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晴れの日を狙って資材や工具確保の為に再び不法侵入をして集めた。


そしてゾンビたちが近寄ってくるのも構わずに大きな音を響かせて作業を行う。


大きな音が響くとゾンビだけじゃなくて略奪者も引き寄せる。


ゾンビが集まるから近くまでは来ないけど、遠目にこちらを窺う奴らが居た。


作業は僕が中心になって行うが、補助や警戒要員として入れ替わり立ち代わりで全員で行う。


こう言う事に慣れる慣れないの差も今後役立つはずだから皆文句も言わずに動いた。


作業自体は一時間ほどで終わったが、その後はゾンビどもを警戒して訓練も控える。


藤野家は塀と門で遮られて中を窺えない。


でも音がし続けていたら乗り越えて来る可能性があるし、入られたらとても面倒だ。


ゾンビたちが雨戸や玄関を突破出来るとは思えないが、敷地内にゾンビが居ては落ち着かない。


だからベランダで警戒だけは続け、ゾンビたちが居なくなるまで大人しくしていた。


ゾンビたちが居なくなったのは翌日になってからだった。


「さて、ゾンビは居なくなったし、そろそそ出る段取りをしよう。各自荷物は纏めた?」


「一応ね。祐司君は終わってるの?」


「部屋に置いてあるよ。装備を身に付けたら何時でも行ける」


「そう。じゃあ、出発は今日?」


「そうだね。今日の昼に出発しよう。それで今日は射留間付近まで進んで様子見だね。あの辺りに安全な場所がありそうならそこで。ダメなら美紗さんの家に行く」


「じゃあそのつもりで動くね。はぁ、これでこの家ともさよならかぁ」


「絵美里ちゃんのご両親は感謝しなくちゃね」


「そうだね。絵美里の家には本当にお世話になったし。快適だったよ」


「もしかしたら帰って来るかも知れないし、最後に掃除だけしちゃおうか?」


僕たちは約一ヶ月の間お世話になった藤野家に感謝を込めて綺麗にした。







このまま何事もなく出発出来たら幸いだったのだが、こう言う時にタイミングよく邪魔が入るのはお約束なのだろうか?


それを発見したのはベランダで警戒していた坂井さんだった。


どうやら学校方面から大勢の人たちが武装してこちらに近づいてきているようだ。


しかもどこで手に入れて来たのか荷車の様な物を持って。


「はぁ。門出に邪魔者がやってくると。そう言うフィクションは間に合ってるんだけどね」


「それでどうする? 銃で威嚇して追い払う?」


「それだとゾンビが来ちゃうから私たちも困る事になっちゃうよ」


「そうだなぁ。まあ、こう言うパターンも予想していたし、こう言う感じで行こう」


僕は皆に案を出し、それぞれ動き出した。







学校側から来たのは大人と元気が良さそうな男子生徒たちだ。


手にはバットなどを持ち、完全に戦う気満々な雰囲気を見せている。


そして看板とかなのだろう、それを持っている人もいるので、銃対策の盾代わりか。


ゾンビが近寄って来ないか警戒する者。


これから行う略奪を思って興奮する者。


仲間や家族の為と奮起する者。


それぞれ想いを胸に秘め、歩みを進めてやってきた。


まあ、僕たちには関係ない事だが。


明確な敵対行為と見做し、容赦してやるつもりはない。


これで彼らが死んだり、学校がゾンビに飲まれても知った事じゃない。


女性陣には角に隠れてもらい、僕だけ道路の真ん中に立つ。


装備は勿論フル装備で、足元には手提げバックを置いて腰だめに短機関銃を握って待ち構えた。


彼らからも僕が見えたのか、一端歩みが止まったが、ゆっくりこちらに近寄ってきた。


そして二十メートルほど離れた位置で立ち止まり、盾役の人たちが前に出て構える。


その後ろから略奪者たちの代表者なのだろう男性が声を掛けてきた。


「君は八雲と言う少年なのだろう? 大人しく投降してもらえないか?」


「投降だと? ふざけるのも大概にしろよ、おっさん。そんな完全武装でやって来て奪う気満々じゃねぇか」


「それは君たちが銃と言う凶器を持ってるからだ! こちらも自衛の為に仕方なく武装しただけだ!」


「まあ、無手で来るのは馬鹿のする事だよな」


僕と代表者の話し合いに割り込んでくる奴は居ない。


多分、話し掛けて説得するとか隙を作るとか言って、彼が事前に言い包めていたのだろう。


そしてこちら側も僕だけが話すと言ってある。


ただし僕の俺発言に対して何か言っているようだが、小さな声なので良く聞こえない、いや聞きたくない。


「それで、馬鹿みたいにやられに来たのか?」


「こちらは三十人以上居る! いくら銃を持っているからとこれだけの人数を一人でやれると思うのか、君は!」


「一人じゃあ無理だろうな。でもさ、何で俺一人と思ってるんだ?」


「女の子たちにも戦わせるつもりなのか、君は!」


「こんな状況になって男女の差なんて些細な事だ。明確な差はやる気の有無だけで年齢も性別も関係ない。いい加減お前らはそれに気付け。だから大勢でしか動けないんだよ」


「警察や自衛隊の助けは来ない、そう言ったのは君だそうじゃないか! だったら一般人は寄り集まって戦うしかない!」


「それを強要して従わせたいだけだろう、あんたら大人たちは。別に青年の主張のつもりは無いが、そこに居る馬鹿な高校生たちの方が見込みがあるぞ」


「くっ、言わせておけば」


「その次は大人は子供を守る義務があるとか守られる義務があるとか言うのか? もしくはこんな時だから大人が導いてやらないと、とかか?」


「それのどこが間違っている! この国はそうやって栄えて来たんだぞ! それだけ素晴らしい、間違いのない考え方だと言う事だ!」


「だからあんたら大人は馬鹿なんだよ。もうこの国は文化的な生活なんて出来なくなる。そうなったら女子供でも労働力になるしかない。ゾンビと戦うのに年齢や性別の差は関係無いんだよ」


「あんな化け物に子供が立ち向かえと言うのか、君は!」


「ゾンビの簡単な倒し方を含めた性質は教えただろう? それを実践して今まで生きて来たんじゃないのか? だったら子供でも倒せる相手だと解っているはずだ」


「ああ言えばこう言いやがって」


到頭論破出来ない所まで追い詰められたのか、男性は唸り声を上げるだけになった。


そしてそんな状況になってまで大人しくしてられないのが若者だ。


勿論僕がそう言う風に煽ったのもある。


「もういいじゃんかよ。女どもがどこかに隠れてるかもだが目の前にはあいつだけだぜ? もう、やっちゃおうぜ」


「そうだな。まあ、嫌ならおっさんどもはそこで見てろよ。じゃあ、行こうぜ!」


学校が機能停止して一ヶ月強。


それまで真面目とはいかなくても普通だった生徒たちも本性が現われて、どこの不良だと言いたくなる雰囲気を醸し出している。


実際に暴力を振ったり、ゾンビを狩ったりしたのだろう、それなりにやりそうな気配を出していた。


まあ、馬鹿なのは変わりないが。


僕はバックを手に取って後ろに下がる。


それを見て調子に乗ったのか、男子生徒たちは笑みを浮かべて無造作に近寄ってきた。


足元に何があるかを確認せずに。


「ぶっ殺してやる、異常者め!」


そんな誰かの発言に釣られて走り出した彼らは何かに引っ掛かり、見事に転倒した。


「いてぇ、何だ、何があった!」


「くそう、すげえ痛い。何だ、何なんだ」


訳も解らず足を取られて転倒し、十数人の男子高校生の集団は巻き込まれたりして道路に蹲った。


何の事は無い、道路を横断するように低い位置に有刺鉄線を仕掛けていただけだ。


日本の道路には電信柱が等間隔に立っている。


それを利用すれば幾らでも罠を用意出来るのだ。


そして罠はそれだけじゃない。


僕はスマホを取り出すととあるアプリを起動した。


ファンフォンファンフォン。


当たりに響く警戒音。


その音はかなり大きく、車や人の動きの無くなったこの世界では一番大きな音。


近隣どころか、おそらく学校までも届くだろう。


それはこの辺りに居る人、そしてゾンビに確実に聞こえるはずだ。


「な、な、何だ!? 何故こんな音が!」


略奪者たちは慌てて辺りを見回すも、何故その様な事が起きているか気が付かない。


僕はそんな慌てている彼らを後目に罠を掻い潜って更に下がり、彼らに声を掛けた。


「最近のホームセキュリティーはスマホで操作出来るんだぞ」


「なっ!? じゃあ、これをやったのはお前か!」


「しかも学校側にある住宅全部だ。やったな、これで学校側にゾンビが集まるぞう、近隣から全部」


「狂ってる、やっぱりお前は狂ってる! 異常者が!」


「そんな異常者に喧嘩を売り、更に攻めて来たんだ。反撃されて当然だろうが。勇者は魔王に勝って当たり前とでも夢見てたのか? 馬鹿過ぎるだろ」


「くそ、くそ、くそ、ぶっ殺す!」


我慢できなくなった男子生徒の一人が足の怪我をおして掛けてきた。


だけど罠があれだけじゃない。


「ぐぎゃ!? いてぇ、いてぇよぅ」


今度は僕の首辺りに仕掛けた有刺鉄線。


彼は僕より背が高いようだが前傾姿勢だったがゆえに首で受け止めてしまった。


その所為で、まるでマンガの様に頭を置いて行くように下半身が先行して背中から転倒した。


それを見た略奪者たちの混乱具合が限界を超えた。


「化け物だ。あいつは化け物だ。殺される、殺されてしまう!」


一人逃げ出せばもう終わり。


彼らは我先にと逃げ出し、動けない者を見捨てて駆け出した。


「だ、誰か手を! 足が、足が痛くて立てないんだ!」


「見捨てるなよ! 誰か! 誰か助けてくれ!」


「いやだぁ、こんな所で死にたくない! いやだぁああああああああ」


「ま、自業自得だ。ゾンビと仲良く頑張れよ」


僕は彼らに別れを告げて歩き出した。







「容赦なかったね、祐司君。そしてあれがワイルドモードかぁ、えへへ」


後方の角で控えていた女性陣と合流すると、藤野さんがそんな事を言ってきた。


ちょっとだらしないと言うか乙女のする表情じゃない気もするけど、気にしたら負けだ。


人によっては綺麗に見えるだろうし、言わぬが花と言うやつかも知れない。


さておき、僕たちも直に動かないとゾンビがどう動くか完全に読めないし、出発を早める必要が出た。


なのでこのまま移動を開始したのだが、女性陣は僕の先ほどのやり取りで盛り上がっていた。


僕の精神衛生上聞きたくないので意識的に無視して周囲を警戒する事に集中した。


いや、取り敢えず、正気に戻って欲しい。


だけどそれは儚い望みだったようで、ゾンビたちと遭遇するまで続いた。


遭遇すると言っても戦う訳ではなく、出来るだけ避ける。


何故なら警戒音が未だに鳴り響いているからだ。


僕が設定した警戒音の時間は一時間。


その間、制御盤を触って止めるか、電力の供給が止まるまで鳴り続ける。


そんな事を知らない奴らは止める事が出来ず、あのままあの辺りにゾンビが集まり続けているのだ。


だから態々ゾンビどもを排除しなくとも、避けていればいなくなる。


一度集まったゾンビたちは新たな音や獲物を発見しない限り移動しない。


だからあの辺りはゾンビが屯する危険地帯となるのだ。


そしてそんな場所から徒歩二十分ほどの距離にある学校は、今後安全地帯ではなくなってしまう。


人は生活しているだけで音を出す。


人数が増えれば増えるほど音量も上がる。


だから警戒音が止まった後、集まったゾンビたちは学校目掛けて大移動を始めるだろう。


果たして彼らはどう言う選択肢を取るだろうか?


新天地を求めて逃げ出す?


それともそのまま籠城を続ける?


でも食料もほぼ底を尽きているようだし、移動する事になるだろう。


何人生き残れるだろうか。


僕がやった事はそう言う事だ。


直接的ではなく間接的な大量殺人。


到頭僕は禁忌とされる部分にも手を出した。


「まあ、早かれ遅かれかな」


「ん? 祐司君どうしたの?」


「何でもない」


そう何でもない事だ。


僕たちの生活を脅かそうと襲ってきたのはあいつらだ。


前までなら警察などの法がそれを対処してくれた。


でも今はそんなものは無い。


だから自分の身は自分で守るしかないんだ。


等と言い訳してるけど、結局は邪魔に思ったから消しただけだ。






藤野家を出発して四時間。


以前よりも持ち物が多く、移動に時間が掛かると思われたが訓練の成果なのかほとんど休憩を取る事無く射留間付近までやってきた。


この辺りの住宅で今夜の寝床としたいのだが、玄関が半開きになっている家や窓ガラスが割られた家が余りにも多い。


前回この辺りに来た時にはここまで荒れていなかったが、どうやら略奪行為や慌てて逃げ出した人たちが多かったんだろう。


もしくはゾンビ化してしまったのか。


何しろこの辺りで泊るのは危険だと思えた。


「さて、これは横山さんの家に戻るか。それとも無理をして飯農まで行くかだね」


「まだ二時半だから行けそうじゃない? ここまで来る時間を考えたら三時間ほどだろうし夕方には辿り着くね」


「うーん。近くを通った時にゾンビが多かったし、戻るのも危険だよね。進んだ方が良いかな」


「美紗がそう言うならそうしよっか」


このグループで活動するようになって一ヶ月と少し。


相変わらず僕が意見を出すのは変わりないが、変化として決定は藤野さんと横山さんがする事が多くなった。


坂井さんは元々自己主張をしない方だし、安藤さんは前から皆に合わせるタイプだったし、今では僕の意見に従うのが当たり前となっている。


だから僕が決定しない限りはこの二人で決める事が殆どになっていた。


そして決まったのなら最低限の休息を終えて移動を再開する。


ただし周りがこんな状況だから今まで以上に警戒しながらだ。


そこからゾンビとの遭遇率がやたらと増えた。


出来るだけ避けるようにしているが、あまりにも多いので戦う事も出て来る。


ゾンビ狩りに慣れた僕たちだから危なげなく対処しているけど、生きた残った人たちが現われないから助かった。


もしゾンビ狩りの途中で遭遇したらとても面倒な事になっていただろう。


それが助けを求める声であろうと共闘を求める声であろうとも。


僕たちだけならゾンビどもをコントロール出来る。


でも余計な物が混じるとそれが出来ない。


それが一番困る。


そしてその次に困るのが、今目の前で遭遇した人たちだ。


「なっ!? 焦らすなよ、人か。しかもガキばっかり」


「女も居るじゃねえか。で、男が一人ってよ。羨ましいねぇ」


「てかこいつら武器もってやがるぜ」


「でも装備が貧弱だなぁ、おい」


「違いない。おーい、女ども。そんなガキじゃなくて俺たちと来いよ。助けてやるぞー」


これ見よがしに拳銃を手に掲げて声を掛けて来る二十歳ぐらいの男どもが八人。


おそらく近所の不良だか粋がっていた連中なのだろう、喧嘩が強くて声も大きいタイプの奴らだ。


全国でこう言う類の人種は数が激減していると言われているが、この辺りではまだまだいっぱい居たようだ。


彼らの持っている拳銃はリボルバータイプだから制服警官の死体などから奪った戦利品だろう。


僕たちは何時でも拳銃を抜ける様にだけしておき、彼らの動きに注視していた。


当然の様に彼らの言葉を無視する形になる。


それをこんな類の奴らが我慢出来る訳がない。


「あ? おい、ガキ。何で何も言わないんだよ?」


馬鹿の中の馬鹿が拳銃を持つ右手をぶらぶらさせながら近寄ってきた。


彼の動きよりも拳銃に注目する。


僕たちが手に入れた自衛隊標準装備の拳銃と警察用の拳銃では構造が違う。


最新式なのか旧式なのかでも違う。


それは安全ロックと僕は言ってるけど、要は引き金さえ引けば撃つ事が出来る銃なのか違うのかを知りたいのだ。


そして見た感じではハンマーを下げて、正しく引き金を引けば撃てるタイプの拳銃のようだ。


彼らは当然の様にハンマーを下げていない。


「全員、撃ち方用意!」


「は?」


僕は発言と同時にケースから拳銃を抜いて安全ロックを解除する。


スライドは既に出発前に済ませており、弾丸はちゃんと装填されている。


後は引き金を引くだけで撃てるのだ。


女性陣は即座に手に持った武器を手放し、銃を両手で構えた


「なっ!? こいつらも銃を! 構わない、撃っちま」


パン、パン、パン。


彼らが慌てて拳銃を構える間に僕たちは撃つ。


練習なんてしていない銃撃が中るのは運任せ。


それでも都合五発の弾丸の内、三発が命中。


特に一番近寄っていた奴は僕の銃撃で腹を撃たれて重傷を負った。


他の奴らは腕か足なのでそれほどではない。


「ん、な」


重傷の男はそのまま崩れ落ち、僕は近づいて頭を蹴って仰向けにする。


他の奴らは反撃されるとは思ってはなかったのか、顔が青ざめ、撃たれた二人は蹲っていた。


「で、何だって? お前らがどうするって?」


「んぎゃああああああ」


撃たれた箇所を踏み付けながら彼らに拳銃を向ける。


「今の銃声でゾンビどもが集まってくるだろうなぁ。ゾンビ相手に銃で挑むのか、お前らは?」


「狂ってる、こいつら狂ってるぞ!」


「亮男を撃ちやがった! やべぇ、このガキどもやべえよ!」


「あ、相手にしてられねぇ、逃げるぞ!」


一人逃げ出すと、後は一緒だ、あの時と。


僕に踏まれて動けない奴を置いて、怪我人を担いで逃げ出した。


仲間と言ってもこいつらはどれも変わらないか。


「さて、意識がある状態でゾンビに食われたくないだろ? 眠らせてやるよ」


「た、助けて」


僕はスタンガンを取り出して気絶させた。


そして道路に落ちている四丁の拳銃を拾い、全て近くの家の屋根に投げた。


「さあ、ゾンビどもが来るから俺らも移動だ! 時間が無いから直に動くぞ!」


僕は女性陣に命令口調で呼びかけ、その場を後にした。







初めての銃撃は、ゾンビ狩りのショックよりも酷かったかも知れない。


何故なら銃とは人を殺す道具で、それを向けて撃つと言う事は明確な殺意を持った行為だからだ。


それをこの間までただの高校生だった少女たちが行った。


その精神的負荷は相当な物だろ。


普通だったら銃口を向ける事が出来ない。


普通だったら銃を撃つ準備なんて出来ない。


普通だったら引き金を引く事が出来ない。


だけどゾンビと言う元人を殺した経験がある彼女たちはそれを反射的に行った。


僕が命令したからだ。


普段の僕の口調で命令はしないし、似合わない。


でも俺口調の時の僕の言葉は横柄で暴力的で命令口調がとても合う。


普段見せない、でも、見た事がある僕のあの口調で命令されて反射的に行った行為が、あの見事な動きだった。


まるで魔法に掛かった様に動いた。


でも、それは長続きしない。


そして銃を撃ったと言う記憶は蘇ってくる。


本当ならここで止まりたくないのだが、一時停止して休憩する必要があった。


そうじゃなければ彼女たちの精神が持たない。


僕たちは素早く移動し、あいつらが再びやって来ない距離まで離れてから小さな空き地の様な駐車場に隠れた。


ここなら出入り口は一つだけだし、ブロック塀で囲まれていてゾンビの襲撃にも対処しやすい。


塀の高さもそれほどでもないからいざとなったら乗り越えれば済むだけだ。


「ふぅ。皆お疲れ様。水でも飲んで休憩しよう」


僕は殊更明るく振る舞い、笑顔でそう告げた。


その言葉で女性陣は崩れる様に座り込み、顔を下に向けた。


いや、坂井さんだけは顔を上げていてペットボトルを取り出して飲み始めた。


うん、やっぱり彼女が一番タフだよね、精神的に。


「本当ならこう言う場合じゃなく、直に休める場所の近くで体験してもらいたかったんだけどね。僕の怠慢だったよ。皆、ごめんね」


坂井さんは僕の言葉に特に反応する事なく、ペットボトルを隣の安藤さんに渡し、飲むように促した。


それを受け取った安藤さんは一口飲み、それを藤野さんへ、そして横山さんに渡った。


全員が水を口にしたのを確認し、僕は言葉を続けた。


「これからもこう言う事は出て来ると思う。今日は僕が命令したけど、これからは自分の意志で撃てる様になって欲しい。撃って良い相手かどうかの見極めは必要だけどね」


水を飲んで少しは落ち着いたのか全員顔を上げている。


藤野さんと横山さんはまだ顔が青いけど、安藤さんはもう普通、いや、ちょっと苦笑。


多分、僕が言う事だからそうしよう、でも出来るかな、私に、とか思っているんだろうなぁ。


「無理そうだったら今後も僕が命令するけど。それは嫌だよね?」


そう言うと藤野さんは考え込み始め、横山さんは複雑な表情を作り、安藤さんは嬉しそうな顔をした。


坂井さんは我関せずと立ち上がって入り口側を警戒し始めた。


本当に強いね、坂井さんは。


そんな僕と坂井さんを交互に見た藤野さんは心が決まったのか立ち上がった。


「それって何だか私じゃなくなるみたいで嫌だな。だから私は自分で撃てる様になるよ。祐司君色に染まるってのも捨てがたいけどね?」


「ちょ、何言ってるの、絵美里さん?」


「祐司君色かぁ。うん、そんな感じだよね。私はもう染まってるし」


「もしもし明日菜さん?」


「うわぁ、凄く悔しい!」


「絵美里って大胆だね。うん、私も自分で撃てる様になる。そして今度は熊とか倒しちゃおう!」


「何で熊まで飛躍するの!?」


「天然動物の寄生虫の除去は任せて」


「陽菜も乗るのかよ!?」


何だか僕がリアクション芸人みたいになったけど、これでちょっとは彼女たちの心が保つなら、それはそれで良い事だ。





僕たちはその後、生存者たちに遭遇する事なくゾンビどもを倒したり躱したりし、飯農が直目の前と言うところまでやってきた。


予想通り夕方の到着であり、今夜の宿泊先を大急ぎで探す必要がある。


雨露が凌げてゾンビどもが入って来れない場所。


贅沢を言うなら料理が出来る場所のある家。


まあ、そんな都合の良い場所なんて中々見つからず、車等の板金を行う工場で一泊する事になった。


ここはシャッターが開きっぱなしになっており、それさえ閉めれば他は出入り口が一つあるだけの小さな工場。


先住の人は誰も居らず、ゾンビが二体ほど屯しているだけだったので速攻で片づけて確保した。


シャッターを閉める時に大きな音が響くけど、翌朝には近寄ってきたゾンビも居なくなるだろうし、中々の場所だ。


窓も高い位置にしかないのでシャッターか出入り口をこじ開けないと入って来れない。


この工場の関係者が戻ってこない限り侵入者に襲われる事もなく、安心して眠れそうだった。


勿論ゾンビの死体は外に運んだが。


死体の近くで寝るなんて気持ち悪いし。


隣に建つ事務所っぽい建物がちょっと気になるが、そこから音が一切しないので今は無人と思われた。


なお、そちらにしなかったのは玄関が開きっぱなしで窓に大量の血糊が付いていたからだ。


ゾンビか略奪者が暴れたのだろう、そんなところで寝泊まりなんてしたくなかった。


「うーん。寒さは防げるんだけど、ちょっと衛生面は良くないよね?」


「その通りだけど。ほら、この車とかで眠れば良さそうだよ」


都合が良い事に修理中だろう車が一台あり、当然の様に鍵なんて掛かってなかった。


ただし軽ワゴンタイプの車なので五人で寝るにはちょっと狭い。


どっちみち夜営の見張りも経験したかったので丁度良かった。


「さて、食料の確保が出来なかったから持ってきた缶詰とおにぎりだけど、さっさと食事を済まそう」


「「「「はーい」」」」


あまり貴重な食料を消費したくなかったが、おにぎりに関しては今日中に食べないと腐りそうで怖い。


これから夏に向けてこう言う事も注意していかないと、食中毒になっても病院なんてない訳だし、死活問題だ。


一応そう言う関連の事も調べてはいるが、専門家じゃなんだから不安だ。


だから慎重にするのは当たり前だった。


今朝までは坂井さんを中心にした料理班の用意した食事だったけど、これからはこう言う食事が主流になる可能性が高い。


いや、もっと先は自給自足になるからある意味今だけかも知れない。


それでも食事にありつけるだけマシだから贅沢なんて言ってられないのだ。


僕たちは手早く食事を済ませ、こう言う場所だから存在していた水道をありがたく使わせてもらった。


そう言えばトイレをどうするか決めていなかったが、口に出すと怖いから、デッドスペースにそれらしいのを作った。


まあ、あれだ。


大きい方をしたくなったら決死の覚悟で隣の建屋に突撃する事になるだろうな。


女性はそう言うのの回数が少ない生き物で非常に助かった。


これも口にしなかったが。


尚、デッドスペースには工場内に転がっていた空のペットボトルを水道で洗い、水を入れて置いておいた。


ちゃんと側溝がある場所だし、流せるはずだよ。

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