両方でもいいですよ
後日、ギルドに最重要手配組織『陰』2人と接触したこと、あとは謎の能力について報告をしました。
恐らく2人とも転移系の技を使えるのでしょう、精霊術にそんな技があるとは聞いた事がありません。
なので恐らく、噂に聞く果実による能力の会得だと思われます。
「私にまだ能力が無いのは何故でしょうか?」
果実を口にしてもう2年が経過していますが、特にこれといった特殊能力などには心当たりがありません。
能力の会得には果実を口にすること以外にもなにか条件があると見た方が良いですね。
今度、ゆっくり調べることにしましょう。
それはそうと、ギルドから情報提供の報酬が出ました、それも結構な額が。
最近は、新種の魔物や襲撃と不幸続きだと思っていましたが、悪いことばかりでは無いようです。
お金はいくらあっても嬉しいものです。
「このお金でテュファネに何か買いましょう」
彼女にはいつもお世話になっていますから、たまにはいいでしょう。
という訳で次の日、テュファネの要望で武器屋に来ました。
「いいんですか?武器屋で」
「いいのいいの!」
彼女は目を輝かせ武器を見始めました。
何故武器屋?と、思ったでしょうが、テュファネは武器が好きでダンジョンでも武器が見つからないかといつもワクワクしています。
初めてパーティを組んだ時も、私の魔法鞄に入っている大量の武器にそれはもう大興奮で、大変な事になりました。
まあ武器を見て目を輝かせる彼女を見るのは嫌いでは無いのですが。
「この剣とかいいよね〜!あっ!あの短剣も捨てがたい…弓もいいな〜!」
「両方でもいいですよ」
テュファネは「ほんとに!?」と喜び、ハッ!としたように頭をぶんぶん振ります。
「ううん、1つで大丈夫」
そう言うと、再び武器を見て店の中を歩き出しました。
別にお金は結構貰ったのでいくつ買っても大丈夫なんですが、気を使っているのでしょうか?
本人が1つでいいと言うなら、強要はしませんが。
では、私も店を見て回りましょうか。
「何かいい武器は…」
しばらく見て回ると、ある黒い刀身の短剣を見つけました。
テュファネは短剣も使いますから丁度いいかもしれません、プレゼントに買いましょうか。
後は、矢の残りが少なくなってきていたので買い足しておきましょう。
「アルー!私これにする!」
テュファネの手には弓が握られていました。
そういえば前、ダンジョンで新しい弓が欲しいと言っていましたね。
私はテュファネの選んだ弓を買い、プレゼントしました。
「ありがとう!すごく嬉しい!」
「喜んでもらえたなら良かった、さっそく試し撃ちをして来たらどうです?」
「うん!そうする!」
彼女は嬉しそうに、胸に弓を抱いて隣接した射撃場へと走っていきました。
さて、じゃあ私も短剣を買いますか。
「おじさん、この短剣いくらですか?」
「嬢ちゃん、この短剣は高いぞ?買えるのか?」
「大丈夫ですよ、お金はたくさんあります」
私は若干ドヤ顔で昨日の報酬を入れていた袋をドンッと机に置きました。
さあ、どんな値段だろうとドンと来いです!
ーーーーー
日が落ち始め少し暗くなった頃、射撃場前のベンチで私は1人俯いていました。
「舐めてました…まさかあんなに高いなんて…」
私はほとんど空になった袋を見つめます。
なんであんなに高いんですか…!
ですが、これもテュファネの為です!彼女の喜ぶ顔に比べればなんて事はありませんとも!
軽い現実逃避をしていると、射撃場の扉が開き、すごくいい笑顔でテュファネが出てきました。
「これ…最高…っ!」
「なら良かったです、ですが喜ぶのはまだ早いですよ」
「なになに?」
私は袋から黒い短剣を取り出し彼女に渡すと、受け取った武器を見て、固まってしまいました。
「これ、サプライズです、要らなければ売ってくれても構いませんよ」
「要らない訳ない…本当に嬉しい…ありがとう!」
テュファネは涙目になって、私に勢いよく抱きつきました。
「ありがとう、アル。大切にするね…」
「そうしてくれるとありがたいです」
テュファネは私からゆっくり離れ、涙を拭いました。
こんなに喜んでもらえると、なかなか嬉しいものですね。
「実は、私からもプレゼントがあったんだ!」
そして懐から青い宝石のついたイヤリングを取り出し、私の耳に付けてくれました。
「今日でパーティを組んで1年記念だからね!」
「1年?1年半ではなくて?」
「それは仮のパーティを組んでからでしょ?正式にパーティーを組んでからは1年だよ?」
そういえばそうでした、最初の半年はお互いの生活が安定するまでの仮のパーティを組んでたんでした。
当時はすぐに解散する事になるだろうと思っていましたが、長い付き合いになりましたね。
「今日はアルにサプライズしようと思っていたのに、逆サプライズされて驚いちゃったよ」
そう言って笑う彼女の笑顔を見て、一年記念を忘れていた事に申し訳なさを感じます。
「ご飯でも行きましょうか、お詫びに奢りますよ」
「いいの?やった〜!なに食べようかな〜!」
来年こそは絶対に忘れないように、もっと喜んでもらえるようなプレゼントも用意しましょう。
来年が楽しみです。
「早く行こ〜!」
「待ってください!」
そうして私達は武器屋を離れ、食事に向かいました。