殺し愛
夢が覚めた。
「え…?」
おかしい。こうして声が出せることが。
「今私死んだはずじゃ…」
口から出る声は低い男のもの。
「嘘…っ!?なんでマグナムくんの体に…!?」
私はさっきまでアジサイとして生きていたはずだ。そして、散ったはず。
〈マグナム、やったようだな〉
知らないようで忘れているだけの声が頭に響く。
〈シモン…〉
体は覚えているようですぐに名前が出てきた。
〈良かった、記憶に問題は無さそうだな〉
〈記憶…誰の…?〉
〈……少し待て。まさかお前…“呪い”を知らないのか…?〉
〈何、呪い?記憶?私はーー誰?〉
シモンは私の頭の整理もつかないまま話を続ける。
〈…すまない。俺の失態だ…旅の途中にでも話すべきだったか…〉
〈まず落ち着け!お前は間違いなくマグナムだ!決して今殺めた女性じゃない、それは“殺害記覧”による幻想だ!この世界は、“誰かを殺めた時に、被害者の記憶が加害者に移る”んだ!!自分を保て!お前はマグナムだ!!〉
記憶が…移る…
ああ。なるほど。
妙な脱力感が全身を巡る。
思い出した。記憶では27年前。自身がマグナムでいたこと。
一発の銃声を、はっきりと覚えている。
彼女の泣いた姿。彼女の笑った姿。そして、散った姿。
〈シモン〉
応答を待たずに言葉を続ける。
〈今さっき何があったか知ってるか?
俺さ。初めて1人の女性に恋したんだよ。
恋ってこういうことなんだな。まだまだ曖昧だけど、わかるよ。
でもよ、今彼女はいないんだ。
俺が殺した。
呪いだか知らないが、彼女のことはよく知ることが出来た。
何せ彼女の人生を丸ごと追体験するんだからな。彼女の全てを知ったとも言えるだろうよ。
俺は彼女を救いたかった。
追体験の中で、俺と居た記憶なんて、合わせても1時間ぽっちしか無いんだ。
その半分は殺気を向けた俺との戦闘さ。
もっと彼女と話したいな。最初の会話だってそんなのんびり出来なかった。
あぁ…なんで…殺してしまったんだ。
嫌だ、嫌だ、もう…嫌だ。
俺は何なんだよ…!彼女よりも…価値がねえ人間のくせに……。
殺してくれ。殺してくれ。殺してくれーー〉
〈…すまない〉
シモンが無理矢理テレパシィを切った。
「どうして………どうして…!!どうして!!」
ぬかるんだ地面を殴る。殴って殴って。殴っては殴って。
「ああ……があああぁ…!!!」
がむしゃらに髪を毟る。
「殺せぇぇぇえ!!!殺せぇぇぇえええ!!!!!」
その時、尖った自身の爪が目に写る。
「殺ーー」
そのまま自分の右目に近づけようとした。だがーー
「駄目だよマグナムくん。瞳を傷付けちゃ」
いつからか そばにいたェムートに手を止められた。
「せっかく残酷な世界を見たのだろう。そこに倒れた彼女の見た世界を。深く志を殺されている。うん、良い目をしている」
だが、その口調はマグナムの心配などしてはいない。彼の興味は、マグナムの瞳に写り込んだ光の無い世界に向いていた。
「それはーー魔女の物だよ」




