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初体験だった夜営の見張りは三交代制にして僕が真ん中を担当した。


そして見張りのお供ににはスマホを解禁して最低限の灯りを確保。


工場内の電気は点けずに朝まで過ごした。


なお、トイレの為の決死行を慣行する事なく朝を迎え、缶詰と前日に焼いていたパンを食べてお腹を満たした。


今まで話していなかったが藤野家にはイースト菌が保管されており、それを使って自家製パンなんかも食べていた。


と言ってもドライイーストなので自家製のイースト菌ではない。


一応天然酵母の作り方は調べて実戦してみたが中々に難しく、今の所坂井さんしか成功していなかったりする。


そして僕のリュックには大量の米と小麦粉が、坂井さんのリュックには調味料類が入っているのでかなり重かった。


僕の場合は手提げバック、と言ってもボストンタイプだけどこれに色々な工具類も入っているので、訓練していなかったらここまで辿り着けなかっただろう。


辛くなったら色々捨てちゃえば良いんだけどね。


「さて、朝食も済んだし出発しよう」


「「「「はーい」」」」


今日中に山に入りたいがどうなるかな。


何せ僕と同じような考えの人が、人の少ない場所に集まっているだろうからね。


しかも適度に栄えていそうな場所。


それが飯農だったりする。


そして出発して一時間もしない内に飯農へと辿り着いた。


この辺りになると建物の数はかなり少なく、一番大きな駅の周辺以外は農地なんかも多い。


だから遮るものが少なく、街中を移動するより警戒しなくて済む。


勿論僕たちは街中を進まずに出来るだけ視野が広く取れる場所を進み、歩き始めてから二時間ほど経っていた。


そろそろゴルフ場が見えてくるはずだった。


「えっと、ゴルフ場を突っ切るんだよね?」


「うん。ゴルフ場って開けてるしね。後、ゴルフ場の周りは森と言うかちょっとした山になってるから事前訓練には丁度良いと思って」


「うわぁ。やっぱり祐司君は鬼畜だよね」


「鬼畜は酷いなぁ。いきなり山登りよりもちょっとでも体験した方が良いでしょ?」


「そうなんだけどさぁ」


「でもその前に靴をどうにかしたいよね」


「あ、そうかも。丁度ホームセンターぽいのもあるしトレッキングシューズとかでも手に入れる?」


「ホームセンターかぁ。うーん」


「何? 何かあるの?」


「いや、そう言う場所ってさ、便利な物が多いじゃない? だから物を取りに来るのに最適だし。後、拠点としても使えるから先客がいそうだな、と」


「なるほどー。近付いてみて問題なさそうなら入るって事でどうかな?」


嫌な予感はするけど強く反対する理由も無かったので視界にあるホームセンターへと近付いて行った。


その行動を後に賛成と反省をする事になるんだけどな。







そのホームセンターは国道沿いにあるそれなりに敷地面積のあるところだった。


当然の様に敷地の入り口を遮る物はなく、本来であれば警備員あたりが誘導してそうな所だ。


それがだ。


何故か大型ワゴン等で出入り口を塞ぎ、フェンスを乗り越えないと侵入出来ないようにされていた。


明らかに誰かが拠点として利用していると解る状態だった。


しかも本当なら警備員が居るはずのプレハブに私服姿の男性が常駐している。


これって近づくのも用意ではなさそうだ。


僕は双眼鏡を外し、状況を皆に伝えた。


「と、言う感じなんだけど。行ってみる?」


「その警戒してる人の武装は?」


「何て言うのか名称は知らないけどゲートとかで警備員とかが立ってるあの建物。そこに居るからさ、武器をそこに隠してたら分からないから何とも」


「ここから自衛隊基地って近かった?」


「南に行けば与古田基地があるね。そこから銃を入手してる可能性は否定できないよ。後無線でやり取りしてそうだから仲間も直来ちゃうと思う」


「あれだけ大きなホームセンターだと百人以上は居るよね?」


「だろうね。ん? 陽菜どうしたの?」


会話に加わらないのは何時もの事だが、坂井さんがホームセンターの方をずっと向いてこちらに顔も向けない。


それが気になって聞いてみたのだが、どうやら何かを見付けたようだ。


「何かに反射した光が見えた。双眼鏡?」


まさか、いや、可能性としては大きくある。


何せホームセンターにはその手のアイテムがいくらでも揃っている。


僕は慌てて坂井さんが指差す方向を双眼鏡で覗くと、二階の窓からこちらを何かで見つめる人影が見えた。


「あ、まずい。こっちの事も丸見えみたい」


「ええ!? それって危ないんじゃないの?」


「どうだろう? あ、建物から人が出て来たね。しかもご丁寧に銃も持ってるし。しかも複数」


「逃げた方が良いんじゃないの?」


「あー、でも、ここで逃げても車で追い駆けられたらなぁ。さて困った」


「そ、そんな暢気な」


視界が広い場所ゆえに、機動力の差は決定的な戦力の差になる。


例え走って逃げようとも車で追い掛けられたら逃げれないだろう。


それこそゴルフ場の様な車が入れない場所に逃げ込まなければ。


この辺りの道路には車の乗り捨てとかほとんどないしね。


多分、拠点とする時に車とかは移動させてしまったのだろう。


兎も角じたばたしても仕方がない。


なので敢えて近付く事にした。


「どうしようもないし、ホームセンターでショッピングと行きますか。サイズがあれば良いね」


「逃げれないなら仕方が無いかぁ。反撃は様子を見てで良いよね?」


「そうだね。いきなり銃を向けるのはご法度かな」


「りょうかーい」


「でも、いざとなったら撃つ。それで良いよね、祐司君?」


「そうだね。その辺りの判断は各自に任せるよ」


さて、相手はいったいどんな人たちなんだろうか?






「止まれ! ここは俺たちが拠点にしている場所だ! こちらには銃がある! これ以上近付くなら敵対行為と見做して撃つぞ!」


敷地の入り口に向けて歩いていると、案の定制止の声が掛かった。


声から察するにそれなりに若い男性のようで、焦りは感じるがいきなり発砲する事はない自制心が感じられた。


ちゃんと警告もしてくるのだから真面な人なのかも知れない。


全員がそうだとは限らないけど。


僕たちは警告通りに歩みを止めて次の声が来るまでしばらく待った。


数分ほど経って再度声が掛かる。


おそらく無線でやり取りをしているのだろう、はっきりと聞こえないが会話らしい言葉が聞こえた。


もしかしたら応援メンバー待ちだったかも知れないが。


何せ入り口前に止めてある車の側に十人ぐらいの大人たちが集まってるしね。


「君たちは何処から来た! そして何しに来た!」


「それほど声を荒げなくとも聞こえますよ。この付近にはゾンビが居ないようですが、とても静かですし響いて引き寄せるかも知れませんよ?」


会話のイニシアチブは向こうにある。


それを取る為にこんな事を言ったが、所詮ネットで調べた交渉術だし通じるとは思えない。


でも、友達の少ない僕としてはこう言う情報も集めておいた。


何せ必要になると思っていたからね。


「そ、それもそうだな」


どうやら上手く行ったようだ。


それにしても交渉と言うか話し相手が若手で大丈夫なのだろうか?


追加で来た人たちの中には中年男性も居るし、代った方が良さそうなんだけどな。


まあ、僕としてはありがたいけど。


そして毎度の事ながらこう言う場合は僕が話す事になっている。


もはや暗黙の了解だ。


「それで何処からでしたね。射留間方面から来ました。理由は彼女たちのトレッキングシューズが欲しくてです」


「保護を求めてではないのか?」


「違いますね。貴方たちが自衛隊などの軍隊ならば保護して欲しいですが、一般人のコミュ二ティなら求めません」


「そ、そうか。ちょっと待ってくれ」


その後再度無線でやり取りをする為か、しばらく放置された。


見える範囲で車の側に居る人たちを見る限り、顔色等に疲れはあるも健康そうだ。


ただし距離はそれなりに離れているからはっきりしないけど。


そして銃の数は五丁。


その内三丁はライフルぽいので自衛隊基地から取ってきたのではないのかな?


山が近いし猟銃なのかも知れない。


そうなると、そんな物を何処で手に入れたんだろうか?


そう言えば猟銃とかの銃の事は調べてなかったな。


そんな考え事していると再度声が掛かった。


「済まないが君たちの身柄を確保したい。大人しくしてくれないだろうか?」


「確保する理由を聞きたい」


「実はここを狙っている別のグループが居る。そいつらとの関係がはっきりしないからだ」


「理由は解りました。敷地に入っても構いませんが、僕たちの武装を含めた荷物は一切渡せない。それを了承してくれるなら大人しくしよう」


女性陣に顔を向けると頷いてくれたので、全員の意志として問題無いようだ。


「何故だ? 何故荷物を渡せないと?」


「僕たちは別に貴方たちの仲間でもなければ知り合いでもない。何故そんな人たちに自分の生命線である物を預けなければならない。それこそ話にならないと思いますよ」


僕の言葉に絶句したのか声が掛からなかった。


ただし車の側の人たちが反応した。


銃を持ち上げると言う警戒行動だ。


そして僕たちの警戒心も呼び起こす。


「待ってくれ! そいつらは俺の仲間だ!」


そんな時、聞き覚えのある声が聞こえた。


「え? 今のって」


横山さんの呟きが聞こえる。


「こんな無茶をする高校生なんて一人しか思いつかない! 絶対に俺たちの仲間ですよ!」


更に聞き覚えのある声がする。


いや、聞き覚えと言うかよく知っている者の声だ。


「まさか、田中と山根か!」


僕の声が登場の合図だったのか、離れて行ったはずの仲間である二人が顔を見せた。


「やっぱり八雲たちか」


「なんつう重装備だ。よくここまで歩いて来れたな」


それは嬉しい再会の合図だった。






「いやぁ、まさかこんな所で出会うなんてな。思ってもみなかったぞ」


「そうだよなぁ。やっぱり山に向かうつもりでこっちに来たのか?」


僕たち五人は田中と山根に迎え入れられホームセンターの敷地内に入る事が出来た。


元高校生の二人が身元を証明したからとあっさりし過ぎてるな、と思ったのだが理由があった。


何とここを拠点とするグループでも戦闘担当として活躍していて、それなりの信頼を得ているらしい。


しかも僕から与えられた情報や知識を惜しげもなく提供したから更に信頼度が。


彼らはまだ十代後半なのに、このグループの中核メンバーとなっていたのだ。


まさかこの二人が、と思う気持ちは有れど、流石は僕たちの仲間と誇らしい気持ちになった。


「その通り。やっぱり山の方が良さそうだしね。あれからも情報収集はしてるかい?」


「あんまり出来てないなぁ」


「俺たち戦闘部隊だからあまり暇がなくてな。情報収集とかあんまり出来てないんだ」


「そっか。じゃあ、あれから得た情報と女性陣のトレッキングブーツと交換でどうだ?」


「情報による、とか言いたいけど資材に関しては俺たちも強く言えないから相談してからだな」


「ふーん」


等と僕たち男性陣だけで話しているのだが、女性陣はトイレ休憩に入った。


やっぱり我慢していたんだな、うん。


なお、いくら田中と山根の友達とは言え警戒心は解いていないらしく、遠巻きにして大人たちが見張りをしていた。


「結構しっかりしたグループだね」


「そうだなぁ。リーダーが元警察官の爺様でさ、しっかりしてるよ」


「優しさと厳しさを併せ持っていて、俺たちの情報を聞いてからはゾンビやゾンビに襲われた人に対して徹底してるしな。柔軟性もあるって事だ」


「へえ、それは凄いね。そう言えばこのグループって何人ぐらい?」


「三百は行かないと思うけど。ほとんどが女子供で守られて当たり前精神だな」


「小さな子供や老人は解るけど、中学生以上や大人の女性は自衛を考えて欲しい。でも、まあ、無理か」


「実質このグループを回してるのって?」


「んー。おそらく五十人くらいかな。それも戦闘に参加したり行動方針を決める役とか。一部のおばさんたちが食事とかやってくれるけど」


「おばさんなんて聞かれたらおかずが減るぞ、田中」


「げっ!? 山根、ばらすなよ?」


等と久しぶりの男性だけの会話を楽しんで居たら、女性陣が合流してきた。


警戒心は忘れていないようで荷物はちゃんと身に付けている。


「二人は相変わらずだなぁ。あ、お帰り皆」


「三人は仲が良いね。祐司君はトイレは大丈夫なの?」


「僕は大丈夫だよ。ん? 田中と山根、どうしたんだ?」


「そうだよ、田中君、山根君。久しぶりに会ったんだから会話を楽しもうよ」


「ちょっと待て、八雲」


「ん? どうしたんだ?」


「俺の耳には聞こえてはならないワードが聞こえたんだが」


「田中君、幻聴でも聞いたの?」


「横山さんの田中への扱いが酷くなってる!」


「美紗さんも前よりも成長してるって事だね」


「やっぱり待て、八雲!」


「そうだ、待て八雲!」


「はぁ? どうしたんだよ?」


「「何でお前ら名前呼びし合ってるんだよ!」」


「「「「「え?」」」」」


「何で驚いてるんだ!?」


「しかもユニゾンだぞ! シンクロ率は幾つだ!?」


「ああ、そうか。二人が実家に向かってからだよな、変わったの」


「そうだったね。じゃあ、田中君と山根君も名前で呼ぼっか」


「「是非お願いします!」」


「でも名前なんだっけ?」


「あ、そう言えば知らないね」


「田中、山根。残念」


「「扱いがひでぇ!?」」


俺たちの久しぶりの漫才ぽいやり取りは置いておくとして、全員名前で呼び合うようになった。


田中の名前は大和で山根は翔太だ。


ちなみに男性陣は変わらず苗字で呼び合う事で落ち着き、僕と同じく度胸の無い彼らは女性陣をさん付けで呼ぶ事に。


兎も角、僕たちは再び合流して楽しんでいた訳だ。


それだけで済めば良かったんだけどな。






取り敢えず僕たちは大人たちの協議が済むまで建屋の中に入れないと言うお達しが出た。


予想出来る事だけに僕は何も思わなかったが、田中たちは憤りを感じているようだ。


グループとしての活動期間が短いし色々あるらしいが、それよりもまずはあれからどうしていたかの情報交換会をする事となった。


「と、まあ、そんな感じで片山高校終了のお知らせ、的な?」


「おうおう、流石八雲だ。容赦ねぇ」


「あいつらざまぁ。でも、藤野さんの家が使いにくくなるのは残念だよなぁ」


「民宿藤野は休業しましたから宿泊出来ませんよ?」


「「超残念!」」


「それで明日菜ちゃんが祐司君の奴隷、あ、違った、従者だっけ? になったんだよね」


「「奴隷!? 従者!? おま、八雲!?」」


「違うぞ! 誤解するなよ、二人とも! と言うかなんて言い方するんだよ、美紗さん!」


「でもあながち間違ってないよね?」


「絵美里さんも追撃!?」


「割と事実」


「えっと、その、祐司様ってやっぱり呼んだ方が良い?」


「「お、おのれ、八雲ー! うらやまけしからん!」」


「俺で遊ぶんじゃねえ! てか明日菜の場合は俺への依存心が固まっただけだ。別に隷属とかさせてねぇよ!」


「で、これが祐司君のワイルドモード。結構恰好良いでしょ?」


「祐司は常時これで居るべき」


「そ、そうだね。こう、頼り甲斐があると言うか、良い感じなのは確かよね」


「うん、この感じの方が落ち着く」


「「ワイルド八雲の好感度半端ないな!」」


「はぁ、まあ、アレだ。僕の本性? 的な物だと思ってくれれば。相手を威嚇したり戦う時ならぴったりだと思って演技してる」


「演技だったのかよ。それにしては堂に入ってたな」


「そうだな。アニキ! って言いたくなる感じ? 言わないけど」


「僕のそれは置いておいてだな。で、ここに来るまでに銃撃戦も経験したよ。まあ、一方的に撃っただけだったけど」


「へえ、八雲たちも経験したのか」


「そ、その、女性陣は大丈夫だった?」


「ちょっときつかったけど、今後の事を考えるとやらないとね」


「そうだね。目指すは熊を撃ち殺すだし」


「熊よりも鹿の方が旨い」


「えっと、祐司君が言ってたし、やろうかなって」


「何か思ってたのと違うな」


「ああ。でも、予想を大きくは外れてなかった」


こんな感じでまずは僕たちの経験を話した。


いよいよ次は彼らの番だが、予想していたよりも激しいものだった。


「じゃあ今度はこっちからだな。結果だけ言うと俺と山根はそれぞれの家には帰れた」


「最初に俺の家に辿り着いたけど、ものの見事に燃えてた。アパートだったんだけど燃え尽きてたな、周りの住宅も含めて」


「そうか。家族は?」


「流石に見当たらなかったな。親父と母ちゃんは東京で仕事だし、兄貴は関西の大学だ。だから焼け死んでは居ないと思う」


「望みはあるって事だね」


「まあ、そうだな。で、そんな光景を見ちゃったし、直さま田中の家に向かった」


「そこからは引き継ぐか。あ、ちなみにゾンビどもは割と遭遇したし、生き残った人も同じく。ゾンビは倒すか避けるかだな。人は、まあ、避けた。面倒だし」


「こっちも似たようなものだよ。一部違うけど」


「それで俺の実家に辿り着いたんだけど、そこでしばらく過ごした。家族も生きてたし」


「「「「「おー!」」」」」


「ただ、まあ。今まで言って無かったけど俺の親って警察関係者なんだ。しかも本庁の方の」


「もしかしてエリート?」


「そこまでじゃないよ、絵美里さん。でも、本庁勤務だからそれなりだな。で、母親と弟が自宅にいた」


「どうやって生き残ってたんだ?」


「それが問題だったよ。近所の人を入れ込んでコミュニティを作ってた、主婦連合みたいな」


「田中の母親がトップでかい?」


「そうだな。で、何が問題だったかと言えば八雲の言ってた通り銃を取り上げようとしやがった。勿論拒否して部屋に籠城したけど」


「なるほどなぁ。そう言えば自動小銃は?」


「ああ。俺の分がダメになって、山根の分を元警察官の爺様に預けてる」


「はっきり言って俺が使うより巧いし。それに預けるに足りる人だしな」


「そっか。それで何故家を出る事になったんだ?」


「色々とさ、知ってる事を母親たちに伝えたんだよ。そしたら学校と同じになった。嘘付き呼ばわりだ」


「弟君までそうなったなぁ。まあ、予想内の出来事と言えるか」


「それで喧嘩しそうになったんだが、それどころじゃなくなった。何せ近所で暴動騒ぎが起きたから」


「ああ、うん、何となく分かった。その騒ぎを止めようと正義の母親が出ちゃったか?」


「八雲ってやっぱすげえな。まさにその通りだ。勿論止めたけど言う事聞いてくれなくて真っ先に殺されたよ」


流石にこの告白には僕たちは喉を詰まらせた。


実の母親を目の前で失う。


何と言えば良いのか分からなかったからだ。


母親の行動は読めたけど、殺されるとは思ってなかった。


いや、考えない様にしただけだ。


「あ、勿論敵は討ったぞ、その場でな。気が付いたらマシンガンを乱射して結構な数の人を撃っちまった。その時に弾が詰まってダメになった」


「俺はその時には撃てなかったな。正直びびって指が動かなかったよ」


「俺の場合は敵討ちなのかな? まあ、かっとなってやっちまった訳だ。で、当然大きな音が鳴り響くからゾンビどもがわんさか集まった」


「そこからは逃げの一手だな。田中の家に逃げ込もうと思ったけど噛まれた人たちが入り込んだし、荷物を纏めてすぐさま飛び出したよ」


「海斗、あ、俺の弟だけど、ゾンビどもが来た時に逸れてそれっきりだ。どうなったか分からない。まあ、でも自衛だから俺たちは逃げたよ」


「探そうにも数千以上の人とゾンビが居ただろうし、無理だと判断した。もし、田中が探そうとしたら殴ってでも連れて行くつもりだった」


「だからあの時殴る仕草してたのかよ。まあ、そこから逃げてる途中でさ、知り合いの爺様と出会って、それが我らがリーダー様だ」


「ああ、その元警察官の人は田中の知り合いなのか。やっぱり父親関係で?」


「そうだな。元親父の上司だか世話になった人だったか、近所に住んでるからって紹介されててな。それで合流したんだ」


「そこからは爺様と共に行動だな。何とか危なそうな場所を抜けて、群馬近くまで逃げたよ。爺様の車でだけど」


「へえ。でも、何でそれで飯農に居るの?」


「そこからがこのグループの始まりだな。群馬近くまで行った理由ってのが銃を手に入れようって事だったんだ。射撃場があるかってな」


「辿り着いた射撃場で立て籠もってた人たちも合流。車の数も増えてその時点で五十人規模までになったよ。で、声もでかいし元警察官だし爺様がリーダー就任と」


「飯農に来た理由は射撃場に居た人たちの数人の住まいがあったからだな。それで取り合えず行ってみようって事になった」


「まあ、それで来たのは良いけどさ。ゾンビは何とかなるとして、生き残った人が問題だった。別のグループが争いをしてたんだよ。あ、飯農の手前だけど」


「大体二百人ずつぐらいのグループかな? それが争ってたんだ。女子短大を拠点としたグループと街の公民館のグループとだ」


「もしかして、争いに介入しちゃったとか? いや巻き込まれて生き残りを回収して大所帯?」


「おお、八雲だけじゃなく絵美里さんも鋭い! まあ、ちょっとだけ違うけどほぼそうだな。女子短大に居た短大生が俺たちのグループに居た人の娘さんだったんだよ」


「それで女子短大グループに合流してた時に公民館グループが襲ってきて戦闘。そこで初めて俺も銃を撃つ事になった。いやぁ、綺麗なお姉さんの前だからか撃てちゃったな!」


「翔太君、それ言わない方が良かったかも」


「そ、そうだね。どんまい、翔太君」


「ぐはっ!?」


「山根の馬鹿は置いておくけど、それで銃をいっぱい所持してた俺たちグループが公民館グループを圧倒。向こうもちょっとは拳銃持ってたけどな。相手にならんかった、爺様や射撃場の常連の」


「流石に爺様以外は腰が引けてたけど。数撃ちゃ中る、だな。女子短大側もそれなりに被害が出たけど公民館グループの戦闘班は全滅。それで吸収しちゃったわけだ」


「勿論全員が付いてきた訳じゃなく、そこで三百近くなってだな、目指していた飯農に辿り着いたのさ。まあ、銃撃戦したからゾンビがいっぱい寄って来てな、居れなくなったんだよ」


「そこは何となく解るな。それでこのホームセンターを見付けて拠点としたのか。何時からだい?」


「六月に入ってすぐくらいだな。そこからここでずっと生活出来る様に色々改修中だったんだよ、先週までは。邪魔が入ったから止まってるけど」


「ああ、それが争ってる別のグループか」


「あいつら拳銃とかいっぱい持っててな。しかも人数が半端ないんだ。五十人ぐらいで一斉に襲いに来るし、車で。だから逃げ足も速くて対処が難しいんだよ」


「なるほどなぁ」


まあ、これで田中と山根のこれまでを知れた訳だが、彼らもかなり濃い時間を過ごしていたようだ。


特に田中は家族の死を目の前で見た訳だし。


色々経験してきたのは僕たちだけじゃなかった訳だ。







その後、僕が新たに得た情報を彼らにも伝えた。


やはり関西の自衛隊基地の話や伊豆諸島の話は知らなかったようだ。


どうも彼らはスマホで検索してそう言う情報集めるのが苦手らしい。


いや、僕だけが得意なようで、女性陣も苦手らしい。


僕の特技は情報収集です。


もし、履歴書を書く世の中になったら是非書こうと思う。


さておき、そんな事をしていて時間が過ぎて、大人たちの結論が出たようだ。







「はあ? 僕たちを捉えると? そうおっしゃるのですか?」


目の前には田中と山根が爺様と呼ぶ元警察官のリーダーがいる。


僕たちは警戒されながらも建屋内に案内された。


取り敢えずトレッキングブーツは貰えるそうだから、女性陣はそちらに。


念の為に田中と山根にはそちらに向かってもらい、僕だけが話を聞く事になった。


そしてこの目の前の爺様は二人が頼りにするのが解る御仁だった。


僕がこんな世の中になって初めて頼りになるかも、と思える人。


流石元警察官で定年退職まで行った人物。


去年退職したあの用務員の老人と同じような雰囲気を持つ人だった。


「そうだな。やはり不満かな?」


「そりゃ、まあ。どんな権利があって僕たちを捉える、言い方は違いましたがそう言う事を言ったでしょう?」


「まあ、確かに。言い方は違えど君たちを捕まえて武装を奪おうって事だな。ちゃんと保護するが。ちなみに法的な根拠などないよ。もはや国として成り立ってないし、日本は」


「そうですね。だから権利があるとしたら僕たちを取り込んで奪える力があるかどうかだけですね。力と言っても武力とは限りませんが」


「そうだな。本当に君は賢いな。坊主たちに知恵を授けたと聞いていたが、聞いていた以上だ。是非私たちの力になってもらいたい」


「情報ぐらいなら渡しますけど、それ以外は拒否したいですね。あ、もし銃を構えたらこちらもやりますよ?」


この部屋には僕と爺様、そして二人の大人が居る。


その二人がライフル銃を握りしめる音が聞こえたので牽制しておいた。


僕はソファーに座っているが、手は拳銃ケースと鉈に掛かっている。


何時でも抜ける体制での座り方だ。


「二人とも、手出しはするなよ? この子は正直手強い。何度か出会った事のある、本物の目をしてるからな」


「こんな子がですか?」


「こんな子が、だ。どう言う人生を送ってきたらこうなるのか分からんよ、まったく」


「普通だったと思いますよ。ただ単に人よりも早くゾンビパニックに危機意識を持っただけで。実際に情報を集め出したのも四月二日からですし」


「ほう、あのアメリカの話を信じたのか! それは凄い!」


「あんなのを信じたのか。信じられん」


「信じない方がおかしいですよ、僕からしたら。派生動画だったら別ですけど、似てるけど別の動画が立て続けです。これは本当だ、と直に解りましたよ」


「私が知ったのは四月十日だったな。その時点では嘘の情報として聞かされたものだ。まあ、しばらくして本物と思っていたが」


「そう言う情報の入り方をして考えを直切り替えられたのは凄いですね。田中と山根が爺様と慕うわけだ」


「あの坊主どもはまだそんな事を言っとるのか。まあ、良いか。それで、答えは否と?」


「ええ。正直僕たちにはメリットがほぼありません」


「利益とな? 何故そう思う? これでも三百人のグループで、ホームセンターを抑えている。ここなら君が言う自衛の為の資材が豊富だと思うがな」


「確かに人数や資材は魅力です。ですが邪魔な人が多過ぎる。メリットよりもデメリットが半端ない。彼らの話を鑑みれば二百人以上の人を切り捨てるなら入りますよ」


「色々聞いてしまってた訳か。これはしまったな」


爺様は苦笑しているが、大人二人は僕の二百人切り捨てろ発言にぎょっとしていた。


まあ、それが当然の反応だよな。


「僕たち五人と武装はそれだけの価値がある。いや、それ以上の価値がある。それを理解して勧誘、いや、脅迫するべきでした」


「むぅ。だが君の仲間のお嬢ちゃんたちを人質にすればどうなる?」


「彼女たちは人を撃てますよ。それに田中と山根が付いている。彼らは僕たちの仲間ですよ?」


「坊主どもは私たちのグループなんだがな」


「それを信じて動きますか?」


僕の言葉はただの虚勢だ。


田中と山根がどっちに付くかはこの時点では分からない。


彼らには自衛を伝え、そしてそれは自分たちで生き残る最善の道を模索し続けると言う考えだ。


女性陣に付いては心配していない。


本当に撃てるだろう。


そして少女たちに銃口を向けれても、撃つのは女性陣からだ。


女性に対して暴力を振るえても、先に殺意は向けれないだろうからな。


その時点で被害はこちらよりも上が確定する。


彼女たちが生き残れるかは田中と山根次第だ。


どちらに付くかで彼女たちも動きを変えるだろう、戦い続けるか降伏するかを。


ちなみに僕だが多分この三人だったら制圧出来る。


何故なら交渉の形を取ろうと爺様が銃などの武器を手元に置いていないからだ。


体術とかを警戒しなくちゃならないけど、まず片付けるとしたら大人二人。


やり方は臨機応変でだ。


「さあ、どうしますか? 僕たちを屈服させますか? それとも少ない利益だけ得て終わらせますか?」


「少ない利益とな?」


「ああ。田中と山根に追加情報を渡しただけです。それが今後に大きく関係しそうな内容なので利益になりますよ?」


「ふむ、増々君が欲しくなるな」


爺様の言葉で大人二人が立ち位置を変えようとする気配が感じられた。


僕は左手をポケットに突っ込み、どう出るかを待った。


ただし、これ以上大人二人が動くなら、その時点で決裂だ。


だけど待つ必要が無かった。


何故ならこの世界には僕たち以外の人がまだ生き残っているからだ。


「こちらゲート班、こちらゲート班。数台の車接近を確認。数台の車接近を確認。以上」


無線機からそんな情報が舞い込んできた。


どうやら噂のやつらが攻めてきたようだ。

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