episode05:収穫祭へ行こう02
お祭りの食べ物に舌鼓を打ち、お腹もだいぶ膨れてきた頃。大通りを抜けた先の広場で少し休憩することになった。広場に入ってすぐ、アルビレオの足取りがぱたりと止まる。
「アルビレオ?」
止まった彼の見つめる先には、金色の目に緑色の綺麗な髪を後ろで一つに結んだ14,5歳くらいの美男子がせっせと果実をつぶして漉している。彼はアルビレオの異母兄弟、アルキオーネだ。
仕方ない、ここは精神お姉さんである私が一肌脱いであげよう。
「アルビレオ、あそこの露店のジュースが飲みたいの?」
私が指をさしながらアルビレオに尋ねるとアルビレオは大げさに肩を震わせる。
「ミラ...。その、」
うんうん、みなまで言うなと私はうなずきながら主人公としてとんでも発言をした。
「大丈夫!あなたがたとえ男が恋愛対象でも私は驚かないわ!」
「全然違う!!!!」
間髪いれずに否定されてしまった。
「彼を見てたのは俺の弟だからだ!他意はないぞ。」
彼にしては珍しく動揺で声が大きくなっている。あと若干語気が強めだ。「あなた、弟なんていたのね」と白々しく聞くとアルビレオはぽつぽつと語りだした。
「弟は騎士見習いとして騎士団にいるんだ。昔は仲が良かったんだけど、今は話しかけようとするとなぜか察知されて逃げてしまうから中々会えなくて...。」
とんでもなくブラコンだったなこの人...。心の中でどうしても茶々を入れてしまう。
「じゃあ、私と一緒に行きましょ?」
私の提案にアルビレオは困惑しているが、お構いなしにてを引っ張る。主人公の周りを巻き込む法則があればアルキオーネだって逃げないだろう。
露店の前まで来たらついにアルビレオが動かなくなった。いけない、このままでは不審者になってしまう。
「お兄さん、ポポルジュース2つお願い。お代はこっちの人が払うわ。あと、奥の緑髪のお兄さんを呼んできてくれる?話がしたいんだけど。」
「王女様じゃないですか!承知しました。アルキオーネならもうすぐ休憩なんで呼んできますよ。あそこのベンチで待っててください。」
どうやらミラの顔見知りのようだ。ダメ元でアルキオーネを呼び出してみたけど叶うもんだな、と思って横にいるアルビレオに目をやると展開についていけていないのか完全に石化している。
「アルビレオ、お支払い!」
ちょっと強めにアルビレオの腕を引っ張ると、正気に戻った彼が慌てて支払いを済ませた。
※
先ほどジュースを買った露店から少し先に見える広場のベンチに座る。アルビレオはベンチまでついてきたはいいものの、いまだにジュースを持ったまま直立不動だ。
「アルビレオ、弟君来るわよ?」
ポンポンとベンチを軽くたたいて隣に座るように誘導する。「あ、ああ…。」心ここにあらずといった感じでアルビレオが隣に座る。
(――だめだ、完全に魂が抜けてる。考えてみれば2人はアルキオーネの入団以来会っていないんだっけ。実に5年ぶりの再会である。)
「ミラ様!」
ベンチに座ってそんなことを考えていると、美しい男の子が目の前に現れてかしずく。緑色の髪は後ろで束ねているのに頭を下げた瞬間、絹のようにさらさらと肩へと落ちていった。
「遅くなり申し訳ありません。先ほど隊長からお呼びだと言われたのですが…。」
美少年の困り顔!!!最推しのアルキオーネが少し焦った顔をして私にかしずいている。何これ、天国か?と、馬鹿なことを考えていると、アルキオーネは隣にいるアルビレオに気づいたのか言葉が途切れた。
「兄さん?」
声をかけられたアルビレオがビクっと肩を震わせてアルキオーネの方に目をやった。
「アルキオーネ...。」
沈黙が気まずい。まあ、いきなり呼ばれたらそうなるよね。私が経緯を説明した方がよさそうだ。
「えーと、ごめんなさい!アルキオーネ、今日は私的な用で呼んだのを伝え忘れていたわ。」
「あ、いえ。大丈夫、です。」
(アルキオーネ可愛いーーーーーーーー!!!!)
戸惑いながらも丁寧に返すアルキオーネは私まで石化させる勢いである。生まれてくれてありがとう、神様ありがとう。…、私か。
「今日は私にいつも魔法の指導をしてくれてるアルビレオを喜ばせようと思って呼んだだけなの。彼があなたと話したいみたいだから。」
こそっとアルキオーネに耳打ちする。アルキオーネは「えっ」とこぼし、目を見開いて兄の方を見る。アルビレオは何を聞かされたかわかっていないので内心ひやひやしているのだろう。顔がこわばっている。
「突然呼んでごめんなさいね、積もる話もあるだろうし、あとは2人で話して頂戴。私は少し露店を見て回ってくるわ。」
私のとんでも発言にも瞬時に対応できたのはアルキオーネの方だった。
「はい、ありがとうございます。ミラ様。」
「公務以外はミラでいいわ。アルビレオのことよろしくね!」
私はベンチから立ち上がると、最後にアルビレオの方を見た。彼は何か言いたげにこっちをみているが、素知らぬ顔をして私はにっこりと笑いその場を離れた。