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「美紗、絵美里、元気でね」
「明日菜ちゃんも元気でね。無茶しちゃダメだよ? あっちには大人が一杯居るんだし」
「まあ、明日菜だったら大丈夫でしょ。生徒たちよりも先生たちを頼って頑張ってね」
「うん。今更同じ生徒同士でってのは難しいのは解ってるよ。だから先生たちと行動を共にしようと思う」
安藤さんと横山さん、藤野さんは最後の別れの儀式をしている。
彼女たちももう会う事は無いだろうと感じているはずだから、抱きしめ合って涙の別れだ。
僕と坂井さんはそれを邪魔する事なく見ている。
学校に送っていくのは僕と坂井さんだけだ。
藤野さんと横山さんは藤野家に残る。
学校まで一緒に行くと余計に別れが辛くなるだろうし、誰かが家を守らなくてはならない。
そして素早く動けて、ゾンビに全く物怖じしないのが僕と坂井さんだ。
別れの済んだ安藤さんは藤野家を出た。
学校までの道程は安全な物だった。
彼らが騒ぎまくって逃げてから時間が結構経っているからなのだろう、ゾンビが見当たらない。
そしてゾンビが大移動した光景を見かけただろう生き残った人たちは近寄ろうとしない。
だからゾンビや生き残った人たちを見かける事は無かった。
十数分ほど警戒しながら進み、そろそろ校舎が見え始めた頃、ゾンビを見かける様になった。
「流石にゾンビが出て来るか。ここからは更に警戒が必要だね」
僕はフル装備、防弾ジャケットや手足にガードを身に付け、短機関銃を肩に掛けてきた。
坂井さんは拳銃とハンマーを腰に帯びているが防具は身に付けていない軽装備だ。
安藤さんは学校を出た時と同じ格好をしている。
手には私物の鞄を持つ以外、特に武装を身に付けてはいなかった。
声を掛けたがそのまま進み、学校の塀が続く道路に出た時、それが見えてきた。
「う、うそ。ゾンビがあんなに」
道路にはゾンビが溢れかえっており、いったいどれぐらいの数が居るのかが全く分からない。
そして塀を乗り越えようとしているゾンビたち。
それを壁の上から叩く人たち。
そんな攻防が繰り広げられていた。
「何故ゾンビが壁を?」
壁の高さは道路から二メートルほどで、ゾンビが超える事は無い。
僕が今まで見知った情報だと、壁を登ろうとするゾンビは居なかった。
だから疑問に思った、壁の縁に手を掛けて登ろとするゾンビが存在する事に。
「もしかして、ゾンビの目の前で壁を登った? それで真似をしている?」
「え? ゾンビにそんな知能があるの?」
「無いはずだよ。でも、目の前で登った奴がいるなら手を伸ばすだろうね。そして手が上まで届いた。壁の向こうに消えた人を追いかけようと手に力を込めたとすれば」
「真似じゃなく、偶然からそうなった。そしてゾンビを攻撃してるからゾンビが諦める事なく登ろうとしている」
見た限りそう言う事だろう。
最初に逃げ込んだ奴、多分あの逃げた奴らなんだろうけど、彼らが慌ててさえいなければこうならなかったはずだ。
そしてそれに続いて学校に居た人たちがゾンビを攻撃しなければ。
たらればを言っても仕方が無いが、これはかなりまずい状況だ。
ゾンビたちはいっぱい居るし、無限の体力を持つ。
でも、生きている人はいずれ疲れ尽きる。
このままだとやがてゾンビは壁を登って安全地帯である学校がゾンビパニックを起こしてしまうだろう。
もし、向こう側に冷静な人、ゾンビに付いてよく知っている人が居れば今からでも対処は可能だ。
「ど、どうしよう。何とかしたいけど、どうすれば」
「取り敢えずここに居るのは危険だね。他に入れそうな場所が無いか回ってみよう」
「このままにしておくの? このままじゃあ」
「一つだけ手があるよ。やらないけど」
「そ、それは? ねえ、教えてよ、八雲君」
「ゾンビの近くまで行って大きな音を出し続けて逃げる。スマホの音量を最大にして音楽でも流せば行けるんじゃないかな。でも、その後はゾンビに襲われて死んじゃうだろうけど」
「お、囮!? で、でもそれしかないのなら」
「安藤さん、安藤さん。そんな自己犠牲を見せても一時的だから止めておきなよ」
「あ、うん。そうだね」
安藤さんは見ていなかったようだがゾンビに捕まれて外に引き込まれた奴が何人かいた。
そんな光景を見た僕たちは別の道を進み、裏門側にやってきた。
こちら側にもゾンビは居るが、数体程度なのでやり過ごすか倒す事は可能だろう。
それに壁に手を掛けて手伝ってあげれば安藤さんも中に入れそうだった。
ただし、ここは校舎が近いので黙って入る事は出来ないようだ。
「おい、人が居るぞ!」
校舎の窓から見ていた馬鹿が声を上げやがった。
その声に釣られたのかゾンビどもがこちら側に気が付いて近寄ってきた。
「はぁ。壁を乗り越えたら向こうと同じになりそうだな。七体だけだし倒してしまおう」
「大丈夫なの?」
「まあ、多分。坂井さん手伝ってくれる?」
「任せて」
僕と坂井さんはそれぞれ武器を抜いてゾンビたちに近寄る。
ゾンビたちは動きが遅い、それが共通事項だ。
ただしゾンビにも個体差が存在する。
何故ならゾンビは元人だけあって人体構造に沿った動きしか出来ない。
痛覚が無いようだから無茶な動きは可能だが、片足を失った状態では歩けない。
そしてゾンビになる理由の一番が、ゾンビに襲われてなる事だ。
なのでどこかにゾンビに襲われて怪我、しかも噛み千切られた跡がある。
足を噛まれてゾンビ化したものは、当然の様に足を引き摺って歩くので、移動速度は遅い。
だから七体がほぼ同じような位置に居たとしても、僕たちが接敵するまでにバラバラになった。
それを各個撃破しようとしてるのだ。
ただし、坂井さんの身長は女子の平均よりも低いので、獲物がハンマーだから頭部が叩きにくい。
その辺りを考慮してやろうと思う。
僕たちは直前で左右に分かれ、先頭を歩くゾンビがどちらを狙うのか即座に判断出来ない様に混乱させた。
その隙を逃さずに鉈を首筋に叩き込み、僕たちは一端下がる。
後続のゾンビたちは目の前で倒れ込むよう崩れたゾンビに巻き込まれて躓き、動きが止まって頭の位置も下がった。
そこからは僕たちの独壇場だ。
何だか外野である校舎からの声、歓声ぽい何かが煩いけど黙々とゾンビどもを始末していく。
七体のゾンビの内五体を始末した辺りで裏門から何人か出て来た。
それぞれバットや棒を武装した大人たちだ。
「お、おい。君たち」
声を掛けられるも僕と坂井さんは残りのゾンビたちの頭を叩き、止めを刺す。
首筋を叩けば動きを制限出来るがまだ完全ではない。
脳を破壊しなければゾンビは動きを止めないのだ。
「おい! 聞いているのか!」
そして無視される事に耐えれなくなったのか、先頭に立つ男が大声を上げた。
「聞こえてますよ。ただ、早く始末しないと面倒だから集中してました。ああ、後、ゾンビは大きな音に反応しますから静かにしてください」
僕はゾンビの血で汚れた鉈をゾンビの衣服で拭き、リュックからペットボトルを取り出して水を掛けてから再度拭き、ケースに仕舞う。
坂井さんも同じような行動をしてから僕の横に並んだ。
「それで、何用でしょうか?」
「あ、ああ。いや、君たちは保護を求めて来たのではないのか? それとその銃や鉈はどうしたんだ? 一体君たちは」
「僕たち三人はこの片山高校の生徒です。二年三組に所属していました。ですが数日前に抜け出して自立しています」
「な、何だって!?」
「な、まさか、君は、確か、ああ、安藤さんじゃないか!」
「はい、お久しぶりです、斉藤先生」
確か二年の英語教諭だった斉藤先生が混じっていて、どうやら彼も安藤さんだけは覚えていたようだ。
彼女も声を掛けられたので近寄ってきた。
「一体今まで何をやっていたんだ? それにそれらはどうしたんだ?」
「質問ばっかりですね、先生は。ところで反対側ではゾンビが侵入しそうになってますが、どうするつもりなんですか?」
「どうするって対処中だよ、君。えっと、誰だったか」
「斉藤先生。それよりも彼らの保護が先じゃないのか?」
「ああ、そうでしたね」
教師以外の大人、おそらく近所に住む避難してきた人なのだろう男性が遮ってきた。
「ああ、保護は安藤さんだけお願いします。僕と坂井さんは自立してますから必要ありません」
「な、何を言っているんだ、君は? それに銃なんて危ない。渡しなさい」
「やっぱり取り上げるつもりだよ。ほら、言った通りでしょ、安藤さん。大人は何か理由を付けて強力な武器を集めたがるって」
「う、うん」
「何だと! 大人を馬鹿にしているのか、お前は!」
「はぁ。大きな声を出したらゾンビが集まってきますよ? 貴方たちだけでゾンビの集団を倒せるのですか? 僕たちみたいに」
「くっ、言わせておけば」
もしかしたらどこかの企業の偉い人なのか、中小企業の社長なのだろうか、やたらとこの男性はプライドが高い。
正直、こんなおっさんが居る場所に安藤さんを預けたくないんだが。
「八雲君、落ち着いて」
「僕は落ち着いているけどね。でも、折角自力で集めた物を取り上げようとされたら反発ぐらいはするよ」
「自力でだと! まさか盗んできたのか!」
「そうですね。自衛隊基地に有りましたので持ってきました」
「そんな危ない奴に持たせられん! 良いから渡しなさい!」
「それも言うと思ったよ。で、盗品を預かって警察に届けるんですか? それとも自衛隊に? もう通報しても繋がりませんから呼べませよ」
「へ、減らず口を、このガキは」
「や、八雲君だったね。良いから先生に渡しなさい。子供が持っていて良い物じゃない」
今度は教師が出て来た。
そして言っている事は同じようなもの。
要は大人が大人で居る為の道具が欲しいだけじゃないか。
まあ、渡さないし、相手にしないけど。
僕は短機関銃を肩から外した。
それを見た大人たちは安堵と喜びの表情をした。
ただし僕が安全ロックを外してスライドを引く事で、恐怖が混じった。
テレビなどで見た事があるのだろう、銃を撃つにはこんな面倒な手順を踏む必要がある事を。
「これってサブマシンガンって呼ばれる武器で、拳銃と同じ弾丸なんですが、連射が可能だし、グリップが二つあって命中させやすいんです。腰だめで撃てますからね」
「な、まさか、私たちを撃つのか?」
「無理に取り上げる、僕から奪おうと言うならですが」
「八雲君、撃っちゃダメだよ」
「安藤さん。最後になるかも知れない選択肢だ」
「え? こ、こんな時に?」
驚く安藤さんの横では坂井さんがケースから拳銃を取り出して安全ロックを外し、スライドして肩の位置まで上げている。
それを見て大人たちは更に恐怖を感じて顔を青ざめた。
「こんな大人たちと一緒に生きていくかい? 自分たちを子供だからと従わせようとする大人と。彼らの持つ武器に血糊は付いてるか? 無いだろう? 今まで戦ってこなかった証拠だ」
僕の声は静まり返っていたこの場に響いた。
その声は安藤さんだけじゃなく、目の前の大人たち、そして校舎の窓から見つめる生徒や近隣からやってきた人たちに聞こえた。
「表側のゾンビだってそうだ。あんなの態々相手にせず、侵入してきた奴を囲んで倒せばよいんだ。壁際でやり合うなんて馬鹿だよ」
そう、あそこでは言わなかったが、ゾンビは動きが遅いから、乗り越えて来るのにも時間が掛かる。
だから一斉に大量のゾンビがやってくる事は無い。
ちょっとずつしか乗り越えて来ないし、壁を乗り越えて落ちてきたゾンビを順番に叩いて行けばよいだけだ。
もしくは離れて静かにしてゾンビが離れるまで校舎の中で大人しくしておけばよい。
壁際に集まったゾンビが居なくなってから、侵入したゾンビだけを倒せば良いんだ。
そんなのちょっと考えれば誰だって思い付ける。
ただ冷静で居られるかどうかだ。
大人たちは大人であろうとして冷静じゃない。
だから思い付けないんだ。
「そんな大人たちの元に保護されるかい、安藤さん?」
「わ、私」
僕の最後の問い掛けに答えようと安藤さんは声を上げようとしたが、それを遮る叫びが聞こえた。
「壁が、壁を突破された! もう、ここはダメだ!」
どうやら表側のゾンビたちが入り込んだようだ。
僕たちは取り敢えず学校の中に入る事にした。
何故なら僕たちが、と言うよりも大人たちが大声を上げまくった所為でゾンビたちが近寄ってきたからだ。
止めとなったのは校舎から悲鳴や怒号が上がったから。
なので仕方なく裏門から入り、ゾンビたちをやり過ごす事にしたのだ。
そうなってくると侵入したゾンビがどう言う状況なのか知る必要がある。
何か言ってくる大人たちを無視して僕たち三人は校庭に向かった。
そこには壁側から逃げる様に走る大人や男子生徒たち。
それを追いかける様に動く数体のゾンビ。
侵入されたと言ってもまだちょとなだけで、あそこにいたゾンビたちに壁や門を破られた訳では無い様だ。
ただし、走っている人たちの何人かが怪我をしている。
これはちょっとやばい展開かも知れない。
「安藤さん。さっきの質問の答えはどう? それ如何によって僕は動きを変えるよ」
「え? どう変わるの?」
「残ると選択するならこのまま何もせずに学校から逃げる。残らないと言うならこの後起きるだろう危機を排除する。安藤さんには耐えれないような展開になろうとも」
「そ、それって、まさか」
どうやら安藤さんも気が付いているようだ。
まだ生きている、でも、ゾンビになる人を殺すと言う事に。
「さあ、早く決めてくれ。そうじゃないと僕は何もせずにこのまま去るよ。坂井さんを無駄な危険に巻き込みたくないんだ」
「私なら平気」
「って、言ってるけどね。それは安藤さんにもわかるでしょ?」
「う、うん。えっと、今までの事を考えて、卑怯だとは思うし、ダメって言われるのも覚悟してる。でも、聞きたいの。八雲君、一緒に居て。それで頼っちゃダメかな?」
なるほど、そう来たか。
もう男に頼るって事が、こんな状況になってまで頼るって事がどう言う事かを理解しているはずの女性が言うとは思っていなかった。
これが大人の女性ならば打算でする可能性がある。
でも、まだ未成年の少女がそう言う事を口にするとは思ってなかった。
これはやっぱり女は何歳でも男よりも大人って事なのだろうか?
僕は思わず引きつった笑みを浮かべた。
そんな僕に冷ややかな坂井さんの視線が刺さる。
なんだかどっちを選んでも、罵詈雑言が出そうな雰囲気だ。
だから僕にはラブコメは要らないんだって。
「はぁ、まあ、頼られても僕の手は広くないし狭い。だから皆と同じように頑張るなら良いよ、一緒に居ても。僕の従者にでもなるつもりで付いて来い、って事だね」
「うん! 私、頑張るよ!」
安藤さんの笑みを久しぶりに見た気がする。
いや、こんな満面の笑みは初めてだ。
「八雲にはがっかり」
そして坂井さんに溜息を吐かれたが、それは僕もだよ。
はぁ。
取り敢えず、そうと決まったら早速行動だ。
後ろからニコニコとチクチクと言う二つの視線を感じつつ、僕は校庭まで走り出て、校舎に逃げ込もうと駆け寄る者たちに銃を向けた。
「止まれ! これ以上近寄るな! 近寄ったら撃つ!」
パァン、と銃声が響き、地面に銃弾が突き刺さる。
聞き慣れぬ音、でも、恐怖を呼び起こすには十分な音が鳴り響き、男たちは立ち止まり、そして校舎から女性の悲鳴が聞こえた。
「まず、怪我をした者は手を上げろ! さあ、早くしろ! どんどんゾンビが近寄って来るぞ! さあ、さあ、さあ!」
次は命令し続け、相手の冷静な判断力を奪って従わせる。
これは映画やドラマで見た手法だが、案外上手く行くもんだ。
見た目でも怪我をした人と解る奴らが手を上げた。
「怪我をしていない人だけ十歩前に出ろ。さあ、早くしないか! さあ!」
今度は怪我をしていない人たちだけ動かす。
銃と言う恐怖の前に彼らは従順であり、僕の命令通りに動く。
「前に出た人たち。二十人ほどか。お互いに怪我をしていないか二人一組、もしくは三人一組で確認し合え」
そして次は本当に怪我をしていないか確認させる。
その結果、三名の人が怪我をしていて手を上げさせられた。
「その怪我人三名は何故怪我をしたか言え!」
「わ、私は転んで擦りむいただけだ!」
「お、俺も落ちて手を付いただけだ」
「ぼ、僕は、その、武器が手に当たって」
「転んだ人と落ちた人でそいつの傷口を確認してくれ。噛まれたりひっかき傷なら手を上げてくれ」
「い、嫌だ。僕は死にたくない。死にたくないんだ!」
嘘を吐いた男、この片山高校の男子生徒は大人を振り切ってこちらに駆け寄ってきた。
「止まれ、止まらないと撃つ」
「嫌だ! ゾンビになんて足りたくない! 助けて、助けてよ!」
「警告したぞ」
僕は引き金を引き、彼を撃つ。
狙うのは足であり、当然の様に当たらない。
でも、足元を狙われた彼はバランスを崩して転倒した。
僕は彼に近寄って短機関銃を左手に持ち、右手で鉈を抜く。
「見せてみろ。ゾンビにやられたのかどうか確かめる」
「た、助けてくれ。頼むよ」
「早くしろ。時間が過ぎれば助からないぞ」
彼は怪我をした右手を差し出してきた。
よく見ると確かに何かに引っ掛かれたような跡だが、それは掌だ。
しかも爪なんかで引っ掛かれたような跡じゃない。
「良かったな。多分壁とかで傷付いただけだ。ゾンビ化はしないと思うぞ。でも、念の為今日一日どこかに隔離してもらえ」
「ありがとう、ありがとう、ありがとう」
彼は泣いて僕に縋り付くが、その手を離し、校庭を進む。
そして怪我をしていない大人たちに近寄り声を掛けた。
「あっちに居る人たちはゾンビに噛まれたりしての怪我ですか?」
「あ、ああ。そうだと思う」
「だとしたら彼らはもう助かりません。腕ごと切断とかすれば可能性はありますが、ここの施設じゃあどっちみち死にます」
「な!? それは本当か?」
「ええ、信憑性は高いですね」
「お前、まさか二日目に居なくなった嘘つき野郎か?」
大人たちと話していると、怪我をしていない男子生徒が近寄ってきた。
「嘘吐きね。信じなかっただけだろう、学校の奴らが。嘘吐きと思うのは勝手だが、もしあの怪我人たちを校舎に入れたらゾンビ化して手が付けられなくなるぞ?」
「う、嘘を言うな!」
「そうだ! 俺たちはゾンビなんかならない! 銃なんかで脅しやがって! 頭可笑しいんじゃないか!?」
怪我の有無関係なく男子生徒たちが僕を遠巻きに囲んで攻め立てる。
本当に馬鹿な連中だ。
そして大人たちはどうしていたかと言うと、怪我の有無ではっきり分かれた。
「あ、あんたたちは校舎に近寄るな。もう助からないんだ。ゾンビに噛まれたらどうなるかは知ってるだろ!」
「絶対にそうなるとは限らないじゃないか!」
「そうだ、そうだ!」
「見た事があるだろう! 襲われた人がゾンビとして混ざってるのを! あそこにもいっぱいいたじゃないか!」
外から来ただけあってゾンビに付いてある程度知識があり、もう彼らが助からないと気が付いているようだ。
まあ、兎も角だ。
こんな事をしていても、ゾンビどもはどんどん壁を越えて来る。
だからそろそろ決着を付けなくちゃならない。
「さて、噛まれた人たち。残念だがあんた等は死んでゾンビとなる。だから友達や家族の為にゾンビどもを殺してきてくれ」
「な、なんて事を言うんだ、お前は!」
「そうだぞ、子供が何を偉そうに」
僕の発言に反発するが、今は僕の味方の方が多い。
「この子の言う通りだ。安田さん、頼む。最後の務めを果たして来てくれ。慧人君は私が面倒みるから」
「あ、ああ、そうだよ。お前の分も生き残ってやる。上島の家族に会ったら最後まで立派だったって言うからさ」
それは怪我をしていない人たち。
大人だけではなく、男子生徒たちもこの流れに乗った。
何故なら、自分の身が一番だからだ。
信じてなかった、いや、信じたくなかった人たちも、目の前に危機をぶら下げられたらそうなるのは当然だった。
「もし、嫌だって言うならこの場で殺すしかない。家族を、皆を守る為なんだ。だから、だから」
そして、こんな状況だと悪も正義にすり替わる。
人殺しと言う最悪の事も、皆が生き残る為と言う免罪符を得て最善となる。
僕の役目はほぼ終わりだ。
だから校舎側へと下がれば、怪我をしていない人たちも下がる、武器を構えて。
怪我をした人たちは信じられない目を向け、呆然と立ち尽くす。
そしてゾンビたちはすぐ傍まで来ていた。
「ゾンビが、ゾンビが来てる! 早く、早く倒して!」
校舎からは容赦の無い言葉が浴びせられる。
学校を、家族を、友達を守ろうとした勇者たちに対して死地に飛び込めと叫び続ける。
そして校舎の出入り口は固く閉ざされ、入る事を許されない。
もう、彼らには逃げ場は無かった。
「う、うわぁああああああああああああああ」
それに耐えれなくなった一人がゾンビどもに突撃する。
そしてそれは連鎖して行き、怪我をしてゾンビ化する運命にある十五名全員がゾンビたちに群がった。
その最後の戦いは、死んでゾンビになるまで続いた。
その後三時間ほど経ち、ゾンビに噛まれて死んだ人たちを合わせて三十体ほどのゾンビが校庭をうろうろしている。
壁際から逃げていた生き残りを含めた僕たちは校舎に入り、その光景を眺めていた。
ただし一階部分はゾンビと視線が合ってはいけないからカーテンを閉めて覗かない様にしている。
嘗て僕がもたらした情報は信憑性が無い、目立ちたいだけの嘘情報としてされてきた。
だが、銃と言う抗えない力を見せつけている僕の言う事を信じるようになった。
その結果が二階以上の窓から眺めると言う行為に変わったのだ。
「えっと、八雲君だったね」
「確か教頭先生でしたよね?」
「ああ、そうだ。それで、これからどうするんだい? 何か知ってる事が無いかな? その銃とかどうしたら手に入るのかな?」
始業式とかそう言う特別な日でないと見掛ける事が無い教頭が僕の横に立っている。
ここは校庭が見渡せる部屋の一つであり、普段は教師ぐらいしか立ち入らない場所だ。
そこに僕や安藤さん、坂井さんをはじめ、学校側の代表である教頭と僕たちの担任教師、そして逃げ込んできた代表であるあの偉そうな態度を見せた男性が居た。
尚、僕は銃の安全ロックを掛けたが、坂井さんは護衛のつもりなのか拳銃を右手に持ったまま、少し皆と距離を置いて立っていた。
「もうちょっとしたら出て行きますよ。知っている事で言えば射留間駐屯地が破棄された事ですね。後はテレビで流れているくらいです」
「自衛隊基地がか!?」
「じゃあ、救出は一体誰がしてくれるんだ!?」
「そ、その辺りは知らないか、八雲?」
「黒崎先生。僕はただの元高校生ですよ? ちょっと皆より先にゾンビが来るって思って情報は集めてましたが、それだけです」
「そ、それだけって。じゃあ、教室で生徒たちに言った話はその結果か?」
「ええ。ネット情報なので信憑性が無い、と判断したんでしょ? でも、動画、しかも生放送とかの動画の情報も多く含んだものです。そして実際に確かめたら本当でした」
「た、確かめたって、君。まさか」
「ええ。ゾンビを捕まえて解体とかしましたし、大きな音、飛行機のエンジン音に釣られるゾンビとか見掛けました」
「か、解体」
僕の奇行に驚いた大人たちは唖然とした表情でこちらを見つめ、そして銃と鉈に視線がいって、後退った。
「心配しないで、とは言いませんが、襲われたりしない限りは反撃しませんよ。でも、甞めないで欲しいのですが、これでも僕はこの鉈で数十体のゾンビを殺してますから」
鉈の柄に手を掛けながらそう言うと、大人たちが固唾を飲む音が聞こえた。
何故か安藤さんと坂井さんの目線が熱い。
「それで、銃がどうやったら手に入るかですか。自衛隊基地に行けば手に入りますよ。射留間にはまだ一杯ありそうですし」
「そ、そうか。あそこまで行けば。車は難しいから徒歩だな。何時間くらい掛かりそうだ?」
「慣れない内は六時間くらい掛かると思いますよ。ああ、でも今行くと数千体のゾンビの群れが溢れてて大変そうですよ」
「す、数千!?」
「ええ。まあ、それでなくとも道路もゾンビがいっぱいですし、ゾンビを狩れる自信がないなら止めたほうが」
「な、なら君が取って来てくれ。一度行ったなら大丈夫なのだろう?」
「その見返りに僕は何がもらえるのですか?」
「なっ!? こ、子供だろう、君は! 大人の言う事を」
「またそれか」
僕は黙らせる為に鉈を抜き、坂井さんは銃を煩い男性に向けた。
「従わせたいのは解るけど、子供は大人の言う事を聞きなさい、なんて魔法の言葉はもはや通じない。いい加減気付けよ、おっさん」
僕は今まで見せた事なの無い本性。
仲間たちにも見せた事の無い狂暴性を出した。
「こっちが大人しくしてればつけ上がる。話し合いがしたいなら調子に乗るな。どっちが有利なのか解ってから発言しろ。大人だろ、あんた?」
「なっ、なっ、なっ」
偉そうな態度を見せていた男性は、鉈と拳銃を向けられ、僕の暴言に腰を抜かして座り込んだ。
教頭と担任は腰を抜かす事は無かったが、完全に恐怖に支配され、顔が青ざめていた。
「はぁ、教頭先生。質問は以上ですか?」
大きく溜息を吐いてから鉈を収め、話し合いの続きを促す。
坂井さんも拳銃を下に向けた。
「あ、ああ。えっと、知ってる事があれば教えて欲しいんだが」
「括りが大き過ぎます。もっと具体的にお願いできませんか?」
「そ、そうだね。黒崎先生は何か無いかい?」
「え? ああ、そうですね。えっと、ああ、そうだ! 食料がありそうな場所を知らないか? もうここの備蓄が底を尽きそうなんだ」
「近所のスーパーや国道沿いにあるコンビニは行きました?」
「ああ。あそこはもう取り尽くした。他のグループも狙っていたようであまり確保出来なくてね」
「そうですか。だったら給食センターぐらいですかね。ちょっと遠いですけど」
「ああ、あったね、そう言えば。なるほど、そうか」
「後は自衛隊の駐屯地ですかね。流石に遠いですよ?」
「車が使えればなぁ。事故や乗り捨てられた車がいっぱいで幹線道路は軒並みアウトだよ。この辺りは交通量が大した事なくて大丈夫だったけど」
「良い情報交換になりましたね。しかし、やっぱりですか。思った通りです」
「八雲君って、実は頭が良かったんだね。先生として失格だよ、そこを見抜けなかったのは」
「学校の勉強はイマイチでした。でも、色々参考になってますし、勉強はやっておいて良かったと思ってますよ」
これは別に教師におべっかを使った訳じゃなく、本当に思っている事だ。
学校で習った事がそのままダイレクトに役に立っている訳じゃないが、間接的に色々役に立っていた。
そしてこの先習う事が出来なくなる世界では、とても貴重な体験をさせてくれたのには感謝している。
「そ、それは教師冥利に尽きるね。ああ、教頭先生すみません。僕が思いついたのはこんなことぐらいです」
「そ、そうか。えっと、私もあまり。ああ、その五反田さんは何かありますか?」
「わ、私か? そ、そうだな。ああ、自衛隊の助けは何時来る?」
「予想で良いなら話しますよ。ただし、これはあくまでも僕の予想であって直接聞いた訳じゃない。そして聞いたからと僕を罵るのならもう話す事は無い」
「くっ、この。い、いや、そうだな、予想で構わん、話してくれ」
「早くて二週間後。遅くて一年以上先。最悪は来ない」
「なっ!? それでは助からんではないか! 自衛隊は何をしているんだ!」
「何をって、ライフラインの確保と安全地帯の確保、そして直接基地に来ちゃった一般人の保護でしょうね」
「ぜ、税金を無駄に使いおって」
「もしかして知らないのですか? 自衛隊員って全部で二十五万人しかいないんですよ? 防衛大学の学生とか防衛相の職員を合わせても三十五万人くらいしか居ません」
「そんなに居るなら助けを出せるだろう!」
「全国にある自衛隊基地全部合わせての数ですよ、全国の。決して関東だけではありません。それだけの、たったそれだけの数でどうやって一億人の人口全てを助けれるんですか」
「ぐっ、確かにそう聞くとそうだが」
「だから優先順位を決めて行動してると予測しているんです。場所確保と政府要人の救出、これが最優先でしょうね。ライフラインは最低限の防衛でしょう」
「だ、だから中々助けには来ないと言うのか。それはどれぐらいの確立だ?」
「さあ? 統計学者や軍事評論家でもない、ただの元高校生の予想に何を求めているのですか?」
「なっ、キサマ」
「はい、約束破りだな。もうおっさんの質問には答えねぇよ。黙ってろ」
「ひっ!?」
再び鉈を抜いて黙らせる。
また座り込んだのを確認してから鉈を収め、教師たちに声を掛けた。
「もう聞きたい事はないですか? そろそろ出たいんですけど?」
「ああ、いや。そうだ、八雲たちはどこに身を寄せてるんだ? もし自衛隊とかなら」
「自分たちだけでやってますよ。場所は言えません。言うと馬鹿が寄って来て面倒です。銃で撃ち殺されたくないでしょうし、後を付けるとか止めてくださいね」
「そ、そうか。その、最後に良いだろうか」
「最後ですか? 黒崎先生はこう言ってますが、教頭は良いですか?」
「え、あ、構いませんよ」
「だ、そうです。どうぞ」
「そ、それじゃあ。この学校に立て籠もるのは大丈夫だろうか? この先もやって行けるだろうか? 予想で構わない。聞かせてくれ」
子供であるはずの僕に対して縋る教師。
担任は気が付いたのだろう、もはや大人や子供と言う括りで終わる世界ではないと。
生き残れる力の有無こそ優劣を分ける事になったのだと。
そして彼は僕にそれがあると判断したのだ。
「そうですね。高確率で破滅します。理由は食料不足による内部分裂で殺し合い。その次がゾンビの侵入を許して壊滅。こっちは家族や友達を庇って噛まれた人を匿って、ですね」
「な、なんと」
「ここだけで生き残るとするなら家畜や野菜の種を入手してくる事ですね。そして農畜産業を敷地内で行い、自給自足する事。近隣にある食料だけでは持って一ヶ月じゃないですか?」
「自給自足。それが君の言っていた自衛か。そんな事を伝え聞いていたが」
「まあ、そううですね。ああ、黒崎先生だから追加の予測を言いますね。この学校を廃棄して違う場所を目指した方が良いですよ」
「な、何故だい?」
「ゾンビをどうにかしようと国は都市部を爆撃しそうだからです。ゾンビって燃やせば倒せますから。何せ脳が茹でって破壊できますし」
「なっ!? 生き残っている人はどうなるだ!」
「そりゃあ、日本国が生き残る為の犠牲と言う名の大義でゾンビ駆逐を優先する時期はやってくるでしょうしね。銃じゃあゾンビを倒し難いですから爆弾で一気にドカンです」
「な、なんてこった」
教頭と担任は僕の言葉を信じたのか顔が青ざめ、どうすればと呟きだした。
座り込んでいた男はまた何か言いそうになるが視線を向けたら黙った。
「なのであの校庭のゾンビを始末し後、この学校に残った人たち全員運動した方が良いですよ。将来逃げ出す体力を付ける為に。勿論先生たちもね?」
僕たちは話が終わったと判断し、この部屋を後にした。
部屋を出て廊下を歩いていると色々な人の視線が突き刺さる。
だけど僕たちは無視をして突き進む。
もうここは僕たちには関係ない場所だ。
最低限、いや、十分な情報は与えた。
それも見返りを求めずだ。
だから僕たちは無言を貫いて歩き、歩みを止めた。
「おい、八雲。お前、ちょっと調子に乗り過ぎじゃないか?」
階段の手前で元同級生たちに出遭ったからだ。
「だから何だい?」
「それが調子に乗ってるって言うんだよ! 嘘吐きの癖しやがって!」
「そうだ、そうだ、嘘吐きめ!」
「安藤さん? 何でこんな奴と一緒にいるの?」
「そうよ。こいつは嘘吐きなのよ?」
「それに坂井さんも、何でなの?」
僕だけじゃなく、仲間たちにも牙を向けて来る。
何のつもりかは知らないが、敵対するつもりなら容赦しない。
それを校庭で見せつけたはずなんだがな。
「なぁ、もしかして僕たちの邪魔をしに来たのか?」
「はぁ? 何言ってるんだ、嘘吐き。てか、その銃なに? おもちゃでもぶら下げて恰好付けてるつもりか?」
「でも音は凄かったな。おもちゃでもそれだったらアリだな。八雲、寄越せよ」
「そうか、略奪者でもあるのか」
「お前何を言って」
僕は鉈を抜いてそのまま振り抜く。
鉈は不用意に近寄ってきた馬鹿の頭の上を掠め、茶色に染めた髪が数本舞った。
「はっ?」
「お、お前、何しやがるんだ!?」
「「「「「「きゃあああああああああ」」」」」」
「お前ら見てなかったのか? 俺たちがゾンビどもをガンガン殺すところを。校庭で銃を撃ってあの人たちにゾンビに向かわせたのを」
「な、お前、まさか」
「ゾンビは死体が動いてるだけだ。そしてあの人らはゾンビに噛まれてもう助からない運命にあった人らだ。お前たちみたいな粋がっただけの奴と違って俺は殺せるんだよ」
「ひ、人殺し! この人殺しが!」
「その人殺しの前に居るお前は獲物だよな? 態々近寄って来て喧嘩売ってきたんだから殺してくださいって事だろ?」
「八雲君」
「安藤さん、黙っててね」
「うん」
「な、お前、安藤さんに何をしたんだ?」
「煩いなぁ。なあ、坂井さん。そろそろ我慢しなくて良くない?」
「八雲の言う通り。邪魔だし撃っちゃう?」
「そうだね。二、三人撃てば抵抗しなくなるかな?」
「う、うわぁああああああああああああ」
僕たちの異常性を目の当たりにし、彼らは到頭耐えれなくなって逃げ出した。
そして遠巻きにして僕たちを見ていた人たち。
そちらに視線を向けると、廊下から人が居なくなった。
これで静かになったし、さあ、帰ろうか。
僕たちは歩みを再開し、藤野家に戻った。
「で、奴隷にして連れて帰って来たと。八雲君ってクズだったんだ。で、今日から一緒の部屋とか言っちゃうの?」
「え、えっと、その、そう言う趣味だったんだね。わ、私は気にしないよ」
学校を抜け出し、藤野家までの道程でゾンビと遭遇する事数回。
集団は回り道してやり過ごし、少数であれば駆除してから戻ってきた。
そして藤野さんたちに合流して安藤さんが戻ってきた話になったんだが、凄い言われようだ。
確かに僕は従者の様にとか言ったけどさ、それを坂井さんが似たような、いや、改悪して話したからこうなった。
「安藤は八雲に従属した。これからは奴隷の様に付き従う事に。だからもう離れる事は無い」
「ちょっ!? それだと誤解を」
「えっと、私が奴隷? うん、そうかな? これからはご主人様って呼んだ方が良いのかな? どうかな、ご主人様?」
「安藤さんまで何言ってるの!? 二人は僕をどうしたいんだ!?」
こんな感じで安藤さんまで悪乗り、だと思いたいのだが乗ってきたからこうなった。
確かに潜在的な所で安藤さんは僕に依存する体質を植え付けられたとは思うけど、同級生を奴隷扱いってどんな鬼畜だ。
甚だ遺憾な事だが女子四人に対して男は僕一人。
こんな状況で僕の立場なんて無く、暫くおもちゃにされた。
田中と山根よ。
これがお前たちが羨ましがっていたハーレムの実態だぞ?
「八雲の一人称は俺だった。ワイルドモード?」
「え? 何それ?」
そしてそのまま僕の本性に付いての話になった。
「ああ、うん。八雲君が切れた? ううん、相手を威圧する為なのか暴言を吐いたり、攻撃的な態度を取ったりしたんだけど、その時は僕じゃなくて俺って言ってたの」
「そうなんだ。八雲君が俺って使うの見た事がないけど、実はそうなんだね」
「俺とか言う八雲君かぁ。ねぇ、ねぇ、ちょっと言ってみてよ」
「いやぁ、あれって演技と言うか、敵対する時に使う感じだし。僕の容姿で使うと違和感あるでしょ?」
「確かに八雲君って身長も普通だし、体付きも普通なのかな? 顔付きも優しい感じだから僕の方が合ってるとは思うけど。でも、あのゾンビと戦う時の表情だったら合うよね?」
「うん、八雲君の戦う時の顔は凛々しいって言うか、キリッとしてる」
「自信のある笑みを浮かべた八雲は恰好良い」
「あ、確かにそうかもー。じゃあ、その感じで俺って言ってみて? こう、俺の為にさっさと死ね、とか言いながら」
「「「きゃー」」」
何故か僕がどこかの中二病戦士になっていた。
楽しそうに騒ぐのは良い事だよ、僕以外には。