プロローグ:カレン【カレン】
あなたはおぼえていますか? この物語を――
「お別れですね、リンちゃん」
「うん‥‥‥」
せつない吐息が交わされて、うるんだ視線がつながります。
ふたりの世界。それはたぶん、はじまったばかり。
けれど空をおおいつくした夕焼けは、この世の終わりのようでした。
「カレンちゃん、泣かないで」
「だって……」
草原を渡る光のなか、きらきら輝く涙が、カレンと呼ばれたその子をお陽さまのように見せました。リボンをつけた長い髪が赤々と透きとおって、
【これは……何……?】
本当に燃えているかのようでした。
顔も真っ赤っか。
そこへちいさな手が差し出され、カレンの濡れた頬をそっと拭ってくれたのです。
あの指先が――ちょっとひんやりしていたこと、おぼえていますか?
【そう……だ……。いつだって、やさしかった……リンちゃんの、手……】
そう、リンちゃんです。
思い出してください。あのしゅるりとした栗色の髪を。澄んだ湖面のような瞳の
【お人形さん、みたいな……】
そう、そのとおり。
世間知らずで、自分知らずの、あぶなっかしい子でもありました。
そんなリンちゃんが【あのとき……】なんだか急におとなびて、ニコと笑いかけてくれたのです。
「必ずまた会えるから。それまで待ってて。ね?」
カレンは【誰……?】鼻をすすり「でも‥‥‥」とかぼそくつぶやきました。
「そのときわたしたち、いっしょにいられますか? もしも、ママのお許しが出なかったら……」
「だいじょうぶ」
ふたつの影がぎゅっと【抱きしめ……られたのは……】ひとつになりました。【わた……し?】
「ぼくが強くなる。カレンちゃんの隣にいられるくらい、強くなってみせるから」
「……約束よ?」
ふたりはくっつけたほっぺたを離して、小鳥のように鼻先をすり合わせました。
「いいえ、これは、契約……」
ふたつの唇が重なって、願いが【光が……】そこに生まれます。
ずっとずっと、続くようにと。