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貶められた元聖女は真聖女になる  作者: 魔茶来
哀聖女編
6/46

綿毛(たんぽぽ)1

私は「絶対にありえない」と今の今まで信じていなかった話がある。


その話は、数か月前に遡る。


いつものように、髪を結ってもらっているときだった。

髪結い侍女メイドであるサミエールが『幽霊を見た』と言って話し始めた。

「普段は行かないですが、お得意様のところに行った帰り、多くの娼婦が住処にしている、河原の近くを通りかかったんです」


「そのとき、片腕の無いひとの『見覚えがある立ち姿』が気になったんですよ」


「そのひとは、姿は、やせ衰え、みすぼらしく、髪は自分で切るのか散切りであり濡れたようで、服装は薄汚れたローブを羽織っていました。」

「ローブから出ている肌の様子は日に焼けて浅黒く肌荒れが酷い、見た目に目立つのは片腕の無いこと。」


「見覚えがある姿だと思ったのですが、見知らぬひとだった……」

「そうなんです、あることに気づかなければ『見知らぬひと』で済んだのですが……」


「髪をかき上げたとき、首の後ろにある十字に並んだ5つの「ホクロ」を見てしまったんです。」

「だって「ホクロ」の一つ一つの大きさや並びが同じって殆どありえないでしょう?」

「もちろん別人の可能性もありますけど、『もしかすると』と思ってしまいました。」


「その「ホクロ」は、ある方の髪を結うときに見慣れたものでした。」

「そして「その方」とは先代聖戦騎であった「レミー様」なんです。」


私を聖戦騎にしてくれた恩人、先代「聖戦騎レミー様」、一緒に生活をしながら戦闘訓練をしたり、色々なことを教えてくれた。

だから、その特徴的な「ホクロ」があることは私も知っている。


「そのひとの顔は、よく見ると、やつれたとは言え、少し「レミー様」の面影がありました。」


最後にメイドは、「でも、生きていたとしても、レミー様がそんなところに居るわけがないですよね」とその話は終わった。


実はレミー様は子供を助けるため利き腕を失った、それは同時に聖痕も無くすことを意味した。

そして聖女の能力を失った。


正教会の記録ではその時の傷がもとで亡くなったと記されている。

現実に、彼女が数年前に亡くなっ時には正教会が葬送の式を盛大に行ったのだ。


しかし、特徴的な「ホクロ」と片腕のひと、そこまでの偶然の一致があるだろうか?


私も葬送の儀には参加し恩人の死に涙していたが、棺の中まで確認はしていない。


本当は、今日までに自分に、レミー様と『なにか似通ったこと』が起こっている。

だから、私はその話が無性に気になり、そして会ってその噂を確かめたくなったのだ。


翌朝、サミーとシロンがやってきた時にその話をする。

「噂の幽霊の居場所を特定し、私をここから連れ出して会わせて欲しい」と相談する。


サミーは「それなら今日の夜が都合がいいですよ。」と提案してきた。


「今、なんか教会内が騒がしく、今週末に美術品の競売でもあるようですね。」

「司教達も今日の夜から、どこかに調整に行くようで、明後日まで帰ってきません」


「分かりました、今日の晩迎えに来てください」と言って2人と別れた。

2人が去ると窓のない部屋は暗闇に支配される。


-----

しばらくして、部屋の前に誰かが来た。

「暗いですね、ローソクは無いのですか?」

「あれから、2週間経ちました『エイル様』、聖痕と聖女の力は戻りましたか」と言いながら司教がやってきた。


私が無言であると「やはり無理でしたか、『神を冒涜する何か』をしてしまったようですね、もう『神の加護』が無くなったのですよ、残念ですね」と司教は言い放つ。


「そんなことはありません」と否定しようとすると……


いきなり司教は私に引き寄せ、胸を触ってきた。

「どうです、あなたにどんな失礼なことをしても、罰などあたりません。」

「もうあなたは『神に守られていない』ということなんですよ、認めたほうが良いと思いますよ、それともこのまま……」と触り続け、手が下がってくる……


私は「やめてください!!、司教!!」と叫ぶ


「おっと、やり過ぎたな……商……、それにしても、2週間か『少し臭うな』」と言って私を突き放す。


「さて、聖女で無くなった者は正教会に、居る所はありません。」

「今日を持って縁を切ることに決定しました。」


「しかし、今までの功績もありますからね」

「『神の守護が無くなった』訳ですから、『これから、あなたを守ってくれる人』を探しなさい。」

「そうです、聖女ではないのですから、婚姻をして幸せになりなさい。」


「そうそう正教会にも縁談が来ていますよ。」

「少し歳は離れていますがユールン国の『エルミーナ卿』からのお話が来ております」

「ただし正妻ではありませんがね。」


「でも、よく考えてみてください。」

「幼き頃に聖痕が現れ正教会で聖女として暮らしてきた貴方は、聖戦騎になるために戦闘訓練しかやってこなかった」


「つまり聖戦騎で無くなったあなたに、なにか他の手段で生きて行く術があるのですか?」


「騎士になれるとは思わない方が良いですよ、戦闘が出来たのは聖剣のお陰ですからね」

「今の貴方には、身体強化や防御魔法が出来る3流騎士以下の出来損ないです」


「もう一度夕方に来ます、それまでに返事を考えておいてください。」と言って出ていった。


ただ、その前に不思議な一言を残して行った。

「何人かのお客様が来ますので会ってやってください」と言っていた。


司教が見えなくなると感情が爆発した。

「私が葬送の儀が行われたことを知らないと思って勝手な事を!!」

「既に『死んだ』ことにして、縁は切ってあるのだろう」と叫びながら、その辺りにあるものを投げた。


しかし残念ながら、今の私は何も出来ないのは事実だった。

「悔しいけど、本当に、何か生きて行くための才能があるわけでもない。」

「これから何をして生きて行けばよいのだろう」


一人になって先ほど言われたことが気になりだす。

「死んだことになっている私に、会いに来るお客さんが居るなんて滑稽ね」と不思議に思っていた。


「臭う……」

「2週間だもんね……」

クンクン、「やっぱり臭うかな・・、髪洗いたい……」


---

お客が来るというのは本当のようで、司教はローソクを点けていった。


しばらくして一人目の客が来た。


オジュレーン卿だった。

「本当に『エイル様』に再開できるとは感激ですな」

「さて、今日は私のところへお連れしたくお迎えに上がりました。」


「このような、暗いところで、何日も過ごされて大変だったでしょう。」

「これからは私のところで毎日楽しく過ごそうではありませんか」といやらしく笑う。


目は私の胸や腰のあたりをギラギラした目で、いやらしく見ていた、私は背筋に悪寒が走った。


「司教様に『私のところに行きたい』と言っていただければ、今日の夜には私の別宅へお連れ致しますよ。」


いやらしい視線が体に纏わりつくようで、あまりにも気持ちが悪いので「何を言っておられるのか理解できません、お帰りください」とハッキリ言った。


オジュレーン卿は、いきなり私に覆いかぶさってきた、必死に抵抗をするが離れようとしない。

「ははは、神の加護の無いものなど、何をしても恐れることはない」

「それに普通の女のように魔法も使えないのだろう、なんとひ弱なものよ」


「前からお前が、欲しかったのだ、神に感謝だよ!!」と言いながら体を密着させ触ってきた。


「い、いやっ、いや、やめて」と叫ぶがやめる様子もなく、大きな叫び声をあげているのに誰も来ない。


その時、傍にある椅子に手が届いたので、思いっきり椅子を振り回し殴った。


オジュレーン卿は「う~っ」と叫んだが、額から流れる血を抑えながら「威勢が良いというのも、たまらないところだが、うっかり忘れる所だった」と呟き、少し冷静になったようだった。

「今日は品定めだからな、そういえば商品には手を出さないという約束だったな、危ない、危ない」

「どちらにせよ今週末には私のものにしてみせるさ。」と訳の分らないことを言いながら帰っていた。


一人になると茫然としていたが、だんだん腹が立ってきた。

「オジュレーン卿は、なぜか私が死んでないことを知っていた、その上、商品?……」

「なによ!!、なによ!!、なんなのよ!!、もぉ~、全く私をなんだと思っているのかしら」と叫びながら周りを探す。


客はまだ来るのだ、さっき壊れた椅子から護身用に壊れて外れた椅子の足を服に隠した。


無理やり脱がされそうになったので、少し服が破けてしまった。

「着替えもなかったわね、魔法が使えれば、洗浄魔法とか修復魔法とかできるのに」と呟く


そのとき、虫のようなものが顔を横切った気がした。

しかし、周りを見渡しても虫などいない。「また?、何なのかしら?」


客だと言う者たちは、その後3名ほど来た。

どれもスケベ面をした、金持ちそうな貴族達だった。


贈り物だとお菓子を持って来た者もいたが、もちろん最初は「本物だ『エイル様』だ、信じられない」という。


しかし、私の服が破れているのを見ると、理性が飛んでしまうのか、それを口実に私を触りに来る。

そして「神の加護が無くなった」とか「神に見捨てられた者」という言葉を発しながら襲ってくる。


「触るな、変態!!」近寄って触ろうとすると、護身用の椅子の足で容赦なく強打した。


容赦なく強打するのは「防御魔法」を使っているだろうと思っているからだ。

本当に無防備な状態で私に迫って来ていたようで、強打されると、全員痛そうに叫んで、少しすると青タンになっていた。


その後、「手を出さないという約束のはずです、司教に言いつけますよ!!」という一言を言えば、簡単に帰って行った。


夕方になり、なんとか危機を乗り越えたらしい、その後司教がやってきた。


「お客はいかがでしたかな?」

「事前にお話が纏まっているのであればそれも良し」

「そうでなければ『エルミーナ卿』との婚姻に良い返事をしていただけると嬉しいですが?」


とりあえず、「今はまだ何も考えられません」と答えた。


「明日から少し用事で外出しますので、今週末までに答えをお出しください。」

「それと少し臭いますので、一度入浴しませんとね、そうだ金曜日の夜にしましょう。」

「これまでのお礼に、この私が『エイル様』の体の隅々まで時間をかけて奇麗にして差し上げますよ」と、にやけて笑うのだった。


------

司教が帰った後、夜になりシロンとサミーが約束通り、監禁部屋から連れ出してくれた。


二人に、さっきから気になっていた「私って臭う?」とさりげなく聞いた。

2人揃って「「2週間もですから、それなりに……」」と言われてその場に居ずらくなった。


事前にシロンはその朝、サミエールから見た場所を聞き出し、その場所の調査をしてきたようだ。

シロンが私と現地に行くという。


サミーは今から人助けに行くという。

「帰り道に助けた異教国の3人は、まだここに居ます」

「実はエイル様を探しているときに地下室に閉じ込められている、異教国の聖女を5人見つけました。」と驚きの話をする。


「あの3人と一緒に閉じ込められている5人を助け出し、全員を安全な所へ送り届けます」

そう言うとサミーは一人行動を開始するのだった。

「気を付けてね」と言うしかなかった。


幽霊が幽霊に会いに行く……

特に何をどうしたいわけでもない、でも、もし生きているのであれば、レミー様に会いたい。


シロンが準備した馬車に揺られ、河原の近くへ向かい走っていく。

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