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伝者旅 壱章  作者: 諸星回路
幻想の箱庭編
32/35

少女の涙は雨となる

 魔女。

 嫌な響きだ。

 私の目を奪ったあの二人組の呼び名。


「なん…で…魔女の…名前を…」

 マグナムは問う。

「あっはっはー!冗談だよ、冗談。本気にしないでよ?」

 男はマグナムの手を放して、寄せていた顔を引いた。

「マグナムさーーーん!!!」

 すると颯爽と舞が走ってきてはマグナムに飛びつき、自身の涙と鼻水を防衛屋のコートに擦りつける。

「マグナムさん…!マグナムさん…!」

「舞…。ごめんね、心配したよね」

 マグナムは優しく少女の頭を撫でる。

「へ…あれ……マグナム…さん?」

 一方、舞は涙目のまま不思議そうにこちらを覗きこむ。

「大丈夫…戦いは終わったよ。舞“ちゃん”」

 そう言葉を出した瞬間、舞は思わず両手でマグナムを突き飛ばしては、ェムートの足に隠れる。そして怯えながら口を開く。


「いまのマグナムさん……マグナムさんじゃないみたい……こわい…」


 冷や汗が首筋に触れた。

 私は、どっちだ?


 銃弾が心臓を貫き、再び悲しみが沸きだす。

 俺はどっちだ?

 記憶以外の手がかりを探る。周囲を見回し、倒れた彼女の元へ。

「そう…だよな」

 事実を受け入れた。受け入れたくない形で。

「アジサイ…さん?」

 舞は走りよって、倒れた女性を一心に覗く。

「アジサイさん、どうしてねてるの?ねえ……アジサイさん………」

 少女は死に触れたことがないようで、訳もわからず彼女の体を揺らした。赤黒い液体は、幼い少女にベタベタ貼り付く。

「おようふくよごれちゃう…」

 彼女は起きない。起きるはずがない。

「マグナムさん…なんでアジサイさんねてるの…?」

「それは……」

 俺が殺した、なんて言えない。ただーー

「マグナムさんが…やったの…?」

 少女の方から口に出た。

「…マグナムさんが…へんなことしたの…?アジサイさんおきないよ……。……おしえてよマグナムさん…!!なんで…!なんで!!」

 血塗られた少女の拳がマグナムの足を何度も叩く。少女なりに力を込めているのだろうが、彼にとってはか弱く小さな存在であった。

 それでも、今まで感じたことのないような痛みをマグナムは受けていた。

「俺がーー」

 気付いたら口が開いていた。

「やったんだ。」

「なんで……なおしてよ!マグナムさん!!」

「治せない。もう彼女は目を覚まさないんだ」

「ひどい…。……きらい!マグナムさんなんてだいっきらい!!」

 少女は泣きながら町の方へと走り去っていった。ェムートも黙ったまま、彼女についていくようにして消えた。


 マグナムは近くを転げる傘で、横たわる女性の顔を覆った。

 雨が降ってきたのだ。どしゃ降りの雨が。

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