2人の男の感想
〜アッシュside〜
我々は2ヶ月の遠征の末にようやくフェルト森林の主を発見することに成功した。
だが、予想外の生物、というのは失礼だ、人だった。フェルト森林の主はかつて古代に多く存在していた『原始の種族』だったのだ。
これには驚きを隠せなかった。小柄で体型に似合わない乳もそうだが牛の耳に尻尾、これは俺が記憶しているどの人種にも当てはまらない特徴だ。
進化したという事は事実だろう。あの男、名前は、えーと、妙に突っかかってくる癖に名前の印象が無くて忘れた。まあ、それはどうでもいい。
ロングソードを片手で掴んだ上に軽く投げ飛ばしたのだ。格闘家の一種の技だと俺はみた。
アーマードベアーの件もあるが、よほどの力を持っていない限りあの皮を凹ます事は不可能だ。あの男が投げ飛ばされるのも当然だったという事だ。
本当に厄介だと思ったのは人族の街に行きたいと言ったことだ。我々の街は平民による獣人の差別はないが貴族の差別は未だに消えていない。
そこに新たな『原始の種族』である彼女が来たとしたら?それこそガルスみたいな獣人に現人神だと言われ祭り上げられる。
下手に彼女を害することがあれば獣人国が彼女を求めて攻めてくる可能性もある。まあ、獣人国に情報が流れたらの話だが。
しかし、巨大な爆弾を抱えたのは間違いない。とりあえず我々が持っているフードをかぶって耳を隠してもらうことにした。本人はいたって不服そうだが。
あとはなるべく具体的な何かを敵に回さず穏便にことを済ませようとしていた。
街に着くまでは、そう思っていた。
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〜ガルスside〜
今日は最高の日だ。2ヶ月の遠征で妻にも会えない苦い日々を過ごしてきたがそれも忘れそうなほどの喜びが私の中にある。
まさか今代のフェルト森林の主はなんと『始まりの人間』様だったのだ!不思議な話だが、あの感じは一目見ただけで分かった。
普通なら出会っただけで狂喜乱舞してもおかしくないが、俺は大人なのではしゃがない。
尻尾?制御不能で狂喜乱舞してるように動いているが。
しかもあの方は冒険者になるとまで言った。それは獣人として賛成だ。『始まりの人間』様は国に縛られてはいけない。冒険者協会もある程度の規則はあるが国ほど厳しくはない。
それに、妻ほどではないが魅力的な彼女を手篭めにしようとする人族の貴族が手を伸ばす可能性もある。
そんな事があれば獣人国に通達して国ごと潰してやる。
歴史的にもそうだが最近は人族は調子に乗りすぎている。大昔に人族が奇策と凶悪な兵器で戦争に打ち勝った時から他の種族を見下している。
完全に実力主義の冒険者は見下す事はしないから本当に天職だと思っている。強けりゃ正義、それは獣人からも輩出してるから誰も文句は言わない。
街へ戻る2ヶ月かかる凱旋(?)は楽しいものになった。彼女の質問攻めに少し苦労したが、歳を聞くと2歳くらいだと言った。
猿人間の中のエルフ族やドワーフ族みたいな、小さくても年増な感じじゃなくてよかったと思った。あと、歳を聞いた奴はある意味勇者だと思った。今でも嫁に年齢聞いたらひっかかれる。
失礼だがあの方は娘みたいな感じがした。あの方の実年齢とは少し離れてるがそれなりの無邪気さを感じた。
あの方に奉仕しながら魔物に一度も出会わず2ヶ月経ち、ようやく街に辿り着いた。
長かったが色々と手続きしてあの方を街の中へと入れることに成功した。
しかし、『始まりの人間』様の古くから伝わる自由っぷりの事を我々は忘れていた。
いつの間にか、『始まりの人間』様は我々とはぐれ行方不明になっていた…………
さて、雌牛はどこにいるでしょーか!