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自分がもし、紫苑がその予言したことを防いだとする。だが、それは難しい事だろう。
竜二は深々と溜息を洩らした。これが兄・火神紫苑が自分に託す最初で最後の願いだ。
「分かったよ。兄ちゃんはつまり、俺に炎帝竜を倒せと言いたいんだろ?」
『おや? 俺はそこまでしろ、と言った覚えはないが……。好きにすればいい。最悪さえ凌げれば俺は十分だよ』
「ちっ、さっきはそう言ったように聞こえたんだけどな……」
オリエンの近くに炎帝竜。
それはどんな大きさで恐ろしい生き物だろうか。それはまだ分からない。自分が思うなら人間を愛する竜であってほしい。そう竜二は願っていた。
『さあ、それはどうかな。言っておくが炎帝竜は竜の中でも最強だ。お前の運が強ければ……いや、それ以上は言わない方がお前のためにもなるだろう。健闘を祈っている。日本に帰ってくる時は、お土産の一つくらい買ってきてくれよ』
最後に紫苑は、そう言い残した後、電話を切った。
「ジークフリート。竜二はさらに強くなるだろう。だから、あいつの力になってくれ」
『ああ、紫苑がそう言うならそうしてみよう。私が見込んだ男だ。その男がそういうのなら試してみるが異論はないな』
「分かってる。あいつだったら、やりきってお前の力をものにするさ」
『お前を信じよう。紫苑、お前の方は大丈夫なのか?』
「なんとか、ギリギリ押さえているが、たぶん持っても二、三年というところだろう」
紫苑は水晶の向こう側に映っている竜との連絡を切った。
× × ×
竜二は紫苑と連絡を取った後、ミラの所へと向かった。
「竜二。さっきまで誰と話していたの? それにしてもそのポケットの中に入っているものは何なの?」
ミラはそう優しく声をかけてきた。たぶん、知っていたうえで言っているのだろう。
微笑んでいるが、その裏では機嫌を悪そうにしている事だろう。
「俺の妹だよ。なんとなく安否の電話でもしておかないと心配かけるからな……」
「嘘は良くないわよ。この世界では向こうの世界の携帯電話は使えないはずよ。その魔法道具で連絡を取っていたんでしょ。それを開発した人物と……」
「な、何を言っているんだよ……。俺は……」
だが、ミラは強引に竜二のポケットからさっき使用していた連絡用小型魔法道具を奪った。そして、起動させ、紫苑のアプリを開くが、反応が無い。
「なるほど。そういう事だったの……。あなたは紫苑とさっきまでこれで連絡を取っていたのね?」
「それがどうしたんだ?」
「いいわ。話さないつもりならそういう事にしといて上げる。でも、この戦いが終わったら紫苑に合わせてくれる? でも、あなた達の話は風に乗って少しは聞こえていたんだけどね」
そう言ったミラは、魔法道具を粉砕した。
竜二はそれを見て、その怒りの表さがどれだけ強いのか分かった。