港町でのんびりしよう
お気楽生産者は不定期更新です。
次回は9月上旬を予定しています。
テクテクテクテク
村を出てから二週間。
のんびりと丘を越えて森を抜け、途中からは街道に出たのでのんびりと街道を進む。
未だ目的地には到着しないけれど、旅はのんびりとしたほうがいいよね。
潮風が頬に触れる街道。
この先には、大陸最北西の港町がある。
この港には、多くの船が出入りしている。
流石に『海の崖』を何事もなく越えられる船は来ないけれど、別大陸へ向かうための大型帆船とかはやってきているみたいです。
「港町サザンゲイルかぁ。美味しい魚が食べられるといいなぁ」
城壁も何もない。
街道筋にある街の入り口には、大勢の人が街に入る許可を得るために、列をなしている。
エリオンはその一番後ろに並ぶと、のんびりと順番が来るのを待っていた。
途中途中で豪華な馬車が横を走り去り、行列を無視して街の中へと入っていく。
まあ、貴族とか偉い人なんだろう。
こんな大勢並んでいるところに、まさか貴族が並ぶはずはないよなぁ。
長閑な陽気の中、エリオンはのんびりと街に入るのを待っていた。
……
…
潮騒の心地よい音が耳を擽る。
街のあちこちには貴族の馬車が停車しており、街中はこれからこの国から船で出発する人々、船旅を終えて久しぶりの陸地を堪能している人たちで賑わっている。
「さてと、一週間は此処でのんびりしようかな。何処かいい宿はないかなぁ」
宿屋の前では看板娘や番頭さんが客引きをしている。
何処も綺麗で大きな宿ばかり。
「あそこが大きくて良いや。ばっちゃんも言っていたな、町で宿に泊まるときは安全なところと食事の美味しいところを選びなさいって」
真っ直ぐに大きな宿の中に入ると、すぐに受付に向かって部屋を取ることにする。
「すいません、1人なんですけれど泊まれますか?」
「はい。お一人でしたら……って子供じゃない。親はどうしたの?」
「村の伝統で修行の旅をしています。こう見えても12歳です‼︎」
「あ、ああ、12歳なの。それなら良いわ……って言いたいけれど、今空いている部屋は二つしかなくてね、どっちも高い部屋なのよ」
一泊金貨5枚、50万イェン。
一週間だと350万イェンである。
この前の洞窟での話もあったので、鞄に入っているお金については把握しておいたから問題ない。
「あ、大丈夫です。これでお釣りください」
──ジャラッ
白金貨4枚をカウンターに置くと、受付嬢は目を丸くする。
「え、ええっと、はい、これが宿帳ね。ここに名前を書いてもらえるかな? もしもギルドカードがあるなら、それを提示してくれれば良いわよ……それと、早めにギルドに登録して、お金はギルドカードに預けておきなさい。子供がそんな大金を鞄に入れてちゃダメよ」
丁寧に色々と教えてくれる。
そしてお釣りを用意してくれているとき、後ろから誰かがエリオンの襟首を掴んで持ち上げた。
「子供がこんなところにいたらダメだろうが。さあ、伯爵様、受付はこちらですよ」
その男の後ろから偉そうな貴族が口髭を撫でつつ受付に向かう。
「はーなーせーよー」
「待ってろ待ってろ。先に伯爵様が受付しているだろうが」
「僕の方が先だったろ‼︎ 順番を抜かすとダメなんだぞ、だからはーなーせー‼︎」
ジタバタしているエリオンを横目でチラッと見つつ、伯爵は受付と話をする。
「最上級の部屋を二つだ。四日後に出発するからそれまで借りたい」
「誠に申し訳ありません。生憎と部屋は一つしか空いておりませんので」
受付嬢が頭を下げると、宿の偉い人らしき人がカウンターにやってくる。
「何をしているのよ。部屋なら二つ開いているでしょう?」
「いえ、それはそちらの子が借りることになっていまして、今手続きの最中で」
「その子はキャンセル、いいわね。お待たせしました伯爵様。ちょうどお部屋は二つありますので、今からご案内します……」
そのまま伯爵御一行はその場から立ち去り、残った執事らしき人が手続きを終わらせる。
「ほら、手続きが終わったから自由にしてやるよ」
エリオンを掴んでいた男が手を離すと、エリオンは真っ直ぐにカウンターに向かうが。
「ごめんなさいね。部屋は埋まってしまったの……」
申し訳なさそうに受付嬢はエリオンにお金を返す。
それを受け取ると、エリオンもガッカリとした顔で。
「仕方ないですよ。貴族ってそういう人ばかりなんでしょう?」
「いい貴族もいるのよ。うち以外にもいい宿はあるから、この街を嫌いにはならないでね?」
「ありがとうございます‼︎」
……
…
一軒目は見事に貴族の横入りで部屋が取れなかった。
それならばと片っ端から宿を回るが、何処も満室のところが多い。
四日後にでる大型帆船になる客と、ちょうど到着した定期便から降りた客で街がごった返しているのである。
「空いている宿は何処だ? そろそろ疲れてきたんだけどなぁ」
いい加減足が疲れている。
もう街道横の宿屋のほとんどを回った。
けれど、いいところは無い。
「空室ありますよー、どうぞいらしてくださーい」
ふと聞こえる威勢のいい声。
その方向にフラフラと向かうと、若いお姉さんが必死に客引きをしている。
「あの、一泊いくらですか? 守りの結界あります?」
恐る恐る問い掛けると、お姉さんは笑顔で一言。
「守りの結界はございますよ。ただ、料理長が体を壊してまして、素泊まりになるのですよ」
「あ〜、それでもいいや、お願いします‼︎」
そう返事をして宿に向かおうとすると、エリオンの後ろから声が聞こえる。
「あ〜あ。あの宿も先代の料理長が居たら繁盛していたのになぁ」
「安全性だけしか取り柄がないし、場所柄港からも遠いからなぁ」
そんな声が聞こえてくるけど、安全性だけしかって、安全性を確保できる宿なんだよ?
なんでダメな宿扱いされているんだろう。
受付で一週間分の支払いを終わらせると、エリオンは一旦部屋に入ってベッドに横になる。
ふかふかで肌触りの良いシーツ、ベッドも室内も変な匂いはしない。
ホコリひとつない部屋からは、丁寧に掃除されたっていう気持ちが伝わってくるようだ。
「これでご飯が美味しかったか完璧なんだけどなぁ。散歩でもしようかな」
近くの繁華街でご飯が食べられる場所を探して、適当な店で晩ご飯。
あまり遅くならないうちに宿に戻ろうとしたら、目の前からニヤニヤと笑っている男たちがやってくる。
「やあ坊ちゃん。君は何処の貴族の子供だい?」
「ちょっと俺たちさぁ、うまい酒が飲みたいのよ。でも、待ち合わせがなくてねぇ」
「あの宿屋で見たぜ、貴族って羽振りが良いんだよなぁ。悪いが有り金全部出してもらおうか?」
エリオンを貴族の子息と勘違いしているチンピラのカツアゲである。
まあ、何処の街でも見かける光景なので、見ていた人々はすぐに自警団なり巡回騎士に連絡を入れる……筈が、周りで見ているだけでむしろその場から離れようとする。
──ポン
エリオンは思わず両手を合わせる。
「貴方たちは不良のカツアゲですね? 金を持っている弱い人から金を巻き上げるクズ畜生と聞きましたが、その通りですか?」
思わぬ問いかけに、チンピラのリーダーらしき男が顔を真っ赤にする。
「な、何だって、お前、いま、俺たちをクズ畜生って言いやがったか?」
「はい。周りの人が助けに来なかったりするところを見ると、貴方たちはこの街の有力者か誰かの息子たちで、親の威を借りて悪さをしているのですね? 初めて見ました‼︎」
エリオンの住んでいた村では、権力をかさに無理難題を仕掛けてくるような人間は住んでいなかった。
善人ばかり、という訳ではないが、悪意というものに対しての免疫がエリオンはまだそれ程できていない。
それ故に、ストレートに自分の感想を述べただけであるが、周りにいた人々は気まずそうに視線を外すか笑いを堪えているものばかり。
そして、目の前のチンピラはついに怒り心頭、いきなり腰からナイフを取り出してエリオンに向かって振り下ろす‼︎
──ヒュン
その一撃はエリオンの身体を頭から真っ二つにする勢いであったが、所詮は勢い、ナイフ程度で人間の頭など真っ二つにするには、チンピラにはレベルが足りない。
まあ、エリオンは軽く身を躱してナイフの一撃を避けたのだが。
「き、貴様ぁぁぁ、このクズアーロ様のナイフを避けるなぁぁ」
「いやいや、避けないと怪我しますよ」
「お前たちも、見てないでその小僧を捕まえろ‼︎」
「「 ガッテンだ‼︎ 」」
素早くエリオンを囲み逃げ場をなくす手下1号2号。
そしてクズアーロはナイフを構えなおして、クックッと笑う。
「ほら、お前が抵抗するから、少しだけ痛い目で済んだものをとんでもなく痛い間に合うことになるんだぞ」
「あの、そろそろ帰っていいですか? もう日が暮れますし、夜遊びするとばっちゃんたちに怒られるんですよ?」
「帰れるものなら帰やがれぇぇぇ」
──ヒュンッ
渾身の一撃。
いくらナイフといえど、その一撃はやばいだろうというぐらい、クズアーロの攻撃はエリオンの急所に向かって叩き込まれていた。
もっとも、そこにエリオンがいたならばの話である。
「それじゃあ失礼しますね」
いつのまにか、エリオンは囲みの外に立ってクズアーロたちに手を振っていた。
そしてタッタッタッと走り去ろうとしているのだが、呆然としていたクズアーロたちはエリオンを追いかけた。
それも全力で。
だが、軽く走っているだけのエリオンに追いつくことはできず、やがて疲れ果ててその場にへたり込んでしまった。
「な、なんなんどよ、あの小僧は‼︎」
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
宿で一晩ぐっすりと休む。
そして朝の爽やかな目覚め。
──チュンチュンチュン‼︎
スズーメの鳴き声で目が覚めたエリオンは、身支度をして一階の食堂に向かう。
「おはようございます‼︎」
「おはようございます。エリオン君は朝は随分と早起きなのですね」
食堂の掃除をしている店員さんが、エリオンに優しく話しかける。
どうやら店内は常に清潔にしているみたいだ、食べ物を扱うところなら当然だよね。
でも、食事は作れないはずじゃ?
「あの〜、朝食が出来るのですか?」
「いえいえ。これは私たちの食事で、私が作ったのですよ。流石にお客様に出せるレベルではないので、基本的にはお断りしているのですよ」
そっか。
厨房は使えるのか。
それなら自炊させてもらおうかな?
「すみません、お金払いますから厨房を貸してもらえますか?」
「厨房を? 自分で朝食を作るのかしら?」
「はい。材料は持っています、足りないものは買いますから如何ですか?」
そう問いかけると店員さんは笑っている。
「使用料はいらないわよ。その代わり、ちゃんと作れるか見ていていいかしら?」
「はい。では早速‼︎」
真っ直ぐに厨房に向かう前に、清潔で全身を綺麗にする。
そして厨房にも念のために清潔を掛けると、早速調理開始だ。
鞄の留金に手を当てて魔力を注ぐと、中に入っているものが全て理解できる。
よし、オークジェネラルの肉もあるしオニオーンもある。
クックの卵もあるし調味料も揃っている。
そして何と言っても米。
うちの村の特産品らしく、村人総出で米と小麦は栽培していたからね。
ご飯を炊いてオーク肉は厚切りの豚カツにする。
よくじっちゃんが言っていたよ、いいかいエリオン、とんかつをね、とんかつをいつでもお腹いっぱい食べれるようになるんだよって。
おっと、出来上がった豚カツを切ったので、今度はスキレットに出汁を注いでオニオーンの薄切りを入れる。そこに豚カツを乗せて火にかけた。
──ぐつぐつくつ
オニオーンに火が通ったら溶き卵で閉じてすぐに蓋をして火を落とす。
最後は卵を蒸す感じで火を入れるといいって、鍛冶屋のドエッジさんも話していたよ。
そして炊き立てのご飯……はまだなので、時間加速で一気に炊き上げて完成‼︎
丼にご飯をよそって、卵で閉じた豚カツを乗せて完成‼︎
──ホワワァァァン
「エリオン特製カツ丼の出来上がり‼︎」
早速出来上がったカツ丼を鞄に入れて、厨房の片付けを先に済ますと、食堂に戻ってカツ丼を取り出す。
あれ?
気のせいか、店員さんが固まっている。
まあ、毎日掃除しているから疲れたんだろうね。
「おっと、忘れちゃいけないいけない」
村のばっちゃんに言われていたことを思い出した。
僕が作ったものは、全てばっちゃんがくれた記憶水晶球に登録しなさいって。
登録さえしておけば、材料があれば魔法で簡単に複製できるって話していたんだよ。
──ピッ
鞄から記憶水晶球を取り出してカツ丼を記憶させると、これでおしまい。
「それじゃあ、頂きまーす‼︎」
「待って、エリオン君、その料理は何? 初めて見る料理よ?」
「そうなのですか? うちの村では食堂に普通にありましたよ」
「そ、そうなの? あのねエリオンくん。お金払うから、もう一つ作れるかしら?」
成る程、店員さんはこれからご飯を作るのですか。
それなら、折角なので作ってあげましょう。
「いいですよ。5分ほど待ってくださいね」
そのまま厨房に向かって鞄から材料と記憶水晶球を取り出す。
「久しぶりだなぁ。量産化起動‼︎」
コマンドワードを唱えると、厨房のテーブルの上に魔法陣が展開する。
「あ、折角だから少し多めに作って鞄にしまっておけばいいか」
製作数を20にセット。
ほら、20個以内なら時間は5分で済むから便利だよね。
そして僕の魔法を、店員さんが呆然とした顔で見ている。この辺りでは、魔法はそんなに珍しいのかなぁ。
「はい、店員さんの分ですよ、折角ですので一緒に食べましょう‼︎」
「ありがとう。はい、少し多いけれど、クックの卵は高いからこれで良いかしら?」
テーブルに銀貨を三枚も出したけど、僕は一枚だけ受け取る。
だって、クックなんて村では普通に育てていたから、卵なんて取り放題……とまではいかないけれど、そんなに高価じゃないよ。
一つ50イェン程度、銅貨50枚。だからね。
「それじゃあ頂きまーす‼︎」
「あ、頂きます」
──モグッ
うん、美味しい。
オークジェネラルの肉は普通のオークよりも上質で柔らかい。それでいて旨味も凝縮されているから、カツ丼には最適なんだよ?
「……絶句」
「あ、あれ、口に合わなかった?」
「そうじゃないわ、エリオン君、これって簡単に作れるの? さっき見ていたけれど、この料理を教えて欲しいのよ。料理長が回復するまで、この料理でどうにかお客さんを繋ぎ止めたいのよ。レシピ料なら支払うから」
必死にエリオンの手を握って店員は説得を始める。
「え? レシピ料なんて要らないよ? うちの村では家庭料理の一つだからね。それじゃあ教えてあげるから、食べ終わったら一緒に作ってみよう?」
「ありがとう……本当にありがとうね」
ああっ、店員さんが涙ぐんだぁ。
そんな泣かれるほどでも無いんだけど、店員さんにも何か事情があるんだろうなぁ。
「それなら、僕はここに一週間泊まりますから、その間は時間を見て他の料理も教えますよ‼︎」
「本当に!」
店員さんがギュッと抱きしめてきた。
ま、待って待って、そんなに感動しなくても。
そしてその日から一週間。
毎日一品ずつ料理を教えると、僕は一週間後にこの街から出る事にした。
………
……
…
と思ったんだけど、街から出るときに、例の三人組のチンピラが絡んできた。
「おいお前、何処行くんだよ‼︎」
「親父に全て話したからな、お前は不敬罪だ、奴隷に落として一生俺の下僕としてこき使ってやるからな‼︎」
「そうだそうだ‼︎」
威勢よく叫ぶ三人の後ろでは、偉そうな貴族が馬車の中きらこちらを見ている。
でも、一つだけ間違っているんだよね。
「ええっと、貴族の権利を行使できるのは爵位を得た者のみであり、その家族は貴族の権利を有する事はない。確か、この国の貴族院の法律にありますよね?」
「「「 え? 」」」
なんだろう?
なんだか鳩が豆鉄砲受けたような顔をしているぞ?
「のな、なんだって‼︎ ガキのくせに難しいことを言って俺を誤魔化そうとしているな?」
「もっとクズアーロ様にわかりやすく話をしろ‼︎」
「そうだそうだ」
あ、わかりずらかったかぁ。
「つまり、貴方は貴族の子供ではあるけれど貴族としての義務も権利もないので、不敬罪には該当しません。貴族の血は高貴なものという方もいらっしゃいますが、血は全ての人間に対して等しく流れているものであり、貴族の高貴さは魂の質によって定められる‼︎ ですよね?」
途中からはうしろの馬車の中にいる貴族に問いかける。すると、窓越しにニヤニヤと笑いながら頷いている。
「そ!それなら俺の魂も高貴だ‼︎」
叫びながら僕に近寄ってくるので、慌てて身構える。
すると横から別の馬車がやってきて、恰幅の良い貴族が降りてきた。
「なんだクズアーロ、まだそのガキを捕まえていないのか。騎士よ、そのガキは俺の息子を侮辱した。不敬罪で捕まえろ‼︎」
そう偉そうに叫ぶが、騎士たちは動かない。
何処か、うしろの馬車をチラチラと見て様子を伺っているように見える。
「あ、あの、バラガン様。クズアーロ様は貴族の子息であり権利も義務もございません。ですので不敬罪にはなりません」
「何をいうか、わしの息子は高貴な血だ。それを侮辱するということは、わしを侮辱したも同罪だ‼︎ 早く捕まえろ、首にするぞ‼︎」
そう叫ばれると騎士たちも動くしかない。
だが、後ろの馬車から貴族が降りてきてバラガンの元に近寄る。
「ふむ。バラガンよ、貴族法の一条二項を言ってみたまえ‼︎」
「なんだと貴様……貴方様はグリムワルド侯爵ではありませんか。どうしてこのような場所に?」
「このような場所とはまた大層なことを。船旅から戻ってきたところだが、それよりも早く貴族法を告げてみたまえ? まさか言えないのか?」
そう問いかけられると、バラガンはボソボソっと口を開く。
「き、貴族の血は絶対であり、何人たりとも侵すことは許されない……です」
「違うな。一帯誰がそんな嘘を教えたんだ? 君の父親か? 確かに君の先代領主は貴族絶対主義を唱えていたお陰で、貴族院から引退を命じられたんだよね?」
バラガンの顔から脂汗が滲み始める。
目もキョロキョロと落ち着きがない。
すると、クズアーロが貴族の前に跪いた。
「侯爵様。そこの小僧は私に楯突いたので奴隷落ちにしたく存じます。放置しておくと貴族の体面が潰される故、許可をお願いします」
頭を下げるクズアーロ。
その口元にはいやらしい笑みが浮かんでいるが、そんなの侯爵はお見通し。
「君に楯突いたところで貴族の体面が潰されることはない。貴族の権利と義務は、陞爵した貴族のみのものであり、それを家族が振るうことは貴族法で禁じられているのを、まさか知らないとはなぁ……」
「「「 え? 」」」
クズアーロ一行も脂汗が出てくる。
まるで、そんなこと知らないと言った感じの顔になっている。
「騎士よ。我が名、グリムワルドが命じる。バラガンの爵位は凍結し投獄。クズアーロ、あとそこの二人も同罪だ。追って沙汰を申しつけるまで牢で反省しろ!!」
──ハッ‼︎
騎士たちが迅速に動く。
その光景をエリオンはボーッと見ていた。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。