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伝者旅 壱章  作者: 諸星回路
幻想の箱庭編
20/35

出来のいい人形

 そう何分と経たずに城下町へと辿り着いた。そして、その光景に目を疑った。

 確認できるだけでも30人。同じ顔、同じ体つき、同じ声、同じ口調の女性が、あちこちで立ち話を当然のように行っていた。ある者は店主と客の関係。またある者は友人同士の関係。だが、とても別人とは思えない。

「…なんだ…こりゃ」

「落ち着け。誰も思考は確認出来ない。生きてはいない、気にするな」

「そうは言ってもな…」

「こわい…」

 舞がこれまで以上に、マグナムの足に顔を食い込ませようとする。こちらとしては動きづらくて仕方がないので、ひょいと背中に乗せてやった。

「俺も鳥肌立ってきたぜ…なんでこんなことになってんだか…」

「あっはっはー確かに進みづらいねー」

 ェムートは笑うと、咄嗟に持っていた本を開いた。

「シモンくん、残り2人は何処にいるんだい?」

「両者、奥の城の中だ」

「わかった。それじゃあ遠慮なくーー」

「…待て!上から何者かーー」


 シモンの声を受け、一番早く反応したのはマグナムだった。ポケットのサイコロを展開し、ェムートの横に出ては“それ”を盾で受け止めた。

 空を舞う1本の日傘が陽光を覆い、姿を現したのは敵意を剥き出す女性だった。群青色のドレスに、鋭い刀身を型どった左腕で、盾は叩きつけられる。

「役立たずなんて…言わせねえぞ…こん畜生…!」

「感謝するマグナムくん。今切り放そう」

 ェムートは盾を挟んで彼女の刀に触れる。

 次の瞬間女性は城の方に弾き飛ばされた。すぐ体勢を整え、砂埃と共に着地する。直前、彼女の足がゼリー状に溶けたのが見えた。

「メジロ!今すぐ逃げて!ここは危険よ!」ドレス姿の女性が町へと言葉を投げる。

「サザンカ!でも…貴女が…!」30人の同じ女性は口を合わせて彼女の心配をする。

「貴女を守るのが私の役目。大丈夫!私は負けないわ!」

「サザンカ……私、待ってるから…!」

 そう別れを惜しんで、30人全員は一斉に町の奥へと逃げていった。

「なんか…俺ら悪役になってないか?」

「まあ、彼女達を一掃しようとしたからねー」

「一掃って…あんたが物騒なことするからーーー」

 宙を舞っていた日傘が、遠く地面に突き刺さる。と同時に女性がこちらに走り出す。

「舞、しっかり掴まれよ!」

「うん…」

 再びマグナムは迎え出て、攻撃を受けにかかりに盾を突き出す。合わせて刀身が振り下ろされる、かに思われたが、その身を素の腕に戻しては盾の下に潜り込ませ、盾を勢いよく持ち上げた。

「やべっ…!」

 体勢は崩れ、隙の出来た懐に、彼女の右腕に潜ませていた日傘が突かれる。

 だが、マグナムの身に当たること無く見えない壁で止められる。シモンの念動力だ。

「ちっ」

「あなたに問いたい。自身の名前と年齢をーー」

「外部の者の話は聞かないわ!今すぐこの地から去りなさい!」

 どうやら彼女にこちらの話は通じないらしい。

〈…マグナム、ェムート。先行ってろ、俺が相手する〉

 マグナムは体勢を直してはその場から離れ、盾を閉まった。

〈わかったシモンくん〉

〈殺しはしないだろうな?〉

〈仕事の邪魔だ。殺した方が手っ取り早い〉

〈それで、いいのかよ。そんな簡単に人殺すなんてーー〉

〈勿論彼女が戦う気を消失するのが最善策だ。だが、彼女は聞く耳は持ってくれそうにない。加えて、完全に牙を向いている。選ぶべきは容易い〉

〈…出来る限りの説得はしてくれよ〉

〈当然最善は尽くす。いいから先へ行け!〉

 舞は担いだまま、2人は城下町へと走り出す。

「行かせるかっっ!!」

 すぐに反応してサザンカは、左手に拳銃を生み出しては弾き鉄を弾く。弾丸は一直線にェムートの元へと飛んでいくが、念動力で出来た壁によって弾かれ、砂へと落ちる。

「させるかよ…!」

「ちっ」

 すると女性は、日傘を支えていた手を離し、素手のままシモンに向かって走り出す。すぐさま備えたシモンだったが、彼女は攻撃などせずに男を避け、男達とは逆方向に走り去った。

 何をする気だーー。

 シモンは戦闘に至るまでを即座に思い出す。彼女が唐突に上空に現れたこと。

〈2人とも警戒しろ!!奴は瞬間移動を扱える!!〉


「瞬間移動…?」

 商店街を抜けきったところで、その伝法はやって来た。

「マグナムくん!前に盾広げて!!」

「え?」

 目まぐるしい変化を見せる戦況にマグナムの頭は追い付かず、行動に起こすまでが遅れた。

 気付いて手持ちのサイコロの6の面を探ったタイミングで、サザンカが数歩先に突如現れる。両腕を刀に化かし、振り上げた状態で。

「まず1人っ!!」

 声を上げる余裕も無い。切れ味。角度。速度。マグナムが死ぬ条件は殆ど揃った。

 ただ、ェムートは見逃さなかった。

 “戻る”。

 振り下ろしていたはずの両腕は逆に振り上げられ、サザンカ共々地面に打ち付ける。

「…ちっ…何故だっ…!!何故一撃も当たらないっっ!!」

 サザンカはしゃがみこんだまま、腹立たしそうにこちらを睨みつける。彼女にとっては、何も上手く行っていない戦闘だろう。

「…貴様ら…目的は何だ!!」

 その言葉を待っていたとばかりに、マグナムは大声で返す。

「俺らは伝ーー」

「この箱を頂戴しにやって来た」

 しかし、わざとらしい横槍が入った。

「賛同しない者は誰であろうと手を下す」

「お、おい!あんた何言ってーー」

「勘違いしないでおくれよ。僕と君達はただの一時的な協力関係だ。僕は僕の目的のために最善を尽くすのさ」

「ふふふ…」

 サザンカが口を裂くような不気味な笑みを浮かべて、言い残す。

「私の愛を邪魔する人間は全部消すわ!!必ずね!!」

 足元の砂が彼女の周りを渦巻いて、解けた時にはその姿を消していた。

 町はそよ風に揺らされると、1つの足音を除いて静寂に包まれた。

「一時休戦…か」

「ーーどうやら無事そうだな」

 駆け寄ってきたシモンは安堵の息を吐いて止まった。だが、マグナムはその安堵を打ち消すようにェムートの胸ぐらを掴んだ。

「おい、あんた。折角の交渉のチャンスをわざと潰したな」

「さあね」

「とぼけんじゃーー」

「あと君。一度役にたったからって調子に乗らない方がいいよ」

「テメェーー」

「君は非常に消しやすい」

 急にマグナムの手は強力な静電気を感じ、掴んでた服から弾かれる。そして、同時に戦慄が全身を走った。

 今更気付いたこの男の肌を震わせる気配。うまく声が出ず、首には冷や汗が伝っていく。

「少々“わかりやすく”した。断じて挑発じゃない、警告さ。君らは死ぬには惜しい」

「…あんた……普通の旅人じゃ…ないだろ…」

「僕は普通の人間だよ。ルール違反もしていない。…さてと、そろそろ行こうじゃないか。リナリアくんの元へ」

 ずっと担いだままの棺を少し背負い直し、ェムートは先へと急ごうとする。

「なあェムート。箱は2つあった訳だ。どちらを強奪する気だ?」するとシモンが意外な言葉を飛ばす。

「あっはっは、両方ーーはシモンくんも許してくれないか。そうだね……君達にとって厄介な人間の多い方にしようか。まあ、譲ってくれるのが一番早いけどね」

 男は高笑いをしながら足を進めた。


 シモンのことはまだ2ヶ月程度だが一緒に居る中で思っていたより人らしさが感じられたが……

 この男はまだ出会って1時間も経っていないせいか、人間味が全く感じられない。

 苦手なタイプだ。

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