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ドナドナ未遂

 我輩は雌牛である。名前は付けられることすらされない。


 まあ、何と言おうと今の自分は牛である。しかし知能は人間レベルだという自覚はある。


 育ての親である牧場主の言葉を一字一句覚えてるし、産まれて何日かも覚えている。とりあえず2桁かける2桁の掛け算もできる。


 しかし、牛にとって何のアドバンテージにもならない。たとえ前世が人間という訳で知能が高くても牛の体じゃ喋ることはできない。


「モォーゥ」


 とりあえずひと啼きしてみた。もちろん牛の鳴き声しか上げられない。


 ガラガラと馬車に連れてかれる。それもそうだ、だって自分は食肉用の家畜だから。


 頭の中でとある歌が思い浮かんだが、タイトルが思い出せない。なんかドナドナ言ってるのは確かなんだけど、どうせ死にゆく牛なんだから思い出しても意味ないか。


 自分はまだ子牛だから肉が柔らかい。食肉にはピッタリだと牧場主からそんの死刑宣告を言い渡されていた。


でも、牛に生まれたからには運命は受け入れている。雌牛なんて一生乳を搾られるか子を産まされるかだ。出産はかなりの苦痛を伴うと話に聞くからある意味助かったのかもしれない。


 今は牛で人間レベルの知能を持っているが来世に期待するしかない。


ドサッ


 ん?この音は大きな生き物が倒れる音だ。同族が病気で急に倒れた時のような鈍く大きな音。でも、魔物が突然現れない限りここには自分と馬しかいない。


「おらぁ!身ぐるみ剝ぎやがれぇ!」


 男の声がしたけど、少なくともこの馬車を引く男や護衛の男の声ではない。身ぐるみ剥ぐとか言ってたから盗賊か?


 屋根があるタイプの馬車だから周りの状況がよく分からない。


 時間が経つと争う音がしなくなった。どっちが勝ったんだ?


「おっ、牛じゃねぇか。こりゃ美味そうですぜ」


「収穫としちゃまずまずか。テメェら!今日は子牛の丸焼きだ!」


 どうやら商人側が負けたようだ。しかも俺は盗賊のの晩餐となる。


 何でだろう、急に心臓の鼓動が早くなってきた。汗が大量に出てる気がする。


 あらかじめ牧場主に出荷されると言われて死ぬ覚悟はできてたのに、俺は、死にたくない、のか?


「アニキ、早く首を落としましょうよ」


 怖くなってきた。


「バカ言え。血抜きしなきゃまずくなるんだぞ。アジトまで引っ張るぞ」


 死にたく、ない。死にたくない!


「うおっ!?このうじゃっ!?」


 引っ張られた瞬間、俺は思いっきり暴れた。その時に思いっきり前足を上げて振り下ろした。丁度、リーダーの顔面に蹄が直撃しメキャッという嫌な音が響いた。


『大幅なレベルアップを確認しました』


『スキル「一蹄必殺(1)」を取得ました』


 今の声は何だ?と思う暇もないほど混乱していた。そりゃあもう我に帰った時にはどうしようかというほど暴れまくった。


「抑えろ!リーダーのとむらっ!?」


「ちょっ、この牛強くネバァッ!?」


「た、たすげっ!?」


 暴れに暴れて馬車までぶっ壊した。暴れすぎたことは冷静になった後で後悔した。


 盗賊の頭は蹄の型がついている。ダイレクトに蹄がヒットしたのだろう。いくら子牛でも体重はかなりある。そんな暴れ子牛の蹄を頭に受けたら?


 そんなこと考えたくもない。まあ、結果がこの盗賊の成れ果てなのだろう。


「モォーゥ…………」


 ちょっと寂しくなってきた。でも戻ってもまた食肉用に…………うう、死になくなくなってきた。


 ごめん牧場主、死にたくないからジャングルに行ってくる。さっきレベルアップとやらをしたし、どう確認するか分からない。


 とゆうか『一蹄必殺(1)』ってなんだ?リーダーを殺した時に手に入れたスキルだけど、まさか蹄に一撃必殺の効果がついたとか?そしてこの(1)とはなんだろう?


 でも今は確認する方法が無い。こういうのは全くもって専門外だ。だって雌牛だもの。


 よし、決めた。逞しく強い牛になろう。そしてゆっくり食べられずに生きていくんだ!


 決意は固い。そうと決まればレベル上げだ。


 ジャングルに進んでいく雌牛の姿を見たものは誰もいなかった。そして、雌牛は何年もジャングルに居座り主の一角として君臨してどこかへ消える伝説の始まりでもあった。

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