色褪せた花に黒色を添える
「アジサイ…さん」
まっすぐ拳銃を向ける女性の姿に、マグナムは自身の目を疑っていた。加えて、彼女の紫の傘が青いものへと変わっていることに気づいた。
「何を驚いているのですか。さあ、銃を構えてください。ポケットのサイコロが貴方の武器であることは、既に“把握”しています」
彼女はそう言って口だけの笑顔を浮かべた。
「何で…アジサイさんが…」
「はぁ」
上空に向けての威嚇の発砲。
「勘違いされるのは私としても癪です」
次に彼女は地べたに踞る花に銃を向けた。
「この花達を殺したのは私」
発砲。花はその身を空に散らせる。
次に発砲。さらに花はその身を散らせる。
次にも発砲。花はもう形を持ってはいない。
「やめてくれ!」
応じて彼女は発砲を止める。だがそのまま銃口をマグナムに向け、弾き鉄を弾いた。しかし、弾は出てこない。
「あら、私としたことが、弾切れですか」
彼女は傘の影から銃弾を4つ取り出し、慣れた手つきでリロードする。
マグナムは迷っていた。
ここで武器に手をかけなければ、おそらく死ぬだろう。彼女はその気に見える。
死ぬ…。
ここで俺が死んでも、もしくは戦線維持が出来たとしても、おそらくシモンかェムートが彼女を殺してしまうだろう。無謀であれども俺が戦うのはまさしく最善だ。
それでも、アジサイという彼女の優しさが引っ付いてはなかなか離れない。
人は本当に殺してもよいものなのだろうか。
「畜生っ…!」
サイコロを拡げた。現状への悔しさを噛みしめ、銃を両手で構える。
「そう。それで良いのです」
弾き鉄を弾こうとした手前、彼女が傘の影に全身を潜めた。マグナムは傘に向けて発砲しては、すぐに左手をセーフティに回し、なるべく早く盾を拡げた。
すると、自分の物とは別の銃声が鳴っては、1発の弾丸が盾によって弾かれる。
マグナムは次の銃撃に備えてそのまま構える。だが傘の裏から次の銃声は起きず、そのまま青い傘が形を変えず槍のように向かってきた。無論盾に詰まり体には当たらない。しかし視界の正面が傘で潰される。
次に予測出来るのは左右いずれかからの攻撃。
右か。左か。
向かって右側、何かが地面を踏んだ。
そっちか…!
いや、小柄な傘が地面に叩きつけられただけ。すると左側から再び音がする。
急いで右に回していた盾を逆方向に動かす。だがそれも小柄な傘が地面に叩きつけられただけ。寄りかかっていた中央の傘が倒れ、その奥に新たな傘を片手にし、こちらへと銃口を向けた彼女が現れた。
1秒も経たずに銃声が鳴るが、弾は盾の右端で弾かれて消える。偶然に救われたようだ。
マグナムは手前の傘を蹴りあげ、盾を銃に変える。そして宙を舞うそれを挟んで、がむしゃらに一発放っては、やはり盾に戻す。
小間を縦向きにして傘は落ち、彼女の姿が再び見えた。
銃弾は命中していた。
彼女のドレスの胸部が赤く濡れている。どうやら心臓を貫いたようだ。威嚇射撃が戦闘に終止符を付けたのだ。
「やった…のか…?」
彼女が倒れる。その時、ずっと彼女の顔を覆っていた傘がそこから離れた。
彼女には右目が無かった。そして、その虚無から涙を流していた。
彼女はあまりにも純粋な笑みを浮かべていた。まるで幸せであるかのように、その頰を嬉し涙が伝い、小さな“ありがとう”を唇で描いた。
ーーあとから自覚したのだが、この時俺は彼女に一目惚れをしていた。
男は27年の夢を見る。




