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栄冠は誰に輝く  作者: 伊那野氷菓
第一試合 入学編
1/6

一回表 プロローグ

「四番、ライト、葉山くん」


ベンチからは「遥輝ー! 頼むぞ!」という掛け声が聞こえる。スタンドからも拍手が送られる中、僕は左打席に立った。


相手ピッチャーはバットを構える僕を見て完全に怖気づいた様子だった。球が走ってない。ストライクが入らない。そのせいでカウントがどんどんバッター有利になる。


3ボール1ストライク。ピッチャーが球をリリースした瞬間、しまったという表情を浮かべるのが見えた。でももう遅い。


カキーン!!


高めに浮いた変化球を、僕は軽々とライトスタンドに放り込んだ。サヨナラ満塁ホームランだった。


「遥輝ー!やったな!」


「ナイスバッティング!」


チームメイトたちが狂喜乱舞しながらホームベース上に駆け寄ってくる。僕はニヤけるのを堪えながら、相手ナインが呆然とする中ダイヤモンドを一周した。


自分の活躍でチームが勝つ。


小学校から野球をやってきて、二番目に嬉しい瞬間だった。チームメイトが笑顔で出迎える。普段は厳しい監督が褒めてくれる。本当に堪らない。


試合が終わると、球場の外で保護者や関係者が出待ちしていた。そのような中で、"彼女"は僕を待ってくれていた。

「遥輝、今日もカッコよかったよ」


これこそが野球をやっていて一番嬉しい瞬間だった。"彼女"は僕が出場する試合を観に来ては、いつもこう言ってくれた。


自分が活躍出来た時は次の試合に向けてのモチベーションになるし、逆だった時は次こそは結果を出してやろうと思える。"彼女"の言葉には僕のバロメーターを上げる力があった。


そして、それが"彼女"への恋心によるものであることを、僕は認めずにはいられなかった。



玄関を開けた途端、強風が室内に吹き付けてきた。微かに潮の香りを含んだそれは、ネックウォーマーや厚めのジャージを着ていても、寒さを感じさせるには十分だった。


3月28日、午前5時。僕は早朝のランニングの為に部屋を出ると、エレベーターに乗ってエントランスへ向かった。


別に意識が高いとか、そういう訳ではない。単純に身体的に朽ち果てていくのが嫌だったから、こうして身体をこまめに動かしているだけだ。


高校入学を間近に控えていた僕は、それまで住んでいた叔母の家を出て一人暮らしを始めた。父親は仕事で一年中全国を飛び回っており、年に数回しか会えない。母親に至っては何と顔を見た事すらない。


そのような複雑な家庭環境の中、僕は叔母の手によって育てられてきた。叔母は優しい人ではあったが、いつからか育て親と別れて一人で隠棲したいと思うようになった。


意外にも周囲の大人はこの考えに理解を示し、父親は家賃やその他諸々の生活費の援助を約束してくれた。恐らく息子に対して後ろめたさがあるのだろうと、何となくではあるが察した。


既に引越し後の整理整頓を済ました僕が望むのは、高校に入学してひっそりとした学園生活を送ることだけだった。良くも悪くも誰かの注目を浴びることもなく、ただただ静謐な日々を過ごすことだけを切に願っていた。


一階に降りてエントランスを出るところで、一人の女性とすれ違った。スマートフォンを覗きながら、それでいて周囲にもしっかりと注意を払いつつ歩いてくる。流石にこんな時間に出歩く人はいないだろうと思っていたのだが。まぁ、軽く挨拶はしておこう。


「おはようございます」


「おはようございます」


「「……え?」」


すれ違った人物の顔を見て唖然とした。僕のよく見知った顔がそこにあった。


函南奏(かんなみかなで)。僕の幼馴染にして元"彼女"が立っていた。


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