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転生したら制作途中の乙女ゲームだった件  作者: 桐生 楓
第二章
9/15

episode06:収穫祭へ行こう03

 アルビレオたちと別れて大体2時間くらいはたっただろうか。ここでは時間が正確に計れないのでおおよそでしかないが、昼だった収穫祭は夕方になるころだった。

 年甲斐もなくはしゃいだ私は両手を露店で買った食べ物や雑貨で埋めていた。


「買い過ぎた!!」


 そのうえ道に迷ってしまった。ゲームではどこに行っても選択肢で一瞬にしてたから忘れていた。今は現実なので選択肢すら出ないということを…。


「ここの人ってどうやって連絡取り合ってるの?あ、魔法か。」


 魔力を持たない魔法使い以外の人達は、自然から力を借りて「生活魔法」というものを使って生活している。確か生活魔法にも風の魔法を応用して伝達魔法があったはずだ。…私には使えないけど。

 そうこうしているうちに、人気のない方まで来てしまった。というか、これ。なんだか自然に足が動いてる気がするのは気のせい??楽しかったお祭りの雰囲気はどこへやら、私の周りはいつのまにか舗装されていない道と木々に囲まれていた。



 ――最初に魔法使いを選ぶときに感じた強制力に似ている。"私"の意思じゃない!!



 こういうのはたいてい通らなければいけないイベントなのだ…。私の書いたシナリオ通りであればきっとこの先に待っているのは魔物。そして好感度が高ければアルビレオが迎えに来てくれる。

 低ければ…考えたくないな。


 グルルルル…。うめき声に視線を上げると、目の前にいるのは狼系の魔物シルバーウルフ一体。私の腕の中にある、美味しそうな香りに釣られてきたんだろうか。なんでこんなに大量にエサなんて買ってしまったんだ私は!!これでは喰らってくださいと言っているようなものだ。必死に気を散らしていたらシルバーウルフが襲い掛かってきた。


「――ッ!」


 2度目の死はごめんだ!!使えるかわからない魔法を出そうと、シルバーウルフをしっかりと見て右手を前に出したとき、突然、炎で造られた赤い鳥が私を守るように敵に向かって火を噴いた。


「ミラ!!早く下がって。」


「アルビレオ!」


 後ろからはアルビレオが、少し遅れてアルキオーネが駆けてくる。

 私が後ろに下がるとあっという間に火の魔法でシルバーウルフが跡形もなく消えた。





「ミラ、露店を見てるって言ったのにどうしてあんなところにいたんだ…。」


 アルビレオは少し怒っているようだ。



(わ、私の意思じゃないのに!!誰だこんなイベント書いたやつ!!!!...私だ。)



 「聞いているのか?」とまたさらに怒気を含んできたアルビレオに謝り倒す。


「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!迷子になってました!!!」


 これ以上長引かせると雷が落ちそうだったので誠心誠意、謝りに徹する。普段怒らない人間が怒ると一番怖い説が実証されてしまう!!

 そんな私を見かねて助け船を出してくれたのは、隣でアルビレオの顔色を伺っていたアルキオーネだった。


「ま、待ってください兄さん!ミラ様...ミラさんを責めないでください!」


 私をかばうようにアルビレオとの間に立つアルキオーネ。可愛い弟にまっすぐ訴えられ、アルビレオは怒気を少し潜める。お兄さんに反抗なんてしたくないだろうに...アルキオーネの握り込んだ指先は僅かに震えている。


「ミラさんは王城暮らしで、城下には慣れていらっしゃらないんです。」


「だからといって、あまりにも周りが見えていなさすぎる。慣れていないからこそ、もっと警戒するべきだし、遠くへ行くのなら彼女は俺に一声掛けるべきだった。」


 私をかばうアルキオーネに被せるように、アルビレオが私を糾弾する。彼の言うことは最もだ。イベントの強制力が合ったとはいえ、彼のそばを離れたのは私で......なんとも心苦しいことにこのイベントを書いたのも私だ。

 自分の撒いた種で、やっと会えた兄弟が喧嘩するなんて見ていられない。アルキオーネを制そうと口を開くが、......どうしよう。声が出ない。


「...シルバーウルフは賢い魔物です。普段は群れで暮らして、人の住む街には近寄りません。でも最近街の周辺での目撃情報が上がっていて、騎士団で討伐隊が組まれていました。だから、だから....」


 アルキオーネの言葉尻が、だんだん下がっていく。視線も下がっていき、ついに黙ってしまった。シナリオを書いていた時の私はアルキオーネのいじらしさに悶ていたが、今私と兄と騎士団の間で板挟みになっている彼を前に、私が感じているのは申し訳無さだけだった。

 暗く落ち込んでいる私とアルキオーネに、アルビレオがため息を付く。びくっと肩を震わせるアルキオーネ。そんな彼の頭を、アルビレオが優しく撫でる。


「責めているわけじゃないんだ、アルキオーネ。ただ彼女が...ミラが心配だっただけなんだ。」


「兄さん...」


「ちょっと、顔が怖かったかな。でも彼女を庇おうと立ち向かうなんて、騎士らしくなったな。アルキオーネ。」


 アルビレオに褒められ、アルキオーネがはにかむように笑う。「でも立ち向かう相手は俺以外が良かったな..」と呟くアルビレオに、アルキオーネが慌てて謝罪する。そんな二人の姿に感動して涙が出そうである。涙が...あれ?

 ぽたぽたと頬から流れ落ちる涙に、ぎょっとした顔のアルビレオとアルキオーネ。嘘でしょ、本当に泣くなんて。


「ミラ?!」


「違う...違うの...これは」


 本当に違うの...。でも今は何を言ってもそれっぽく聞こえてしまう。早く止めなきゃ、早く止めなきゃ。そう思えば思うほど涙は止まらない。


(――どうして止まらないの..)


 泣くようなことなんてなんにもないのに、と手で涙を拭う私をアルビレオが抱きしめる。アルキオーネが口を開けてこちらを見ている。


「怖かったねミラ。魔物と対峙している君を見た時には肝が冷えたよ。.......間に合ってよかった。」


(――そうか。私は怖かったのか。)


 理解すると一気に膝から力が抜け、目の前のアルビレオにしがみつく。涙は一層止まらない。


「怖かった!死ぬかと思った...!ごめんなさい、ごめんなさいアルビレオ。勝手に遠くへ言ってごめんなさい...助けてくれて、ありがとうぅ...」


「うん、うん。俺もさっきは怖がらせてごめんね。これからはちゃんと、俺が守るから...俺の手が届くところに居てほしい。」


 そう言ってアルビレオは、私が泣き止むまで抱きしめていてくれた。

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