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貶められた元聖女は真聖女になる  作者: 魔茶来
哀聖女編
3/46

聖戦騎 エイル 無力

段々と広場が見えてきた。

嫌な感じの重々しい空気が私を包み込んでいく。


そこら中の家々から、広場の真ん中には宝石や美術品が集められ並べられていた、「今回は良いものがありますな」という声がする。

「明らかに泥棒ではないか……」

「えっ、邪教徒たちではない、貴族部隊……」


そして嫌なにおいがしてくる、人の焼ける匂い……

騒がしい中心には柱に縛り付けられ、生きたまま火炙りにされる人影が見える。

火炙りという生易しいものでは無いだろう、彼らのやっているのは「生きたまま油を掛け火を放ち、その上また油を掛ける……」そう何も残らないように燃やし尽くそうとしているのだ。


そこは助けを懇願する悲鳴、呪いの言葉を言う怒号、愛しいものを救おうとする祈りや悲鳴、いろいろな悲鳴が幾つも積み重なり、熱やにおいもあり、私の耳や鼻、5感すべてに容赦なく入って来る。


そして、それを先導しているは「邪教徒め!!思い知ったか」と言い放っている貴族部隊であった。


貴族部隊などと言ってはいるが、兵隊ではない。

簡単に言えばパトロンだ、今の貴族は昔と違って、自分たちでは戦うことはしない。

実際には聖騎士の雇い主であり、元々遠征や聖騎士に掛る費用を出す代わりに、その働きを見守るとかいう名目で付いて来ているのだ。


その者たちが、制圧した異国の町の住人をすべて集め、「裁判だ!!」とかやっている。

全員酒でも飲んでいるのか?いやそれ以上に目つきがおかしい、何かに取り付かれているようだ。


「次の罪人は女ね、ずいぶんと立派なものをお持ちですね」と男は女の胸のあたりをジロジロ見ながら話をしている。

「罪状は、聖女が……子供?、なぜ聖女が子供を産んでおるのだ、聖気力を持った化け物でも作る実験か……」


両腕を縛られた聖女らしき女は必死に嘆願する「違います、私たちの神は例え聖女であっても子を産み育てることを祝福し加護してくれるのです、お願いです子供だけは助けてください」


「ほぉっ、ここでは聖女と子作りが許されるとな、それは良いなちょうどいい……」

「後が閊えている、それ有罪だ、即刻女をハーレムに連れていけ、あっそれと自害しないように『尊厳薬』を投与するのを忘れるな……」

女は近くのテントに連れて行かれ、残った子供は「悪魔の実験の子供だからな始末しておかねば、生きたまま火炙りの刑だ」とか勝手な判決を言い渡す。


目つきのおかしい貴族たちの殆どは小瓶をもっている。

そして、彼らの持っている薬の入っている瓶を見て驚く。


「あれは尊厳薬……」


人が避けることが出来ないこと『死』

いくら回復薬を使おうと、痛みが引かず苦しいままの死を迎える人が居る。

その苦しみを和らげるため人の精神を高揚させ、痛みを忘れさせることが出来る薬。

それが尊厳薬。


「利用は病が末期の人のみが使うことを許された薬」

「もちろん、それ以外の用途での利用は正教会では禁止されているはず」

「この者たちは快楽を享受するために飲んでいるのか?」

「それに、こんなに大量にあるなんて、どういうことなんだ」


人が多く集まっているところがあるが、ここでは子供を人質にして

異国の男同士の決闘をさせている。


彼らの持っている剣は本物であり、決闘は本当の殺し合いである。

それを賭け事として、周りを取り囲んで貴族たちが楽しんでいる。

しかし、尊厳薬を飲んでいるのか、見ている彼らには慈悲は無いらしい。

結果がどうあれ子供は見世物のごとく公開処刑されていた。


こちらのテントでは、「俺もハーレムに行ってくる」と、テントの中に消える貴族たち。

テントの中では女たちや子供たちの悲痛な叫び声が聞こえてくる。


テントの中の真実は分からないが、テントの傍ですら狂気に満ちていた。

耳を塞いでも聞こえる想像を絶する光景がそこにはあるのだろう。


弱者たちのあらゆる恐ろしい、叫びや嘆き、呪いの声が聞こえてくる。

そして狂気の者たちは「尊厳薬の投与のし過ぎだ、もうこれはダメだな焦点が合ってない」

「外に積んで焼いてもらえ」と物か何かのように人を始末することを話をしている。


「人とは狂気の生き物なのか、それとも『尊厳薬』がそうさせるのか……」

だめだ、狂気の声、怒号、匂い、熱、出てくる冷汗、頭の中が壊れそうなくらいである。

私は立っていることが出来なくなっていた。


テントの中から更に「おい、そこの者たちは某大貴族様が、予約のお持ち帰りの分だよ、手を付けちゃだめだよ」という声が聞こえてきた「『予約』ということは遠征の時には、いつもこんなことが繰り返されてきたのだろうか……」


しかし、こんな狂気の世界……、たとえ異教国、異教徒であろうと助けなければならない。

聖剣を取りに戻り、この狂気の地獄絵図を終わらせようと考え、頭痛がしてふらふらな状況で歩いて戻った。


途中司教のテントの近くを通った時、この状況を話しておこうと思ったが、中から聞こえてきた声に驚愕し、そばを離れる。

「貴族たちは、明日で終わりということで今日は派手にやっているようですな」

「これでまた寄付が集まりますな。そんなことより、あんなに騒いでエイルは起きませんかな?」

「大丈夫ですよ、いつものように、『よく眠れる薬』をお飲み物に入れておきましたからね。」


「たぶん今なら何をされても気づきませんよ。何なら今から行って、眠る聖女の裸でも観察しますか。」


「それに起きても大丈夫、逆にあの惨状を見られたのであれば「異教徒たちを守っていた者を殺した『お前も共犯者だ』」と言ってやりれば、おとなしくなりますよ」

「それは、きついですな、エイルが『共犯者』ですか、どんな顔をしますかな、はっはっは……」


『共犯者……』私にとって止めだった。

もうなぜ歩けているのか分からない位に状況を整理できず、思考が纏まらない。


なんとか自分のテントまで戻るが、頭の中がパンクしそうになっている。

整理できない情報が繰り返し再生される「眠り薬、眠っている間に惨劇……、『共犯者』……『悪魔』……」


「あっ、あっ、」と、まともに言葉が出ない、何がしたいのかすら分からない。


そうだ神剣、置いていた場所にない。


「『グラウザー』は……、なぜ何時ものところに無い」

もう、思考がおかしいのだろう突飛押しもない場所を探そうとしている。


直ぐに、神剣が床に落ちているのを見つけた。


落ちた原因であろうか、神剣は元の姿になっていた。

先ほどまで使っていた時の2倍の大きさと重さになっている。


「なぜ、元の姿に」と呟いて柄に手を掛け、いつもの様に適切な重さに調整しようとした。

しかし神剣は反応しなかった。

「なぜ、どうして、今、今必要なのよ。。。なぜ……」頭痛は酷くなり、意識を保っていられそうもなかった。


しかし、この時恐ろしいことを思い出した。

貴族部隊の横のテント……

エルミア達のいた聖女部隊の使っていたテントだった。

「まさか……エルミアも、あの中に……」

そういえば、オジュレーン卿は胡散臭く、いやらしく笑いながら報告をしていた。

また遺品は焦げたアクセサリーと服の一部であり、本当に亡くなったかどうかは確認できていない。


しかしここまでだった。

それ以上のことは考えられなかった「『悪魔』『共犯者』、多くの悲鳴、怒号、エルミアの悲しそうな顔」が頭の中で何度も再生され、それらはエイルの意識を失わせていった。


------------------------------------------

翌朝、「エイル様朝食です」という声に目が覚めた。

頭痛は殆ど治っていたが、昨晩のことが頭から離れない。


「聖剣が大きくなっておりますが?」と聞かれた咄嗟に言い訳をする。

「昨日仕留めるのに時間が掛かり過ぎた、今日の同じ相手が出てくる可能性があるから、今日はこの大きさで戦うことにする」

もちろん嘘である、朝になっても神剣『グラウザー』は言うことを聞いてくれない。

聖痕はしっかりあるのだが、昨晩の一件で私は神剣に見放されたのだろうか?


しかし心配なので試しに回復薬の作成をしてみる「下級回復薬であれば、直ぐに出来るはず」

なんだろう、何時まで経っても回復薬が出来ない。


「なぜ……」焦るような気持ちが沸き上がり、同時に頬に涙が流れる。


決戦の時、相手は数名の異教徒の聖女と教祖のはずだった。

だが教祖はいないが、今日は蜘蛛の精霊獣が傍に立つ。


よく見ると蜘蛛頭部に教祖の顔……「そうか教祖は自分の体を依り代にしたのか」

聖女たちも蜘蛛の精霊獣になった教祖も「よくも我が同胞にあのような残虐なことを。。。」と言っている。


今までだったら気にしない言葉ではあるが、昨晩のことを思い出す........

昨日の喧騒がまた、頭痛となり、目の前を曇らせ、視界を狭め歪ませる。


その瞬間油断していたのだろう、腹部に痛みが走る。


2人の聖女が同時に攻撃をしてきた。

グラウザーの加護の無い今の私には、精霊力により強化された刃物を避けることはできない。

簡単に攻撃を受けてしまった。


2人の異教徒である聖女たちの恨めしそうな顔、「悪魔!!」という2人。

その言葉は私の心を凍らせ、どうすることも出来ず攻撃を受けるだけの私。


しかし、数ではこちらが多い、支援してくれている聖騎士たちの攻撃で2人の聖女は傷つき倒れていく。


後は、蜘蛛の精霊獣のみであるが、私はグラウザーの重さと、先ほど受けた傷で戦える状況ではない。


しかし、教祖も無茶をして依り代になっているのだろう、たいして動けず、聖騎士団の攻撃を受けていた。


もちろん聖騎士団程度の攻撃はダメージはないのだろう「この程度の攻撃で何をするつもりだ、今度はこちらから行くぞ」と酸を口から吐き出し始めた。


「いけない、聖騎士団があぶない、でも今の私はグラウザーを一振りできるかどうかだ」と呟くと、教祖の顔を目掛けてグラウザーを突き立てるように進んでいく。


なぜか、教祖の攻撃は無く、あっさり教祖の顔をグラウザーは分断しそのまま深く刺さって行った。


教祖は動いて戦える状態では無かったようだ。

では何かを狙っていたのだろうか?と思った次の瞬間、「一緒に地獄に行くがよい」と分断されたはずの教祖の声が聞こえる。


そして、蜘蛛の体は一瞬にしてはじけ体液をまき散らす。

体液は強い酸性であり、その体液をまともに受けた私は肌が焼けるように痛く気を失う。


昼頃、派遣された聖女部隊の全滅を聞いた、新しい聖女部隊がやって来た。


私を心配したメイドのサミーも来ていた。

「エイル様、エルミア様のこと聞きました……なんと声を掛けたらよいか……」


「ここまで来てくれてありがとう、心強いわ」と涙声になる。

たぶん涙の意味は分からないだろう。


負傷後、昼まで放っておかれたので傷は酷くなっているようだ。


体の多くの部分は酸で焼けただれ、聖痕は火傷のようになっている。

たぶん有ったことすら分からなくなっていた。


その夕方、司教たちは「聖戦の終わり」を告げた。


……そして「セイント戦騎せんきエイル」最後の聖戦が終わった。


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