原始の種族
古代遺跡の会議室。ここには6人の人がいる。
まず、身長が一番小さくて若い僕だ。今回の遠征でここまで来た冒険者集団のリーダーであるアッシュさん。そしてガルス含む獣人4人だ。
そして獣人の方々、怯えるのはやめてください心が死んでしまいます。
「あの、御身のお名前はなんでしょうか?」
「僕の名前?あー、無いね」
「無いですか。原始の種族と同じですね」
「『原始の種族』って何?」
「ああ、成ったばかりで知らないのですね。アッシュ殿も詳しくは知らないと思うのでご説明しましょう」
原始の種族、それは世界が始まり人間となった種族のことを指すらしい。
原始の種族は、元々ただの知能が低い動物だった。しかし、長い年月が経ち僕みたいな高い知能と戦闘力を持つ動物が神に認められ人間になる許可を得た。それが『始まりの人間』と呼ばれる。
現在確認されてるのはアッシュみたいな人間の大元である『猿人間』、ガルスのような犬耳尻尾を持つ獣人の大元の『狼人間』、他に猫の獣人の大元の『虎人間』や『兎人間』、『蛇人間』、『鷹人間』、『龍人間』、『雄馬人間』、そして『雌牛人間』である僕だ。
雄馬と雌牛だけ二文字なのは何故だとツッコミしたい。まあ、まだ雄馬人間だけの時はどうしてそうなったかを解明しようとしたらしい。
僕が現れたことで無駄になったけどね!あと、馬は好きじゃないです。牛の方が馬より圧倒的に強いです。
全ての人間が誕生したのはウン十万年前の話なので、当然だが『始まりの人間』は全員寿命で死んだ。
そして今、僕という新たな『始まりの人間』が誕生したのだ。
「『始まりの人間』様を尊敬しない人間はいない!」
「猿人間の子孫は神だけ信仰して僕らの種族は無駄に差別してるけどね」
「ま、冒険者は例外だけどね。むしろウェルカムな人が多いからある意味天職だにゃ〜」
ふむふむ、冒険者というのはここに来たように長期間の行軍をする時もあるけどそれなりの報酬もあるってことかな。
なんか面白そう!
「ミーシャ、お前の発言でこの子に興味を持たれたっぽいぞ」
「にゃっ!?いやぁ、幼女の恋人は遠慮したいにゃぁ…………」
「ねえ、この人しばいていい?」
「やめるにゃ!」
ガルスたち獣人は爆笑してる。アッシュさんは眉をピクピクと動かしてるだけだ。ミーシャ、お前はしばく。
雌牛人間の牛蹄拳のサビにしてやろうか?んん?
「やめてください始まりの人間様。しかし、どうしたものか…………」
アッシュさんは何かを悩んでいる。みんなから『始まりの人間様』と呼ばれて調子に乗ってるこの僕がお悩み相談してあげようじゃないか!
「アッシュさん、何を悩んでるの?」
「貴女の事をどう報告するか悩んでるんです。フェルト森林の主の調査に来ましたが、まさか始まりの人間様だとは思ってなかったので…………」
「もしかしたら始まりの人間様を消しにかかるんじゃないかな?」
「えっ…………」
「いや、そうなる前に我ら獣人が保護する。人族はほとんどの獣人を敵に回すほど愚かじゃないはずだ」
「ガルス、俺らのとこの王は大馬鹿だってこと知ってて言ってるのか?」
なんか僕を放ったらかしにして議論が進んでる。まあ、国のことなんてさっぱりだけどね。
でも、アッシュさんたちが一応所属してる国の王って大馬鹿なんだ。多分だけど獣人との全面戦争でも怯まず戦わせるみたいな人なのかな?
戦争にならないにはどうしたらいいんだろう?僕のせいで争うのを見るのは嫌だしなぁ…………
待てよ?確かここ(会議室)に来るまでにミーシャが説明してくれたよな。『冒険者はよほどのことをしでかさない限り国に縛られない』って。
「そうだ、僕、冒険者になろう」
あら、アッシュさんと獣人数人で言い争ってる最中だった会議室の空気が凍った。
雌牛「僕、冒険したい!インディーみたいに!インディーみたいに!」