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伝者旅 壱章  作者: 諸星回路
幻想の箱庭編
28/35

色褪せた花に黒色を添える

「アジサイ…さん」

 まっすぐ拳銃を向ける女性の姿に、マグナムは自身の目を疑っていた。加えて、彼女の紫の傘が青いものへと変わっていることに気づいた。

「何を驚いているのですか。さあ、銃を構えてください。ポケットのサイコロが貴方の武器であることは、既に“把握”しています」

 彼女はそう言って口だけの笑顔を浮かべた。

「何で…アジサイさんが…」

「はぁ」

 上空に向けての威嚇の発砲。

「勘違いされるのは私としても癪です」

 次に彼女は地べたに踞る花に銃を向けた。

「この花達を殺したのは私」

 発砲。花はその身を空に散らせる。

 次に発砲。さらに花はその身を散らせる。

 次にも発砲。花はもう形を持ってはいない。

「やめてくれ!」

 応じて彼女は発砲を止める。だがそのまま銃口をマグナムに向け、弾き鉄を弾いた。しかし、弾は出てこない。

「あら、私としたことが、弾切れですか」

 彼女は傘の影から銃弾を4つ取り出し、慣れた手つきでリロードする。


 マグナムは迷っていた。

 ここで武器に手をかけなければ、おそらく死ぬだろう。彼女はその気に見える。

 死ぬ…。

 ここで俺が死んでも、もしくは戦線維持が出来たとしても、おそらくシモンかェムートが彼女を殺してしまうだろう。無謀であれども俺が戦うのはまさしく最善だ。

 それでも、アジサイという彼女の優しさが引っ付いてはなかなか離れない。


 人は本当に殺してもよいものなのだろうか。


「畜生っ…!」

 サイコロを拡げた。現状への悔しさを噛みしめ、銃を両手で構える。

「そう。それで良いのです」

 弾き鉄を弾こうとした手前、彼女が傘の影に全身を潜めた。マグナムは傘に向けて発砲しては、すぐに左手をセーフティに回し、なるべく早く盾を拡げた。

 すると、自分の物とは別の銃声が鳴っては、1発の弾丸が盾によって弾かれる。

 マグナムは次の銃撃に備えてそのまま構える。だが傘の裏から次の銃声は起きず、そのまま青い傘が形を変えず槍のように向かってきた。無論盾に詰まり体には当たらない。しかし視界の正面が傘で潰される。

 次に予測出来るのは左右いずれかからの攻撃。

 右か。左か。

 向かって右側、何かが地面を踏んだ。

 そっちか…!

 いや、小柄な傘が地面に叩きつけられただけ。すると左側から再び音がする。

 急いで右に回していた盾を逆方向に動かす。だがそれも小柄な傘が地面に叩きつけられただけ。寄りかかっていた中央の傘が倒れ、その奥に新たな傘を片手にし、こちらへと銃口を向けた彼女が現れた。

 1秒も経たずに銃声が鳴るが、弾は盾の右端で弾かれて消える。偶然に救われたようだ。

 マグナムは手前の傘を蹴りあげ、盾を銃に変える。そして宙を舞うそれを挟んで、がむしゃらに一発放っては、やはり盾に戻す。

 小間を縦向きにして傘は落ち、彼女の姿が再び見えた。


 銃弾は命中していた。

 彼女のドレスの胸部が赤く濡れている。どうやら心臓を貫いたようだ。威嚇射撃が戦闘に終止符を付けたのだ。

「やった…のか…?」

 彼女が倒れる。その時、ずっと彼女の顔を覆っていた傘がそこから離れた。


 彼女には右目が無かった。そして、その虚無から涙を流していた。

 彼女はあまりにも純粋な笑みを浮かべていた。まるで幸せであるかのように、その頰を嬉し涙が伝い、小さな“ありがとう”を唇で描いた。

ーーあとから自覚したのだが、この時俺は彼女に一目惚れをしていた。

 男は27年の夢を見る。

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