最悪にして最善の邂逅
「あれ?やあやあ、君はこの町の住人かい?」
厚い本を片手に傘もささないその男は、おどけた口振りで話し掛けてきた。
アンテナを辿って行き着いたのは、ガーデンとは反対方向の住宅街であった。その中、1つだけ倒壊している家の前に黒服の青年がいた。ただーー。
「あっはっはー!こんな意味のわからない箱の中で人と出会えるなんてっーー僕はなんて幸運なんだ!感謝します、我が神よ…っ!」
苦手なタイプだ。
男は背負っていた小さな棺を下ろして祈りを捧げると、振り向いて体を戻す。
「…無口な人だね。もしかしてこの町の人ではないのかな?」
「伝達屋だ。本人確認を行う。あなたの名前を教えてほしい」
「伝達屋…君がかい?そうかそうか……僕はェムートだよ、いい名前だろうー?」
「ェムート…。年齢はどうだろうか?」
「はっはっは!見ての通り20歳!」
「…身長と兄弟の有無を」
「身長はなんと182cm!それと可愛い可愛い妹が1人!!」
「自身の武器と能力をーー」
「ねえ。」
空気の流れが移ろい、“雨の雫がその身を落とすのを止めた”。
「質問が多いじゃないか。欲しているような情報は渡さないよ?」
「では質問を変えよう。何故生きている十字家のェムート」
「新しい伝達屋は変な人だなあ、神が居られる限り僕も生きるのさ。本人確認は済んだだろう、僕は僕の仕事をさせてもらうよ」
「待ってくれ、この町で何をするつもりだ」
「…まあ、それくらいなら。この不可思議な箱を頂戴する。管理者を見つけて権利を戴くのさ」
「殺してでもか」
「殺してでもね。まあ数日居座っても見つからないんだけどね。構わないだろう?人助けは君の仕事ではないはずだ。それとも趣味かい?」
「残念ながら仕事だ。受取手が死んでしまっては仕事にならない。……だが、受取手で無いと判断すればその後は好きにして構わない。後から言伝の受取手に選ばれた場合は、依頼人に死を伝えてそもそも受け取らない。手を組まないか?」
ほんの僅かに声が震えた。私は嘘を言った。
「護衛してもらいたい仲間がいる。それにこちらは住人の位置を把握している。悪い話じゃないだろう」
敵対する前に味方にしてしまおう。そう頭が判断したのだ。この男は、“友達になるべき人物”と旅に出る前に一度言われていた。
「……へえ。いいだろう、護衛する相手は見たところいないみたいだけど」
「町の西側に住まう方に会いに行かせている。あなたほどの瘴気は感じられなかったのでな」
「あっはっはー、大物扱いされると嬉しいねえ」ェムートが声の調子を戻すと、空間は初めの苦手なものへと戻った。
「それじゃ、行こうか。シモンくん」
「……」
呼ばれ方に抵抗があったものの、何も言えずに歩き出した。




