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ヘリの姿が見えなくなるまで叫んでいた仲間たちは呆然とし、力尽きる様にその場に座った。


僕も疲れが溜まっていたのでその場に座り皆を見回す。


救出ヘリと言う天の助けを目の前で逃したショックは相当なのか、皆死んだような表情、涙を流しながら下を向いている。


それは何を考えているか分からない藤野さんも、そして一番しっかりした考えを持つと思える坂井さんも同じだ。


僕も少なからずショックは受けている。


予想していて解っていた事だとは言え、やっぱり心に来るものがある。


自衛隊に保護されたら安心する、と言ったのは本心だ。


でも、彼らより僕は諦めが付いていた。


藤野家を直に出発出来なかった事。


出遭った女性と子供への対応。


無駄な時間を使った代償を理解していたからだ。


今はショックの所為で考えられないが、皆もその事に気が付くはずだ。


そして僕の言う通りにしてきたから、藤野家に滞在せずに直にここに来ていれば一緒に行けたはずだ、と。


前者はよいが、後者だと僕への不満が溜まり、内部分裂してしまうだろう。


そうならない為にも次の手を打つ必要があった。


そもそも僕としてはこの展開は、目の前でヘリが飛び立つのは予想外だけど、自衛隊に合流せずに駐屯地に訪れるつもりでいた。


その理由を実行するだけだ。


「はぁ、くそ。ごめん、皆。一日、いや半日読み違えた。せめて後一時間早く出発してれば」


「八雲君の所為じゃないかな? だって出発準備してなかったのは私たちだし」


僕がぼそっと言った言葉に藤野さんが続いてくれた。


僕は驚いた振りをして彼女を見る。


全員の視線を集めた彼女は僕を見て一瞬微笑み、申し訳なさそうに頭を下げた。


「それに、あの女の人の所で時間も掛ったし。八雲君だけの所為には出来ないよ」


「いや、それでもごめん。僕を信じて付いてきてくれたのにこんな事になって」


「八雲、そのすまん。一瞬だけどお前の事を恨んじまった。散々頼ってくれと言ったのに、まだ頼ってた」


「そう、だな。俺もすまん」


「藤野さん、田中、山根、ありがとう」


「えっと、私も恨んだりはしてないから。その、変な事を背負わせてごめんね、八雲君」


「わ、私も。そ、その家に寄りたいなんて我儘言ってごめんね」


「安藤さん、横山さんもありがとう」


「私は?」


「えっと、坂井さんもありがとう。って、何で? 何も言ってないよね?」


「流れに乗ってみた」


「なんだよ、それ」


「じゃあ私もー。八雲君、わん、もあ、ぷりーず」


「ホント、何言ってるんだ藤野さんまで」


「えー、そこは愛してるぞ、とか言う場面じゃないかな?」


「マジ、何言ってるの!?」


「氏ね、八雲!」


「そーだ、そーだー」


「酷い!?」


遠くで輸送機にゾンビが群がる飛行場に、高校生たちの笑い声が聞こえた。


いや、内部分裂回避と雰囲気回復のアシストには助かったけど、だからラブコメは要らないんだって。


本当に藤野さんは良く解らない。


取り敢えず雰囲気は良くなったので、この後の提案をしてしまおう。


「ふぅ、色んな意味で予想外な出来事が起きたけど、ここに留まっている訳にはいけないし、移動しよう」


「移動するって、藤野さんの家に戻るのか?」


「いや、その前に基地の内部も見ておこう。もしかしたら自衛隊員が残ってるかもだしさ。居なかったら横山さんの家に行くってのはどうかな?」


「そうだな。その可能性を忘れてた」


「えっと、寄ってくれるの?」


「うん。あ、ほら、両親が心配だろうってのもあるけど、正直疲れたから早く休みたい」


「あははは、うん、そうだね。疲れたね」


「と、言う訳だ。もうちょっとだけ頑張ろう。もしかしたら銃とか手に入るかもだぞ」


「おお! ゾンビパニックと言えば銃の入手だよな!」


「だな!」


まあ、銃は保管をしっかりしてそうだから入手は難しいと思うけどね。







幸いな事に輸送機のエンジンはまだまだ回っており、ゾンビどもは釘付けだ。


そのお陰もあって大きく迂回しながらだが飛行場にある倉庫まで辿り着いた。


この辺りでは戦闘が無かったのだろう、ゾンビの死体どころか血痕なども見かけない。


ただ倉庫の鍵はしっかり閉まっているようで入れなかった。


窓ガラスを割ったりすれば侵入出来そうだがそこまでする必要を感じないので早々に諦め、次は人が居たであろう建物に近寄る。


この辺りでも戦闘は無かったようで血痕も見当たらない。


当然の様に人も居ないが入り口の鍵は閉まっていなかった。


多分直前まで人がここに居たのかそんな感じがする。


ただし慌てて出て行ったのか、色々な物が落ちていた。


「ここにさっきまで居た訳か。自衛隊だけじゃなく、一般人も居たかもな、ここ」


「そうだね」


保護した民間人の私物であろう雑多な物が廊下に落ちていた。


逃げ出す時に落としたのか、必要最低限の手荷物しか持たせてもらえなかったのだろう。


一つ一つ部屋を確認していくと、布団なんかが敷いてあるし、鞄なんかが置きっぱなしになっている。


どうやらこの建物は民間人が泊まる場所として使われていたようだ。


「ゾンビが居るかも知れないから最低限の注意を。後、どこかに食糧庫や食堂とかあるだろうし、食料があったらちょっと拝借しちゃおう」


「自衛隊の食事ってどんなだろう?」


「食堂があるなら給食レベルじゃないか? 学校のじゃなく企業の」


「だったら美味しいのかも」


「そう言う場所の食材だと持ち運び難いね。それよりもレーションとかあると助かるかな。後バックとか」


「レーション?」


「災害時に避難所で配られるような配給食をイメージしてもらえれば。要は缶詰やレトルトだね。電子レンジや湯銭をしなくても温めて食べられるタイプがあるから、それがあれば欲しいかな」


「凄いね、レーション。どれぐらいもつものなの?」


「最新ので三年だったかな? ただそれがあればだけど。缶詰タイプだったら無理する必要はないし。でも保存期間次第では持ってきたのと交換でも良いぐらいだね」


「なるほど。あ、ここが食糧庫じゃない?」


話ながら進んでいたからあっと言う間に食糧庫、いや、備蓄庫に辿り着いた。


ここが元からそう言う部屋だったのか分からないが、段ボールには非常食が入っていると思われる事が書いてある。


「よし、二手に分かれよう。レーションを選別する班と探索班だ。僕はレーションで」


「じゃあ俺は探索だな。山根、よろしく。」


「おう。ところで二階はどうする?」


「あー、一階を制覇したら戻って来て欲しい。後、二階から降りてくるかも知れないゾンビに注意を忘れずにね」


「了解。って、ゾンビって階段を上り下り出来るのか?」


「まだ一度も見てないけど這ってれば可能じゃないかな、どっちにしろ」


「あ、そうか。安藤さんたちはどうする?」


「え、えっと、そうだね。私たちは鞄を手に入れて来るよ」


「いや、それは待った。ここに軍用バックとかもあるし態々行く事はないかな」


「うーん、それじゃあ田中君たちに付いて行こうかな」


「あ、私も行くよ、明日菜」


「それじゃあ私は八雲君の手伝いかな」


「私も」


こうして食料確保班は僕、藤野さん、坂井さん、探索班は田中、山根、安藤さん、横山さんに決まった。


決まったらそれぞれ動き出したのだが、探索班が離れて暫くしてから藤野さんが話し掛けて来た。


「それで、八雲君としてはどこまで予測してたの?」


僕は段ボールを開けて内容物を確認し、レーションタイプの物を選別していく。


缶詰タイプはほとんど無いようで、選別するのもどんな食べ物なのかに絞った。


坂井さんは軍用バックの箱を開けて、小さめのバックとリュックが無いか探してくれていた。


「今朝ヘリが飛び交っているのを見た段階で間に合わないとは思ってたかな」


「え? そんな早くから? じゃあ、どうしてここに来たの?」


「元々自衛隊の基地には来たかったんだ。色々欲しいものが揃ってるから」


「これで大丈夫?」


「うん。それぞれ人数分よろしくね、坂井さん」


「解った」


「もしかして、あの親子みたいなのと遭遇するのも?」


「んー、ゾンビに襲われて噛まれた人か、僕たちみたいに基地を目指してる人には出遭うとは思ってた。あのパターンは予想外だったね」


「そっかぁ。本当に色々考えてるんだね、八雲君。それも四月一日から?」


「流石にそんな訳無い、事も無いか。こう言うシチュエーションは起きるだろう、と言うのは想像してた。何通りもね。その中で推移を見てどのパターンに当てはまるかを検証。そんな所かな」


「凄いなぁ、本当に。ところで自衛隊に置いて行かれた時のは演技なの?」


「そんな訳ないよ。保護してもらえるなら安心だしね。あ、坂井さんありがとう。それじゃあリュックの中身を入れ替えて、このレーションを五つずつバックに入れよう」


「リュックには入れないの?」


「食料は藤野さんの家に帰ればまだあるからね。だから手荷物の分はいざと言う時には捨てれるでしょ。で、リュックの空きには別のを入れる」


「あ、もしかしてそっちが本命?」


「その通りだよ、藤野さん。出来れば防弾チョッキとかの防具類。後は銃と弾丸かな」


「銃って本気だったんだ」


「そうだよ。でもゾンビには銃は不向きだね。ヘッドショット出来る距離なら鉈やバットで殴る方が確実だし。どちらかと言えば対人用」


「あ、そっか。ここからは人も敵になっちゃうのか。でも、戦えるかな?」


「やってみなくちゃ分からないね。でも、やるしかない。多分、今日のヘリを見た人たちが暴走するから」


「私は戦える」


「坂井さんには期待しているよ」


「任せて」


「ちょっと、私は? 私もやれるよ」


「うん、藤野さんにも期待してるよ」


「だからそこは」


また藤野さんがラブコメ台詞を言いそうになったが、それを邪魔する声が上がった。


「八雲! こっちに来てくれ!」


僕は急いで通路まで出て確認すると、山根が通路で手を振っている。


どうやら何か見つけたようだ。


ちょっと焦った感じからすると、あまり歓迎したくないものを、だ。


「全員で行った方が良いね。荷物はそのままにしておこう」


僕は二人を連れて近付いていく。


近付くにつれて山根の表情が見える様になり、かなり焦っているのが分った。


「何があったのかな?」


「怪我人だ」


最悪のパターンだ。


僕が想定していた中で良くないものとして考えていたのは、ゾンビ、老人、子供、僕たち以外の侵入者。


そして最も嫌なのが怪我人なのにここに残っている人、だ。


何せそれはもう助からない、しかも、連れて行く訳には行かない人だからだ。


「一人だけか?」


「いや、結構居る。十一人だ」


「ふぅ。それで田中たちは中か? まさか近寄ってないよね?」


「それは」


これはまずい、と僕は急いで駆け寄り、部屋に入って三人の姿を探した。


三人はそれぞれ怪我人たちに近寄って声を掛けている。


心配なのは分るが不用心過ぎだ。


「三人とも、立ち上がって下がって」


「え? 何を言ってるんだ、八雲?」


「そうだよ、怪我人だよ?」


「う、うん」


横山さんだけは思い至ったのか立ち上がって速足で僕の方に近寄ってきた。


「横山さん、触ってないよね?」


「うん。どうしてよいか分からなかったし」


「それで良いよ。感染症の心配もあるから素手で触るのは厳禁だ。それだけじゃないけど」


「八雲? どう言う事だ?」


「ここには先ほどまで自衛隊が居たはずなんだ。それなのに治療済みの人が残っている。自衛隊員と一般人がね」


「だからどう言う事なんだよ! 怪我人をそのままとかにしておけないだろ」


「いいかい? 田中、安藤さん、良く聞いてくれ。自衛隊は怪我人をそのまま置いておくような事はしない。絶対にだ。しかも仲間である隊員だったら尚更だ」


「だけどこうやって実際に」


「どう言う場合に置いていくかと言えば一つだけだ。それを人じゃないと見做したんだ。普通の怪我なら護送する。勿論死体もだろうね」


ここまで言えば気が付いた、いや、理解したくないけど理解出来たのか、それとも解っていたけど理解したくなかっただけなのか二人とも立ち上がった。


「ゾンビにやられた人たちだろうな。くそっ、せめて部屋の鍵でも閉めていけよ」


一番良いのは処理、頭を破壊して殺す事だ。


ただ、自衛隊たちも仲間や民間人をその手にかける事を躊躇し、こんな中途半端な事をしたんだろう。


本当に最悪なパターンを残してくれたもんだ。


「もうこの建物はダメだ。急いで荷物を持って出よう」


「こ、このままにしておくのか?」


「田中は止めを刺せるのか? まだ辛うじて生きている、まだ人間の頭を破壊出来るのか?」


「八雲が言ってたじゃないか、ゾンビに噛まれたら高確率で死亡してゾンビになるって。だったらそうならない可能性も」


「ネット動画の情報で悪いけど、ゾンビに成らなかったパターンは噛まれた部位を即座に切断した場合だ。噛まれてそれなりに立っているだろうからダメだろうな」


「そ、そんな。じゃあ、この人たちは」


「死んでゾンビになる。声を掛けても反応しないなら一時間以内にでも死んでゾンビ化すると思う。だから直に行動しよう」


僕はこれ以上言う事は無いとばかりに部屋を出た。


藤野さんと坂井さんは素直に付いてきたけど、横山さんは安藤さんに心配げな視線を向けてから付いてきた。


部屋の外では山根が立っていたが顔色が良くない。


多分僕が言わなくてもそう思っていたのだろう。


でも、親友の田中が言う事を否定したくも無かった、そんなところか。


「山根。あの二人が出て来るまで見てあげててよ。僕たちは急いで荷物を纏めてるから。ただ、時間は余りないかな」


「わ、分かった」


完全に失敗したな。


こう言う事も想定して探索班は僕だけにしておけば良かったかも知れない。


まあ、今更か。







結局田中と安藤さんが合流してきたのは五分後の事だった。


何も言わないけど今のところは僕の方が正しい、と無理やり思い込んでいるんだろう。


はぁ、折角内部崩壊の危機を脱したのに、また可能性が出て来た。


これはちょっと手が無い。


こうなったらグループを分裂する事も視野に入れなきゃだな。


「リュックの中身をこっちの軍用のに入れ替えてくれ。これはとても丈夫だし、見た目以上に物が入る物だし。後、手荷物になるけどこのバックを一つ持って欲しい」


「了解。これが軍用装備かぁ。まさかこの手にする日が来るとは」


山根は僕の言葉に軽口を叩いたが、田中と安藤さんは無言で移し替えを始めた。


先に来ていた僕たち四人は既に準備を終えてるし、移し替えるだけなら直に済むだろう。


三分も掛からずに終わったのですぐさま移動する事にした。


「さて、ここからだが一番近い格納庫に寄りたい。もしかしたらここみたいな事になっているかも知れないが、それでもだ。どうだろうか?」


「私は良いよ。ああ、でもゾンビがうろつき出してたら却下で」


「私も」


「えっと、格納庫って?」


「飛行機やヘリを入れて置き、整備するところ。そう言う場所には便利な工具や積み込む為の物資が置いてある可能性が高いんだ」


「銃があるかもか! よし、行こうぜ!」


「えっと、田中と安藤さんは?」


「あ、ああ。行こう」


「う、うん、そうだね」


二人の反応は相変わらず良くないが、動いた方が良いだろう。


兎も角ここから移動して、気分を変える必要があった。


流石に格納庫のゲートは開いたままになっており、型番は知らないが戦闘機が置いてあった。


こんな時でなければ盛り上がっていたかも知れないが、流石にそれは無かった、僕は。


山根は見るからにテンションが上がり、田中も少し気持ちを盛り返したようだ。


ここに居れば田中が復活するかも知れないが、ここには欲しい装備は無さそうだ。


なので次の格納庫に向かうも、そこも戦闘機だったのでスルー。


僕が狙っているのは輸送機か輸送ヘリの格納庫だ。


格納庫に装備の備蓄があるかと言えば疑問だが、急いで準備したなら何か残っているはず。


なので幾つか覗いてみて空の格納庫を見付け、入り込んだ。


かなり慌てて発進したのだろう、色々な物が乱雑に置かれ、床にも散らばっている。


そして狙っていた物を見付けた。


「あった。この格納庫を家探ししよう。狙いは防具か拳銃だよ。後は鈍器に使えそうなもの」


「何で拳銃なんだ? 自衛隊の銃と言ったら自動小銃や機関銃じゃないか? 後はロケット砲とか」


「ロケット砲は大きいし重いよ? 後携行性を考えたら拳銃が一番かな。まあサブマシンガンぐらいなら有かな、リュックに入るし」


「了解。って、サブマシンガンって名前は聞くけど実際どんなだ?」


「拳銃の大きさで握りが二つある銃だよ。ちなみに拳銃もサブマシンガンも九ミリ弾だったはずだからそれをちょっとだけ在庫で」


「おっしゃー!」


「八雲君って、そんな事まで調べてたの?」


「いや、調べてたと言うかマンガ的知識だよ。自衛隊をテーマにした小説とか結構あるし。ほら戦国時代に行くのとか、異世界に行くやつ」


「ああ、うん。でもそれを山根君が詳しくないって言うのが」


「ぐあ!? やっぱり俺は無駄なオタクだったのか!? って、そっち系統は田中だ、田中」


「あ、おう。そ、そうだな、銃関連は俺が見分けるわ」


「そう? じゃあ、田中を中心によろしく。僕は防具類を集めるから」


山根に引っ張られるように田中も持ち直したから何とかなるだろう。


後は安藤さんなんだが横山さんに頑張ってもらうしかない。


藤野さんと坂井さんには銃集め班に加わってもらって、安藤さんと横山さんは僕と防具集め班だ。


銃は立派な武器だ。


しかも、殺傷能力が鈍器よりも高い。


今の精神状態でそんなのを手にしたら、いよいよ壊れてしまうかも知れない。


そんな事になって欲しくないのでこう言う分け方にした。


僕は防弾チョッキを拾い上げながら二人に話し掛けた。


「重いな、思ったより。さて、二人にも防具集めをして欲しいんだけど、これみたいなベストや手袋やアームガードを見付けて欲しい」


「それを着るの?」


「普段着にはしたくないね、この重さだと。自衛隊ってやっぱり凄いね。こんなの身に付けて一日中活動とか出来ちゃうんだし。あ、戦闘服も欲しいね、あの緑色のやつ」


「ヘルメットは要らないの?」


「自衛隊のフル装備は安心感があるけど動き辛くなるからね。ああ、ブーツでサイズの合うのがあれば欲しいかも」


「解った。ほら、安藤さんも一緒に探そう」


「う、うん」


さてと、取り敢えず十分、いや、十五分を目途に家探しをしよう。


それ以上になると不安がまたぶり返してくるだろうし、何時まであの輸送機のエンジン音が続くとも限らない。


兎も角、入手出来たらラッキー程度にしか思ってなかったし、物よりも時間の方を優先する。


そして十分ほど探してみた結果、銃関連は拳銃が十二丁、専用のケースが八個、短機関銃が一丁、自動小銃が二丁、装填済みの弾倉が五十個、五十発入りの銃弾ケースが数えきれないほど。


装填済みの弾倉は全て自動小銃用の物で、弾丸ケースの弾丸は全て九ミリ弾だった。


幸いな事に拳銃には弾丸が装填済みであり、態々装填しなくてよいのはありがたい。


そして防具類だが防弾チョッキは数えきれないほど、アームガードやレッグガード、ブーツは数えるほどしかなかった。


まあ、防弾チョッキはあれとして、それ以外の装備は標準装備じゃなくて危険地帯に行く場合のみの装備だしなぁ、ちょっとでもあったのはラッキーだと思っておこう。


「よほど慌てて出発したんだろうね。こんな管理体制とかあり得ないし」


「そうだな。まあ、俺たちとしてはラッキーだけどよ。で、やっぱり自動小銃は持って行かないのか?」


「田中と山根が欲しいならどうぞ。でも銃の使用は基本的に禁止かな。ゾンビを引き寄せるし」


「じゃあどんな時。あ、そうか、うん、なるほど。練習しとく方が良いんだろうが時間が無いか」


「そうだな、銃は必要になる。それは理解してるが引き金を引けそうにない」


「それで良いと思うよ。でも、銃を向けられたら歯向かう気を失くすだろうし、威嚇には最適な武器だよ」


銃はあくまでも対人用だ。


ゾンビモノの作品だと銃でがんがん倒して行くシーンばっかりだが、素人がヘッドショット決めれないからダメなんだよ、やっぱり。


「自動小銃と弾倉の管理は二人に任せるよ。かなり重いから気を付けて」


「ああ。そうだなぁ。三、四個だけ持って行って後は皆のリュックに一個ずつ入れてくれたら助かる」


「じゃあ、そうしようか。それで拳銃は一人一丁持つ事。腰にケースを取り付けてって、ベルトが無いか。それもどこかで手に入れないと」


「うわぁ、到頭銃を携帯するようになっちゃうのかぁ。スマホはその内使えなくなるだろうし、その代わり?」


「拳銃で電話は出来ないけどね。弾丸ケースは一人二箱だけ持って行こう」


「残りはどうするの?」


「このまま放置かな。別の誰かが取りに来るだろうし」


「それって良くない考えの人かも知れないよ?」


「善い人かも知れない。だからどっちもどっちだね。正直に話すと、ここにあるだけが全てじゃない。基地内をくまなく探せばもっとあるはずだよ」


「それもそうか」


「それにあの輸送機の音が止まったら、この辺りは近寄り難くなるよ。あのゾンビって何千体居るんだろうか?」


「そ、そうだね。あ、防弾チョッキはどうするの?」


「着たい人だけにしよう。ブーツやアームガードとかも同じく」


「ブーツは俺と山根だけしかサイズが合いそうにないな。ガードは要らない」


「そっか。じゃあ、僕はフル装備で行こうかな」


早速作業に取り掛かり、僕たちの装備は一新された。


僕の右腰に拳銃、左腰に鉈、腕や足にはガードを付けて、防弾チョッキを着こみ、短機関銃はリュックに入れた。


田中と山根は軍用ブーツに履き替え、肩に自動小銃をそれぞれ下げた。


女性陣は取り敢えず現状装備に変更は無いが、リュックには拳銃が入っているし、とても女子高生とは思えない恰好だ。


今更職業高校生とか意味の無い事だよね。






射留間駐屯地からの脱出は簡単だった。


ゾンビどもは輸送機に首ったけだし、フェンスに穴が空いているし、でだ。


そして路線から住宅街への移動だが、あの親子の事もあるので別の場所、踏切のある場所まで移動してからにした。


この辺りになると輸送機のエンジン音はほとんど聞こえないのでゾンビもうろうろしており、僕たちは出来るだけそれらを避けて移動する。


向かうは横山さんの家だ。


彼女の家は五階建てのマンションらしく、入り口はオートロックだから拠点としても使えるかも知れない。


ただし、中にゾンビが居ない場合に限る。


何とかゾンビをやり過ごし、遠くで生きた人が居たりするのを目撃するもスルーして二時間ほど掛けてマンションまで辿り着いた。


思ったより大きなマンションで、山根さんもブルジョワなのか、とくだらない事を思った。


「ここが私が住んでるマンションだよ。私の家は四階にあるんだ、ほら、そこ」


自分の家が有る辺りを指差しながら山根さんが若干駆け足で進んで行く。


気持ちは解るが警戒しなくちゃならない。


僕は横山さんに声を掛けず、彼女を追い越して先に入り口前までやってきた。


案の定ゾンビが入り口付近に屯しており、自動扉がゾンビに反応して開け閉めを繰り返していた。


僕は手で皆を止め、下がるように合図した。


「予想通りだね。自動ドアの音って結構大きいから。さて、階段とかに非常出口は付いてたりするのかな、横山さん?」


「ご、ごめんさない、不用心だった。えっと、駐車場側に有ったけど、表からは開かない仕組みだったはずだよ」


「完全に避難用かな。だとしたら無理やりにでも乗り越えなきゃか」


「あのゾンビたちを倒す訳にはいかないのか?」


田中が自動小銃に手を掛けながらそんな事を言う。


「銃を使ったら近場に居るゾンビが一杯集まるし、生きている人にも僕たちの所在がばれる。しかも銃を持った危険人物と言う認識で」


「そ、そうか。じゃあ、まずいか」


「後、こう言うマンションとかの狭い場所でゾンビとは絶対に戦わない。何せ背後に回り込めないし、武器を振り回せないからね」


「簡単に倒せるゾンビがパニックを誘発理由はそこか」


「ゾンビモノと違って簡単だったから大した事が無いと思ってた。でも、そうか、狭い場所が多い街中では危険な奴らなんだな」


「そう言う事。だから横山さんの家に向かうのは、最初反対してたんだ、ごめんね」


「我儘言ってごめんね、八雲君。それに皆も」


「いや、美紗の所為じゃないよ? ほら、そろそろ座ってゆっくりしたいしー?」


「そうだな。ちょっとトイレに行きたくなってきた」


「デリカシーの無いのはオタクの特権とは言え、流石にそれはどうだ、田中?」


何時もの雰囲気を取り戻し、笑みが零れる。


あの親子との遭遇から始まった出来事を、今はちょっとでも忘れる事が出来たのだろう。


この調子でマンションへの侵入も達成しなけりゃな。


そして駐車場にやって来たのだが、一階部分の廊下やベランダは高いフェンスで囲まれていて入れそうにない。


階段付近にある非常扉も頑丈そうだし、突破しようとしたら大きな音が鳴るだろう。


そうなるとどこかの家に侵入してとなるのだが、それを今すると僕への不信感がまた復活しちゃうから無しだ。


これはどうしたものかとマンションを眺めていたが、ここで坂井さんが手を上げた。


「坂井さん、どうしたの?」


「あれ」


彼女が指差す先には何かがぶら下がっていた。


そちらに近寄っていくと、二階のベランダに縄梯子が繋がっている。


「なるほど、これで乗り込めと」


「そう言う事」


「しかし、あの部屋の住人は逃げたのかな? それとも戻って来てるか。それによって随分違ってくるが」


「あ、うん、あの部屋は大丈夫だと思うよ」


「横山さんの知り合いの家?」


「中学校までの同級生の家なの。だから両親とも顔見知りだから」


「なら大丈夫か。ちょっと様子を見てくるよ」


「私が行くよ。昔木登りとかもした事あったし」


「そう? じゃあ、横山さんよろしくね」


かなり積極的な反応を見せてくれた横山さんに任せる事にした。


僕も縄梯子なんて使った事が無し、誰がやっても一緒だろう。


それならやると言ってくれた人に任せた方が良い。


お互いに頼る関係になれば信頼は生まれるだろうしね。


横山さんが登っていく様子を安藤さんは心配そうに見つめ、僕たち男たちはズボンを穿いているとは言え、ちょっとエロい気分で眺めていた。


だって仕方ないじゃない、高校生だもの。


ちょっとだけ、ズボンを穿くのを義務付けた事を後悔した。


横山さんがベランダに乗り込んで姿を消してからしばらく経ち、非常扉が開いて彼女が顔を見せた。


「部屋には誰も居なかったし、置手紙によれば喜美ちゃんの、えっと友達のお母さんが二日前に出たみたい。その後は戻って無さそうだね」


「この部屋に戻る事を考えて非常用の梯子を垂らしていたのかな? まあ、兎も角怪我が無くて良かったよ。ゾンビは見かけなかった?」


「一、二階には居なかったよ」


「そっか。じゃあ、横山さんの部屋の安全が確認出来るまで警戒を緩めずによろしく」


「せ、せめて家に入るまでにしてくれよ」


僕たちは少し笑ってから移動し始めた。






その後ゾンビや生き残った人に出遭う事なく、僕たちは横山さんの家へと辿り着き、一息付く事が出来た。


横山家も無人で、家族は戻って来ていないようだ。


聞けば両親共に職場は東京で、兄弟はいないらしい。


間取りは両親の寝室と横山さんの私室、リビングダイニングとキッチンと言ったもの。


よくあるマンションの作りだった。


僕たちはリビングでそれぞれ寛ぎ、横山さんが用意してくれた麦茶を飲んでぐったりしていた。


流石にここまでの事で色々と、肉体的にも精神的にも限界だった。


今日の所はもう何もしたくない、そんな気分だった。


「さて、疲れてると思うけど、横山さん、食材は使えそうかな?」


「んー、生ものはちょっと危ないかも。パスタぐらいなら。えっと、でも具は何かあったかな?」


「そっか。じゃあ、まあ、ご飯はパスタって事で。後毛布とかの予備ってある?」


「流石に無いかな。絵美里ちゃんの家みたいにはちょっと」


「私の家が普通じゃないみたいに。うん、普通じゃないよね、解ってた」


「確かに。普通にじゃなかったなぁ」


「いいもん、いいもん。もっと普通じゃない人がここに居るしー」


皆の視線が僕に集まる。


自他共に認める変人だから甘んじて受け止めるけどさ。


「まあ、うん、ちょっと早いけど食事の準備をしよう。僕も手伝うよ」


「え? 八雲君料理出来るの!?」


「出来ないから出来るようになりたいんだ」


「よ、よかったぁ」


何が良かったのか分からないが、坂井さんを除く女性陣が安堵の溜息を吐いた。


料理の手伝いを買って出た訳だが、献立はパスタだし、やる事がほぼ無い。


具は結局缶詰のトマトピューレが有ったので、冷凍エビを解凍して混ぜるた何と呼べば良いか分からないものになった。


味付けは塩とコショウと粉チーズ。


最終的な味付けは、一番料理上手な坂井さんに一任された。


ここ数日で解った事だが、女性陣は坂井さん以外あまり料理をした事が無いらしい。


基本的に坂井さんの指示でみんなが動く、そんな状態だから何とかなっている。


料理なんて直に出来る様にならないし、時間を掛けて覚えるしかない。


なので女性だからって出来ないのは仕方が無い事だ。


と、藤野さんが僕の横でぶつぶつ言っていた。


貴女に求めているのは女子力ではなく戦闘力です、と本音を言えばどうなっちゃうのだろう?


怖くて僕には出来なかった。


パスタは比較的短時間で出来る料理とは言え、人数分を用意するとなるとそれなりに掛かる。


それでも三十分もしない内に出来上がったパスタを皆で仲良く食べきった。


腹が減っては戦が出来ぬ、と言ったのはどの戦国武将だっただろう?


それとも将校かな?


兎も角、それは金言だな、と思える事実だ。


食事をして食欲を満たされると、心に余裕が出来た。


そうなると疲れが溜まっていて睡魔が襲ってくる。


本当なら今日中に明日以降の話をしたかったのだが、今日はシャワーを浴びて全員眠る事にした。


男性陣はリビングで、女性陣は部屋で。


気が付けば次の日になっていた。

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