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立って歩きなさい!

 黒い、水の中に沈むような感覚、全身をねっとりとへばりつく気味の悪い感触が包みます。

 苦しくて、寂しくて、辛くて、悲しい、そんな感情でいっぱいになりました。

 目を開き、周囲を見渡します。

 暗い洞窟の中、地面には血が隅々まで広がっていて、8人の男女が横たわっています。

 その中心には先程見た、私の顔そっくりの黒髪の女性が赤黒く淀んだ黒い何かを苦しみながら、今にも吐き出しそうなのを我慢しながら飲み込んでいました。


『ごめんなさい…ごめんなさい』


 彼女は涙を流し、許しを乞い、後悔しながら、絶望しながら、蹲っています。

 その光景を見た私は、なぜか彼女を責めなければならないような、そんな気持ちに支配されました。


「あなたが殺したのに、なぜ謝るんですか?それで許されると思っているのですか?」

『ひっ…!』


 どうやら彼女には私の声が聞こえているようで、驚いて尻餅をつき、壁際まで後退ります。

 そんな彼女を逃さないよう、私はゆっくりと彼女の方に近づきます。


「死人は、何もあなたにする事は無いでしょう。責めることも、恨み言を言うことも、何も…」

『あ…いや…っ、ごめ…ごめんなさい…』

「あなたは一生許されない、永遠に後悔しながら生きなさい」


 彼女の真っ黒な、光も映さない目から涙が溢れ、頭を押さえて泣き喚く。

 その姿を見て、何故だかさらに黒い感情が湧き上がる、なんですかその無様な姿は、私だって人を殺す事にあまり慣れていない、だが殺したことは絶対に後悔しない、後悔するぐらいなら初めからやらなければ良いのに。


「泣くな、蹲るな、立ち止まるな、立って歩きなさい!」


 段々と、景色が遠のいていく。

 彼女に言わなければならないことがまだまだあるというのに、時間切れが来てしまった。


「忘れるな!無駄にするな!自分で決めたなら、最後まで貫き通しなさい!」


 まだ彼女は顔を上げない、啜り泣いて、後悔して、心は黒く染まっていく、堕ちていく、私にはそれは止められませんでした。


ーーーーーー


「アル…アルミット…アルミット!」

「っ!」


 ハッと目が覚めると、蝋燭に照らされたセルドが目の前にあり、心配そうに私の方を見ていました。

 悪い夢でも見ていたのでしょうか、私の呼吸は荒くなっており、汗もたくさんかいていました。


「…セルド?」

「大丈夫か?うなされていたようだが…」

「ええ…大丈夫ですよ、心配をかけてすみません」

「大丈夫ならいいんだ」


 とても重要な夢だったような気がする、だがなんの夢だったのかはカケラすら思い出せません。


「それよりもここはどこでしょうか、確か舞台の上にいたはずですが…」

「お前、舞台の上で倒れたんだぞ」


 そういえばそうでした、精霊の果実を食べたあと気を失ったんでした。

 あの時起きた現象はなんだったのでしょうか?

 私にそっくりな彼女のことも気になります、国外に親戚がいるなんて話は聞いたことがありませんので、ただのそっくりさんでしょうか。

 また実家に帰った時にでも母様に聞いてみましょうかね。


「ご迷惑をおかけしました、ここまで運ぶのは大変でしたでしょう?」


 見たところここはセルドの家、あの村から少し距離があるのでここまで運ばせたのは申し訳ない気分になります。


「そんな事はない、なんなら軽すぎるぐらいだったぞ」

「嬉しいことを言ってくれますね」


 その後、少し会話を交わしました。

 明日はどこに行こうか、何をしようか、など話していると再び眠気が私を襲います。

 セルドも心なしか眠そうな表情になってきました、私が起きるまで待っていてくれたようで、なんだか申し訳ないですね。


「セルド、夜も遅いですし、そろそろ寝ましょうか」

「ああ、そうだな」

「今日は色々ありがとうございました」

「いいよ、楽しめたならよかった」


 じゃあおやすみ、とセルドは部屋から出ていき、私も再び上半身を寝かし、ベッド横にある蝋燭をふっと消します。

 思ったより疲れていたのか、すぐに私の意識は夢の世界へと引き込まれました。



ーーーーーー


 あれから5日、セルドの交代の騎士が家に訪れ、「あのむっつりセルドが女を連れ込むとはなぁ…」と同僚さんは少し感動していました。

 ていうかやっぱりむっつりだったんですね。


「セルドの同僚のセリウスと申します、どうぞよろしく」

「アルミット・テラスティアです、よろしくお願いします」


 私はセリウスと握手を交わします。

 セリウスもセルドと同じでイケメン系の顔立ちで、女の子ならすぐ落としてしまいそうな笑顔でした。

 まあ私には効きませんが、この国はイケメン率高いように感じます。


「可愛い彼女じゃないか、大事にしろよ?」

「な、ちがっ、」


 セルドは慌てて否定しようとしていますが、そんな否定しては更に誤解が深まりそうです。


「彼女とか、そんなんじゃない!国まで案内するだけだ!」

「分かった分かった、いいから早く出発しろって、あと結婚式には呼べよ」

「ぜんぜん分かってないじゃないか!」

「セルド、いいから早く準備しますよ〜」


 セルドは同僚さんにしっしっと家から追い出され、準備していた荷物を馬車に積み、馬車に乗ります。

 ここから約一か月、長い旅になりそうですが、私はワクワクしていました。

 ここから私の旅が始まるんですから。


「じゃあ、行くぞ」

「はい!」


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