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伝者旅 壱章  作者: 諸星回路
幻想の箱庭編
30/35

殺し愛

 夢が覚めた。

「え…?」

 おかしい。こうして声が出せることが。

「今私死んだはずじゃ…」

 口から出る声は低い男のもの。

「嘘…っ!?なんでマグナムくんの体に…!?」

 私はさっきまでアジサイとして生きていたはずだ。そして、散ったはず。

〈マグナム、やったようだな〉

 知らないようで忘れているだけの声が頭に響く。

〈シモン…〉

 体は覚えているようですぐに名前が出てきた。

〈良かった、記憶に問題は無さそうだな〉

〈記憶…誰の…?〉

〈……少し待て。まさかお前…“呪い”を知らないのか…?〉

〈何、呪い?記憶?私はーー誰?〉

 シモンは私の頭の整理もつかないまま話を続ける。

〈…すまない。俺の失態だ…旅の途中にでも話すべきだったか…〉


〈まず落ち着け!お前は間違いなくマグナムだ!決して今殺めた女性じゃない、それは“殺害記覧”による幻想だ!この世界は、“誰かを殺めた時に、被害者の記憶が加害者に移る”んだ!!自分を保て!お前はマグナムだ!!〉


 記憶が…移る…

 ああ。なるほど。

 妙な脱力感が全身を巡る。

 思い出した。記憶では27年前。自身がマグナムでいたこと。

 一発の銃声を、はっきりと覚えている。

 彼女の泣いた姿。彼女の笑った姿。そして、散った姿。



〈シモン〉

 応答を待たずに言葉を続ける。

〈今さっき何があったか知ってるか?

 俺さ。初めて1人の女性に恋したんだよ。

 恋ってこういうことなんだな。まだまだ曖昧だけど、わかるよ。

 でもよ、今彼女はいないんだ。


 俺が殺した。


 呪いだか知らないが、彼女のことはよく知ることが出来た。

 何せ彼女の人生を丸ごと追体験するんだからな。彼女の全てを知ったとも言えるだろうよ。

 俺は彼女を救いたかった。


 追体験の中で、俺と居た記憶なんて、合わせても1時間ぽっちしか無いんだ。

 その半分は殺気を向けた俺との戦闘さ。

 もっと彼女と話したいな。最初の会話だってそんなのんびり出来なかった。

 あぁ…なんで…殺してしまったんだ。

 嫌だ、嫌だ、もう…嫌だ。

 俺は何なんだよ…!彼女よりも…価値がねえ人間のくせに……。

 殺してくれ。殺してくれ。殺してくれーー〉

〈…すまない〉

 シモンが無理矢理テレパシィを切った。

「どうして………どうして…!!どうして!!」

 ぬかるんだ地面を殴る。殴って殴って。殴っては殴って。

「ああ……があああぁ…!!!」

 がむしゃらに髪を毟る。

「殺せぇぇぇえ!!!殺せぇぇぇえええ!!!!!」


 その時、尖った自身の爪が目に写る。

「殺ーー」

 そのまま自分の右目に近づけようとした。だがーー

「駄目だよマグナムくん。瞳を傷付けちゃ」

 いつからか そばにいたェムートに手を止められた。

「せっかく残酷な世界を見たのだろう。そこに倒れた彼女の見た世界を。深く志を殺されている。うん、良い目をしている」

 だが、その口調はマグナムの心配などしてはいない。彼の興味は、マグナムの瞳に写り込んだ光の無い世界に向いていた。


「それはーー魔女の物だよ」

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