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りんごの皮をむきながら

作者: みけ

少しだけ自分の経験が入ってます。母への未消化な思いをなんとか形にしてみました。

アパートへ帰ると田舎から小包が届いていた。


「わざわざすみません」

大家さんに礼を言って受け取り、

やっと持てる大きさのかなり重い段ボール箱を抱えて

なんとか狭い階段を上がり部屋に入る。


お米と野菜と毛糸の腹巻と駄菓子が入っている。

じゃがいも大根りんごはいいとして、小松菜は少し萎れている。

かなりはっきりと何度もいらないと言っているのに、

母は定期的に趣味の家庭菜園で採れた野菜やローカルな食品などを送ってくる。

状態のいいものを選んでお礼がてら一階の大家さんに届ける。


母に荷物が届いたと電話する。

「父さん相変わらず今日も朝から釣りなのよ~

ねえ 正月くらい帰れるでしょう?

旅費が無いなら送るから。

そうそう、山田さんとこの上の息子さんがお嫁さんを連れて…」

母は一方的にしゃべり続け、きりが無いので

お風呂が沸いたからと電話を切る。


母は何も分かっていない。


姉や私がなぜ遠くの大学や専門学校に行き、

地元に帰らず結婚(姉)したり就職したのか。

父がなぜあまり家に居たがらないのか。

思い込みが激しく自己中ででしゃばりな母に、

姉も私も小さい頃から散々いやな思いや恥ずかしい思いをしてきた。


着るものから友達から何から何まで全て母が決めた。

自分の決めたものが最高だと押し付け、異論を認めない。


父と私は鯖アレルギーなのだが、

小さいうちに食べて耐性をつけたら治ると、強引に私に食べさせた。

蕁麻疹が酷くて何度か病院に行き、父や医者からきつく叱られてもやめようとしなかった。

母が私に鯖を食べさせようとするたびに私が泣き、姉が切れて暴れるようになって、

やっと母は諦めた。


ちょっと友達とケンカして落ち込んでいると

母はその友達に仲直りしてやってくれと頼みに行った。

テストの採点ミスがあったら担任に猛抗議をした…

姉は片思いを母に気づかれ、もちろん母は娘と付き合ってやってくれと頼みに行き、

それ以来姉は母とろくに口を聞いていない。


母は本気で、娘や家族のためにこんなに頑張る私はえらいと思っている。

そして姉は偏屈で自分の気持ちをわかってくれないが妹の私は違うと信じている。

「あんたはお姉ちゃんと違っていい子だねえ、

素直で優しくて、女の子はそうでなきゃね」


でも私も姉に負けないくらい母が嫌いだった。

ずっと脱出の機会を待っていた。


買ってきた惣菜と大根の味噌汁の夕飯を済ませてから、りんごの皮を剥く。


姉の助けもあって高校卒業と同時に無事に田舎を出て5年、

一度正月に帰ったきりだ。

姉も結婚の報告に帰省しただけで、ほぼ絶縁している。

離れても嫌悪感は消えない。

母は何でああなんだ?

なんであんな女が母親なんだ!

あんな母親には、大人にはなりたくない…


昔ちらっと祖母の話を親戚から聞いたことがある。

祖母は長男の息子ばかりを可愛がっていたそうだ。

自分の娘に全力投球することで過去の不満を解消しようとしたのだろうか?

でもそうだとしても、その明後日の努力がどれだけ娘たちを傷つけたか…

母はきっと一生気づかない。


母の努力がプラスの時もあった。

母の作るお弁当はおいしかった。

程よい甘さの卵焼きにはいつもうさぎりんごが添えられていた。

花形の人参、ミニハンバーグ…

バリエイションは少ないが母は料理上手な方だった。

小さい頃よく母の包丁さばきに見とれていた。

特になしやりんごの皮をくるくるとむいていくのを。

床に届きそうなくらい長い一本の細い皮…

少し大きくなって自分でむいてみようとしたが、

ブチ切れて様にならない。


どうしてあんなに綺麗にむけるのか不思議でたまらなかった。

母の手元を見ていてあることに気がついた。

包丁じゃなくりんごの方を動かしている!

早速母のやり方でやってみる。

前よりはマシだけど、どうしても途中で切れてしまう…


気がつくと細く長い一本の赤いりんごの皮が垂れ下がっている。

『出来た!』

いつの間にか大人になったんだとちょっと笑う。


シャリシャリと甘酸っぱいリンゴを食べながら

なぜか悲しくなる。

自業自得とはいえ、母は孤独な老後を送るだろう…

そう思うと少し胸が痛む。

いつか許せる日が来るのだろうか…


初めての投稿なのでドキドキしています。本当はもっと明るいものを書きたかったのですが…

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