episode04:収穫祭へ行こう01
魔力コントロールの練習を始めて半月ほど経った。
アルビレオは2日に1回王宮に顔を見せ、私の指導に当たってくれている。私は彼が来ない日も体内の魔力を意識し、練習を繰り返した。おかげさまで私の魔力操作もかなり上達し、今ではロスタイム無しに熱を移動させられるまでになっている。
今日もいつものように庭で魔力をみてもらう。
「…君の上達速度には頭が上がらないな。」
「あなたの指導がいいおかげよ。」
この半月で、アルビレオのフォローの皮を被ったボディブローにもだいぶ慣れてきた。彼は優しいが故に、上達しない私を責めない。そのかわり、きっと今日も家に帰れば机の前で頭を悩ませるのだろう。
そう、私は魔力のコントロールは上達したが、まだ一度も自分で魔力を放出させることが出来ていないのだ。
「しょうがないね。ほら、手を貸して。」
あの日のように彼は困ったように笑い、私の手を握り大気中に魔力の炎を放出させる。サブリミナル効果かもしれないが、身体が少し楽になった。
これだけ素敵な男性に手を握られると、一生彼と手をつないで魔力タンクENDも悪くない気がしてくる。シナリオライターをしていた時にはなかった発想だ、現実って怖い。
「ねぇ、ミラ。今日はなんの日か知ってる?」
私もとい、ミラの魔力を調整し終わったアルビレオが意味ありげに問いかけてきた。
「今日?」
今日...今日?!ゲーム内では日付が右上に表示されるが、もちろん私の視界にはそんなもの出ていない。なんなら今日までカレンダーなんてものを意識せずに生活してきたので、全く心当たりがない。
わざわざこんなこと聞いてくるなんて、きっと何かのイベントなんだけど....。出会って半月、多分10月のはじめくらいだよね....アルビレオとの最初のイベントは...イベント、イベント....。
「ふふ、今日は収穫祭だよ。熱で倒れてからあまり外にも出ていなかったから、よかったら俺と息抜きに行ってみない?」
収穫祭!頭を悩ませる私に助け舟を出すように、アルビレオが答えを言ってくれた。
収穫祭とは、作物の豊穣を神々に感謝し盛大に祝うこの世界の一大イベントだ。この日はみんな仕事を休み、出店を出したりステージを出したりと城下町はお祭りのように賑わう。つまり、デートイベントだ....!
「ええ!よろこんで。」
口説きの常套句も、場所が違うだけでこんなにも印象が変わるのね。なんて関係のないことを考えながら、街へ降りる準備をしに一度解散することになった。
※
この収穫祭は、アルビレオの好感度・信頼度を上げる重大なイベントである。
このイベントで大事なのは、ミラの命のことを考え、根を詰めすぎているアルビレオの肩の力を抜かせること。ゲームと違って相手の好感度が見えない私としては、こうしたイベントで確実にポイントを稼いでいきたいところである。
アルビレオの一人称が"私"から"俺"に変わるくらいには仲良くなれてるけど、やっぱり見えないのは不安だなあ。
(――転生してすぐに「ステータス、オープン!」と叫んで何も起こらなかったことは、墓場まで持っていきたいわね。ネルには見られて無言で布団に寝かされたけど。)
「すごい賑わいね。いつもこんな風だったかしら?」
「今年は大きな災害もなく、平和だったからね。例年より店も多いし活気づいている感じがするよ。」
城下町、城につながる大通りは一番の賑わいだ。中世風の建物の間には、カラフルなフラッグが吊るされ、たくさんの出店が並んでいる。風船を配っている男性や、花を撒いている女性。美味しそうな料理の香りに子どもたちは嬉しそうだ。
「もうこんな時期だったのね。魔力のことで手一杯で、すっかり忘れていたわ。」
「だと思った。年に一度、こんな日くらいは全て忘れて楽しんでくれたらと思ってね。」
「えぇ、あなたもね。いつも誰よりも私のことを案じてくれて、ありがとう。」
そう言って彼の方を向くと、僅かに目を見開く彼と目が合う。そんな彼に気づかないふりをしながら、次はあれを食べてみましょうと彼を誘う。
「まいったな、そんなつもりじゃなかったのに。」
そっと呟く彼の言葉は、主人公らしく聞こえないふりをした。古今東西、ヒロインは大事なセリフを聞き逃すものなのだ。