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伝者旅 壱章  作者: 諸星回路
出会い、旅支度編
3/35

本部長

「迷子押し付けられ役の児童課が拒否されるなんてな。面倒なことになったなマル」マグナムが最初に口にする。

「拒否した訳じゃないだろ。本部長に話通せって言われただけじゃないか」横のマルがそれに返す。

「マイはみんなのおひめさまだもん!」と少女。

「違うな。問題児だ」

 雪国に似つかわしい一面真っ白な廊下を進む少女は、男の小馬鹿にするような言葉を無視して走り出す。



 暫く進むと、仰々しい面持ちの扉の前に行き着いた。

「マグナムとマルです。緊急に報告したいことがあります」

「ん、君達か。開いてるぞ」

「失礼します」

 男は1枚の厚い扉越しに優しい声を聞いて、それを開けた。

 中からは、通路よりは暖かい空気がほんのり流れ込んできた。部屋はそこまでの広さは無いが、奥に町を一望できるパノラマ窓があり視野は圧迫されない。

 ここが本部長室だ。正面にいるのは秘書のリューズと椅子に腰をかける私達の総統、本部長のアンクルである。

「…………隠し子かい」

 ただ、本部長と言っても決して厳しい人柄では無い。

「いやいやいや。俺の子供な訳ないーー」

「マイ!7さいなの!マイをつれてって!!」

 先程と同様に、少女が無理やり会話に割り込んできた。

 これだから子供は………

「ふむ……真面目な話かな」

「俺も大して事情を聴いてはいないですが。ーーマイ。自分のことをしっかり言わないと、俺達は君を何処に連れていけばいいのかも何もわからない。だから自分が知ってることを、目の前のおじ…お兄さんに出来る限り言ってみな」

「うん!わかった!」

 少女は、自身が持つ自分に関する情報を口に出す。その場の4人はそれを確かに聞き入れた。リューズだけはメモを取り出し、室内はペンを走らせる音と少女の言葉で静まる。


 マイのなまえはマイ。[舞う]ってかいて、[舞]なんだって。かわいいからだいすき!マイはむこうのおおきなやまのほうからきたの(そう言って奥の窓に写る雪山を指差す)。

 それでね!マイは[ウィント]ってばしょにいきたい!ウィントってゆーのはね、らくえんなんだって!だからいきたいの!!

 マイ、おぼえてることがそれしかないの。パパもママもいつのまにかいなかったもん……。

 だから!マイをつれてって!!


「ふむ…記憶喪失かな。色々聞きたいけどまず……舞ちゃんは自分の“特殊能力”を知っているかい?」

「………とくす?」舞はこてりと首を傾げる。

「知らないみたいだね。ちょっと見ててくれないかな」

 アンクルはその場で立ち上がると、右手の平を少女の前に突きだす。

「よっ…!」

 次の瞬間、同時に5つの指が青い炎を噴き出した。それらは身を揺らすも重なることはなく、まるで生きている様子を見せる。

「ふおぉぉ……!」

「これが特殊能力だよ。1人1つだけ持ってると言われている不思議な力。どうかな、思い当たることはあるかな?」

 そう言うとアンクルは炎を消して、再び椅子に深く座る。

「マイはひーだせないよ?」

「む。それじゃあ舞ちゃんにしか出来ないと思うことはないかな」

「マイにしかできないこと…」

 少女は独り言をぶつぶつと呟きながら、その場で頭を抱える。

「わかんない…」

「じゃあ別の質問だ。舞ちゃんは向こうの山の方から来たって言ったけど、歩いて来たのかな?」

「うん!ひとりであるいてきたの!!」

「その間、お日さまが何回沈んだか覚えていたりしないかな」

「うーーーん………」

 すると少女は指をゆっくりと折り曲げていく。その回数ーー

「“16”…?」

 流石に空気の止まる音がした。

「7歳の子供が、1人で、2週間を越える長旅をしたなんて…」マルも驚倒の言葉を溢した。

「ちび…じゃなくて舞。食料は持っていないのか」

「ないよ?どうしたの?みんなへん…」

「舞ちゃん、少し…僕達大人だけで話をさせてくれないかな。その間は児童課ってところで舞ちゃんは待ってることになるけど、大丈夫かな?」

「つれてって…くれる?」

「きっと良い知らせを届けるよ。僕達防衛屋は人を助けるのが仕事だからね。マル、彼女を児童課へ」

「え!?は…はい!」

 マルさん!てーつなご!

 あ…あば……あばばばばばば…

 少女とマルが外に出て、3人が部屋に取り残される。アンクルは手招きをして、マグナムを机の前へと呼んだ。

「軽く僕の意見を言おう。舞ちゃんにはこの町でしばらく経験を積んでもらい、万全の準備の元で旅に送り出したい。ざっと10年と言ったところかな。その間、調査課を周辺の町へ送り出して、彼女に関する情報も集めておこう。いくらあの子が強力な能力と意思を持ち合わせていたとしても、7歳の子供を黙って旅立たせるのは防衛屋として認められない」

「あの少女はそれで納得してくれますかね…」

「彼女はこの町で仲間を探していた。きっと1人での限界を感じたのだと思うんだ。彼女は納得してくれるよ、おそらくだけど」

 ただーーー

 アンクルは言葉を詰まらせる。そして準備が出来たと言わんばかりに、ふっと息を吐いて、再び口を開けた。

「考えたくはないけど、もしそのまま無理矢理(・・・・)1人で旅立とうとするなら……その時は君に同行してもらいたい。君なら若いながらに経験も持ってるし、何より長旅の経験者だ。良いかい…?」

 アンクルの時折見せる本部長らしい真剣な眼が、男を覗く。それと同時に少し、悲しみも浮かべる。

 マグナムの答えは、そう時間もかからずに決まった。しかし、それが本心かを確かめるためにも、彼は時間を使って自身の過去に触れた。




「わかりました。任せてください」

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