それは…どうしてですか?
「あ〜、なるほどそういうことですか…」
ギルド内、依頼掲示板横にある手配書の一覧を見て私は1人ある事に納得していました。
旅をしながら仕事ができるよう、冒険者登録にかから時間をどう潰そうかと思い、この手配書を見始めましたが…
「あの時、セルドが聞き覚えがあると言ったのはこういうことですね」
手配書の最重要手配組織『影』にアインとユリナの名前が入っていました。
フードをかぶった似顔絵が付けられていますが、アインの方は思いっきりピースしてます。
「セルドには黙っておきましょう」
「呼んだか?」
「ひゃっ!」
急に声をかけられ驚いてしまいましたが、とっさにセルドだと判断し、手配書を隠します。
「急に声をかけないでください!」
「すまん、冒険者カード出来たから渡そうと思ってな」
セルドから冒険者カードを渡されますが国に来る前に盗賊を倒していたので、本来、白級から始まるのだが黒級になっていました。
ちなみに階級は下から白、黒、銅、銀、金急にまだあります。
白級でも受けられる依頼は基本、薬草取りや害獣駆除などしかないので、魔物討伐が認められる黒級になれたのは運が良かったです。
「すいません、作るのを手伝ってもらって」
「いいよ、異国から来て文字が分からないんだから仕方ない」
セルドには異世界から来たことは言っていません、シエルに「2人だけの秘密にしましょう」と言われたので、異国からという事にしておきました。
「アルミットはいつ、この国を離れるつもりなんだ?」
「明日には出ようと思っています」
精霊との契約という目的は果たしたので、早く世界を見て回りたいですね。
ん?なんでしょうか、セルドの顔が少し暗いような?
「じゃあ、今日中に街を回ろうか」
「そう…ですね」
セルドは何事もなかったように笑顔になっていました、気のせいだったのでしょうか?
私達はギルドを出て街に繰り出し、露天が立ち並ぶ通りへと入り、セルド共に食べ歩きをします。
なかなか美味しいです、おまけをしてくれる人も多いですし。
「アルミット」
「なんれふか?」
セルドに呼ばれ、顔を向けると指が私の頬を撫でます。
「なっ!なにを!?」
「顔にソース付いてたぞ」
セルドはイケメンスマイルを発動します、この男は私を驚かせる事が好きなのでしょうか、まったく。
「きゅ、急にされると驚くので次からは自分で取ります」
変に驚いたせいで少し恥ずかしいです…なんだか顔が暑いような?
頭を少し冷やしてきましょうか…
「セルド、少しお花を摘みに行きます、これ持っててください」
「ああ、分かった」
一旦別れ、少し離れた露店で冷たい飲み物を飲みながら、とりあえず頭を冷やします。
この飲み物すごく美味しいです、原材料は見たこともない木の実でしたが。
そして少し時間をおいてセルドの元へと戻ります。
「お待たせしました、セルド」
「おかえり」
セルドと噴水前のベンチで合流しました。
周りにはカップルが多く、どうやらデートスポットのようです。
「ば、場所を変えませんか?」
せっかく冷静になったというのにまた少し顔に熱がこもってきます。
これまで男性と接する機会が少なかったので、こういうところにはあまり慣れていないのです。
皆さん、イチャイチャと、桃色の雰囲気が目に見えます。
「いや、ここでいい」
「それは…どうしてですか?」
セルドはある箱を取り出しました。
ゆっくり箱を開くと、中には美しい、青色の宝石が付いたブレスレットが入っていました。
「これは?」
「さっき露店で見つけてな、似合いそうだったから、プレゼントだ」
「私に…ですか?」
家族以外の男性から贈り物をもらうのは初めてです。
さっそくブレスレットを付けてみます、とっても綺麗です。
「ありがとうセルド、嬉しいです」
「喜んでもらえたなら良かった」
私はなんだか恥ずかしく、俯きます。
今は顔を上げられません、きっと顔が真っ赤になっているでしょうから。
その時です、セルドが急に私の手を握りました。
「は、話がある」
「なんで…しょう、か?」
顔を少し上げると、セルドの頬も少し赤くなっており、何か覚悟を決めたような顔でした。
「一緒に暮らさないか…」
「一緒に…ですか?」
「その…なんだ…まだ色々話したいこととか沢山あるんだ…まだ一緒に居たいというか…」
全身が暑くなり、ドクンドクンと心臓の音がうるさいです。
セルドの言いたいことは分かります、心の底から嬉しいと思います、でもその話を受けるわけにはいきません。
なぜなら私は自分の世界に帰らなければならないからです。
「一緒に居たいと言ってくれるのは嬉しいです、でもダメです…私は自分の目的の為に、世界を回らなければなりません…」
「そうか…」
本当はこの話を受けてしまいたいです、でも両親や友人に私は会いたいのです、ですから…
「ですから、目的を終えたら…その…考えてみてもいいです…」
「本当か!?」
時間操作魔法を実現させた人もいるのですから世界移動の魔法だって出来るかもしれません。
「あくまで、考えるんですからね…絶対ではありませんよ」
「それでも、嬉しいよ」
そう言ってセルドは本当に嬉しそうに笑いました。
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次の日の早朝、私は馬に乗り、着ていたローブのフードを深めにかぶり、腰に剣を挿します。
隣にはセルドと門番の騎士達が見送りに来てくれています。
ちなみにシエルさんは昨日私と別れた後すぐ、出張で国を出たそうです。
「気をつけてな」
「はい、また会いましょう」
ここで私はふと、あることを思い出して鞄の中を漁り、ネックレスを取り出してセルドに渡しました。
「昨日のお返しです、不要でしたら売ってくれても構いません」
「売らないよ!大事にする、ありがとう」
「それでは」と、セルドに別れを告げ、私は国を出ます。
彼と過ごした一ヶ月はなかなか楽しいものでした、ここが別の世界じゃなければあの提案を受け入れてしまいたかったほど。
別れはやはり寂しいものですが、いつか再開できる日を楽しみに、私は旅を続けます。