僕がフェルト森林の主である!
泣きたい。壺にはまって抜け出せなくなった自分を牛蹄拳で殴り倒したい。
「…………ちょっちみんな!幼女!獣人の幼女が!」
「うるさいぞ!主がいるかもしれないから静かにしろ!」
「貴方も大概よ?」
ごめんなさい、その主は壺にはまってます。だから無駄に警戒しないで。
「うぅ、みんな聞いてくれない…………」
「…………愚痴は聞いてあげるから抜いてくれる?」
話を聞いてもらえず泣きそうな女性に壺から抜けなくなって泣きそうになってる幼女の図が今ここにある。
だが、誰も反応してくれないのは悲しい。
「おかしい、強大な気配はあるのに特定できないだと?」
僕しかいないから気づけやボケが。
俺に気づいた唯一の女性は俺に近づいて壺から引っこ抜こうとしてくれた。
「とりあえず、よいしょって重っ!?」
体重は見た目に反して重いだと?失礼な、これでもだいたい身長は1mもないんだぞぅ。
まあ、元が雌牛だから低身長でも乳は重いと思うけどね!
「くっ、何を食べたらこんなに重く…………」
「レミィ!壺なんて漁ってないでこっちに来い!」
「だから、獣人の幼女が詰まってるんですよぉ!」
「レミィの事だから壺の中にある漬物を見つけたんだろ。主に襲われても自己責任だからな!」
「話を気いてぇ!」
流石にみんな酷いと思うよ。結構悲痛な叫びなのに誰も「ああ、またやってる」みたいな感じに扱ってる。
逆に言えばこの人は何度も似たようなことをやらかしたという可能性もある。この人の過去は知らないけど漬物を見つけたって断定されるあたり食いしん坊かな?
「ぐぅぅぅう゛ぅ!」
「ぬぬぬぬぬっ!」
うんとこしょ、どっこいしょ、それでも牛は抜けません。
いや、本当に誰か助けてくれ。できるならなんか価値ありそうな壺を壊さない方向で。
僕とレミィと呼ばれる女性が壺と格闘すること大体30分、他の人たちが古代遺跡からの収穫を得られずに入り口に戻ってきた。
当然ながら、僕とレミィの戦いは続いている。
「レミィ、古代の漬物なんて腐ってるぞ」
「諦めろ諦めろ」
「みんなは人の話を聞くべきだと私は進言するよ!」
「ホントそれだよ!」
その壺の前にレミィしかいないのに他の声が聞こえたことに疑問を感じたのがこっちを見る人が増えてきた。
「待て、誰かいるのか?」
「いるっつってんでしょうが!レミィという人が頑張って僕を抜こうとしてるじゃないか!」
ようやく僕に気づいてくれた。あれ、なんでかわからないけど涙が出てきた。
「ほら!この子泣いちゃったじゃん!」
「あ、ああ、すまない。まさかずっとその壺にはまっていたのか?」
「ぐすっ…………うん…………」
やばい、本当に泣いてくるようになった。いつの間にメンタル弱くなったんだろうなぁ…………
とりあえず、引っこ抜こうとみんなが集まってくれた結果、少々痛かったけど抜けることに成功した。
「とりあえず、ありがとう。あと話はくだらなくても聞いてあげるべきと思うなぁ」
そうしたらもっと早く抜けることができたのに、と言いたいのはここに空気で分かっただろう。し越し顔を背けている人もいた。
おっ、あの耳は猫の耳!あれは確か獣人の証だったよね。なんか僕を見て硬直してるように見えるけど、気のせいだよね。
「はぁ、はぁ、どんな詰まり方したらああなるの?その小さい体に似合わない胸?」
「し、失礼だね!これでも僕はフェルト森林の主だぞぅ!」
あれ?空間が凍った。えーと、ぼくのせいかな?いやそんなわけないよね、あはははは。
「「「「「「「「「な、なんだとぉ!?」」」」」」」」」
いきなりうるさいなもう!