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伝者旅 壱章  作者: 諸星回路
幻想の箱庭編
25/35

シモンのやり方

 ェムートの放った光は収まり、周囲がよく見えるようになった。

「…滑稽ね」

「煩い」

 シモンは顔を赤くして地面に伏せていた。彼はそのまま無言で立ち上がっては全身の砂を払った。

 目を閉じたまま走るという行為は、言わずもがな盲目で危険極まりない。その行為を行えば、先程のシモンのように、地面の小さな段差に足を詰まらせて転び、一回転することもあり得よう。

「追わないのか」

「うふふ、追わないわよ?逆に好都合よ。1人ずつ殺してあげられるからねぇ…!」

 サザンカが間合いを詰めてくる。右腕は剣、左腕は素手。

 人が使える能力は必ず1つのみ。仮に瞬間移動がリナリアという彼のものであれば、彼女の能力はおそらく自身の体を武器に変えるものだろう。であればーー

 シモンは逆に彼女から離れた。刀をその場に残して。

「逃げるなぁっ!!」

「逃げている訳じゃない。今にわかる」

 するとシモンの刀がひとりでに立ち上がり、サザンカに縦向きに牙を剥いた。彼女はそれを右腕で受ける。

「人間の軌道では たかが知れている。それなら刀だけで充分だ」

 シモンは持ち前の念動力で刀を器用に動かす。

 刀は力を緩め、柄を軸にして回転する。そのまま刀の棟がサザンカの胸と顎を掠めて、彼女の顔の前に刃を向けた状態で静止した。

「終わりだ」

 刀は剣より手前で振り下ろされる。シモンの言った通りお終いかに思われた。

 サザンカが口を裂き、頭を縦長に伸ばし、刀を丸々飲み込もうとするまでは。

 異変にとっさに反応し、刀の勢いを大幅に殺す力を込める。なんとか間に合い、シモンの手元まで跳ね返ってきた。

「なるほど。食らって自分の物にする、って訳か」

「あら、私の“吸食”の力をわかってしまったのね。別にわかったところで関係無いけどね…!」

 サザンカが再び剣を両腕に突進してくる。

 するとここで、頭の片隅にあったリナリアの反応がプツリと消えた。

「間に合わなかったか。まあ、それは後だ」

 今は目の前の敵をどう倒すか悩むのが、最優先事項だ。

 ただ当のシモンは、念動力で器用に刀を振り回すのも、目の前の相手に対してどう戦うか考えるのも、半ば飽きていた。

 だから、一番簡潔な方法を選んだ。

「心の準備完了だ」

 左右両方向から襲いかかる剣を、念動力で握力を増した両手で止める。

「これで……いい……!!」

 素手で止めるのは流石に辛く、摩擦も痛い。だが、シモンは続けた。

「もう一度…問いたい……。貴方の名前…それと年齢を…」

「今この状況で何聞いてるの?馬鹿なの?それともただの変態??」

「…仕方ない………最後に…楽しく会話でも…しようじゃないか」

「いいわよぉ、貴方の最期にねえ!!」

 彼女は上機嫌になって、口を裂いて笑う。

「最期に言っておきたいことは何かしら?!」

「貴方は…俺の仕事を知らない」

「ええ。知りたくもないわ」

「それなら…知らないままでいい。……伝達の能力は…不便なもの…でな。テレパシィだけなら……相手との接触は…不必要だ…」

「何の話をしてるのかしら。もっと楽しい話をしましょ。遺言はなぁに??」

「相手の頭に…言伝を伝えるためには……相手に十秒以上触れなくてはならない……!!そして…この剣自体が貴女の体だと言うのなら…!俺はこうすることで……貴方と握手が出来る…っっ!」

「何言ってーー」

 シモンは伝えた。1秒に64回場面転換する不連続な映像を4秒分。

 サザンカの体が骨格を無視してひん曲がる。人間の観測を越えた不快感。脳が処理しきれない速度の、無意味にして無価値な256の残酷。

 彼女は泡を噴いて砂に転げる。その姿を俯瞰して、シモンは彼女の眉間に向けて刀を下ろした。




「う……っ」

 シモンは床に手をつく。

「ーー不快な夢だ」

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