episode02:紳士の絶句
玉座の間から出ると、ふっとアルビレオが音を漏らす。
彼の方を見ると、口元に拳を当てながらこちらを見ずに肩を震わせている。
「アルビレオ様?」
「ふふ..ごめんね。学院で見た君とあまり違うものだから....かしこまって挨拶しているのが可笑しくって。」
先程の凛とした雰囲気とは打って変わって、砕けた雰囲気になって破顔するアルビレオ。
これは私渾身のギャップイベントである。流石に自分の好きを詰め込んで作成していたゲームだけあって、キャラクターの一挙手一投足が私のツボを抑えてくる。
ぐわっとこみ上げてくる形容詞がたい気持ちを抑え、私は少しすねたような表情で答える。
「あら、私だって、学院では砕けた話方をしているけど公的な場ではちゃんとした言葉遣いもできるのよ?」
そう、ミラはこんな感じなのだ。天真爛漫で、努力家のめげない女の子。
優しい心と社交性を持っている...とまあ、なんとも元の私とはかけ離れているが今の私はミラなのである。
郷に入っては郷に従え。元の私の性格で話を進めていくより、彼女になりきるほうがいい。
変に自分を出しておかしなルートに行くよりは......というか、自分の作った世界観を壊したく、ない!!
「さて、魔力の使い方を教えると言っても何から始めたら良いか..。私たち魔法使いは生まれつき魔法の使い方を感覚的に知っているので...ミラ様は本当に使い方がまったくわからないのですか?」
その質問にうなずきながら答える。
「ええ、全く。小さい頃に一度試してみたけどうんともすんともいかないから、ペンダントで魔力制御をしていたの。あ、あとそんなにかしこまらなくて大丈夫よ?私たち、同じ学年なんだから。」
「分かりました。なら私もアルビレオでお願いします。では早速、ミラに私の魔法を見てもらいましょう。一度見てみれば案外と簡単に使えるかもしれません。私の魔法は炎を出すので....」
少し困った表情をするアルビレオに「なら、庭園に行きましょうか」と言って私はアルビレオを連れて庭園へ向かった。
※
「じゃあ...まずは軽くこんな感じかな」
そう言ってアルビレオは左手から美しい炎を出す。その炎は橋を架けるように彼の右手に吸い込まれ消えていく。私は初めて見る魔法に、ただただ感動していた。
「...そんなにキラキラした瞳で見られると、流石に照れるんだけど」
「っ、失礼しました」
美しい炎の魔法に完全に心を持っていかれていた私は、その声ではっと我に返る。
魔法って.....すごい!!面白い!!文字の上で出てくる魔法を超えてくるその衝撃。
私も魔法を使いたい!
「ふふ、構わないよ。魔力はね、心臓のある辺りにあるんだ。それをこう、左手に流して放出する。そのまま右手に吸い込ませてまた胸にまで戻すような感じ。やってみて?」
アルビレオが丁寧に説明してくれる。
なんだか私でもできるような気がしてくる。心臓にある熱を意識して、それを左手に―――
「......」
「......」
長い沈黙に少し空気が重くなる。
「ま、まあ最初だし、慣れだよ。何回かやっていけばきっと使えるようになるさ。」
それから半日ほど頑張ってみたが結局炎は出せなかった。アルビレオに体内の魔力の流れ見てもらったところ、魔力は心臓から微動だにしていなかったらしい。
――知っている。私が書いたシナリオ通りだ。
それでもあんなに紳士的でずっと笑顔だったアルビレオの、絶句したあの表情を私は生涯忘れないだろう。