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お気楽生産者、魔力でなんでもなんとかする‼︎  作者: 呑兵衛和尚とチームくじょえもん
1/4

最初の旅の旅に冒険者と出会い

『お気楽生産者』は不定期連載です。

 特に更新日は定めてありませんのであしからず。


 

 前略。


 村のみんなは親切でした。

 僕は生まれてすぐに、この村の前に捨てられていました。

 当然、両親の手がかりなんて何もありません。

 バスケットの中のタオルケット、これが僕の全てだそうです。

 僕を拾ってくれてのは村の長老たち。

 物心つく頃には、僕は村の中でいろいろなことを教えて貰いました。

 闘う術、魔法について、物を作る技術。

 けれど、戦闘は怖いし魔法は上手くできない。

 それならばと、村の大工さんや鍛冶屋さん、細工屋さんや農家の皆さんが、僕にいろいろな知識を授けてくれました。


 難しいものもありました。

 10歳からは、村の外にやってくる猪や狼の狩りの手伝いもしました。

 それでも、村に唯一滞在している騎士の方が常に守ってくれています。

 本格的に騎士さんから闘う術を教えてもらったけれど、本当に僕には才能がなかった。

 狼を一人で倒すこともできない。

 

 それならばと、毎日物を作りました。

 森の中で薬草を積んで、魔法薬も作りました。

 薬師のおばさんからは、まあ、その歳でここまで出来ればいいかって太鼓判も貰いました。

  


 12歳の朝。

 僕は、森の中にいた。

 小さな鞄か一つと手紙が一通。

 手紙には、こう書いてあった。


……


 村の掟により、12歳になった子供は旅に出なくてはならない。

 必要な荷物は鞄に入れてあるから、それで頑張ってきなさい。

 

……


 それだけ。

 悲しいけど、寂しいけど、この日のために村の人たちは、僕に生きる術を教えて来たらしい。

 それなら、村の人たちの期待に応えないとならない。

 僕は、旅に出ます‼︎

 村長さん、騎士さん、村の皆さん。

 僕は強く、たくましくなって、堂々と村に帰る事にします。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──ハッハッハッハッ

 息が切れる。

 領都で受けた冒険者ギルドの調査依頼は、この森に住み着いたゴブリンの生息調査。

 他所の森から流れてきたゴブリンが近くの街を襲撃する可能性があるため、個体数の調査及び可能なら殲滅という難易度的には難しく無い依頼だった筈。

 私たちのパーティーメンバーは三人だけれど、パーティーとしての冒険者ランクはC、どうしてたかがランクEの普通のゴブリンにここまでボロボロにされないとならないの?


 森を進んでいた時の突然な奇襲、不意を打たれた盾役シールダーが腕に強い一撃を受けて骨折した。

 どうにか魔法で相手を怯ませると、急いでその場から離れ、なんとかゴブリンの追撃から逃げて隠れられたところまでやってきた。


……


「リリーナ、回復を頼む」


 パーティーリーダーのマイクが叫ぶ。

 やっぱり盾役のリオンの腕が折れている、これ以上のダメージは危険だから、急いで怪我を癒す必要がある。


「ううう……」

「大丈夫よ。癒しの女神ベネディクトよ、かの者の怪我を癒したまえ……中治療ミドルヒールっ‼︎」


──シュゥゥゥゥ

 ゆっくりと傷は塞がったものの、折れた骨は強治療ハイヒールでないと繋がらない。

 ひとまずはこれで大丈夫だけれど、まだゴブリンは1匹しか倒せていない。

 このまま森から逃げた方が安全。

 そして、この異常な強さのゴブリンの存在を報告しないとならない。


「リオン、走れるか?」

「ああ、大丈夫だ、リリーナ、ありがとうな」

「どういたしました。それよりもどうやって逃げるの? 骨折してるから無理はできないわよ?」


 今いる場所は丘陵地帯にある小さな洞窟。

 その中になんとか避難したものの、ここから街へ向かうには遠すぎる。

 目の前の森をもう一度突破しないと無理。

 そして森の中には、まだゴブリンがいる。

 この状態で森を無傷で越えるなど不可能に近い。


「……俺が囮になる。だからリリーナとリオンは逃げろ‼︎」

「無理よ、マイク一人で囮になるなんて危険すぎるわ」

「ここは俺が……ぐっ」


 体を起こして外に出ようとするリオン。

 だけど、骨折して痛みがまだ残っている身体ではそんなの無理、すぐに見つかって追いつかれて殺される。

 それに、神官見習の私としては、そんなことを見逃すことはできない。


──ヒョコッ

「あ……人がいましたか。ちょっと奥の方を使わせてもらいますね、雨が降って来たので……」


 ふと外から声がしたかと思うと、頭を下げながら、子供が私たちの前を横切って奥へと入っていく。

 

「え?」

「あ、あれ? 今の子供、全く気配が無かったぞ?」

「……」


 外からゴブリンが来る可能性も考えて、私たちは外に対して警戒していた。それにも関わらず、あの子は堂々と中に入って来た。


「ち、ちょっと君、外にはゴブリンがいたでしょう? まさか追いかけられたとか」

「え? ゴブリンが居たのですか?」

「いたも何も、あの森の中にいるのよ。集落まであったのよ?」

「あ、僕は反対側から来ましたから、森の中までは気づかなかったですよ」


 にこにこと笑う子供。

 まあ、無事にここまで来れたのなら良いか。

 反対側から来たのなら、ゴブリンに襲われることはなかったのでしょう。


──ジュゥゥゥ

 クンクン。

 ふと、洞窟の奥から美味しそうな匂いがする。


──グーキュルルルルル

「腹が減っては戦はできないか。取り敢えず食事にしよう、それからどうするか考えることにしようか」

「ああ、そうだな」

「……荷物、無いわよ」


 そう、私たちは慌てて逃げて来た。

 少しでも早く走るため、荷物は途中で全て捨てて来た。

 その中には、保存食も入っていた。

 水筒も松明も、何かもない。

 この焚き火だって、洞窟の外にあった枝を使っただけ。

 火をつける程度は生活魔法でどうなでもできたけれど、食料を作り出す魔法なんてあるわけが無い。


「……どうする?」

「あの子は食料を持っているみたいだから、事情を説明して分けてもらうしかないな」

「そうね。それじゃあ私が言ってくるわ」


 そのまま奥へと向かう。

 やがて焚き火の近くで食事をしている少年を見つけた。

 よく見ると、普通の冒険者のような丈夫な衣服と鞄が一つだけ。

 武器も防具も何もないけど、両手首に皮のリストバンドを巻いている。

 よく商人が身につける、アーマーバンドでしょう。足首にも巻いているから、この子は商人見習いというところかな?



「あの、ちょっと良いかしら?」

「はい、何ですかお姉さん」

「私たちは冒険者でね、ちょっとそこの森のゴブリンを討伐しに来たのよ。でも、数を見誤ってこんなざまでね、逃げて来たのは良いのだけれど、食料も何もないのよ」

「……あ、お腹が減ったのですか。どうぞどうぞ、ご飯を食べるときは大勢で食べた方が良いですからね」


 そう告げると、少年はニコニコと笑いながら鞄から調理器具を取り出す。

 そして大きな肉の塊も引っ張り出すと、薄く切って次々と焼き始めた。


 え?

 その鞄もしかして魔導具?

 鞄よりも大きな肉が出てきたわよね?


「お姉さんたちは何人ですか?」

「え、えっと、三人ね。私の名前はリリーナよ」

「僕はエリオンです。修行のために村から出て旅をしています」

「へぇ、修行なんだ」

「はい……そろそろできますから、皆さんを呼んできてください」


 鞄から皿を取り出してパンを置いていく。

 私が2人を呼んで戻って来たときは、既に立派な食事の準備が出来上がっている。

 木製の簡易テーブルの上に焼いた肉とスープ、柔らかいパンが皿に盛り付けられている。

 冒険中は硬い干し肉と堅焼きパンが当たり前なのの、こんな宿屋で食べるような料理が出来上がっていて、私たちは絶句してしまった。



「僕はエリオンと言います。冷めないうちに食べてくださいね」

「あ、ああ。俺はマイク。パーティーのリーダーを務めている、ありがたく頂く」

「俺はリオン、シールダーです。御馳走になります」

「私はさっき自己紹介したわね、それじゃあこれは料理のお金ね」


 そう挨拶をして料理の代金を支払う。

 一人頭銀貨一枚、合計3枚をエリオンに手渡すと、エリオンは不思議そうな顔で銀貨を見ている。


「……ごめんね、本当はもっと払ってあげたいけれど、ポケットにはそれしか入っていなかったのよ」

「これが銀貨かぁ‼︎ 初めて見ました‼︎」


 え?

 そこから?

 

「エリオン君の村では、貨幣の流通はしていなかったのか?」

「大抵は自給自足していましたから。村の中だけなら物々交換で当たり前でしたし、外から来た人がお礼にって村長にお金を払っていたのは聞いたことがありますけれど、見たのは初めてですね」


 そう話してから、エリオンは鞄から財布を取り出すと銅貨を見せる。

 貨幣の価値は世界基準で定められており、銅貨なら銅が何パーセント含まれているかって厳密に定められている。

 それでもデザインは自由なので、大抵は自国の国王や略章が刻まれている。


「エリオン君の銅貨のデザインは見たことがないわね。何処の国なの?」

「さあ? 村から出たことはなかったですし、何処の国かなんて考えたこともありませんよ。スープのお代わりいります?」

「あ、すまないが頼む。そうか、所属国がわからないのか。村長辺りならわかっているんだろうけれどな、子供だから仕方ないか」

「一ヶ月前に12歳になりましたから」


 ふぅん。

 まあ、少し早いけれど12歳なら冒険者ギルドにも登録できるからね。

 依頼は街の中とか限定で、外に出ることはできないけれど、荷運びや倉庫の掃除、幼い冒険者見習いには色々と仕事はあるから。


「そうか。12歳の修行って、冒険者見習のことかぁ」

「冒険者カードはある?」

「……あの、冒険者って何ですか?」

「「「 え? 」」」  


 まさか冒険者を知らないとは。

 国内の村には大抵は総合ギルドか出張所はあるはず。それすらエリオン君の村にはなかったのか。


「あのね、冒険者っていうのは、人が出した依頼を受けて解決する『何でも屋』のことよ。街の中の掃除や薬草採取、畑を荒らす害獣退治とかランクによっては魔物退治もあるわね」

「俺たちは、この森に住みついたゴブリン退治を請け負って来たんだけれど、予想よりも数が多くて撤退したんだ」

「その最中に怪我をしてしまって……満足に走ることもできなくて」


 淡々と説明すると、エリオン君は目をキラキラと輝かせている。


「え、英雄?」

「「「 違うから‼︎  」」」


 はぁ。

 冒険者も高ランクになると英雄扱いされるけれど、まだ私達は中堅程度。

 一人一人のランクならD+が良いところよ。

 連携が上手いのでCランク認可を受けているけれど、今回の依頼のおかげで降格は間違いないわ。


「あ、怪我をしているんですよね? 僕、回復薬持ってますから使ってください」


──ゴソゴソ

 エリオン君が鞄から小さな薬瓶を取り出してリオンに手渡す。よく見ると透き通った水晶の薬瓶の中に、透き通った液体が入っている。


「リリーナ、透明な回復薬のランクってなんだ?」

「ランクもなにも、そんなの無いわよ」


 怪我を回復する回復薬は青色。癒し草という青い薬草から抽出するので色は青い。その透明度で上級、中級、下級に分かれている。

 因みに毒消し薬は赤色、麻痺消し薬は黄色と、薬草によって薬の色は定められている。

 つまり、エリオン君が出した『透明な薬』と言うのは存在しない。


「うん、まあ、せっかくだからね、ありがとう」


 そう告げて、リオンは薬瓶を開ける。

 匂いも無く、さらっとした液体。

 それをちょっとだけ舐めるているが、無味無臭らしく小声で水みたいだって話している。


──ゴクッゴクッ

 リオンは一気に飲み干すと、空になった薬瓶をエリオンに戻す。


「ちょっと、リオン、大丈夫なの?」

「だってさ、俺たちに食料を分けてくれた子供が嘘つくとは思えないよ。まあ、名前も似た感じだしね……」


──ヒュゥゥゥゥ

 そう告げた刹那、リオンの全身が淡く輝く。


「おおおお? なんだこれは?」

「ち、ちょっとリオン大丈夫なの‼︎」


 リオンとリリーナが慌てているが、マイクだけは冷静にエリオンを見ている。


「おいマイク、腕が治ったぞ! 折れていた骨もくっついたし傷も跡形もなく治っているぞ‼︎」

「嘘でしょ‼︎ 神の奇跡でも無い限り折れた骨を瞬時に直すことなんてできないのに」


 骨折した腕を見せるリオン。

 確かに傷はないし骨折も治っている。リオンもすぐに腕を回しているから間違いなく治っている。

 すると、マイクが顎に手を当てて何かを考え始めた。


「まさか、伝説の魔法薬か……」


 マイクなりに結論は出たらしい、何かを考えつつそう呟いている。

 今現在、私たちの世界にある薬は全て薬師ファジシアンが作ったものしか存在しない。

 薬草を一定の手順で調合することで、様々な効果の薬が作られる。

 そこに魔法の関与する余地なんてない。


「伝説の魔法薬? マイクは知っているの?」

「お伽話だよ。ポーションとも呼ばれていたらしく、俺たちの知っている薬の何十倍も効果の高い回復薬を魔法薬っていうんだ。本当に御伽噺とか伝説でしか知れわたっていないけれど、実は古い遺跡やダンジョンの宝箱ではごく稀に手にはいることもある」


 そういう場合は、貴族や国が買い取って管理し、一部は解析に回されるレベルであり、市井に出回ることなんてありえない。

 けれど、エリオンが手渡したそれが魔法薬であるのならば、リオンの傷が一瞬で治ったのも理解できる。



「エリオン君、あの薬は何処で手に入れた? 子供が持って歩いて良いものじゃないんだよ」

「え? あれは僕が作ったんですけれど?」

「「「 え? 」」」


 呆然とする三人を他所に、エリオンは鞄からいくつもの薬瓶を取り出して並べる。


「こっちが麻痺消しで、こっちが解毒薬ですね。これは二日酔いを抑えるやつで、こっちが怪我を治すやつです。これは万能薬で、なんでも治ります」


 一つ一つ説明するエリオンだが、並んでいる薬瓶を見て目を擦るしかない。

 伝説の魔法薬が、それも何種類も目の前に並んでいる。しかも、エリオン君はそれを自分で作れるというのだ。

 信じたくはないが、信じるしかない。

 私たちに鑑定のスキルがあったら、すぐに鑑定できるのに。

 

「マイク、その伝説の薬なんだけど、買ったらいくらぐらいすると思う?」

「恐らくだけど、王都の貴族区に豪邸が立つ……」

「そうか。エリオン君、薬代は後日、仕事を増やしてでも支払うからね、それまで待っていてください」

「????」

「今すぐには支払えないし、そもそもあのゴブリンの群れを突破できる方法なんてないから……それでも、なんとか生きて帰って見せるから‼︎」


……


 え?

 あの薬って、いつも作っている傷薬なのに。

 そんなに高くないんだけどなぁ。

 薬草なんてその辺に生えているし、そうか、怪我をしたまま帰ったらみんなが心配するから、だからお金を払うって言っているんだね。

 きっとそうに違いない。

 待っている人を心配させたくないんだ。

 それなら、確か、モンスターを寄せ付けない薬があった筈だから……。


──ガサゴソ

「はい、それならこの薬をあげるね。これはモンスターが逃げる匂いがするから、体に軽くふりかけていくといいよ‼︎」


 魔物の忌避剤を手渡すと、三人は僕を見て呆然としている。


「そ、そんなに貴重なものを……」

「本当に効果があったら、商人が目をつけるわよ」

「それどころか、冒険者に護衛依頼が来なくなる……リオン、リリーナ、このことは内緒だ、いいな」

「はい」

「ああ。それじゃあ色々とありがとうね」


 丁寧にお礼を告げて、三人は洞窟の外に出ていく。



「さてと、僕もそろそろ行くかな。この近くに町があるといいんだけれど」


 エリオンは洞窟から外に出る。

 なだらかな丘陵の真ん中にぽっかりと開いた洞窟、その外で拾った枝を立てて指を離す。


──パタン

 枝は西の方向に倒れた。

 さっきの三人が向かったのは北の大深林、その向こうには王国がある。

 けど、枝は西。


「まあ、遠回りだけどいいか。途中でお肉も集めないとならないからなぁ」


 倒れた枝を拾い上げて、タクトを振るような仕草をしつつエリオンは西へと向かった。

 

誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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