閑話・ゴブリン大氾濫と、とある冒険者たち
『お気楽生産者、魔力でなんでもなんとかする』の更新は、不定期です。
予定としては毎週火曜日更新を目安に頑張っています。
サンサーラ王国王都、ナルヴァ。
現在、ナルヴァの冒険者ギルドは緊急事態に突入していた。
領都マンドーラ外に広がる広大な森林地帯、そこにゴブリンの集落が発生しているのである。
噂を聞きつけた領主が冒険者を調査に向かわせたところ、数日後に無事に戻ってきた冒険者からの報告は絶望的であった。
曰く、300匹規模の集落がある。
曰く、上位ゴブリンのソルジャーやメイジがいる。
曰く、ゴブリンロードが支配している。
まるで見てきたかのように説明する冒険者たちは、集落の地図なども全て書き出してくれた。
これがあれば、たかがゴブリン如きに遅れを取ることはない、そしてロード級ゴブリンの討伐に成功すれば、俺の名声も上がるだろう‼︎
領主はそう考えて街の冒険者たちに命じた。
強制依頼として、大森林に潜むゴブリンを滅せよ‼︎
その、効果は絶大であった。
たかがゴブリン如きと思うなかれ。
ロード級の支配するゴブリンの軍勢は、総合ランクはB以上である。
そんな所に好き好んで向かう冒険者などいるはずもない。
少なくともゴブリンの軍勢と同等数のCランク、もしくは1/3のBランク冒険者が必要である。
それでも、しっかりと統制の取れていない冒険者なら敗北は間違いない。
そして、現在領都にはBランク冒険者は在籍しておらず、僅か13名のCランクと、Dランク以下の多数の冒険者しかいない。
そして強制依頼はCランク以上の冒険者が適応するのだが、いち早く領主の動きを察したCランク冒険者は護衛依頼を引き受けて街から出るところであった。
結論として、この強制依頼は成立しない。
「……何故だ‼︎ 冒険者には街を守ろうと言う信念はないのか‼︎ 困った人々に手を貸すのが冒険者では無いのか‼︎」
冒険者ギルドのカウンター越しに、領主が唾を吐くように叫ぶ。そしてその姿を、ホールから大勢の冒険者が眺めている。
「まあ、領主様の仰るとおりですが、冒険者とは報酬があってこそ動くもの、今回の強制依頼の報酬は冒険者にとっては割りに合わないのですよ」
『討伐数に応じて銀貨と名誉を授ける』
これが強制依頼の報酬。
金額は設定されておらず、何をどれだけ倒せば銀貨になるのかさえあやふやである。
さらに名誉などと言う冒険者にとって全く必要のないものなど、誰も欲しくはない。
「それなら、この街はどうなる? このまま指を咥えてゴブリンに占領されるのを見ていろと言うのか?」
「ですから、そのために街の人は避難の準備をしているのですよ。指名依頼は強制依頼が発令していても受注できますから、引っ越しの手伝いや街道護衛、今いる冒険者は多忙なのですよ」
受付嬢が説明している後ろでは、ギルド職員も荷物をまとめている所である。
「そ、そんなことは領主のワシが許さん‼︎ すぐに指名依頼の受付もやめろ‼︎ そんな勝手なことはわしが許さん‼︎」
「いえ、領主が許さなくても私たち『ギルド』は独立した機関として諸国から認められております。どの国にも属することなく公正明大、それが『ギルド』であることをお忘れですか?」
その説明で領主は膝から崩れ落ちる。
もしも、このままゴブリンによってこの街が奪われでもしたら、両領主の監督不行届として王都から監察官が派遣される。
国王から預かった大切な領土、それを守ることすらできない愚か者というレッテルが貼られる。
そうなると降爵は避けられないだろう。
このような事態が起きたなら速やかに王都に連絡をするのが通例であり、その際には王都からすぐさま騎士団が派遣される。
だが、この領主は己の名誉に傷がつくのを恐れて王都に報告はしなかった。
それが、このような事態を引き起こしたのであるから、誰も彼に対して救いの手を差し出すことはない。
「そ、そうだ、例のパーティは何処だ‼︎ あのゴブリンの集落を偵察した者たちは‼︎ 奴らの持っていた魔除の薬があるだろう、あれを量産して城壁に塗り込めばゴブリン共は来ないだろうが‼︎」
…
……
アラン達三人は、エリオンから貰った薬を使って大森林を突破した。
その際、偶然真横を通り過ぎたゴブリンが彼らに気づくことなくら突然その場から走って逃げ出したことで薬の効果が絶大なことを理解した。
それならばと危険を覚悟で大量の薬を使って集落の中へ強行偵察を行った。
『魔物を寄せ付けない』どころか、『魔物が気付かない』というとんでもない副次効果は、彼らが無事に偵察を終えて街へと戻ってくるまで持続した。
報告をしたのち報酬で装備をまとめると、三人はギルドマスターから呼び出された。
そこでどのようにして偵察したかを問われ、素直にエリオンから貰った薬を提出したのである。
だが、街の薬師では同じ薬を作り出すことなどできなかった。
そもそも製法がわからないのである。
結果、この薬は領主預かりとなり、彼のお抱え魔導師によって解析が始まったのである。
……
…
「その旅の薬師が何処にいるかなんてわかりませんよ。彼らが出会った場所はあの大森林の向こう側にある丘陵地帯なのですよ?」
「いいから探せ‼︎」
「それは依頼でしょうか? それでしたら正式な手続きが必要ですが、その際は強制依頼を解除して頂けないとお受けできませんが」
「き、きさま、このワシが、ノースポール伯爵の命令が聞けないというのか‼︎」
「貴族といえど、ギルドのシステムには不可侵であることをお忘れで? では、伯爵様の強制依頼が解除されるのをお待ちしています……」
ノースポールは知らない。
ギルドに対しての強制依頼は即ち、ギルドというシステムに唯一干渉できるシステムであるが、同時に世界にあるギルドに連絡が届くと言うことを。
今回のケースで言うなら、『強制依頼をするところまで追い込まれた愚かな領主』としてギルドには登録され、その者が所属する国は『配下の貴族を制御できない愚かな国』と影から笑われる事になるなど、この領主は理解していないのだろう。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「どうする?」
冒険者ギルド併設の酒場の中で、マイクはリオンとリリーナに問いかける。
隣の部屋から聞こえてくる領主の叫び声で、この街が壊滅的に危険であることは理解している。
事実、マイク達のチームに対しての指名依頼もいくつかあったが、チームランクはCなので強制依頼の対象でもある。
「そりゃあ、選択肢は一つしかないですよ」
「そうよね。私たちが生きてここにいるのも、ゴブリン達の情報が手に入ったのも、みんなエリオン君のお陰だからね」
リリーナは笑いながら、鞄を軽く叩く。
その中には、まだ少しだけ『魔物除けの薬』が残されている。
予め小瓶に少しだけ移しておいたもので、万が一の時に使おうと考えていた。
その万が一が、今であるなど思ってもいなかっただろうが。
「なら決まりだ。チーム・シルバーエルヴスはゴブリンの集落に対して奇襲を掛ける。ターゲットはゴブリンロードひとつ、それさえ崩せば統率が乱れるだろうからな」
「了解。先日の報酬で装備も一新しましたし、ようやくこの前の汚名を返上できますよ」
「私も魔力回復薬は買い込んであるから大丈夫‼︎」
──ガタガタッ
三人は一斉に立ち上がると、街の向こう、ゴブリンの集落のある大森林へと向かった。
そして三日後。
街のギルドに戻った三人は、ゴブリンロードの頭を討伐証明として持参、森に住み着いたゴブリン達は主人を失って散り散りになったという報告がもたらされた。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。