また会う日まで
ドンッ!と私の目の前にある的に拳サイズの穴が空きました。
精霊との契約後、精霊術の練習の為シエルに場所を借りて試し撃ちをし始めましたが…
「むぅ…なかなか難しい」
魔力と魔素は性質は異なりますが似ているので、精霊術を使おうとすると魔法が出てしまう時があります。
自分に流れる魔力を避けて、精霊から入ってくる魔素のみを体内で分離、抽出し、使用するというのはなかなか…魔力と混ざったら暴発する時もあるので注意が必要です。
「アルミットさん、精霊がバテてますよ…」
「えっ!」
「始めてから2時間経ちますからね」
精霊の方を見ると確かにバテていて、シエルは苦笑いで見ていました。
しまった、ちゃんと精霊のペースに合わせて練習しなければいけませんね。
とりあえず初級の精霊術は2時間は使えるということが分かりました。
「もっと精霊の練度が上がれば長く使えるようになりますよ」
「そうなんですか?」
「ええ、精霊術使用時の無駄な魔素の消費を抑えられますし、精霊の吸収率も少しは増えるんですよ」
それは良いことを聞きました、つまり今は無駄な力が入って疲れているというわけですか、ではこれから気長に練度を上げていきましょう。
それまでは魔力切れ時の補助にしましょう、魔力が切れたら魔素と混同することもないでしょうし。
ですがそれではいつまで経っても魔力との分離は上達しなさそうですね…
「精霊さん、締めに後一度だけ頑張れますか?」
精霊は首を縦に振り、気合を入れています。
「じゃあ、いきますよ!」
精霊が周囲から魔素を吸収し、私の中に流れ込んできます。
落ち着いて、流れてきた魔素のみを分離、抽出し手に集め、手の平を的に向け、狙いを定めます。
部屋が静寂に包まれます、私は集中し、シエルは緊張したように見守ってくれています。
「アルミット、終わったか?」
その時、ガチャッと部屋の扉が開かれ、私とシエルは驚き音のした方に目を向けました。
「セルド!?」
「あ!ダメですアルミットさん!」
セルドが急に部屋に来たことに驚き、制御がブレてしまいました。
魔素のみが集中していた手のひらに魔力がほんの少し混じってしまいます。
まずい、暴発するかもしれない!
霧散させる?それとも放出?どうしましょう!?
悩んでいる時間がない!ええぃ、ままよ、このまま撃ってやります!
覚悟を決め、精霊術を使用します。
「あれ?」
私は驚きました、普通に精霊術は放たれ、的を木っ端微塵に破壊したからです。
どういうとこでしょうか、とっさに魔力だけ取り除けたとか?
反動で尻餅をついてしまった私にシエルが駆け寄ってきます。
「アルミットさん、大丈夫ですか!?」
「はい、なんとか…」
シエルはほっと、胸を撫で下ろします。
一度目、暴発した時に手を少し怪我してしまったので心配させてしまいました。
「なら良かったです、セルド!気をつけてください!」
「すまない…」
セルドはその場に正座し、シエルの説教を受けることになりました。
その光景はなんだか母親が子を叱っているようで微笑ましかったです。
それにしてもセルドはいい加減部屋に入る時はノックをすることを覚えるべきですね。
「シエルさん、もうその辺で許してあげてください。私は無事なので大丈夫ですよ」
「アルミットさんがそう言うなら…次から気をつけてくださいね!」
「はい…気をつけます」
普通にこの部屋を使う分にはセルドのように入ってきても大丈夫なのですけど、私の体質のせいで今回のような事になってしまいました。
つまりセルドは特に間違ったことをしたわけではないんです。
私のせいで怒られたようなものですから、後でお詫びに何か奢りましょうか。
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「シエルさん、今回は色々とお世話になりました、また機会があればお返しをさせてください」
「いえいえ、いいんですよ。これが仕事みたいなものですから、でもどうしてもと言うなら体を…」
「それはダメです」
「ダメですか…」と残念そうに落ち込んでしてしまったシエルを見てつい、笑みが溢れてしまいました。
できれば応えてあげたいのですが、流石に体を隅々まで調べられるというのはお断りしたいです。
「では、またどこかで会いましょう」
シエルに別れを告げ、外で待っているセルドの元に向かおうと歩き出そうとしたその時です、シエルが急に私を抱きしめました。
「えっと…どうしたんですかシエルさん」
「これから貴方は、険しい道を進む事になります、きっと折れてしまいたくなるような、全て諦めてしまいたくなるような、そんな道を…」
なんのことを言っているのか初めは分からなかった、急に抱きつかれ少し混乱してしまっていたからだ。
ですが少しして冷静になって分かりました、彼女の目は人の運命をも見える、という事です。
「きっと辛く、苦しいでしょう、ですが諦めずに生きてください、その先に貴方が幸せになれる未来が訪れます」
背中に回された手に力がこもっているのが分かります、少し震えていることも。
きっとこれから彼女の言う通り、私が想像できないほどの辛いことがあるのでしょう。
「私は貴方の味方です、何かあれば頼ってください」
シエルはパッと私から手を離し、目尻に浮かんだ涙を拭い、祈るように手を胸の前で合わせ、私に微笑みかけます。
「貴方の旅に、幸運があらんことを」
その姿はまさに聖女と呼ばれるにふさわしい、美しいものでした。
「ありがとうございます、では行ってきます、シエルさん」
「いってらっしゃい、アルミットさん」
神殿から出た私は、セルドと共に街へと向かい歩きます。
振り返るとまだ手を振ってくれている彼女を見て、名残惜しい、まだいろいろ話してみたい、そんな気持ちが湧き上がります。
会ってまだ半日も経っていないと言うのに、随分仲良くなれたと思います。
私は彼女に向かって大きく手を振りました、また会う日までお元気で、そんな気持ちを込めて。