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この話はどこかのレーベルに応募しようかと考えていた作品です。

分割して投稿しますが、大体ラノベ一冊分(四百ページぐらい)の分量になります。


感想など頂ければ幸いですが、感想返しをマメに行えるかは不明です。



こんなのですが、よろしくお願いします。

大きな音と風を撒き散らして飛び去っていく五機のヘリ。


僕はその姿を見上げながら大きく叫んだ。


「何で、何でだよ! 僕はここに、ここに居るんだぞ!」


その声は大きな音に遮られ、響く事は無かった。






西暦二千十六年四月一日。


とある情報が世界中に発信された。


それは“死者が蘇った”と言うフィクションめいた物だった。


勿論この話はテレビや新聞では取り上げられず、ネットのみ動画配信と言う形での情報公開。


最初はエイプリルフールネタとして相手にされなかったが、時間が経つ毎に同じような情報、“死んだ人が蘇って動き出した”が配信されていった。


ネットではそれらをゾンビと呼び、閲覧数がどんどん増え、配信数もそれに合わせる様に増えて行った。


配信元はアメリカであり、ある意味規制が緩い国なのだろう、銃でゾンビを撃ったり斧で叩いたりする映像、ゾンビに人が襲われる映像なども出始めた。


この頃になるとテレビや新聞でもテロや暴動と言った形で情報発信がされ始め、気が付けばゾンビは世界中で知られるようになった。


ただしフィクションではなくノンフィクション。


原因不明の奇病、生物兵器によるテロ、バイオハザード、呪い、等と色々な理由でこのゾンビを伝える正確な情報が発信されるまでそう時間は掛からなかった。


何故ならゾンビの発生はアメリカだけではなく、世界中で起こっていた事だったからだ。


僕の住む日本にもゾンビが発生し、人々はパニックに陥った。






「矢形、お前あの動画見たか?」


「あのってなんだ?」


「ゾンビだよ、ゾンビ!」


「ああ、エイプリルフールネタか。あんなもん信じてるのかよ?」


「ばっか、おま、あれは絶対に本当だって!」


「本当だったとしたらニュースで取り上げられるし政府も何か言うだろ」


「た、確かにそうなんだが」


何て会話が聞こえて来るが僕は気にせず始業式中だと言うのにスマホでネット検索を続けていた。


僕たちが通う高校は一応進学校を名乗っている私立高校で、今年は二年生になるから大学受験の事も考えなくちゃならない。


大学には進みたいと言う気持ちはあれど、特に何かしたいとかそう言うのは無いから志望する大学も特に無い。


取り敢えず学校の勉強をそれなりに頑張って、クラスの友達と駄弁って、卒業までを過ごす、そんな極普通の高校生なのが僕だ。


自他共に認めるフツメンだし社交性もあまり無い。


だから彼女も居ない。


彼女よりも小遣いがもっと欲しいなんて思ってるのも普通の証なんじゃないかな、と思う。


だけどそんな僕の日常は、四月一日を皮切りに終わりへと歩き出していた。






それと遭遇したのは黄金週間も終わって五月のテストの時期。


そろそろ暑くなって来たなぁ、とブレザーの袖を捲くったりして涼を取りつつ回答に間違いが無いか見直しをしている時に突然校内放送が鳴った。


「王宮警察の方からお客様が来客されました。王宮警察の方からお客様が来客されました」


この放送は校内に不審者が侵入して危険であると言うサインだ。


それなりにテストの手応えを感じていた僕は溜息を吐きつつ筆記用具を片づけ、鞄からスマホを取り出した。


「今のを聞いたな。全員何時でも避難出来るように準備しろ。先生は様子を見て来る」


「三島先生。それよりも職員室とかに連絡とった方が良くないですか?」


「むっ、そ、そうだな。先生焦っちまったよ」


不審者侵入の不安やテストからの解放を喜ぶ生徒たちは監視役で教室に居た教師の苦笑に釣られて笑みを見せた。


そんな同級生たちを後目に僕は早速ネット検索、いや、情報収集をし始めた。


それは日本におけるゾンビパニックに関する情報。


最初のネット配信から一ヶ月半が経ち、始まりの地であるアメリカは幾つかの州が人の住めない場所になっていた。


更にアメリカだけではない、カナダやメキシコ、南米の国々、ヨーロッパ、アフリカ、ロシア、アジアと世界中でゾンビパニックの情報が発信されるようになっていた。


今まで日本や朝鮮半島などの極東地域では確認されていなかったが、それが何時まで持つか分からない。


渡航や来航制限がされて一ヶ月近く経つが原因不明のゾンビ発生がそれだけで対処出来るとは思えない。


政府もゾンビ、とは言わないが謎の奇病の病原菌侵入への対処を毎日テレビから発信しているが正直当てにならない。


自分の身は自分で守る。


その傾向が強くなってきた昨今だけに今回のゾンビパニックにも自衛を考えて過ごしてきた。


そして始まったのだ。


「え? 何ですって? 暴漢? 警察は? え? 繋がらない?」


どこかに連絡していた先生の声が教室に響く。


時を同じくして遠くからサイレンが聞こえる。


警察なのか消防なのか分からないが出動しているのだろう。


そしてネット検索の結果、テレビで情報発信されているのが解った。


僕は早速ネットテレビに接続し、スピーカーの音量を上げた。


「皆さん、落ち着いてください。決して外に出ないで下さい。決して外に出ないで下さい。現在日本中で暴徒による暴力事件が多発しております。現在日本中で暴徒による武力事件が多発しております」


「誰だ!? スマホを使っている奴は! 消せ、早く消せ!」


パニックになった教師が自身のスマホを抑えつつそう叫ぶ。


だけど僕はそれに従わず、僕以外の同級生たちもスマホを取り出してテレビを見始めた。


「やばいやばいやばい。マジか」


「ゾンビが日本に上陸してきた!」


「嘘!? どうしよう、どうしたらいいの!?」


完全にパニックに陥った同級生たちは意味も無く騒ぎ出し、他の教室でも同じような状況になり始めたのか騒ぎ声が聞こえる。


僕はそんな同級生たちを一瞥すると鞄を背負い窓際に近寄って外に目を向けた。


テスト中だった事もあり、校庭には誰も居ないが町の様子が何時もと違うのは一目で解った。


所々で煙が上がり、どこぞやで火事が発生しているのだろう。


そして校門では誰かが争っているのが見えた。


この距離だとはっきり分からないが数人の人が校門に群がり、男性教師が刺又やモップなどで押し返そうとしている。


外の人たちは門を乗り越えようとする動きも見せず、まるでゾンビが人を求めて集まって来たかのようだった。


「先生、三島先生。三島先生!」


「な、何だ?」


「侵入者は校内に入ってきていないのですか? それとも既に侵入されているのですか?」


「い、いやまだ入って来ていない。校門で抑えているらしいが、ってあれがそうか!」


僕は情報を持っているであろう教師に声を掛け、ゾンビどもがまだ校内に居ないと思われると知れた。


これは大きな情報だ。


そしてそんな僕たちの会話で気が付いたのか同級生たちも窓際によって外を見た。


「うわっ、何だあれ?」


「町で火事でも起きてるの?」


「あれってもしかしてゾンビか?」


「マジでゾンビなのかよ!?」


今度は傍観者と言うか馬鹿な奴らと言うしかない行動をとり始めた同級生たち。


スマホの動画モードを起動して校門の様子を撮り始めたのだ。


ぶっちゃけそんな事をしている場合ではないはずだ。


僕は唖然としたまま動かない教師に近寄り声を掛けた。


「先生。ちょっと良いですか?」


「な、何だ?」


「この学校ってフェンスや壁はしっかりしてますから乗り越えて来なければ侵入はされません。校門もああやって守ってれば良いですが、一ヶ所簡単に出入りできる所があります」


「な、何!?」


「大きな声を出さないで下さい。聞かれたらまたパニックです」


「そ、そうだな。しかし、お前は冷静だな。名前は何だったか」


「八雲です、八雲祐司。校舎裏の搬入門横の小門が確か鍵が壊れてます。あそこを抑えないと」


「八雲、お前良くそんな事を知ってたな。だが、そうだな。おーい、お前ら良く聞け! 先生は今から職員室に戻って対策を検討するから教室を出るなよ!」


「え? でも、その間どうすれば」


「校内放送で知らせる。クラス委員を中心に勝手な事をするなよ。良いな? トイレぐらいは構わないが絶対に動くなよ?」


さて、これでこの学校の安全を確保出来るはずだ。


後は馬鹿が馬鹿をやってゾンビの侵入やゾンビ感染者が現われない事を祈るばかりだな。






一応進学校を名乗る私立高校だけに馬鹿の数は少なく、幸いな事にこの教室からは発生しなかった。


ただ、他の教室から出た様で壁を乗り越えて脱走する生徒が数名出たらしい。


彼らがその後どうなったか分からないが兎に角一時の安全地帯を手に入れた訳だ。


教師や生徒合せて七百名弱の人数がこれからしばらく生活を共にするのだが、それが何時まで持つだろうか?


そしてどの様な学校でも災害発生時は避難所として使われるのでここもその候補となる。


そうなれば外から人がやって来て、人が増えるだろう。


学校の備蓄はどれぐらいあるのだろうか?


病気や怪我をした場合の対策や大人数を管理する体制がちゃんと取れるのだろうか?


校内にゾンビが侵入した時にどう対処するのだるか?


動画やネットニュースによればゾンビに噛まれると高確率で死亡して、ゾンビとなってしまう事をどう対処するのだろうか?


そう言った問題は有れど、取り敢えずはここで一息吐いてから行動する事に決めた。


「ゾンビなんだからやっぱり噛まれるとアウト?」


「俺、ゾンビに成りたくない。いや、もしかしたら俺だけ大丈夫かも」


「警察や自衛隊は何をしてるのよ!」


「お父さん、お母さん」


ゾンビキャリアとなっても生き延びて、とかどこのネット小説だ、馬鹿め。


警察がこう言う場合に出来る事なんて殆どないぞ。


何せちょっと普通の人より強いってだけの人たちだからな、無法者であるゾンビからしたら。


警察でも特殊部隊の隊員でもない限り、人を殺す訓練なんて殆ど受けてないんだし。


そして自衛隊はこう言う場合、ライフラインを確保する為に発電所や水道施設なんかを死守か、政府関係者や基地を守る事を優先するだろう。


民間人の救出なんて安全確保が済んでから動き出すだろうし、一体何時になる事やら。


だからこそ、自衛手段の入手や逃走ルートの確保は必須なんだが。


「えっと、八雲君は冷静だね、こんな時なのに」


電話やラインは繋がらないがネットなら繋がるスマホを眺めていたら、クラス委員である安藤さんが話し掛けてきた。


多分一人だけ何時も通りな僕を見て、安心したくて声を掛けたのだろう。


人は冷静な人と居るだけで落ち着くらしいしな。


「ゾンビパニックの情報発信は一ヶ月半前からあったんだ。今日と言う日も想定出来たと思うよ」


「だってあんなの誰も信じないよ。しかも四月一日だし」


「一日だけで終わってたらね。でも、それ以降も続いてたし原因不明なんだから何時日本に上陸しても不思議じゃない。何せ日本は外国からの渡航者や輸入が多いからね」


「た、確かにそうだけど。じゃあ、これから私たちはどうなるの?」


「声を荒げないと約束出来るなら予測を話せるよ」


「わ、分かった。何を聞いても叫んだりしない」


「じゃあ。一番高確率なのは全員飢え死にする。何せこの学校の備蓄がどれだけあるか分からないし、食料を確保するならゾンビだらけの町に出る必要があるから」


「そ、そんな。でも先生たちもいるし警察の人たちが」


「日本の警察官の数は二十五万人らしいよ。序に自衛隊も同じぐらい。防衛省や防衛大学とかの予備隊員が十万も居なかったかな? 約六十万程度の戦力で一億を超える日本人が救えるかな?」


「で、でも!」


「声を荒げないでよ。こんな話をしてるって知られたら、僕は苛められるから」


「ご、ごめんさない。でも、苛めるだなんて」


「安藤さんも不安になったでしょ? 不安になるような話をする奴なんて排除したくなるよ。さて、まだ聞く?」


それでなくとも不安で仕方がない状況だからな、そこで不吉な事を言いまくる奴なんて排除対象だよ。


「その、ごめんなさい。でも、やっぱり聞かせて」


「そう? じゃあ続けるけど。さっきちょっと言ったけど、自衛隊や警察の救助は来てもかなり先の話だ。早くて一ヶ月かな」


「何でそう思うの?」


「まず警察や消防は早々に壊滅するからカウントしないよ? 何せ地域に密着していて民間人の保護を優先するだろうからね」


「消防は解るけど、警察官もそうなの? 違反者を取り締まるだけかと思ってた」


「勿論それも仕事だけど一番は民衆を守る事だから警察の仕事って。だからゾンビに噛まれた人を守って内部からゾンビに食われるね」


「え?」


「政府が前もってゾンビ発生時の対策として噛まれた人は排除とか決まってたら別だけどね。まあ、日本ってそう言うの甘いからまず間違いなく保護するだろうね。で、壊滅と」


「そ、そんな」


「そして自衛隊だけど、優先的に動くのは発電所や水道設備なんかのライフラインの死守と政府高官の安全確保だね」


「それは何となく解るけど、全員がそう動くわけないよね?」


「勿論。後は基地の防衛や安全地帯の確保、こう言う事に動くだろうね。さて、そんな事を二十五万だか三十五万の人数で対処できると思う? この県だけなら可能だけど日本中だと思うよ」


「人数が足りないから自衛隊は助けてくれないのね」


「米軍基地とかもあるけど同じようなものだろうね。民間人の救出がかなり先になると言ったのはこう言う理由だよ。救出しても安全地帯が無ければ意味が無いしね」


「じゃあそれまで私たちはどうすれば」


「自衛するしかない。学校では頼りになるかも知れない教師たちも今やただの人だ。僕たちとそう変わらない立場なんだ。いや、大人と言うだけに問題が出るかもね」


「え? どうして?」


「僕たちは未成年だ。こう言う極限の、自分の身が危なくなったら人なんて本性が丸見えだよ。そうなった時に大人は子供をどうすると思う?」


「も、勿論助けようと」


「中には居るかもね。でも少数だろうし、食料が少なくなったらそうならないさ。子供だからと言う理由だけで従わせようとするだろうね。どう言う従わせ方かは言わないけど」


「リーダーって事でしょ? それは悪い事じゃないと思うけど」


「じゃあ、君は相手が大人な教師だからリーダーと認めて、外に食料取って来い、とか、食事を我慢しろ、とか言われても素直に従うの?」


「流石にそんな事は言わないと思う」


「食料が少なくなる前に確保しなくちゃ。大人だけで行くには人数が足りない。生徒も手伝ってくれ。学校の防衛に大人が必要だ。とか最もな理由を付けてね」


「そう言う理由だったら」


「食料が少なくなったから食事制限します。水は蛇口から飲みましょう。食料は一日一回でパン一個です。我慢しましょう」


「こんな状況だから」


「それが何日も続くよ? そして大人たちは学校の防衛や皆を守ると言う名目で武装して食事も生徒よりも多く取るね。何せ一番働くと言う建前があるからね」


「そ、それは仕方がない、と」


「全員がそう思えればね? 絶対に誰かが、大多数が我慢できなくなって暴動が起きるね。そしてこの学校と言うコミュニティも壊滅だ。それが予測の一つ」


ここまで予測をしっかり聞いた安藤さんは、反論の余地が無いからか、それとも不安が大きくなって怖くなったからか完全に沈黙した。


目には涙が浮かんでいるし、そろそろ嗚咽を漏らすかも知れない。


だけどまだ僕の予想は終わっていない。


「ここは近郊唯一の高校。私立とは言えね。そうなると緊急避難先として周知されてるんだ。だから生き残った人たちが集まる可能性が高い」


「人が増えちゃうの? あ、でもそれだったらお父さんやお母さんも」


「両親が来るかも知れないね。でもそれ以外の人たちもね。増々食料不足だし、人が増えれば纏まりが付かなくなるよ。暴動が早くなる可能性が高い」


到頭安藤さんが涙を流した。


「一番怖いのは外から入ってきた人がゾンビに噛まれていたり、ゾンビになる可能性がある人だった場合だ。安全圏である学校が安全で無くなる。いや、むしろ人が密集してるから余計に危ない」


「もう、いいよ」


「ゾンビなんて言ったけど、あれらは元人だ。そんなのに襲われて反撃できるか? あれを殺すには頭を破壊するしか無いそうだ。そんなのが僕たちに出来ると思う?」


「もう、いいったら!」


耐えれなくなった安藤さんは立ち上がって拒絶の声を上げた。


約束破り、なんて言うつもりはない。


何故なら誰だってこうなるだろし。


何せ聞きたくない事を聞かされたんだから。


自分たちは助かる見込みが殆どないって。


でも、僕は死にたくない。


誰かが言ったように僕はゾンビになんて成りたくない。


僕は飢え死になんてしたくない。


僕は暴動で人に殺されるような目に遭いたくない。


だから声を上げる。


「これからは自分の身は自分で守るしかない。生き残りたければ遠くの知らない奴を頼らない。身近な信頼できる仲間と協力して生き残るんだ」


安藤さんの唐突な行動で静まり返っていた教室中に、僕の宣言とも言える声が響いた。






そこから僕はこのクラスで一つのグループのリーダーになった。


今まで全く目立たない男子生徒でしかなかった僕だが集めていた情報を元に生き残る為の方法を皆に話したからだ。


当然の様に反発してくる奴らは出て来る。


いや、大半の奴は反発し、僕の言った方法にケチを付け、嘲笑った。


だけど安藤さんを含めた数名、僕をリーダーとした七名のグループが出来上がり行動を起こす事にした。


僕は友達が少ない。


ラインをしたり教室で話す程度なら数名居たのだが、放課後一緒に時間を過ごす様な関係な友達はほとんど居なかった。


正直に話すとこの学校には友達が居ない。


だから六人も集まるとは思って居なかった。


クラス委員だった安藤さんは僕に話し掛けて来たぐらいだからちょっと解る。


安藤さんと仲の良い女子である横山さんや藤野さんもその繋がりで何とか。


だけどクラス内でオタクとしてカースト下位に居た男子生徒の田中と山根、そして僕と同じように何時も一人で居る女子生徒の坂井さんは予想外だった。


これから僕たち七人で生き残る為に活動するんだが、まずは学校から安全に脱出し、新たなる安全圏を確保するのが必須だ。


「その、八雲君。まずは武器になる物を確保するのよね? それで自衛出来るように練習する、と」


「それはここに残る場合だね。武器になりそうな物って学校なんだから金属バットぐらいかな。後は距離を取る為にモップや刺又かな」


「確かにモップや刺又では人は倒せないな」


「そうだね。と、言うか人なんて殺した人居ないだろうし、訓練のやり方が分からないとも言うね」


「そう言う事だ。だから安全を確保する為に牽制用の長物を確保する程度。でも持ち運びに不便だから僕たち男の分だけだね」


「だったら私たちは何をしたら良いの?」


「安藤さんたちは特技ってある? 運動でも良いし料理とか。農業とかあると最高だね」


「りょ、料理はちょっと」


「私は出来ます」


集まってから初めて声を上げた坂井さんにちょっとびっくりした。


そして料理が出来ると言うのにも驚いたのだが、その後ぼそぼそと説明してくれた事によれば、彼女の実家は中華料理屋で幼い頃から手伝いもしていたし、母親の代わりに家事もしていたらしい。


「おお! 坂井さんって女子力高い系だったか。戦力になるぞ、これは」


「それが戦力になるの?」


「なるなる。八雲君ほど俺はサバイバル系の知識は無いけどさ、こう言う状況になったら少ない食料での調理や衛生管理、自生している植物の知識とか大事、超大事」


「あ、だから農業? だったら美紗のお爺ちゃんが農家だから」


「うん、ちょっとなら解るかも。子供の頃にお爺ちゃんの家に遊びに行って山とか入ってたし」


「「「おお!」」」


美紗と呼ばれた横山さんが自然系の知識や経験があるらしい。


これもとても魅力的だ。


横山さんは山ガール。


いや、別に狙った訳じゃないぞ?


「えっと、それだったら私もちょっとは役に立てるかも? お父さんが警備員でね? 会社で指導員をしている関係で自衛の方法とかちょっと教わってるし、ちょっとだけ詳しいかも?」


「もしかして警棒術とかも?」


「長いのはやった事が無いけど短いのだったらちょっとだけ教わったよ。それよりも逃げる為の体裁きとかかな?」


「「「おお!」」」


僕も情報を集める序にその辺りを調べていたけどネットで見ても良く解らなかったのでありがたい。


「こ、こうなるとあれだ。俺と山根は役立たずぽい?」


「オタク知識をこう言う時に役立てなくてどうするんだ? ゾンビ系の作品多いだろ?」


「いや、まあ、そうだけどな」


「う、うん。でも、アレって所詮二次元での出来事でファンタジーだし」


「テンプレに当て嵌めたら良いだけだよ。まあ、実質的には肉体労働として期待してるけど」


「「オタクに無茶を言うな!」」


僕と田中と山根のトリオ漫才に安藤さんたちも笑顔を見せる。


こんな状況なのに良く笑ってられるな、と言った感じで周りから睨まれたが、こういう状況だからこそ笑ってなくちゃならない。


何せマイナスの事ばっかり考えてたら暴走が早くなるだけだ。


余裕を作って笑う。


これぐらい出来ないと厳しい世の中に変わったんだから。


「さて、ここからは他の奴らに聞かれたくないから静かにな。もっと寄ってくれ」


僕はグループで小さく集まり小声で話しだした。


「まず今から話す内容に質問は後にしてくれ。僕が解ってる事やこれからの予定なんかを話すから、終わってから聞きたい事を聞いてくれると助かる」


全員頷いたのを確認し、周りを見回してこっちを意識している奴らが居るのも確認した。


だから聞かれても問題無い程度だけ話していく。


「まずゾンビに付いて解っている事を話す。ゾンビに噛まれたり体液と粘膜接触すると数時間以内に高確率で死亡してゾンビになる」


今から話すゾンビの事は、全てネットで拾った情報だ。


信用性の低いネット情報だが動画付きで解説してあったりするので僕は信用している。


そして体液とかの話だが、馬鹿なネットユーザーがゾンビの肉や血でマウス実験をして安全だったからと自分で食べて飲んでゾンビ化、なんて言うものが生放送されたのだ。


別の動画情報だと、動物には効果が無いようだが人間だけは死亡してゾンビ化するようだ。


そしてその他の実験ではゾンビの血を飲ませた豚を食べてもゾンビ化しないなど。


後、究極の馬鹿の動画では捕まえたゾンビと性行為すると言うのが有った。


最終的にその投稿者がどうなったかは分からないが、追報が無かったところを見るとゾンビ化したと思われる。


そしてゾンビに腕を噛まれた人の腕を即座に切断した場合、その人は数時間経っても死亡せず、その数日後に治療の甲斐無く死亡するもゾンビ化はしなかった。


この事からゾンビに噛まれるなどの粘膜接触した場合、数時間かけて体内にゾンビ菌と呼称するが何かが駆け巡り、その結果として死亡後にゾンビ化するようだ。


「ゾンビは頭部を破壊、厳密には脳に大きな損傷を与えれば活動を停止する。後、背骨を破壊したら下半身が動かなくなった」


これも動画がアップされていたのだが、どうもゾンビには体を動かす為の神経が生きている様で、それを破壊すれば動けなくなるようだ。


脳を損傷させれば体を動かす命令が出せないので活動を停止する、そう言う見解がなされていた。


ちなみに捕まえたゾンビを解剖した、と言う動画も配信されていたが、解剖した投稿者が言うには人と違った場所が見当たらなかったそうだ。


なお、医者や解剖学者では無いからネット情報を元にした判断らしい。


「ゾンビは何日経っても腐らず、動きは凄く遅いが力強い。人って無意識にリミッターを付けて力をセーブしてるんだが、それが外れてるんだろうね」


腐るゾンビや餓死するゾンビって設定のゾンビモノがあるけど、ノンフィクションのゾンビはそうではないらしい。


走ったりしないだけマシだろう。


「ゾンビはかなり衰えているが視覚、聴覚、嗅覚が生きており、それで人を判断して襲ってくるようだ。ちなみに他の動物は襲わないし、大きな音に一番反応すると言う情報もあるね」


何故かゾンビは人だけを襲い、大きな音に引き寄せられると言う性質がある。


動物を襲わない、この情報は実はとても有益だったりする。


何故ならゾンビを倒せるような動物とかを使役できるようになれば安全確保の役に立つからだ。


後、食料となる肉がゾンビに食い散らかされる心配が無い。


「これらを踏まえ、移動は少人数。荷物は少なくてぶつかって大きな音が鳴るような金属製の物は出来るだけ持ち歩かない」


ここからは外に出た時の注意点や今後の方針を話していく。


「まずは外での拠点確保だけど、一番近い誰かの家にしようと思う。そこから山に向かうか発電所などの施設か自衛隊の基地を目指す」


誰かの家にするのはその場所に何があるか知ってるからだし、鍵を持っているからだ。


知らない人の家にガラスを割って不法侵入とかすると、今度はそこにゾンビが入り易くなるしガラスを割った音も心配だ。


後は自分や仲間の家って言うのは安心感が違うしな。


そして山を目指す場合はこの七人だけで生き抜く選択をした場合だ。


正直今の段階でこれを選択出来るとは思って居ないので、多分先の話だろう。


そして一番良いのは自衛隊が居る場所に逃げ込む事だ。


誰かの庇護下に入る事になるが、自衛隊ならば安全度が一番高いし、全員反対しないはずだ。


「さて、僕の話は以上だけど質問を受け付けるよ?」


そこからは質問を答えるのだけにかなりの時間を使った。






外が暗くなり、壁に掛けられた時計は夜の十一時を示している。


あの後の質問会はグループのメンバーだけじゃなく、教室中の同級生も参加してきた。


聞かれても問題ない程度しか話していないのだから別に構わないのだが、聞いておいて嘘吐き呼ばわりは流石にムカつく。


信じないならそれでも構わない。


それも自衛だからな。


さて、それではそろそろ僕も動こうか。


教室の電気は消され、少なくなった町の灯りと月光だけが光源だ。


何せ電気を付けていると灯りに魅かれてゾンビどもがやってくる。


僕が与えた情報は学校中に知れ渡り、賛否両論あるも取り敢えずは夜間は消灯が義務付けられた。


トイレに行くなどどうしても移動する場合にのみ非常灯を使っても良い、と言うルール。


またスマホなども夜間の使用禁止となり、生徒たちからかなりの苦情が寄せられる事となった。


そうなると、情報発信元である僕の立場もかなり不味いものとなっている。


だから早々に学校から出て行く必要があるのだ。


その前にどうしても手に入れたい物がある。


それを入手する為に一人静かに行動し始めた。


ちなみに教室に居る同級生たちは自分の席や壁際で眠っている。


普段だったら十一時に寝るなんて事はほとんど無いだろうけど、スマホも電気も制限されたやる事の無い状況だと寝るしかないからだ。


そして僕が向かったのは用務員室。


食料等を狙った訳ではなく、そこに行けば確実に武器が手に入るからだ。


それ以外にも最低限の武器は用意しているが、それはあくまでも対人に限られた武器なので、ゾンビと戦うには不向き。


僕は金属は出来るだけ持ち歩かない方が良いと言ったが、ゾンビと戦うには金属製の物が必要だ。


「やっぱり誰か居るか」


他の誰かに見つからないように時間を掛けて用務員室に辿り着いたが窓から僅かに光が漏れている。


この学校は私立なだけあって用務員室も豪華な造りになっている。


冷蔵庫や冷暖房、布団なんかも用意していて宿泊なんかも出来るようになっており、用務員は偶に泊り込んだりしていた。


ただし前年度で用務員は定年で引退し、今年からはシルバー人材から派遣されてくる用務員なので毎日ではなく隔日での昼間だけの勤務。


今日は確か用務員は休みの日だから大丈夫と思って居たのだが、教師の誰かが宿泊施設として利用しているようだった。


窓から部屋の中を覗くとテレビ画面を食い入る様に眺める数名の教師たち。


用務員室のカーテンは光を外に漏らさない分厚い物だから、職員室ではなくここで情報収集をしているようだ。


ただし校舎内の廊下側にはカーテンが無いし、布で防いだりと工夫しているもやっぱり隙間があって覗く事が出来た。


武器調達以外にも用務員室には色々と便利な物があるから物色したかったのだが諦めよう。


ここは大人しく武器類だけ拝借する事にした。


用務員室の外には倉庫があり、色々な道具が入っている。


枝を切る鋸や鋏、ハンマー。


そう言う工具類が武器になり得るのだ。


用務倉庫、プレハブの窓は鍵が壊れてて簡単に開けれるので中に侵入する。


前もって目を付けていたバールや鉈などを紙に包んで袋詰めしていく。


後、去年まで居た用務員が自慢していた樫の樹製の箒を手に取り、穂先を外して穂だけを持つ。


樫の棒となったこれはとても硬くて丈夫なので立派な武器として活躍してくれるだろう。


そして脚立に布やタオルを巻きつけて音を鳴らさない工夫をしてから倉庫を出た。


向かう先は逃走ルートとなる校舎から死角になっている壁際。


植え込みに色々物を隠せるのも良い。


丁度良いポイントを見付け、何度か往復して手に入れた道具類を全てその場に置いた。


後は明朝早くに出るだけなのだが、いきなりだと問題が出るかもしれない。


だから僕は樫の棒を手に取り壁に上がって道路を見てみる。


ゾンビは見当たらず、風と僕が出す音しかしない。


それだけでも凄く不気味だが、脚立を外に出して安全に降りれるか試し、大丈夫なのを確認してから地に降りた。


さて、それでは本当にゾンビが倒せるのか試してみよう。


僕は月明りの町へと繰り出した。






結果だけを言えばゾンビは倒せた。


情報通りにゾンビは動きが遅く、頭部に強い衝撃を与えれば倒す事が出来た。


後は匂いや音に反応し、これぐらいの明るさだとゾンビの視力は役に立たないのも解った。


干してあった洗濯物で顔を拭いて近寄ってくるゾンビに投げつけたり、遠くで流れるBGMに引き寄せられるのを見学したりもした。


顔に何か被せて背後からバールで殴るのが一番効果的な倒し方だった。


一発で倒す事は出来なかったが、殴られた衝撃で脳が揺さぶられたのか動きが止まり、その後何度か殴れば動かなくなった。


初めてこの手で何かを殺した行為には、流石に精神が持たずに吐いてしまった。


それでもこれをやらなければ生きていけない。


それにコンビニやスーパーに行けば肉が手に入る飽食な時代は終わったのだ。


だから何かを殺して食べると言うのを自分でしなければならない。


それらに慣れる為にも僕はその後もゾンビを狩り続けた。


なお、服は洗濯物に着替えており、制服を血で汚すと言う愚行は犯していない。






「皆、行くよ」


翌朝、空が少しずつ明るくなる時間帯。


僕はグループのメンバーを起こして行動を開始した。


それは学校と言うコミュニティから抜け出して、僕たちだけで生きて行くと言う事だ。


流石に不安なのだろう、昨日は納得したが皆表情が暗い。


もしかしたら眠いだけかも知れないが、兎に角全員顔色が良くなかった。


僕たちは静かに廊下を歩き、脱出ポイントへと向かっていく。


誰も無駄口を叩かず、ただ静かに歩く。


そして下足から校舎を出て、出来るだけ背を屈めて校庭を進む。


校舎から離れて脱出ポイントへと辿り着いた辺りで僕は声を掛けた。


「よし、ここからは静かにだけど話しても良いよ」


「ふぅ、息が詰まった」


「そうだね。って、こんなの何時の間に用意したの?」


「昨日の夜にね」


「え? それじゃあ八雲君寝てないの?」


「ちょっとは寝たよ。でも、正直気持ちが高ぶって寝れなかった。皆もそうでしょ?」


「た、確かにそうかも」


「だからさ、まあ、二メートルは無いとは言えそれなりに高い壁だからね。こう言うの有る方が良いでしょ?」


「うん、確かに助かるかも」


「後、女子たちにお土産」


僕は脚立を用意した後、外から手に入れて来た物を渡した。


「え? これって、あ、ボトム」


これからはスカート姿で居るのは非常に危険だと思う。


男どもの欲望とか怪我とか。


だから用意してきたのだが、物はお察しだ。


「ありがとう、八雲君」


「えっと、スウェットを選んだ理由ってサイズなのかな。ありがたいよ」


「でも、これってどこで手に入れたんだろう? 買った訳じゃないよね?」


「ん、履きやすい」


いやいや、スウェットな理由は入手のし易さだ。


何せ洗濯物として干してるのがこれぐらいだったしな。


ところで田中と山根。


僕を睨まないで欲しいぞ。


「さて、それじゃあ藤野さんの家に向けて出発だ。厳しそうなら横山さんの家と言う事で、行こう」


こうして僕たちは学校を出て行った。

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