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伝者旅 壱章  作者: 諸星回路
幻想の箱庭編
33/35

forget-me-not

 この箱の住人で唯一生きている彼女の元へと、辿り着いた。その時には、再び雨が降り始めていた。

 店先に置かれていた傘立ては倒れ、3色が石畳で転げる。妙な胸騒ぎがしたため、男はすぐに扉を開けた。

「シモン…さん」

 店の中央に腰を落として涙を流す女性はレナであり、レナではなかった。

 右手には、先ほど見たような包丁が添えられていた。

「何…しているのですか」

「…お料理の…最後の仕上げです」

 そう言って包丁を自身の腹に向けたため、すぐさま念動力で包丁を押さえつけた。

「あなたも、死にたいのですか」

「そう…です……止めないで…ください」

 シモンは彼女に近づき、無理矢理包丁を奪っては遠くに投げ捨てた。

「どうして死にたいなどと…私達がいない間何があったのですか」

「…話したら、私が死ぬのを許してくれますか…」

「私が納得すれば」

「………あへへ…やっぱりシモンさんだなぁ…」

 彼女は失笑して、懸命に涙を拭いた後言葉を紡ぎ出す。

「私、シモンさんに言伝を依頼した、レイスの町のレナです。正確には、体は偽物で……それに“憑依”したんだと思います。おそらく、私自身の能力で、無自覚に。随分前、気付いたらこの店にいました。でも…体が言うことを聞かなかったんです。言いたいことも言えず、動きたいようにも動けず。偽物の私が無機質に同じ動きを繰り返すのに、逆らうことが出来なかった。……もう、過去の話ですが」

 シモンは気づいた。見えていた彼女の思考は、憑依していたという本物の彼女のものだったのだ。

「……リナを、殺してしまったのですか」

「…はい」

「咎めるつもりはありません。私が解放されたのは、そのためだと思うので……」

 作り笑う彼女の苦悩は、仏頂面の男にでもわかった。

「リナは私を忘れて、偽物の私を私だと思ってました。…私の知っているような彼とは別人のようでした」

「…父親と出会って変わってしまったようです」

「あ……。彼の記憶を、持っているのですね…」

「そういうルールですから」

「…教えて…くれませんか」

「わかりました。リナリア青年は…


 旅の道すがら生き別れの父親と出会い、男は彼に自身の殺害を依頼します。彼の父親は当時、理想郷計画という名目で第二の空間、“神域”の製作に人生を捧げていました。そして、3つの箱庭を作ることに成功。ただ、自身の命が長くないと知った男は、記憶の譲渡をすることで計画を続行しようと考え、その相手を息子であるリナリアに選びます。彼は断り切れず男を殺しました。しかし、彼の頭は耐えきれず、父親の記憶に苛まれ、さらにそれ以降、箱庭製作は原因不明の失敗が続き、次第に狂っていき……この失敗作の箱庭の守り手として、3人の女性を監禁して、籠もっていた。


 という訳です」

「…教えてくださり…ありがとうございます」

 言葉が止まる。だが、激しさを増す雨も、涙を飲んで呼吸する彼女も止まらない。

「我々はあなたを、旅の仲間として迎えようと考えています。どうか、一緒に来てくれませんか」

「…無理なんですよ」

「え?」

「無理なんです…っ!私の偽物の体はこの町の中でしか存在できない…!どうしても町から出られないんですよ…!!…一度…見せたじゃないですか………箱庭を…持ってみせたじゃないですか……っっ」

「憑依能力を使い、ここから抜け出すことは」

「…おそらくですが、私を形作った物にしか憑依出来ないのだと思います。そうでないと、私がここに来た理由が説明できませんから…。…だからっーー」

 死なせてください。

 彼女は救いを求める言葉を叫んだ。彼女を今縛り付けているのは間違いなく自分だった。

 泣きながら、私をただひたすらに説得していた。

「自殺すれば…殺害記覧は起きません。シモンさんに迷惑をかけることもありません。私のことなんて忘れてください。…大丈夫です…!!痛くはないんです、感覚はないんです…!!」

「感情が、あるじゃないですか」

「…それを…言わないでください…」

 彼女は顔を覆い泣き叫ぶ。過剰な自分の言葉が彼女を更に傷付けた。

 やむを得ない…か。

「あなたは、俺が殺します」

「へ……いや、そんなことをしたら……!」

「私を構わないでください。私は記憶の整理が出来ます。己を見失うことはありません。そして、あなたのことも、決して忘れることはありません」

「……私を…忘れないでいてくれるのですか…?」

「約束します。何があろうとも、心の中で守ってみせます」

 彼女は少しの沈黙の後、深くお辞儀をする。そして、やはり涙混じりでこう言葉を返す。


 今まで、私の想いと共に旅していただき……ありがとうございます。

 これからは、私の記憶を…よろしく、お願いします。



 先ほどの言葉は、自分の言葉ではない。昔会った男のものをいじって演じたものだ。

 俺は、男らしくいられたのだろうか。

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