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貶められた元聖女は真聖女になる  作者: 魔茶来
哀聖女編
4/46

監禁

聖戦が終了したことで翌朝、馬車で正教会本部へ帰る道すがら、サミーが、あの後の状況を説明してくれる。


「でも本当に幸運でしたねエイル様」

「えっ……」そんなことはない、今回の聖戦を振り返って幸運などなかったはず。


「あの蜘蛛の精霊獣辺りに居た聖騎士が三十名近く亡くなっています。」

「それも酸のために体の半分は溶けてしまっていました。」

「同じものを受けたのに、やはり神剣のお陰ですかね、エイル様は体は全く欠損していませんでした」


そんな筈はない、神剣は今も寡黙に私に反応をしてくれない。

なるほど運が良いというのは、はじけ飛んだ精霊獣の一部が偶然私を覆っていたのかもしれない。


「もっと驚くのは傷の回復力ですね。」

「体の殆どは、もの凄い火傷状態だったのに、今は殆ど治っています。」

「今回来て頂いた聖女様の力は強大ですね」

「誰もが奇跡だと言っています、これこそが聖戦騎への神の加護ですね。」


まさか……、今の聖女で、そこまでの回復力を持っているものなどいない。

私自身の癒しの力である聖痕は酸でケロイド状態になっており、有ったことすら分からない。

そう、聖痕の無い私には癒しの力は全く使えない。

回復力が高まった原因は説明が付かない、不思議だ。


馬車が走っている最中、虫でも飛んでいるのか、顔の傍を何かが横切るような感じがした。

サミーが突然、「あっ、今人影が見えました」と言うので馬車を止めた。

外も見ていると、先日戦っていた異教国の人影らしきものを見つけた。


咄嗟にサミーにお願いする。

「いけない、あの人たちを馬車に連れてきてください、もし正教会に見つかれば命は無いでしょう」

「でも敵ではないのですか?」とサミーは心配そうに答える。


しかし、あの夜のことが頭を離れない私は「人の命が掛かっているのです、早く連れてきてください、お願いサミー」と大きな声でお願いする。


サミーは人影を追い、いざこざが少々あったが少しして一人の聖女らしい女と同じく2歳くらいの男の子を抱いたこちらも聖女と思われる女を連れてきた。


馬車の扉を開けると、また何か虫のようなものが横切った感じがした。


その時だ、子供を抱いていない女は、私を見ると「オマエハ……ヨクモ...ユルサナイ.....アクマ!!」と言って、小刀を抜いて切り掛かってきた。


サミーが小刀を手で払い、女を取り押さえ「やはり危険です、こんな連中放っておきましょう」と大きな声で叫ぶが、私は首を振る。

「もし正教会に見つかれば、この人たちの命は無いでしょう、このまま安全なところまで運んで逃がしてあげてください。」とサミーに懇願した。


取り押さえられた女は「アクマノクセニ、イマゴロ、シンセツゴカシデ、ダマソウトシテモ、ダメヨ!!」

「ワガキョウソ、ソシテ、コノ『ハインズ様』のオチチウエヲ、コロシタノハ、アナタデス!!」


「そうだったのね、あの時教祖はこの者達を逃がすために、あのような無茶な依り代になったのね。」

「謝っても許してもらえないだろうが」

「本当に悪かった」と涙ながらに詫びた。


私は、その後もあの夜のことが頭を離れず誰に言うでなく「ごめんなさい……、ごめんなさい」と、まるで子供が同じ言葉を繰り返すように呟くことを繰り返していた。


女は不服そうな顔をしていたが、小さな子供ハインズが私の目のあたりに手を添え涙を拭う仕草をしたのを見ると、私とは目をそらすように横を向いていた。


このハインズという名の子供はいきなり、「アムエスタ、クエサルテ、ドンテルナソウト、アセ」と言う。

異教国の者の言葉は分からないが、突然不貞腐れていた女が突然。

「ハインズ様ハ、コノアクマモ、ミエルト、イウノデスカ、ソンナハズハ、アリマセン」

なぜか、大人しくなる女。


「サミー、この人たちの服をシロンに手配してもらって下さい、そして城に着いたら安全に逃げられるように支援してあげてください。」


サミーは伝令を紙に書き「伝令の鳥形精霊人形」をシロンに向けて空に放った。


3人を隠し馬車は正教会本部へ戻る、シロンがやって来て異教国の3人に持ってきた侍女服に着替えさせ、侍女たちの中に隠しながら安全な所へ運んで行った。。


後はサミーとシロンに任せる。


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正教会関係者が撤収した聖戦の跡地で公安組織『JUST』の「ユーラザリン」が何かを探していた。


そこへ捜査担当者らしき者が「殿下、ありました」と叫ぶ。

ユーラザリンは「殿下は止めろと言っているだろう」と言うと男は「申し訳ありません、二人きりだとつい昔の癖で……」


「それより、これを見てください」と瓶を見せる。


「やはりな尊厳薬だな、それも特殊用途化しているY型だな」

「さっきK型が入った瓶を見つけたから、これは相当大規模な密造グループが絡んでいるな。」


「特殊用途化したものを作るなんて……」

「これはもう尊厳薬ではない、いや『薬』などと呼んではいけないものだ。」


「これだから聖女は信じられないんだ。」


「それと、聖戦だったんだろう、なんでこんなに精霊たちの悲しみが広がっているんだ……」


「そういえば、エイル……、様の参加した聖戦だったな……」


「証拠品を出来るだけ集めてくれ、俺は一旦本部へ帰る」と声を掛け本部へ戻っていた。

--------------------------------------------------

正教会に戻った私は、すぐに司教たちの前に連れて行かれた。


「今回はご苦労様でした、しかし最後は、相当大きなダメージがありましたな」


「ところで、聖剣が元の大きさに戻っていますが、まさか聖女の力が使えなくなったということでは無いですよね。」


回りくどい言い方だ、使えないことは分かっているのではないだろうか?

だが、使えないことは事実である。

「今は、酸により右手を負傷しましたので、聖剣を扱うことが出来ません。」

「負傷が治りましたら、また聖剣は扱えるようになると思います」

と言い訳みたいなことを答えてしまった。


司教は嘲笑うように私に対して

「調べは付いています、あの日は朝から聖剣は元の大きさに戻っていること、あなたが夜、外に出歩いていたことなど調査済です。」と威圧的に言い放つ。


「つまりですね、なにか『神を冒涜すること』をして、『神の加護が無くなった』のではないかと聞いているのですよ」


「どうしました、答えられませんか……」


「まっ、私も聖職者ですし、今回は聖戦を無事に終えたこともあります『情け』を掛けましょう。」

「少しの猶予を与えましょう、その間に聖女の力が戻ればよいですね。」


私は、あの晩の貴族部隊のことを報告しないといけないが、あの夜の司教の仲間かもしれないので、ここでは安心して話すことはできない。

「教皇様にお話があります、取り成していただけませんか?」と司教に依頼してみた。


「フッフッフッ、『神を冒涜したかもしれない者』の言うことを教皇様にお聞かせすることは出来ませんな」ということで一蹴された。


その後、別の部屋に連れて行かれ、「この部屋で聖女の力が戻るのを待ちなさい、ただし期限は2週間です」と言われた。


「あの、世話役にサミーかシロンを呼んでください」と言ったが、「『聖女の力が無いもの』が侍女など持てると思っているのか、ずうずうしい」と言い司教は部屋から出ていた。


「この正教会にこんな部屋があるなんて知らなかった」

今までに来たことがなかったが、全く窓がなく独房のようであった。


「えっ、鍵が掛かって、外に出られない。」


その日の夕方粗末な食事が運ばれてきた。

ただし私は、「聖戦の時みたいに飲み物に薬が入っているかも?」とか「食べ物にも入っているかもしれない」と思い至り食べることも飲むことも出来なかった。


そこには、窓だけではなく、信じられるものがなにも無かった。


「サミー、シロン....」と呟くと、粗末なベッドの薄いシーツに包まり眠りに着いた。


-------------------------

窓がないということは、昼なのか夜なのか分からない。

もちろん外の音も聞こえないので、外での様子も分からない。

おまけに食事も食べないのが分かると、運んでくれなくなっている。


そういえば、ろうそくも無くなっているのだが、補充もしてもらえない。

ローソクの予備が無くなってから、長い間暗い部屋の中で一人だ。


あれからどのくらい経ったのだろうか?

生活リズムが無茶苦茶だ、あまり寝付けないというか寝てもすぐに起きてしまうのだ。


実はお腹は空いているが、何日も経った硬いカビたパンがあるだけだ。

それも何か入れられていると思い至るので怖くて食べられない。


体が変調をきたし始めているのだろう、微熱が続き時々体が小刻みに震える。

そして暗闇の中に一人という孤独感、そろそろ精神的にも限界に近いだろう。


意識も朦朧とし始めているのだろうか、暖炉の横でごそごそ音がするような気がする。

意識を集中してみていると、暖炉の横の大きな石のブロックが「ゴソッ」と音を立てて抜けた。


「えっ!!」と驚き飛び起きると、そのブロックの抜けた穴からシロンが出てきた。


「やっと着いたか……」とあたりを見回すシロン。

暗い部屋で私を見つけると「エイル様」と涙目で私を見ながら、こちらに近寄ってくる。


『幻覚?、夢?』私は茫然としてシロンを見ているしかなかった。


「やっぱり生きていたんですね」とシロンが泣きながら抱き着いてくる。


抱き着かれた感覚に「本物のシロン」だと分かる。

その安堵感から、胸に込み上げてくるものが抑えられなくなっていた。

「もちろん生きているわよ」と言いながら私の頬を涙が伝う。


シロンは「暗いですね」といって、持っていたランタンを机に置き。

辺りが見えてくるに従い、「こんな所にお一人で…酷い……」とシロンは口を押える。


シロンは持って来たローソクに火を付けながら、私を見て驚いていたように「エイル様、痩せましたね?」と聞いてきた。


「実は怖くて食事が出来ないの」と事情を話すと、シロンは慌てて「少し待っていてください、それと、申し訳ないですが、抜けたブロックは戻しておいてください。」と言ってまた暖炉の横から何処かへ行ってしまった。


しばらくすると、同じ暖炉の横の抜け穴?から、シロンはサミーと2人でやってきた。


そして、シロンお手製の「大きな『にぎりもち』」をくれた。

「ごめんなさい、『にぎりもち』くらいしか出来無くて」

「明日は、もう一寸良いものを持ってきます」とシロンは申し訳なさそうに言う。


「とってもごちそうよ、ありがとう」と涙ながらに礼を言う。


サミーは涙を流しながら「馬車での状況を考えて亡くなられるなんて考えられなかった、やっぱり生きておられたんですね、良かった」という。


「亡くなった?、私が?」と驚く。


「一昨日、今回の聖戦で犠牲になった者たちの『葬送の儀』が執り行われました。

公式に正教会が発表した名簿の筆頭に『聖戦騎エイル様』という名前がありました。」

「葬送の儀には、エイル様のご家族様も出席されて泣きながら『送りの火』に点火されていました。」


「そう、私は死んだことになってるのね……」

「ここに生きているのに……」


「親より先に死んだなんて……親不孝よね……」


「父上様……、母上様……、ごめんなさい……」

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