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七月も下旬の終わりを迎えた頃。日本のとある県の龍神町。
火神家のリビングでは、青年二人がテーブルを挟んで飲み食いしていた。
竜二はそこでテレビを見ていたのは、その場から除け者にされたからだ。彼らは楽しそうに話をしている。
そして、リモコンをなんでも操作しながらチャンネルを変えていく。
竜二は、特にこれといった特技は何もない。十四歳にして中学三年生、高校入試を控えた大切な時期である。
「————今度は、イギリスに行くことに決めたんだな……」
と訊いたのは、兄の悪友である園田海淵だった。
兄とは昔からの幼馴染である彼は、アメリカの研究室で錬金術について研究している。だから竜二と妹の涼音は彼がこの家を訪ねる時は楽しみにしていた。
「ああ、あそこは魔法の発祥地だろ? もう一度、確かめに行かなければならない」
竜二の兄、火神紫苑は昔、イギリスに魔法留学するほどの天才的な魔導士だった。竜二は紫苑が魔導士だということを知っているが、涼音はそのことを知らない。
「……それで誰に会いに行くんだい? あそこは魔法が多すぎて困るからな」
園田海淵は、ほぼ呆れ果てながら言った。
「まあ、あそこの地に行くならば色々と準備をしなければならないが、会いに行くのはいつも三人一緒にいたあいつの所だよ」
「なるほど。あいつか……。お前、何かやらかしたのか?」
「何も……。だが、あいつからこの前、手紙をもらったんだよ。厳重に魔法で封をされていたから解除するのに手間取ったけどな……」
「なんだよ。結構重要なことじゃねぇーか」
だんだん話は深くなってきた。
あいつというのは紫苑と海淵が、魔法学校時代、散々遊び回った少女である。
紫苑は、学生時代ほとんどの時間を魔法に費やしてきた。学校内では好成績を残し、そして、実験や悪ふざけをしながら魔法を学び、そして、今に至る。
「重要なこと? そんなわけないだろ? なんで天才魔導士の俺が……」
「違うだろう! お前の場合、元魔導士だ! 『元』だろ? 今になってはその力もそこまで使えないんだ。そろそろ引退も考えておけよ」
とぼける紫苑に、海淵がまっとうな意見を述べる。
「と言ってもイギリス行きの航空チケットをもらってしまったことだししょうがないだろ? だが、これを機会に足りなかった魔法道具が買える。そこはメリットなんだけどな」
「紫苑、お前はパスポートとか作っているのか?」
「どうだったかな? 覚えてねぇ……」
紫苑は頭を抱える。
「作っていなかっただろ。一年前に有効期限が切れてるよ。俺は更新したけど、兄ちゃんは忘れていたじゃないか」
竜二はソファーに横になりながら言葉を発した。
「そうだった! あの時、忙しかったから後回しにしていたんだった!」
紫苑は素直な感想を口にした。