本部長
「迷子押し付けられ役の児童課が拒否されるなんてな。面倒なことになったなマル」マグナムが最初に口にする。
「拒否した訳じゃないだろ。本部長に話通せって言われただけじゃないか」横のマルがそれに返す。
「マイはみんなのおひめさまだもん!」と少女。
「違うな。問題児だ」
雪国に似つかわしい一面真っ白な廊下を進む少女は、男の小馬鹿にするような言葉を無視して走り出す。
暫く進むと、仰々しい面持ちの扉の前に行き着いた。
「マグナムとマルです。緊急に報告したいことがあります」
「ん、君達か。開いてるぞ」
「失礼します」
男は1枚の厚い扉越しに優しい声を聞いて、それを開けた。
中からは、通路よりは暖かい空気がほんのり流れ込んできた。部屋はそこまでの広さは無いが、奥に町を一望できるパノラマ窓があり視野は圧迫されない。
ここが本部長室だ。正面にいるのは秘書のリューズと椅子に腰をかける私達の総統、本部長のアンクルである。
「…………隠し子かい」
ただ、本部長と言っても決して厳しい人柄では無い。
「いやいやいや。俺の子供な訳ないーー」
「マイ!7さいなの!マイをつれてって!!」
先程と同様に、少女が無理やり会話に割り込んできた。
これだから子供は………
「ふむ……真面目な話かな」
「俺も大して事情を聴いてはいないですが。ーーマイ。自分のことをしっかり言わないと、俺達は君を何処に連れていけばいいのかも何もわからない。だから自分が知ってることを、目の前のおじ…お兄さんに出来る限り言ってみな」
「うん!わかった!」
少女は、自身が持つ自分に関する情報を口に出す。その場の4人はそれを確かに聞き入れた。リューズだけはメモを取り出し、室内はペンを走らせる音と少女の言葉で静まる。
マイのなまえはマイ。[舞う]ってかいて、[舞]なんだって。かわいいからだいすき!マイはむこうのおおきなやまのほうからきたの(そう言って奥の窓に写る雪山を指差す)。
それでね!マイは[ウィント]ってばしょにいきたい!ウィントってゆーのはね、らくえんなんだって!だからいきたいの!!
マイ、おぼえてることがそれしかないの。パパもママもいつのまにかいなかったもん……。
だから!マイをつれてって!!
「ふむ…記憶喪失かな。色々聞きたいけどまず……舞ちゃんは自分の“特殊能力”を知っているかい?」
「………とくす?」舞はこてりと首を傾げる。
「知らないみたいだね。ちょっと見ててくれないかな」
アンクルはその場で立ち上がると、右手の平を少女の前に突きだす。
「よっ…!」
次の瞬間、同時に5つの指が青い炎を噴き出した。それらは身を揺らすも重なることはなく、まるで生きている様子を見せる。
「ふおぉぉ……!」
「これが特殊能力だよ。1人1つだけ持ってると言われている不思議な力。どうかな、思い当たることはあるかな?」
そう言うとアンクルは炎を消して、再び椅子に深く座る。
「マイはひーだせないよ?」
「む。それじゃあ舞ちゃんにしか出来ないと思うことはないかな」
「マイにしかできないこと…」
少女は独り言をぶつぶつと呟きながら、その場で頭を抱える。
「わかんない…」
「じゃあ別の質問だ。舞ちゃんは向こうの山の方から来たって言ったけど、歩いて来たのかな?」
「うん!ひとりであるいてきたの!!」
「その間、お日さまが何回沈んだか覚えていたりしないかな」
「うーーーん………」
すると少女は指をゆっくりと折り曲げていく。その回数ーー
「“16”…?」
流石に空気の止まる音がした。
「7歳の子供が、1人で、2週間を越える長旅をしたなんて…」マルも驚倒の言葉を溢した。
「ちび…じゃなくて舞。食料は持っていないのか」
「ないよ?どうしたの?みんなへん…」
「舞ちゃん、少し…僕達大人だけで話をさせてくれないかな。その間は児童課ってところで舞ちゃんは待ってることになるけど、大丈夫かな?」
「つれてって…くれる?」
「きっと良い知らせを届けるよ。僕達防衛屋は人を助けるのが仕事だからね。マル、彼女を児童課へ」
「え!?は…はい!」
マルさん!てーつなご!
あ…あば……あばばばばばば…
少女とマルが外に出て、3人が部屋に取り残される。アンクルは手招きをして、マグナムを机の前へと呼んだ。
「軽く僕の意見を言おう。舞ちゃんにはこの町でしばらく経験を積んでもらい、万全の準備の元で旅に送り出したい。ざっと10年と言ったところかな。その間、調査課を周辺の町へ送り出して、彼女に関する情報も集めておこう。いくらあの子が強力な能力と意思を持ち合わせていたとしても、7歳の子供を黙って旅立たせるのは防衛屋として認められない」
「あの少女はそれで納得してくれますかね…」
「彼女はこの町で仲間を探していた。きっと1人での限界を感じたのだと思うんだ。彼女は納得してくれるよ、おそらくだけど」
ただーーー
アンクルは言葉を詰まらせる。そして準備が出来たと言わんばかりに、ふっと息を吐いて、再び口を開けた。
「考えたくはないけど、もしそのまま無理矢理1人で旅立とうとするなら……その時は君に同行してもらいたい。君なら若いながらに経験も持ってるし、何より長旅の経験者だ。良いかい…?」
アンクルの時折見せる本部長らしい真剣な眼が、男を覗く。それと同時に少し、悲しみも浮かべる。
マグナムの答えは、そう時間もかからずに決まった。しかし、それが本心かを確かめるためにも、彼は時間を使って自身の過去に触れた。
「わかりました。任せてください」




