奏は僕の問いには答えず、「見せてくれるまで帰らない」と宣言した。ここで本物のお菓子を見せて誤魔化すことも出来たのかもしれないが、こいつにそんな小細工が通用するとは思えなかった。
グッドバイ、俺の高校生活。
僕は隠してあった莨とライターを見せた。高校生活が一日と持たずに終了した、歴史的瞬間だ。
奏はそれを受け取って暫く眺めると、なんの躊躇いもなく自分の鞄にしまった。そしてまた真剣な面持ちで僕の顔を見つめ、口を開いた。
「ねぇ、見逃して欲しい?」
※良い子は真似しちゃダメです。